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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
~太陽が如き光明 剣聖達 対 憤常①~
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超弩級の気迫が撃ち放たれた事で、ドイツ・エッセンの街は一挙にして廃墟と化した。
家は燃え、人は吹き飛び、街を象った施設は砕け散り。
現地人が造り上げた文化の象徴は、そうして儚くも瞬時にして消え失せたのだ。
このゴルペオによる広域破壊の暴挙は、出現してからおおよそ三○分後の出来事である。
「クッソがあああッ!! あっがあああーーーッ!!!」
その燃える街の中心で、パーシィが暴れてもがく。
首を、頭を掴まれて浮かされていながらも。
その元凶である巨腕を打って打って脱出を試み続けるのみ。
しかし、幾ら魔剣を振り回そうとも通用しない。
鋼鉄の様に硬い腕が全ての攻撃を無為にしてしまうからこそ。
肉体が強靭過ぎるが故に、パーシィ程度の攻撃など簡単に受け流してしまう。
これは決して命力無効化能力などではない。
それだけの尋常ならざる肉体を誇っているからである。
それに肝心の急所にさえ届かないという。
それだけ、ゴルペオが大き過ぎるが故に。
身長で言えばおおよそ四メートル、常人のおおよそ二倍ほどもあるのだから。
ならばその腕さえ、人間の全長程にも達しよう。
パーシィが届くのは精々肘くらいだ。
更には紅蓮の肌と、鋭く硬い棘が連なる節々と。
身体を象る禍々しさを助長せんばかりの憤怒の表情が畏怖さえ呼び込む。
何せあのパーシィでさえ戦慄して止まらない。
それだけの圧倒的な力の差を見せつけられた今ではなおの事で。
どの様な抵抗さえ無意味。
今この様に暴れても、何の救いも無いのだと。
そう悟らせるには充分過ぎた。
「怒、怒、怒……ッ!! それでいい、それでいいのだッ!! 恐れ、脅え、そして平伏せよ!! 畏怖と怯臆の念を撒き散らし、我が主様に跪拝を捧げよ!! それだけが貴様等の持つ唯一の価値であり、成すべき義務なのだッ!!」
そんなパーシィに咆え散らかし、ギリギリと小指を締め付ける。
人間の首など、たったそれだけで簡単に締め付ける事が出来るのだから。
表情になど興味は無い。
求めるのは恐れ、脅えといった負の感情のみ。
ゴルペオは人間相手にはその程度の価値観しか持ち合わせていないのだ。
詰まる所の、家畜扱いである。
人間の生み出す感情など、彼にとっては牛の乳程度でしかない。
ギュッと捻れば幾らでも絞り出せるだけのモノなのだと。
だからこそ今、恐怖をひり出させたパーシィにはもう何の価値も無い。
後はただ、残り粕の様な負の感情を絞り出しながら屠殺するだけだ。
出荷前の鶏を絞めるのと同様に。
「ぐ、ぎゃあああーーーッ!!?」
頭を締める指もが次第に力を帯び始め、パーシィの頭をメキメキと締め付けていく。
すぐに死なない様に、最後の一滴までをも絞り尽くすまで。
だが、それでもパーシィは諦めた訳では無かった。
例え頭が軋もうとも。
恐怖の念を抱こうとも。
必死に抵抗する姿は変わらない。
別に勇やデュランの様な立派な志がある訳ではなく。
だからといって、それ程の戦闘狂という訳ではない。
それだけ怒っているのだ。
少しでも一矢報いようと。
一足先に倒されてしまったキャロの為に。
「があああッ!! ゆ"る"さな"い"ッ!! テメーは絶対に"ィ!!」
パーシィとキャロはいわゆる相棒同士である。
大体は共に行動し、戦いにおいても共闘する事が多くて。
交わす言葉が例え辛辣でも、寄せる信頼は変わらない。
二人はそれだけ、見えぬ友情の様な絆で結ばれていたのだ。
こうして相方がやられただけで激昂してしまう程に強く。
キャロの生死は不明だ。
景色の先の瓦礫に埋もれ、未だ動かないままで。
きっとゴルペオに不要と判断された為に瞬殺されたのだろう。
彼女はパーシィと違って、普通の精神構造ではないから。
しかし、そんな扱いもがパーシィの怒りを更に焚き付けた。
どの様な無様を晒そうとも抵抗し続けられる程の強い憤りを。
「怒怒怒、よき怒りだ。 もっと猛り狂うが良い。 そして悦ばせてみせよ。 我【憤常】ゴルペオの礎こそ怒りの感情なりィ!!」
でもその憤りも、ゴルペオにとっては心地良い旋律にしかなりはしない。
怒気こそがその巨体を象る基礎となっているのだから。
「そうして全てを出し尽くして、惨たらしく逝ね!! 最後の最後まで我等の余興の一つとなるがよいわッ!!」
抵抗の甲斐も無く、遂にはパーシィの顔もが次第に潰されていく。
ゴミ収集車の圧縮機が如き、硬い掌によって容赦無く。
露わとしていた感情と共に、奥へ奥へと巻き込まれながら。
「ちく、しょォ……ッ!!」
その視界からはゴルペオの憤怒面が消え、真っ暗に落ちて。
己の不甲斐なさとやるせなさに苛まれながら、力もが遂に尽き果てる。
キャロへの申し訳なさをも抱いたままに。
「おう、もうそれくらいにしとけや」
だが、そんな声が聴こえた時だった。
突如として、パーシィの視界に再び光が取り戻される事となる。
闇夜だったにも拘らず、眩しいと思える程の〝光明〟が。
なんと、ゴルペオの伸びていた腕が吹き飛んでいたのだ。
パーシィを掴んだ手をも千切り飛ばしてしまう程に激しく。
「ぬぅああッ!?」
「んだってのおッ!?」
余りの激しさ故に、パーシィまでもが跳ね飛ばされる事に。
とはいえ、身軽な身のこなしを持つ彼ならば、なんて事無く着地する事も可能だが。
そして間も無く目の当たりにするだろう。
まさに光明、まさに希望と言えよう圧倒的存在を。
太陽の如く輝く―――剣聖の姿を。
「これでも知った奴なんでなぁ、死なれちゃ寝覚めがわりぃ」
ゴルペオの腕を破壊したのは剣聖の手刀。
それも斬ったのではなく、破砕したという程の破壊力の。
あの剣聖らしい一撃だと言えよう。
しかしそんな満を持しての強者登場が、パーシィに大きな安堵を与える事となる。
剣聖の力はデュランから聞いていたから。
その実力こそ、間違いなく世界でダントツのトップクラスを誇ると。
デュランさえ到底敵わない、次元の違う強さを持つ者なのだと。
少なくとも、自身の攻撃が全く通用しなかったゴルペオの腕を一撃で砕いたのだ。
これで期待を抱かずにはいられようか。
「ほう、これだけの力……ッ!! 怒怒怒!! 面白い奴が来たかッ!!」
ただ、ゴルペオの方も更なる異様さを露わにしている。
片腕を砕かれたにも拘らずの余裕さを見せつける事によって。
眩しいまでに輝く剣聖を前にしてもなお見下す姿勢は変わらない。
あの巨大な剣聖でさえ、ゴルペオにとっては小さく見えるからこそ。
しかし体の大きさなど、もはや内包する力の指標になりはしない。
その実力の強弱は、ぶつかり合って初めてわかる事だろう。
剣聖と【憤常】ゴルペオ。
最強同士が今、その力を比べ合おうとしている。
互いが追い求めて来た目的を成す為に。
果たして、真に強いのはどちらなのだろうか……。
家は燃え、人は吹き飛び、街を象った施設は砕け散り。
現地人が造り上げた文化の象徴は、そうして儚くも瞬時にして消え失せたのだ。
このゴルペオによる広域破壊の暴挙は、出現してからおおよそ三○分後の出来事である。
「クッソがあああッ!! あっがあああーーーッ!!!」
その燃える街の中心で、パーシィが暴れてもがく。
首を、頭を掴まれて浮かされていながらも。
その元凶である巨腕を打って打って脱出を試み続けるのみ。
しかし、幾ら魔剣を振り回そうとも通用しない。
鋼鉄の様に硬い腕が全ての攻撃を無為にしてしまうからこそ。
肉体が強靭過ぎるが故に、パーシィ程度の攻撃など簡単に受け流してしまう。
これは決して命力無効化能力などではない。
それだけの尋常ならざる肉体を誇っているからである。
それに肝心の急所にさえ届かないという。
それだけ、ゴルペオが大き過ぎるが故に。
身長で言えばおおよそ四メートル、常人のおおよそ二倍ほどもあるのだから。
ならばその腕さえ、人間の全長程にも達しよう。
パーシィが届くのは精々肘くらいだ。
更には紅蓮の肌と、鋭く硬い棘が連なる節々と。
身体を象る禍々しさを助長せんばかりの憤怒の表情が畏怖さえ呼び込む。
何せあのパーシィでさえ戦慄して止まらない。
それだけの圧倒的な力の差を見せつけられた今ではなおの事で。
どの様な抵抗さえ無意味。
今この様に暴れても、何の救いも無いのだと。
そう悟らせるには充分過ぎた。
「怒、怒、怒……ッ!! それでいい、それでいいのだッ!! 恐れ、脅え、そして平伏せよ!! 畏怖と怯臆の念を撒き散らし、我が主様に跪拝を捧げよ!! それだけが貴様等の持つ唯一の価値であり、成すべき義務なのだッ!!」
そんなパーシィに咆え散らかし、ギリギリと小指を締め付ける。
人間の首など、たったそれだけで簡単に締め付ける事が出来るのだから。
表情になど興味は無い。
求めるのは恐れ、脅えといった負の感情のみ。
ゴルペオは人間相手にはその程度の価値観しか持ち合わせていないのだ。
詰まる所の、家畜扱いである。
人間の生み出す感情など、彼にとっては牛の乳程度でしかない。
ギュッと捻れば幾らでも絞り出せるだけのモノなのだと。
だからこそ今、恐怖をひり出させたパーシィにはもう何の価値も無い。
後はただ、残り粕の様な負の感情を絞り出しながら屠殺するだけだ。
出荷前の鶏を絞めるのと同様に。
「ぐ、ぎゃあああーーーッ!!?」
頭を締める指もが次第に力を帯び始め、パーシィの頭をメキメキと締め付けていく。
すぐに死なない様に、最後の一滴までをも絞り尽くすまで。
だが、それでもパーシィは諦めた訳では無かった。
例え頭が軋もうとも。
恐怖の念を抱こうとも。
必死に抵抗する姿は変わらない。
別に勇やデュランの様な立派な志がある訳ではなく。
だからといって、それ程の戦闘狂という訳ではない。
それだけ怒っているのだ。
少しでも一矢報いようと。
一足先に倒されてしまったキャロの為に。
「があああッ!! ゆ"る"さな"い"ッ!! テメーは絶対に"ィ!!」
パーシィとキャロはいわゆる相棒同士である。
大体は共に行動し、戦いにおいても共闘する事が多くて。
交わす言葉が例え辛辣でも、寄せる信頼は変わらない。
二人はそれだけ、見えぬ友情の様な絆で結ばれていたのだ。
こうして相方がやられただけで激昂してしまう程に強く。
キャロの生死は不明だ。
景色の先の瓦礫に埋もれ、未だ動かないままで。
きっとゴルペオに不要と判断された為に瞬殺されたのだろう。
彼女はパーシィと違って、普通の精神構造ではないから。
しかし、そんな扱いもがパーシィの怒りを更に焚き付けた。
どの様な無様を晒そうとも抵抗し続けられる程の強い憤りを。
「怒怒怒、よき怒りだ。 もっと猛り狂うが良い。 そして悦ばせてみせよ。 我【憤常】ゴルペオの礎こそ怒りの感情なりィ!!」
でもその憤りも、ゴルペオにとっては心地良い旋律にしかなりはしない。
怒気こそがその巨体を象る基礎となっているのだから。
「そうして全てを出し尽くして、惨たらしく逝ね!! 最後の最後まで我等の余興の一つとなるがよいわッ!!」
抵抗の甲斐も無く、遂にはパーシィの顔もが次第に潰されていく。
ゴミ収集車の圧縮機が如き、硬い掌によって容赦無く。
露わとしていた感情と共に、奥へ奥へと巻き込まれながら。
「ちく、しょォ……ッ!!」
その視界からはゴルペオの憤怒面が消え、真っ暗に落ちて。
己の不甲斐なさとやるせなさに苛まれながら、力もが遂に尽き果てる。
キャロへの申し訳なさをも抱いたままに。
「おう、もうそれくらいにしとけや」
だが、そんな声が聴こえた時だった。
突如として、パーシィの視界に再び光が取り戻される事となる。
闇夜だったにも拘らず、眩しいと思える程の〝光明〟が。
なんと、ゴルペオの伸びていた腕が吹き飛んでいたのだ。
パーシィを掴んだ手をも千切り飛ばしてしまう程に激しく。
「ぬぅああッ!?」
「んだってのおッ!?」
余りの激しさ故に、パーシィまでもが跳ね飛ばされる事に。
とはいえ、身軽な身のこなしを持つ彼ならば、なんて事無く着地する事も可能だが。
そして間も無く目の当たりにするだろう。
まさに光明、まさに希望と言えよう圧倒的存在を。
太陽の如く輝く―――剣聖の姿を。
「これでも知った奴なんでなぁ、死なれちゃ寝覚めがわりぃ」
ゴルペオの腕を破壊したのは剣聖の手刀。
それも斬ったのではなく、破砕したという程の破壊力の。
あの剣聖らしい一撃だと言えよう。
しかしそんな満を持しての強者登場が、パーシィに大きな安堵を与える事となる。
剣聖の力はデュランから聞いていたから。
その実力こそ、間違いなく世界でダントツのトップクラスを誇ると。
デュランさえ到底敵わない、次元の違う強さを持つ者なのだと。
少なくとも、自身の攻撃が全く通用しなかったゴルペオの腕を一撃で砕いたのだ。
これで期待を抱かずにはいられようか。
「ほう、これだけの力……ッ!! 怒怒怒!! 面白い奴が来たかッ!!」
ただ、ゴルペオの方も更なる異様さを露わにしている。
片腕を砕かれたにも拘らずの余裕さを見せつける事によって。
眩しいまでに輝く剣聖を前にしてもなお見下す姿勢は変わらない。
あの巨大な剣聖でさえ、ゴルペオにとっては小さく見えるからこそ。
しかし体の大きさなど、もはや内包する力の指標になりはしない。
その実力の強弱は、ぶつかり合って初めてわかる事だろう。
剣聖と【憤常】ゴルペオ。
最強同士が今、その力を比べ合おうとしている。
互いが追い求めて来た目的を成す為に。
果たして、真に強いのはどちらなのだろうか……。
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