時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」

~願わずとも広まろう心の輪よ~

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 アルクトゥーンが相模湖付近へと到達する。
 まだ陽射しさえも差し込まない深夜の時間帯の事である。

 この時、艦底部の巨大な三本爪が動いて大地へと向けられる。
 浮遊待機ではなく接地を目的とした着陸態勢だ。

 その間も無く、巨体が大地へと付いて。
 周囲の木々を、大地を揺らしながら遂に着陸を果たす。
 するとその間も無く、何やらアルクトゥーン底部から光を発していて。
 光筒となって幾つも大地へと伸びていくではないか。

 これは降機専用の命力形成リフジェクティング昇降機エレベーター
 大量の人員を降ろすのに適した緊急脱出機能である。

 そう、全人員降機が早速始まったのだ。
 最終決戦に向けた準備が遂に。





 その時、管制室では。

「これより緊急発進に向けて本艦のトランスフォーム機構変形を敢行します。 機体操作は私が全てやるので、皆さんは戦いに備えて仮眠休息を。 何かあった場合は私かア・リーヴェさんが起こしますので」

 莉那を筆頭に、勇達が囲う。
 最終決戦に向けた決意を瞳に輝かせて。

 もう誰も迷いや惑いは無い。
 臆する事も、躊躇いも無い。
 やるべき事は見えたから、もう覚悟は出来ている。

 勇も同様だ。
 ついさっきまで項垂れていた事も忘れ、これ以上無い意気込みを姿勢で示していて。

「わかった。 でも俺は寝る必要が無いから同伴組の退艦手伝いをしてくる」

「よろしくお願いします。 事実は告げても構いませんので」

 たちまちその姿が光と成って消える事に。
 残された心輝達の不満そうな表情に囲まれながら。

 本当は心輝達も行きたかったのだろう。
 少しでも動いて気を紛らわしたかったから。
 覚悟を決めても不安を拭えないからこそ。

「気持ちはわかりますが、皆さんは休息を第一に。 今は頭を休める事が何より大事ですから」

 ただ、そんな表情を浮かべれば莉那に見抜かれるのは必然で。
 空かさず釘を刺す一言が耳を打ち、心輝達に諦めを誘う。

「うむ、こういう時こそ戦士の器量が試されよう」

 ただ一人、重鎮となった男を除いては。

 その男、マヴォ。
 巨体をドシリと構え、両腕を力強く組んで。
 戦いに向ける意思はまさに戦士の極みと言えよう。

 ただし、瀬玲の視線はと言えば―――
 そんな顔付きではなく、膝に向けられていた訳だが。

「マヴォさん、そんな事言って膝震えてるじゃん」

 身は面より気を映す。

 それは畏れか、それとも武者震いか。
 膝が震えてどうにも落ち着かない。
 気持ちの昂りはどうやらマヴォでも抑えきれないらしい。

「マヴォさんでも怖がる時はあるんだねぇ」

「はは、それは思い違いだ。 俺は常に怖がってるさ。 人にあまり見せないだけでな」

 それも当然か。
 何せ相手は神だから。
 ちっぽけな人とは違う、世界を滅ぼせる程の神なのだから。

「……だが肝はもう据えた。 俺は寝る」

 しかし戦いを誰よりも多く経験してきたマヴォだからこそ、心の構え方もわかっている。
 壁際へと背腰を預けてすぐさま、寝息を立てていて。
 どこでも寝られる所だけは、瀬玲も感心せずには居られない。

 こうしてマヴォに続き、一人、また一人と椅子や壁、床へと体を預けていく。
 心身を休める事もまた、戦士に必要な仕事であるが故に。



 今はただ心を休めよう。
 あらゆる出来事を許容出来る器に仕上げる為にも。

 これから起きる出来事は、きっとそんな器であろうと受け止め難いだろう。
 彼等を待つのは、誰しもが経験しえない神域の戦いなのだから。



 戦闘員組が休息を始めた頃、遂に乗組員の一斉退艦が始まる。
 降ろされていくのは五人ずつ、それが計五か所から。
 半透明の筒を降りていく様は、中からだとどうにも落ちていく様にしか見えない。
 平気だとわかっていても、降りる人々は少し怖そうだ。

 一方の艦内の出口前はと言えば人々が詰め寄り、自分の番を待つ姿が。
 とはいえ、いずれも大した混乱は無く、実に落ち着いたもので。
 突然の退艦指示だったにも拘らず、誰一人欠ける事無く動けている。
 こういった事態を想定し、避難訓練や経路説明などをしっかり行っていたからだろう。

 元よりこの艦に乗ると覚悟を決めた人々なのだ、肝も充分に据わっている。
 中には声を掛け合い、相互に統制を執ろうとする様子も。
 見る限りでは退艦補助も必要なさそうなくらいに。

 それでも降りた後の指示はさすがに必要だけれども。
 降りた場所はそもそも只の係留地であって、特別何かしらの施設がある訳でも無く。
 彼等を待っているのは野晒しの平野と森だけなのだから。

 もちろんそれも想定内の事だが。
 人々が地上に降り立てば、そこには勇を始め先行で降りた乗務員が待っていて。
 アルクトゥーンから離れ、離れに集まる様に手を仰いで流れを促していく。

 例え乗員数が多くとも、これだけ一斉に出て来れば早いものだ。
 あっという間に地上は人で溢れ、一挙に集まっていて。
 ものの三〇分も掛からぬ内に、光の筒から降りて来る人の数もまばらに。

 後から来た風香や藍も、勇に手で挨拶をしつつ駆け抜けていく。
 きっと声を掛けるのも憚れたのだろう。
 勇からそれとない緊張の雰囲気を感じ取れたから。

 ただ、そんな勇にも声を掛けずにいられない者も居た訳だが。

「勇、これは一体どういう事なんだ!?」

 それは勇の父親。
 母親と一緒に勇の下へと駆け付け、その足を留める。

 今の父親は技術班の一人で、言わばグランディーヴァの正式人員とも言える。 
 故にいち早く物々しい雰囲気に気付き、気になっていたのだろう。
 只事ではない何かが起きたのだと。

「……もうすぐ、最終決戦が始まるんだ。 アルトラン・ネメシスがもうすぐ俺達の前に現れる。 その戦いに皆を連れ回す訳にはいかないからな」

「そうか、遂にか。 まぁ【救世同盟】と結託した時からお父さん達が乗り続ける理由も無くなったしな」

 しかしその雰囲気はと言えば、さほど驚く様な節も無く。
 むしろ「お前なら大丈夫」と言わんばかりに勇の肩を叩いていて。

 もう二人にとっては今更な事なのだ。
 勇が魔剣を取って戦い始めてから、もう心配する事にも慣れきったから。
 きっと今回も何とかしてくれると、絶対的な信頼を寄せているからこそ。

「まぁお前や茶奈ちゃんが居ればどうって事は無いさ。 邪神なんかパパっとやっつけてだな―――」

「その事なんだけど、実は……茶奈はアルトラン・ネメシスに囚われてしまったんだ」

「―――えっ?」

 ただその信頼で生まれた自信も、今の一言を前にグラりと揺れる事となる。

 勇の言った事が何なのか、二人は一瞬何だかわからなかった。
 「茶奈が囚われた」、その一言が一体何を意味しているのか。

「アルトラン・ネメシスは茶奈をずっと狙ってたんだ。 世界崩壊を進める為の駒にしようと。 そして俺達はその策略に気付かず、茶奈が操られる事を許してしまった。 だから今の茶奈は、人類の―――世界の敵なんだ」

「うそ……」

「でも、茶奈は俺が救う。 俺達が救う。 そして世界も救ってみせるから……だから俺を信じてくれ。 それが成せる様に、信じて願ってくれ……ッ!!」

「勇……」

 でも、それであろうと勇は真実を打ち明ける。
 茶奈を救うと約束し、両親を安心させる為に。
 二人の想いをも力と換えて、可能性を僅かでも引き上げる為に。

 けどきっと、そんな強い想いを勇が持っているから。
 そんな勇が強いと知っているから。
 だから両親は微笑みで返す。
 なお失われる事の無い信頼を、力強く勇の肩へと伝わせて。

「わかった。 勇、茶奈ちゃんを頼んだぞ。 いいか、絶対に救ってあげてくれ。 じゃないとお父さんは許さないぞ」

「皆でまた一緒に過ごしましょう? だから勇君、茶奈ちゃんをお願いね?」

「……ああッ!! 任せてくれ!!」

 事態がわかれば、二人も当然願わずには居られない。
 世界の事よりも、茶奈の無事を。
 不幸な成り立ちに包まれた彼女を見捨てない為に。

 藤咲家の新しい家族として、これから共に過ごす為に。

 そう言葉を交わし、両親が行く。
 勇とその仲間に全てを託して。

「ありがとう二人とも。 俺はもう気兼ねなく戦えそうだ」

 もしかしたら勇は不安を抱えていたのかもしれない。
 事実を知った両親から責められるかもしれないという不安を。

 でもそれはただの思い過ごしで。
 二人とも、仲間と同じで茶奈の事を第一に思ってくれた。

 いや、きっと勇の両親だけではない。
 この艦に乗ってる大多数の人間がそう思う事だろう。
 皆、勇と茶奈の関係を祝福してくれた者達だからこそ。

 それは決して勘違いではない。
 勇には皆の心が見えていたのだ。
 両親から伝わり広がっていく、茶奈への想いが。

 きっと二人は敢えて茶奈の事実を皆に語っているのだろう。
 隠す事も無く、恐れる事も無く、全ての真実を。

 皆に余計な不安を抱かせない為にも。

 しかもその想いを勇への期待へと換えてくれている。
 茶奈を救い、世界を救うという希望へと。

 勇は決してそんな事を頼んではいない。
 でもそうしてくれている。
 何も言わずとも、それが良かれと思って。

 だからこそ勇は喜ばずには居られない。
 思わず拳を握り締め、想いを馳せる程に。

 必ず皆の期待に応えるのだと、心を滾らせずにはいられない。



 故にこの時、勇は気付いていなかった。
 背後から近寄ってくる、とある二人の存在に。


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