輝操士は儚き虹色世界にX(ジクス)を刻む

日奈 うさぎ

文字の大きさ
36 / 148
第一章

第34話 愚劣なる戴冠式

しおりを挟む
 微かに扉を開き、中を覗いてみる。
 すると謁見の間で行われていた事が早速と露わに。

 場はまさしく戴冠式の真っ最中だった。

 輝く程に白い大理石の床・壁と、厚い赤絨毯をまっすぐと引いた王道と。
 それらが彩るのはとても広く、かつ日が差して温かみのある空間で。

 そんな中にまず多くの人影が見える。
 それも左右に分かれて立ち並ぶ十数人の者達が。

 いるのは全て貴族だろう。
 それもヴェルストにくみする者達。
 ちらりと見た感じ、いずれも笑みを浮かべていて随分と余裕そうだ。

 そして中央、赤絨毯の上にいるのは二人の人影。

 手前の一人はみすぼらしく茶こけた布一枚の服装。
 それで両膝を床に付き、頭を垂らしていて。
 身体を支える腕はとても細々しく、簡単に折れてしまいそうだ。
 しかし頭には輝く王冠が重々しく載せられている。
 となると恐らく、彼が皇帝なのだろう。

 ならばその向こうに立つのが――第一皇子ヴェルストだな。
 その印象通り豚みたいな奴だ。

 顔はまだ少し整っているよ。とても美男子とは言えないが。
 ただひねくれ過ぎて、下卑た片笑いが凄く様になっている。
 ただ腹はダメだ、服の下腹部がはちきれんばかりに膨らんでいるよ。
 なのに腕と足は細めだな、少し運動した方がいいんじゃあないか?
 それでも煌びやかな服を纏っている辺り、身なりには気を付けているらしい。

 だけどノオンの兄らしい姿は見えない。
 青髪の長髪だと聞いているから気付けるとは思ったんだが。
 貴族達に隠れて姿が見えないだけかもしれん。

 ……少し、様子を伺うか。

「父上ぇ、いい加減人の言う事聞いてくださいよぉ。ほら、その頭に乗った王冠を俺に掲げるだけでイイですからぁ」

「断る!」

「全く、それは冗談ですか? ほら皆、笑え~!」

「「「ハハハハ!!」」」

 どうやら皇帝が戴冠儀式を拒んでいるらしいな。
 ヴェルストが頬を叩いたり腕を蹴ったりとやりたい放題だ。
 明らかに外道のやり口だぞ、これは。

 おまけに誰も止めるつもりは無いときた。
 それどころか笑い、拍手し、皇帝をこれ以上なく蔑んでいる。
 とても今まで忠義を尽くしてきた者達とは思えない所業だろう。

「ねぇ、ルークラン第二皇子の奴がどうなってもいいの? あ、俺は一向に構わないよぉ? だって俺、アイツ嫌いだもん。俺の良いとこ全部かっさらっていったしな」

「ぐく……」

「でも俺が勝った! つまり俺が皇帝になるに相応しかったって事なのさ。なのにいつまで意地張ってんの? それが皇帝の潔さなのかな~?」

 にしてもヴェルストめ、知恵や品性の欠片も感じない奴だ。
 これだけでブチのめしたくなる事請け合いだな。
 親さえ人道的に扱えない様なこの人間性では!

 しかし惜しむらくは、奴にターゲットを充てられない事か。
 皇帝の位置が悪くて罠が仕掛けられん。

 ――というのも俺は今、謁見の間に罠を巡らせている。
 微かな魔力の糸を無数に這わせ、部屋の床に奥まで伸ばしているんだ。
 これはよほど魔法に精通している人間でないと気付けない技さ。

 でももう準備は整った。
 これ以上豚語を聴く気にもなれないしな。

 ならばと頃合いを見て、コイツを発動させる。
 
「【痺雷流陣パルパッザー】……!」

 これは指定範囲全体に神経系電流を流す弱体魔法だ。
 攻撃力はほぼ無いが、範囲全体の相手を麻痺させられる。
 しかも俺なら意識をも奪うくらいなんて事は無い。 

 張り巡らせるのが大変だが、罠としては充分。
 未だ気付いていないなら、痺れさせられた事にも気付けないだろう。

 故に、発動した瞬間に貴族達がバタバタと倒れていく。
 おぉ、全員痙攣までしてるな。思った以上に効果てきめんだぞ。
 とても騎士出身とは思えない身の弱さだよ。

「な、なんだ、何が起きたっ!?」

「悪いな、余計な奴は全員眠ってもらったよ」

「「ッ!?」」

 こうしてお膳立てが整った所で扉から姿を晒す。
 あと残るは皇帝――そしてヴェルストだけだ。

「第一皇子ヴェルストだな。お前の陰謀は全て知っているぞ」

「なあッ!?」

「俺は今、非常にいかっている。貴様の様な奴が国を担う皇帝になろうとしている事が堪らなく許せなくてな……!」

 そうだ。俺はもう我慢出来ない。
 今すぐコイツをブチのめしたくて拳が疼いている。

 あんな見苦しい真似を見せられて黙っていられる訳が無いだろう!

「皇帝陛下、すいませんが今から少し騒々しくなる。コイツの悲鳴でな」

「お、おお……」

 それでいざこうして声を掛ければ、皇帝が驚きの目を返してくれた。
 例え枯れようとも威厳を損なわない逞しい眼差しで。
 確かに、こんな人物なら希望に添えたいと思えるな。

 ツァイネル、アンタの気持ちが少しわかった気がするよ。

「ラターシュ! どこにいるんだラターシュ! 早くコイツをなんとかしろぉ!」
「ッ!?」

 しかしそんな時、ヴェルストが突然こう叫び出した。
 でもこれが、俺に全てを悟らせるキッカケとなったんだ。

 空かさず横へと飛び退く。
 床を打ち割る程に強く速く。

 するとその途端、俺のいた場所が――爆ぜた。

「くッ!?」

 それでも怯まず受け身を取り、即座に姿勢を立て直す。
 そうして先の場所へと目を向ければ――奴がいた。

 長い青髪に鋭い眼。それでいて面長の美形。
 肩幅も狭く女性かと思える程に細く見える体格。
 しかし自信にも足る鋭い動きが力強ささえ感じさせる。

 そんな美と強さを重ね揃えた、アイツが。

「……全く、皇子が余計な事を口走らなければ今頃は終わっていたのに」

 そう、ラターシュだ。
 ノオンの兄ラターシュが平然と立っていたのだ。

 一体どこに潜んでいた!?
 部屋には見当たらなかったのに!

 ん、待てよ。部屋、床?
 ……まさか!!

「貴方はいつもそうだ。先に余計な事ばかり口出すから面倒ばかりが起きる。そもそもこんな奴が近づいていたのに気付かない事自体がダメだと言っているんですよ皇子ィ……!」

「わ、悪いラターシュ。ついつい動揺しちゃって」

 コイツ、最初から気付いていたのか!
 それも俺がこの部屋に来る前から。
 それで予め、こっそり隠れていたんだ。

 部屋の天井に貼り付いて!

 だから床が小さい一箇所だけ爆ぜている。
 少しでも角度があれば破片が抉れて吹き飛ぶからな。
 つまりコイツは真上から襲撃して来たという訳か。

 早速してやられたよ……!

「まぁノオンが来た時から何となくこうなるかもとは予想していた。とはいえ、変に神経質になるとそれも面倒だから黙っていたのだけれど……来たのが君の様な得体の知れない人物とはね」

 話し方が大人しい時のノオンとそっくりだ。
 いや、ノオンがコイツとそっくりと言った方が正しいか。

 とても淑やかで落ち着きのある声質。
 しかし一句一句にキレがあって、どこか謀略性を感じさせる。
 加えて剣を薙ぎる速さもなかなかだ。
 まさしくドゥキエル家の集大成と言った様な感じだよ。

 これで前向きハイテンションが合わされば最高なんだがな……!

「得体の知れなさには定評があるからな。ツァイネルにもそう言われた」

「ほう、彼を前にして生きているとは。これは少し油断出来ないかもしれないね」

「少し、で済めばいいけどな」

 そんな奴の持つ剣は――細身突剣レイピアだ。
 ただ、振ったのを見た感じ普通の剣とは訳が違う。

 全くしならなかったぞ。
 まるで剛剣の様に堅牢で、それでいて軽さは据え置きと言った感じの。

 そしてあの煌びやかな装飾。
 間違いない、あれも聖剣だ。

「皇子、少々お待ちを。今すぐこの賊を血祭りに挙げますゆえ。あ、返事は要りません。その間に戴冠でも済ませておいてください」

「時間稼ぎでもするつもりか?」

「いいや、君の代わりに見届けてあげるつもりだよ。これでも皇子は忙しいんだ。この後【陽珠】の下にも赴かないといけないからね」

 こうして観察する時間を与えてくれるのは、よほど自信があるからか。
 今見せる全てを晒してでも俺を倒せるつもりなんだろうか。

 いや、ハッタリブラフだな。
 ツァイネルの名を出した時、少しだけ動揺を見せた。
 俺の力を測りきれないからカマを掛けているんだ。

 どうやって無敵の歴壁を突破したのか、とかを知る為にな。

 ただ、それでいてすぐ現実を受け入れられる器量もある。
 剣そのものに迷いは無いし、構えていないのに隙も無い。
 よほど現実主義だな、コイツは。

 だとすると動揺を誘うのは無理か?

 いや、ドゥキエル家の人間なら多少はボキャブラリティに富んでいるだろう。
 期待は出来なくとも、狙う価値はある。

「あ、知っていると思うけれど、私の剣はとても痛いよ。この第二聖剣【ウィルナンジュ】は一瞬で君の体を蓮の芽はちのすに出来る力があるからね」

「いいのか? そんなネタばらしをして」

「これでも騎士さ。君が例え愚かで間抜けで浅はかでも正々堂々と戦う気概がある。〝我は皇国第一近衛騎士団団長、ラターシュ=ハウ=ドゥキエル。いざ尋常に勝負〟ってね」

「なら俺も名乗ろう。俺はアークィン=ディル=ユーグネス。皇国の平和を脅かしたお前達に罰を刻みに来た」

「言うねぇ。では刻み合おうじゃあないか。どっちの罪が重いのか、ってさ」

 宣ったほどの騎士道精神があるとは思えない。
 しかし名乗るだけなら別に吝かでもないさ。

 出来うる事なら知っておいて貰いたいからな。
 罰が刻まれてもなお生きていた時、戒めとなるように。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...