時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
上 下
1,188 / 1,197
第三十九節「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」

~ならば全てを滅し、一から始めよう~

しおりを挟む
 人間ヒトよ 魔者ヒトよ 今舞い上がれ

 永遠とわと 黄昏はてを 越えて抱き締めて

 いつかそのウタを 果てしない君の下へ

 希望を胸に 届けよう

 そして 明日へと くよ―――









『ウ ア" ア" ア" ア"ーーーッッ!!! よくも我が魂に傷を付けたな!! 必ず滅してやる!! 絶対にだァァァッ!!』

 アルトラン・アネメンシーが激昂に咆える。
 海を大地を大気を、魂さえも震わせる程に激しく。
 断ち切られた腕を再生させながら。

 しかしこれは単に形が戻っただけに過ぎない。
 断たれた部位は既に掻き消え完全消滅した。
 概念そのものを断ち、力を削ぎ取った結果である。

 【双界剣】は【創世剣】と同等の力を秘めている。
 だからこそ概念を斬る能力もまた然り。
 邪神の力を象る怨念そのものを断ち祓ったのだ。

 つまり今の一撃は、アルトラン・アネメンシーの弱体を意味する。

 故に怒り狂った。
 その内に秘めた怨念を全て曝け出す程に。
 そうして解き放たれた力が今までにない速さをももたらす。
 転移と無重力機動を合わせた超速移動として。

 だが勇達も負けてなどいない。
 茶奈が光翼天翔を完全会得した今ならば。

 よって体現した速度は今までの比ではない。
 星力を存分に奮う事で大気と重圧加速度Gの壁さえも超えたから。
 そして彼等の身体がそれらさえも跳ね退けられるからこそ叶う。



 彗星が如き閃光の飛翔を。
 それも虹と黒、二つの輝きが螺旋の残光を刻むままに。



 光がぶつかり合う度に世界が揺れる。
 青空が、海が、まるで波長線の如く波打って。
 遥か空の出来事なのに、地上で何かが起きているのかと思える程に激しく。
 余りの力のぶつかり合いで地球そのものが揺れているのだろう。

 ただそれは決して物理的な力が掛かったからなどではない。
 双方の魂のぶつかり合いが星を司る命脈を揺らしているからなのだ。

「貴様の抱いている怨念は結局、自分で練り上げて象っただけの私観だッ!! お前の存在そのものはただ妄想の産物に過ぎないッ!!」

 それに至る一撃を勇が振り切る。
 一帯の大気を断ち切らんばかりの巨大な一閃として。

『ではその妄想が今存在するならば滅びこそが存在理由であろうッ!! 我が今ここに存在する事がッ!! 輪廻の崩壊を意味するのだとおッ!!』

 その斬撃さえも拳撃で弾き、まるで軸を回る様にして邪神の巨体が捻る。
 そうして弧を描いた拳が身体ごと空を抉り、打ち下ろされる事に。

「それを決めたのは貴様自身だッ!! 絶望を受け入れた貴様自身がそんな呪いを産んだんじゃないかあッ!!」

 しかしその巨拳を【創世甲】が受け流して。
 更には虹の稲妻が腕周りを瞬時にして駆け巡っていく。

『呪いだとおッ!? 違うぞ、それこそが肉共のこいねがった形なのだッ!!』

 その直後、邪神が世界が激震する程の衝撃波をも生んだ。 
 再び斬ろうとしていた勇達を弾く程に強く。

「ぐうッ!? ―――それが人々への呪いになるんだッ!! 生き続けたい人々にとっての猛毒でしかない、ただ独りよがりなだけのッ!!」

 その勢いにも乗り、勇と茶奈が上空へとまた飛び上がる。
 それも邪神と共に、いつまでも残る濃い閃光筋を刻みながら。

善なんだッ!! お前の価値感全てがッ!!」

『その様な命にも成りきれぬ肉共の戯言がッ!! どうせ全て滅せば同じ事だあッ!!』

 虹と黒の閃光筋が燐光を打ち放つ。
 ぶつかる度に、打ち合う度に何度でも、それも一瞬にして。
 互いの輝きを絞り尽くさんとばかりに弾き合いつつも。

 そうして空紙へと描かれた絵柄はまるで花の様で。



 迷い無く刻まれる軌跡は蔓の様に長々と。

 青空を抱かんばかりに覆い、衝突の度に光花を咲かせていく。

 互いの意志が大地に根付く、その中で。



 その光景を目の当たりにして、人々の反応は様々だった。
 美しい光景に心を奪われた者も居て。
 人知を超えた戦いに圧倒された者も居て。
 それでも諦めない二人に声援を送る者達も居た。

 その声は想いはまだ二人には届いていない。
 けど確かに感じてはいた。
 大地を、命脈を通して迸る意志を。
 世界が揺れようとも変わらない生への渇望を。

 それは力よりも光よりもずっと速く通じるモノだったから。

 だからこそ二人は高揚せずにはいられない。
 力を高めずにはいられない。

『勇さん、彼女は―――アネメンシーは怖がっているんです。 また自分自身が世界から切り離されてしまう事を。 だったら自分以外は何も無くなってしまえばいい、その想いが根底に残っているんです……!』

 そんな中で茶奈の声が勇の脳裏に響く。
 身体を密着させた事で心の言葉が届いたのだろう。
 星力を解放し、力そのものが彼等を包んでいるからこそ。

「乗っ取られていた時に声を聞いたんだな?」

『うん。 でもあれはもうアネメンシーそのものじゃない。 彼女の怨念を基礎にして造り変えられた偽物なんです。 人らしい感情だけを取り除いて再利用された、悲しみの残滓なんです』

「なら俺達がその残滓の軌跡を断ち切る!! もうこれ以上、数多の無念怨念を歪ませない為にも!!」

 二人は決して意思を消し去る為にこんな力を解き放っているのではない。
 根底には救いたいという想いがある。

 アルトランも、アネメンシーも。
 そして彼等を取り巻いていた怨念の餌となった者達も。
 その心を深淵から掬い上げたいのだと。

 その強い想いが更なる加速を与えてくれる。
 邪神と成る程に凝り固まった怨念を現世より断ち切る為に。

 アルトラン・アネメンシーもその想いに反発し、その腕に力を溜め込む。
 勇達を包む心が強い覚悟を示していたからこそ。

 なれば衝突に至るのは早かった。



 今、双方が想いのまま、同軸へと軌跡を刻み込もう。
 互いへと向けて一直線に、その全力を以って。



「必ずお前を解き放ってみせる!! アネメンシィィィーーーーーーッッッ!!!!!」

『滅してやるぞッ!! フ ジ サ キ ユ ウゥゥゥーーーーーーッッッ!!!!』



 その瞬間、勇達を黒の殺意が覆い尽くす。
 アルトラン・アネメンシーが無数の崩力球を放った事によって。

 しかし勇達はもう止まらなかった。
 止まる必要も、止まる理由さえ無かったから。

 この時の二人はまるで閃光矢の如し。
 何者をも貫き、妨げる事さえ叶わない。
 例え崩力球であろうと瞬時にして削り取られて消え去ろう。

 【創世甲】の防御能力と光翼天翔の突貫力が崩力球の力を超えたのだ。
 まさに己を弾丸として、アルトラン・アネメンシーを穿たんが為に。

 だが、球の影からなんと崩烈閃もが突き抜けていた。
 二人を包まん程に太く濃い一撃が。

 それでも二人の勢いはむしろ上がっていく。
 黒閃光さえ弾き、無数の跳弾筋を跳ね飛ばしながらも。
 その中で【創世甲】に亀裂が入ろうとも構う事無く。

バッキャァァァーーーーーーンッ!!!

 直後、その破壊力が遂に【創世甲】の強度を超える。
 するとたちまち、濃い虹光を撒き散らしながら砕け散る事に。

 勇達は焼かれたのだろうか。
 消滅してしまったのだろうか。

 否、彼等はそれでも止まりはしない。

「ウゥオオオーーーーーーッッ!!!」

 今、黒閃光が断ち切られていた。
 虹光の中から現れた【創世剣】によって。
 その切っ先が崩烈閃の中心を穿っていたのだ。

 黒光を裂く。
 虹光が無数の刃となって。
 瞬時にその先、【崩力】の根源へと突き抜けて。

 そうして再び虹閃光を打ち放ち、光翼が空を仰ごう。 



 強固だった巨拳二つを一閃の下に断ち切りながら。



『うああああッッ!!? 馬鹿な、こんなハズは無い!! 世界の絶望はこんな物ではあッ!!』

 遂にやり遂げたのだ。
 当初は傷さえ付けられなかったあの拳の突破を。
 二人の究極に高揚する心が、仲間達の想いが、怨念を断ち切れる程の力を与えたからこそ。

 双方が擦れ違い、またしても空上へと光の軌跡を刻み込む。
 ただし今度は何故か黒光だけが高く高く舞い上がっていて。
 勇も茶奈もただその姿を唖然と見届けるしかなかった。

 勇達は気付いてしまったのだ。
 アルトラン・アネメンシーの鬼気がこれ以上に無く高まっているという事に。

 今から成そうとしている事が如何に恐ろしいのかを。



 それはアルトラン・アネメンシーが、掲げた四掌に巨大な崩力球を輝かせていたからこそ。



 まさに破滅の光というべきものだった。
 それ程までに轟々と弾け、唸り、更に膨らんでいく。
 空を消し飛ばさんばかりに大きく大きく。

『もういい、もういいッ!! こんな出来損ないの星が出来てしまったから全てが狂ったのだッ!! お前達の様な腐った肉共がのさばるだけの世界など、もう必要はなァァァいッッ!!!』

 この光は今までの攻撃とは訳が違う。
 勇どころかア・リーヴェでさえ計り知れない程に。
 余りの超容量故に、恐らく近付いただけで何もかもが蒸発してしまうだろう。

 ならばそんな破滅の光が、もし大地へと当てられたらどうなるだろうか。

『最初からこうすれば良かった!! この星ごとお前達を消してやればとッ!! そうすれば例え計画が遅延しようとも取り戻す事は出来るのだとおッ!!』

 そう、アルトラン・アネメンシーはもう地球そのものを消そうとしている。
 そうして反乱分子を全て滅し、改めてじっくりと世界崩壊まで待てばいいのだから。

 計画を確定路線へと戻すつもりなのだ。
 本来採るべきだった、何の邪魔も入らない世界崩壊への道へと。

 妹星ちきゅうを失った姉星あちら側の世界だけで改めて。

『―――クフフ。 これを成し、我は眠りに就こう。 しかし次目覚めた時こそが悲願成就の時。 その礎となったこの戦いは二度と忘れぬ。 故にお前達から得た教訓を生かしてやろう。 我は滅びぬ限り絶対に諦めないのだと』

 携えた光はもはや掌にさえ収まらない。
 抱えた、と言っても差し支えない程に膨れ上がっていて。

 その大きさはもはや、身を覆う崩力領域よりも大きい。

 そんな中、巨掌が一斉に握り締められる。
 しかもまるで破滅の光を番うかの様に四方へと引き伸ばしながら。
 更には歪んだ球体を地上へと向けていて。

ズズズズ……!!

 たったそれだけで大地が揺れた。
 余りに強大な力であるが故に。
 極限の殺意を向けられ、星そのものが怖れたのだ。

 だがもう力は出来上がってしまった。
 それも星一つ二つを消滅させられる程に強く強く。

 まるで黒の恒星と言わんばかりの禍々しい輝きを放って。



『さらばだ憎らしき者共ッ!! 全て消えて無くなれえーーーーーーッッッ!!!!!』



 その恒星が遂に、殺意の火を付けた。
 突如として球の先が盛り上がり、飛び出したのだ。

 黒柱と言わんばかりの巨光が撃ち放たれたのである。
 それもあろう事か瀬玲達が立つ島へと目掛けて。

 それはまるで巨大な矢の様だった。
 地球を、ひいてはそのまま月をも貫かんばかりの。

 もしこの力が地球の核へと到達すれば、間違いなく星は死ぬ。
 物質を引き留める重力核が瞬時に破壊され、たちまち自己崩壊を起こすだろう。
 この一撃を前にはデュランでさえ防ぐ事など到底叶わない。

 そうなればもう、誰も助からない。



 だからだ。
 だから今、勇と茶奈は瀬玲達を背にしていた。

 いつの間にか地に足を付け、空を見上げていたのである。



「茶奈!! カプロ!! 二人の命を俺に託してくれえッ!!」

 その全ては、天より迫る脅威を退ける為に。

 両手に掴んだ神剣二本を空へと掲げ、想いを走らせる。
 カプロが遺した可能性を引き出さんとして。

 そして瀬玲達は―――全人類はその姿を目の当たりにするだろう。



 二対の神剣が一つの超神剣へと進化を果たす、その瞬間を。


しおりを挟む

処理中です...