時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
382 / 1,197
第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~朝日、意外なる者を照らす~

しおりを挟む
 本部で説明を受けた日から二日後、早朝。
 勇達は福留に連れられ、神奈川の横須賀よこすが海軍基地へと訪れていた。
 海の先に向かう船へと乗り込む為に。

 しかし勇達、実は船に乗るのが初めて。
 なので今回搭乗する事となる大型護衛艦を前に興奮を隠しきれない。

 そんな浮ついた気持ちで眺めつつ乗船を果たし、早速船内へ――
 そう思った矢先、ふと勇の視線にとある人物の影が映り込む事となる。

「え、あれって……!?」

 ちらりと見えたのは、大きな背格好。
 それでいて艦首に堂々と立ち、腕を組んで海の向こうを眺めていて。
 その自信に満ち溢れた姿は、未だ低い朝日を受けて赤々と瞬いていた。

 白く柔らかな体毛を靡かせながらに。

 それに気付き、思わず勇が乗船ルートを外れて人影の傍へ。
 予想だにもしていなかった者の存在感に惹かれてならなかったらしい。

「もしかして、アージさん?」

 ああ言って頑なだったが、来てくれたのか。
 そう思ってならなくて、期待がその名を囁かせる。
 なんだかんだで義理人情には強い人だからと、可能性を拭えなくて。

「残念だが、兄者は今頃本部でおねんねだ」
「えッ!?」

 しかしどうやら人情に厚いのは兄の方だけではなかったらしい。

 そう、ここに居るのは弟マヴォの方だったのだ。
 勇に気付いて振り向けば、ニヤリとした笑みを牙と共に見せつけていて。

「兄者が相変わらずお堅過ぎるからよ、内緒で代わりに来ちまったぜ。あれだけの事が起きてて動かねぇのはどうにも納得がいかねぇしな」

 きっとマヴォも話を聞いている内に居ても立っても居られなくなったのだろう。
 それで兄アージがあんな決定を下せば納得出来る訳も無い。

 確かにわからない事だらけの話だが、それ以上に被害は甚大で。
 だから鎮圧の為の力添えくらいならしたって問題にはならないと踏んだ。
 人間側と魔者側、どちらの為でもなく勇達の為にならと。

「で、でもお腹の傷はもう大丈夫なんですか?」

「当たり前よぉ! むしろ兄者が心配性過ぎんだ。ならこうして実戦で証明して見せるってな。むしろ兄者以外と久しく戦えてねぇからセンス鈍っちまう方が怖いぜ」

 こうやって自由に考えられるのがマヴォの強みだ。
 対のアージが武人肌かつ堅い性格とあって、バランスが取れている様にさえ見える。
 おまけに戦力としては申し分無い。
 アージより劣るとはいえ、その能力は引けを取らない程に高いから。

 魔剣無しの模擬戦で、勇を負かせられる程には。

「えぇ、そんな訳であの後マヴォさんからこっそりと参戦の打診がありましてね。ですのでアージさんには内緒で来て頂きました」

「感謝してるぜ、福留殿にはよ。あの兄者ぼうくんから少しでも離れられたからな。そもそも縛り過ぎんだ、息が詰まって仕方がねぇ。拘ってんのがどっちかわからねぇくらいに。だからきっと起きたら本部で咆えてるだろうぜ。『あいつめ、また勝手な事をしよって~』ってな」

「はは、確かに。アージさんなら言いそうだ」

 そんなマヴォが参戦したなら百人力だ。
 勇も心輝達のサポートに集中する事が出来る。
 その上でちゃなとの三点突破が叶えば、あれだけの数相手でも優位になれるだろう。

 これでアージもが加わってくれれば言う事は無かったのだけれども。

「さぁお二人とも、これから詳細な打ち合わせをしなければなりません。ですので付いてきてください」

 でも今は無い物ねだりをしている暇など無い。
 それに一度出航すれば増援は見込めないから。
 今度の相手は島の上、そう簡単には近づけない場所なのだから。

 ではその島にどうやって近づくのだろうか。

 さすがに海の上では勇達でも戦えない。
 そんな疑問があって不安は拭えずにいて。
 だけどどうやら、福留はその辺りに考えがあるらしい。

 だからか微笑む様子は相変わらずで。
 おかげで勇達も不安に駆られず済んでいる様だ。

 それでいざ、作戦打合せの場へと訪れてみれば。

「うおっ、なんだこれ! かっけぇ!!」

 早速、福留秘策の素が姿を現す事に。
 現れた物体を前にして、心輝やマヴォが思わず眼を輝かせる。

 それは吊り下げられたボートの様な物だった。
 まるで競艇用の胴短な高速艇を大きくしたかの様な。
 三角を描いて抵抗を失くし、より速く走れる様にしたものである。

「今回は海上からの進攻となるので、こちらを使って頂きます。通常艦艇では残念ながら近づく事も叶いませんので」

 おまけに戦闘員組の全員が乗れる様になっているらしい。
 幾つもの小さな座席と取っ手が付き、操舵ペダルまでもが備わっていて。
 その上で六人ギリギリのサイズへと絞り込まれている。

 で、そのボートを使う理由としては福留が言った通り。
 今乗る艦では島への接近が困難だから。

 というのも、魔者が囲っている時点で物理的に不可能なのだとか。
 彼等が浅瀬的な役割を担っている為である。

 障壁が物理特性を殺してしまうので、例え艦艇で突撃しても逆に負けてしまう。
 まさに岩礁の如く船底が抉られ、沈没する事となるだろう。
 そう試算された結果、本艦は遠方待機になったという。

 しかし勇達の乗るボートはその対策がしっかり施されているそうな。

「それでこちらの出番です。これには周囲に命力を張り巡らせられるよう、命力伝導率の高い素材を船底及び船首に這わせております。【ゴルリオヌ鉄鋼】をふんだんに使ってねぇ」

「だから船底に緑のラインがあるんだな。ただのデザインかと思ってた」

「おいおい、【ゴルリオヌ】をこんな風に使うなんて聞いた事ねぇぞ……」

 噂の異世界素材を利用し、強度と命力との相性を格段に高めていて。
 多少重いが、コンセプトとしては問題無いレベルなのだそう。

 こんな仕様を思い付いたのはカプロからの情報があったからこそ。
 命力さえあれば、本物の魔剣で無くても障壁を無効化出来ると。
 恐らくボートが命力を帯びる事で一時的な魔剣に変わるのだろう。

「勇君には舵を切ってもらい、マヴォさんには命力伝達を。そうする事で一直線に島まで突破出来ると思います」

 更には船首全域を覆う様に大型のシールドプレートが備わっている。
 防弾にもなる強化樹脂を使用した特別製の防御装甲だ。
 これで海上、海中も眺める事が可能となっている。

 元々は普通のボートだったらしいが、ここまで改造されるともう原型が無い。
 しかもたった二日間の間に仕上げたというのだから驚きだ。

 でもここで心輝が気付く事となる。
 このボートには一番大事な物が足りていないという事に。

「でもよ、これエンジンが無ぇじゃん」

 そう、動力が無いのだ。
 本来あるべきものが、少なくとも船尾には。
 搭乗席のすぐ裏はもう船尾で、エンジンなどを積む余裕は無い。

 強いて上げるなら、何か妙な台座が床から伸びているだけで。

「えぇ、動力はありません。これから乗るので。ちゃなさんという動力がねぇ」
「「「ええーっ!?」」」

 だがそれも福留の想定内に過ぎない。
 その台座こそがボート動力源の秘密を示していたのだから。

 どうやら考えられた作戦は割ととんでもない様だ。
 これにはちゃなも思わず「はぇ~……」と惚けずにはいられなかった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...