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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」
~孤島にそびえる人の国~
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勇達が本部へと辿り着く。
それで早速揃って事務棟三階の会議室へ。
今回初めてやってきた心輝達はそれとなく固まり気味だ。
というのも、間も無く初の実戦が訪れるかもしれないから。
今日までにアージやマヴォに鍛えられたとはいえ、自信が湧かなくて。
本当に自分の力が通用するのか。
戦いきる事は出来るのだろうか。
そんな想いが今更になって尻込みさせてしまったのだろう。
その中でいざ会議室の扉を開けば――
「む、来たか」
「おおっ、女神ちゃあん!!」
なんと中にはあのアージとマヴォの姿が。
「あれ、二人ともどうしてここに?」
「何かがあったという事でな。ひとまず情報が欲しいと頼まれたのだ」
どうやら予め福留に呼ばれていたらしい。
ただ戦力としては数えられていない様だけれど。
あくまで情報提供者としての参戦な様だ。
「ウーッス!」
「こいつらも連れて来たのだな」
「えぇ、今は一人でも戦力が欲しい所ですから」
「そうか。だが我等はまだ協力を確約出来ん。話を聞かない事にはな」
「理解しております。ですので情報提供だけで問題ありません」
そんな中で早速と本題が始まる事に。
以前の時と同じで、プロジェクターからの画像が壁へと映り込む。
まずは静止画から。
表示されたのは、どこかの島の様だった。
横から写されているらしく、画面下には海が見えていて。
「これは日本領海、千葉より東一〇〇キロメートルほど先に存在する島です。とはいえ最近から、存在する島ですが」
「さ、最近から!?」
「そうです。実はその領海でも転移現象が起きていた様でしてね。ただその時期は不明、気付いたら存在していた、という事だそうです」
「そんな、新しい転移だなんて……!?」
更にその写真が切り替わっていく。
様々な方角から写されたものへと。
するととある方角から突然、妙な変化を見せ始めていて。
「うおっ、こんな事ってあんのかよ!?」
島が途中で崖になっているのだ。
それもまるでナイフで切られたかの様に、綺麗で滑らかな弧状岸壁を見せて。
とても自然に出来たとは思えない光景だ。
それほどに転移領域がハッキリと見える様な形だったのだから。
「どうやら元は島では無かった様です。本来はあの岸壁の先にも陸地があり、フェノーダラ王国にも続く道があったそうなのです」
「えっ、じゃあそれって……」
それで更に画像が拡大した物に切り換わっていって。
そこでようやく何かに気付く事になる。
なんと建造物があったのだ。
陸地の岩や草木に囲まれて気付き難いが、岸壁の傍に確かと。
「えぇ皆さんの予想通りです。この場所に住んでいるのは人間でした」
その建造物はまるで砦の様な石造りの壁で。
海からの写真では内部を見る事は叶わないくらいに高い。
城だけの現フェノーダラ王国よりは広く見えるのだが。
かといって見る限り、城までは建っていなさそうだ。
つまりフェノーダラ王国よりも小規模の、人間の為の街という事。
「この都市の名を彼等は【アゾーネ】と呼んでいるそうです」
そして遂に航空写真が写される事に。
すると見えたのは敷き詰められた家らしき影や人影。
この世界に転移してきてもなお人が営みを送っていたのだ。
「おお~」
「で、実は彼等とは既にコンタクトを済ませています。それで少しだけは情報を交換していまして。なんでも彼等はフェノーダラ王国とはずっと昔に袂を別った国だそうです。恐らくは例のカラクラ族に滅ぼされた古代王朝から分岐した一族の末裔なのでしょうね」
しかもどうやらもう彼等とは交渉した後。
エウリィ達から学んだ異世界言語がここで役立った様だ。
で、それがどの様な成果となったかと言えば――
「それで彼等は何か要求とかしてきたんです?」
「いえ。実は彼等からは……不干渉の要請が来たのです。協力も要らない、物資補給も不要、今後一切関わるな、近寄るな、と」
「えぇ……」
「ちなみにフェノーダラ王国とも関係を断っているそうで、王様達も詳しくはわからないそうな。なので、何故あそこまで頑ななのかは未だ不明です」
どうやら交渉は盛大な失敗に終わったらしい。
フェノーダラ王国と違って困窮している訳では無いのだろうか。
微妙な距離間だが、確かに渋谷からは栃木の方が近い。
なので天敵のダッゾ族は東より北に目を向けていたのだろう。
おまけに宿敵のカラクラの里からもずっと離れている。
そう考えると戦いとは縁が薄く、備蓄が充分あるのかもしれない。
なら何故、今勇達が集められる事になったのか。
一体何の問題があるというのか。
しかしそれは、次に出て来た映像でハッキリとわかる事となる。
「それで発見してからおよそ一ヵ月ほどが経ったのですが、そこで今更になって、彼等が日本政府に救難信号を送って来たのです。何かがあった時にと渡していた信号弾で呼び出してねぇ」
映し出されたのは航空動画。
ヘリコプターから直接撮られた映像だ。
そこには何かしらの言語が街に象られていて。
『あそこにはなんて書かれているんだ?』
『【助けを求む】。繰り返す、【助けを求む】だ!』
まるで疑問に答えるかの様に動画から音声までが聴こえて来る。
アージ達も街の文字を見ただけで状況を理解したらしい。
不干渉を提言し、関わりを断った街【アゾーネ】。
そこが今度は一方的に「助けて」と言い始めたのである。
これは余りにも身勝手過ぎる。
確かにそんな助け舟を出したのは日本政府なのだが。
優しさに付け込むのが異世界の人間の常識なのかと疑いを持ちそうだ。
「なぁこれ、俺達が行く意味あんのか……?」
「いいから黙ってろ。動画はまだ終わってない」
でもその答えを出すのは早急なのかもしれない。
動画はまだ続き、福留も止める気配が無いから。
まるでこの先を見届けろと言わんばかりに。
『待て、あれはなんだ?』
『街の外で何かが動いているぞ。あれは人間じゃない……!』
その中で動画が徐々に陸地へとフォーカスされていて。
そうして遂に、救難要請の理由が明らかとなる。
魔者が外一杯に走り回っていたのだ。
まるで街を取り囲む様にして。
それも相当な数が。
百、二百、あるいはもっと。
よく見れば海にもちらちらと映り込んでいて。
そう、島を覆い尽くさんばかりな数の魔者が蠢いていたのである。
これには勇達も驚愕せざるを得なかった。
これだけの規模の数を出兵出来る団体がまだいたのかと。
東の海にそびえる孤立島国家。
その国に迫る脅威はやはり魔者で。
だがその正体は、未だかつてない程に恐れるべき存在だった。
それで早速揃って事務棟三階の会議室へ。
今回初めてやってきた心輝達はそれとなく固まり気味だ。
というのも、間も無く初の実戦が訪れるかもしれないから。
今日までにアージやマヴォに鍛えられたとはいえ、自信が湧かなくて。
本当に自分の力が通用するのか。
戦いきる事は出来るのだろうか。
そんな想いが今更になって尻込みさせてしまったのだろう。
その中でいざ会議室の扉を開けば――
「む、来たか」
「おおっ、女神ちゃあん!!」
なんと中にはあのアージとマヴォの姿が。
「あれ、二人ともどうしてここに?」
「何かがあったという事でな。ひとまず情報が欲しいと頼まれたのだ」
どうやら予め福留に呼ばれていたらしい。
ただ戦力としては数えられていない様だけれど。
あくまで情報提供者としての参戦な様だ。
「ウーッス!」
「こいつらも連れて来たのだな」
「えぇ、今は一人でも戦力が欲しい所ですから」
「そうか。だが我等はまだ協力を確約出来ん。話を聞かない事にはな」
「理解しております。ですので情報提供だけで問題ありません」
そんな中で早速と本題が始まる事に。
以前の時と同じで、プロジェクターからの画像が壁へと映り込む。
まずは静止画から。
表示されたのは、どこかの島の様だった。
横から写されているらしく、画面下には海が見えていて。
「これは日本領海、千葉より東一〇〇キロメートルほど先に存在する島です。とはいえ最近から、存在する島ですが」
「さ、最近から!?」
「そうです。実はその領海でも転移現象が起きていた様でしてね。ただその時期は不明、気付いたら存在していた、という事だそうです」
「そんな、新しい転移だなんて……!?」
更にその写真が切り替わっていく。
様々な方角から写されたものへと。
するととある方角から突然、妙な変化を見せ始めていて。
「うおっ、こんな事ってあんのかよ!?」
島が途中で崖になっているのだ。
それもまるでナイフで切られたかの様に、綺麗で滑らかな弧状岸壁を見せて。
とても自然に出来たとは思えない光景だ。
それほどに転移領域がハッキリと見える様な形だったのだから。
「どうやら元は島では無かった様です。本来はあの岸壁の先にも陸地があり、フェノーダラ王国にも続く道があったそうなのです」
「えっ、じゃあそれって……」
それで更に画像が拡大した物に切り換わっていって。
そこでようやく何かに気付く事になる。
なんと建造物があったのだ。
陸地の岩や草木に囲まれて気付き難いが、岸壁の傍に確かと。
「えぇ皆さんの予想通りです。この場所に住んでいるのは人間でした」
その建造物はまるで砦の様な石造りの壁で。
海からの写真では内部を見る事は叶わないくらいに高い。
城だけの現フェノーダラ王国よりは広く見えるのだが。
かといって見る限り、城までは建っていなさそうだ。
つまりフェノーダラ王国よりも小規模の、人間の為の街という事。
「この都市の名を彼等は【アゾーネ】と呼んでいるそうです」
そして遂に航空写真が写される事に。
すると見えたのは敷き詰められた家らしき影や人影。
この世界に転移してきてもなお人が営みを送っていたのだ。
「おお~」
「で、実は彼等とは既にコンタクトを済ませています。それで少しだけは情報を交換していまして。なんでも彼等はフェノーダラ王国とはずっと昔に袂を別った国だそうです。恐らくは例のカラクラ族に滅ぼされた古代王朝から分岐した一族の末裔なのでしょうね」
しかもどうやらもう彼等とは交渉した後。
エウリィ達から学んだ異世界言語がここで役立った様だ。
で、それがどの様な成果となったかと言えば――
「それで彼等は何か要求とかしてきたんです?」
「いえ。実は彼等からは……不干渉の要請が来たのです。協力も要らない、物資補給も不要、今後一切関わるな、近寄るな、と」
「えぇ……」
「ちなみにフェノーダラ王国とも関係を断っているそうで、王様達も詳しくはわからないそうな。なので、何故あそこまで頑ななのかは未だ不明です」
どうやら交渉は盛大な失敗に終わったらしい。
フェノーダラ王国と違って困窮している訳では無いのだろうか。
微妙な距離間だが、確かに渋谷からは栃木の方が近い。
なので天敵のダッゾ族は東より北に目を向けていたのだろう。
おまけに宿敵のカラクラの里からもずっと離れている。
そう考えると戦いとは縁が薄く、備蓄が充分あるのかもしれない。
なら何故、今勇達が集められる事になったのか。
一体何の問題があるというのか。
しかしそれは、次に出て来た映像でハッキリとわかる事となる。
「それで発見してからおよそ一ヵ月ほどが経ったのですが、そこで今更になって、彼等が日本政府に救難信号を送って来たのです。何かがあった時にと渡していた信号弾で呼び出してねぇ」
映し出されたのは航空動画。
ヘリコプターから直接撮られた映像だ。
そこには何かしらの言語が街に象られていて。
『あそこにはなんて書かれているんだ?』
『【助けを求む】。繰り返す、【助けを求む】だ!』
まるで疑問に答えるかの様に動画から音声までが聴こえて来る。
アージ達も街の文字を見ただけで状況を理解したらしい。
不干渉を提言し、関わりを断った街【アゾーネ】。
そこが今度は一方的に「助けて」と言い始めたのである。
これは余りにも身勝手過ぎる。
確かにそんな助け舟を出したのは日本政府なのだが。
優しさに付け込むのが異世界の人間の常識なのかと疑いを持ちそうだ。
「なぁこれ、俺達が行く意味あんのか……?」
「いいから黙ってろ。動画はまだ終わってない」
でもその答えを出すのは早急なのかもしれない。
動画はまだ続き、福留も止める気配が無いから。
まるでこの先を見届けろと言わんばかりに。
『待て、あれはなんだ?』
『街の外で何かが動いているぞ。あれは人間じゃない……!』
その中で動画が徐々に陸地へとフォーカスされていて。
そうして遂に、救難要請の理由が明らかとなる。
魔者が外一杯に走り回っていたのだ。
まるで街を取り囲む様にして。
それも相当な数が。
百、二百、あるいはもっと。
よく見れば海にもちらちらと映り込んでいて。
そう、島を覆い尽くさんばかりな数の魔者が蠢いていたのである。
これには勇達も驚愕せざるを得なかった。
これだけの規模の数を出兵出来る団体がまだいたのかと。
東の海にそびえる孤立島国家。
その国に迫る脅威はやはり魔者で。
だがその正体は、未だかつてない程に恐れるべき存在だった。
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