輝操士は儚き虹色世界にX(ジクス)を刻む

日奈 うさぎ

文字の大きさ
37 / 148
第一章

第35話 カイオンの秘めたる想い(ノオン視点)

しおりを挟む
 カイオン兄様は強い。
 恐らく、今でもきっとボクより強いのだろう。
 常々越されない様にと鍛錬を重ね、身に刻んで来たから。

 でもね、ボクはそれでも負けるつもりなんて無いよ。
 ここまで一緒に戦ってきてくれたアークィン達の為にも。
 そしてボクを信じてくれているであろう父上達の為にもね。

「兄様ーーーッ!!」
「ノオォォォンッ!!」

 斬撃が来る!
 重い縦斬り一閃が!

 それを体を捻って躱し、身体を回す。
 それでそのまま回転斬撃を見舞ってやる!

 ――ッ!? ダメだ!
 これは牽制だ!
 兄様ならこの後、切り返しの打ち上げが来るッ!!

 予想通りだった。
 大地へ打ったはずの剣が今、ボクの目下から迫ってきていた!

 けどそれを体を仰け反らせる事で間髪躱して。
 それでそのままバック転して距離を取り、空かさず構えを戻す。

 そんなボクを、カイオン兄様は猛追していた。
 既に目前まで迫り、横薙ぎしようとしている!

 なんて速さだ!
 今までよりもずっとパワフルで、勢いがある!
 こんな兄様をボクは知らないッ!!

「くうッ!?」

 けど速さなら! 思い切りなら! ボクも負けない!
  
 だからこの時、ボクは前進していた。
 床を蹴り、剣でも床を叩いて。
 その勢いのままに腰を落として斬撃を躱す。

「これを躱すかあッ!?」

 そしてそのまま斬り抜いてみせる!

 ――だけどその時、想定外の事が起きたんだ。

 背中に衝撃が走った。
 筋肉が、骨が軋むくらいに強く。

 兄様の肘が背中を打っていたんだ。
 まるで覆い被さる様に、全体重を乗せて。

「があッ!?」

 そうだった。忘れていた。
 兄様は剣術ではなく、剣術が得意なんだって……!
 剣を使った格闘戦術を最も得意とした戦士だったんだ!

 そんな事を思い出しつつ、身を転がせて離れる。
 爪先で床をリズミカルに叩き、瞬時に体勢を整えながら。

 でも痛かったな。
 忘れていた事の戒めにも感じる辛さだよ。

「今のをやり過ごしたか。なかなかの反応速度だノオン」

「その筋の剣技を極める為に鍛えて来たからね、なんとかなったよ。でもそれがなかったらもう終わっていたかもしれない……!」

「良い観察眼も持ったものだ。これがお前の使命の賜物という訳だな」

 そうだ、だからカイオン兄様は騎士にならなかったんだ。
 あくまで兵士として、騎士の様な剣だけの戦いに拘らなかった。
 それだけストイックに戦いへ挑んでいる。

 戦う事そのものに意味を感じているから。

 この人は根っからの戦士なんだ。
 昔からそう。
 ボクが貴族の子に苛められた時だって

 あの時の兄様は徹底的に仕返ししてくれた。
 卑怯だとかそんな些細な事に一切拘る事なく。
 滾ったから、怒ったから、そして何より理不尽と思ったから。

 とても感情にストレートで、それでいて自分にも正直で。
 だからボクもそんな兄様が好きでしょうがなかったんだ。

 だってそうじゃないか。
 この人がボクの事を一番正しく見てくれたんだから。

 誰よりも正直に全てを伝えてくれたんだから。

「そうさッ!! それも全て貴方が育ててくれたお陰でしたッ!!」
「ぬうッ!?」

 そんな想いを迸らせつつ一気に距離を詰める。
 その上で斬撃を十字二閃。
 防がれようが構いやしない!

 それを案の定、剣で防がれた。
 けどね、ボクはその程度じゃ止まらないよ!

「だからボクは今の貴方がわからないッ!!」
「うおおッ!?」

 弾かれた衝撃をも速度に換えて飛び退いて。
 更に跳ねて、跳ねて、跳ねまくって!

 その度に斬撃を加えつつ、雷光の如く駆け抜けるのさ!

「あれほど優しかった兄様がッ!! ここまで非道になれる理由がッ!!」
「ちいッ!?」

 おかげで鎧を削る事が出来る。
 それだけだけど充分だ。

 確かにそれだけ軽いさ、ボクの斬撃は。
 女だからね、身軽で力も弱いから。

 だけどさ、それでもここまで強くなれたよ!
 それは単に、貴方がここまで強くなれる土台をくれたからッ!!



「こんなにも人を悲しませる、その意味がわからないんだよォォォーーーッ!!!」



 だからボクは貴方を止めるんだ。
 何が何でも、この力に代えても。

 例えその先で、ボクの命が尽き果てる事になろうとも。

 その加速斬撃の末に飛び跳ねて、大振りの旋回一閃を見舞う。
 それは掲げられた剣で防がれるも、兄様を強く怯ませていた。

 故に兄様の顔が歪む。
 堪らず後退をしてしまう程に。
 それだけの威力が今の一撃にあったみたいだ。

 ボクも無我夢中で放ったからね、威力は自分でも計り知れない。
 もう力加減なんて出来やしないから。

 その中で着地し、体勢を整える。
 剣先を遥か先の喉元へと向けて戦意を見せつけつつ。

「戦う意味か……確かにな、それが無ければ人は戦えぬ。お前がこの戦いに父上を救うという意味がある様に」

「そうさ。きっとカイオン兄様だって戦う意味はあるだろうさ。だけどそれがわからない。だってラターシュ兄様にかどわかされる様なお人じゃないでしょう!」

 油断は出来ないよ。
 兄様の信念は本物だからね。
 その根源がわからないけれど。

 だけど知りたい。
 その戦う理由が。
 これ程までに猛る理由が。

 それが本当に、父上を殺してまで成し遂げたい理由なのかって!

「いいだろう、お前になら教えてもいい。この俺が戦う理由が何なのかを」

 この時、こう宣いつつも剣が怪しく両手で掲げられる。
 身を落として低く、身体全体で絞るかの様に。

 ボクへと剣先を向けながら。

「これは単に、愛の為だ」

「あ、愛ッ!?」

 だけどね、こんな答えが返って来れば動揺もするよ。
 あのお堅いカイオン兄様がこんな事を言うなんて思っても見なかったから。

「俺はある方を心より愛して。その方の為になら命を投げ捨てる事も、己を使い潰す事も厭わないと思える程に。例えその愛が絶対に成就しない事がわかっていようとも、俺にはそんな事など関係無かったのだ」

「ま、まさかその人って……!!」

「そう、エルナーシェ姫だあッ!」

「ううッ!!」

 この人にはずっとそんな事に縁が無いと思っていた。
 戦いに生きて、戦いに死ぬような人なんだって。

 だけど違ったんだ。
 この人もやっぱり人間だから。
 誰かを好きになって、恋して、尽くしたいって思う人だった。

「皆はエルナーシェ姫と共に写ったお前に夢中だった。しかし俺は違ったのだ。あの写真を見た時から、俺はエルナーシェ姫に心を奪われた! だから俺は密かにあの写真を増産した時、姫の部分だけを拡大して隠し持つくらいに愛してしまっていたッ!!」

「そんな、お堅い兄様がそんなウブな事をしていたなんて!」

「当然だあッ!! 俺も男だ! それもドゥキエル家の男なのだァ!! だが決して冗談でも気迷いでも無いぞ! その後再びお逢いした時、俺は実際に姫へと想いを告げたッ!! そして必ずや彼女をお守りする騎士になると約束したのだッ!! 結ばれない事をわかってもなお!」

 しかも想いは本気だった。
 この人はそういう事でも本気になれたんだ。
 剣でも恋でも一途に、パワフルになれる人だったんだ……!

 だけど、その結末はあまりも残酷過ぎるよ兄様!

「だがエルナーシェ姫は亡くなってしまわれた!」

「それは事故で――」

「いいや違う、違うぞノオンッ!! あの方は殺されたのだッ!! それも青空界の王、実の父親にいッ!!」

「なッ!?」

 そしてまさかの事実を告げられる事に。
 きっとほとんどの人が知らない様な驚愕の真実を。
 しかも姫が想い描いていたであろう決意をも添えて。

「あの事故の後、継承の儀に立ち会った一人の側近が我が国に亡命してきた。理由は贖罪の為! 自身が青空界に身を置けぬと決心した為に! その上で教えてくれたのだ。継承の儀を行おうとしたあの日、何が起きたのかを!」

「えっ……」

「あの日、姫は【陽珠の君】に辱められた。そしてその命令に従わず、自ら命を絶ったのだ! 恐らくその真意は、我々の為を想って。心の繋がった人々を失望させない為に彼女は敢えて死を選んだのだ!」

 兄様の様な人だからこそ、わかってしまったんだろうね。
 エルナーシェ姫の真意がどうなのかって。

 でも、そんなのってないよ。
 それは余りにも……残酷過ぎる話じゃないか!

「だがもし青空界の王が庇って盾となったならば。かの側近達が率先して命令を否定し、姫を守ったならばこうもならなかった! そう出来る者達なのにしなかったのだ! 姫に頼り切り、自分達で道を切り拓く事を忘れた愚か者達だったからこそ!」

「う、うう……!」

「故に俺は誓ったあッ!! 必ずや青空界の者どもに制裁を加えてやると! 姫を守れなかった奴等を血祭りに挙げてやると! その手始めに亡命者は俺が首を刎ねた! 次は王、奴以外になぁいッ!!」
 
 そんな話で怯んだボクへ、兄様がにじり寄ってくる。
 強い決意を秘めた眼で睨みつけながら。
 それで遂には走って来て、剣を振り被ってきていて。
 
 だけどこの時、ボクは何故か躱す事が出来なかったんだ。

 なんか躱してはいけないと思ってしまって。
 兄様の剣を受けなければいけないと思ってしまって。

 たちまち掲げた剣と打ち当たり、激しい音が打ち上がる。
 その両腕に凄まじい衝撃をももたらしながら。

「こんな事なら、最初から俺が付いているべきだった!」
「うああッ!!」

 それも遂には二撃、三撃と続く。
 とても単調な振り下ろしばかりが。

「いっそ愛していると言った時、諦めずにさらうべきだった!」
「うっぐうッ!!」

 でも、それでも避けれない。
 兄様の想いがボクの心までをも打ってくるんだ。
 なんでこんなに苦しくなるのかわからなくなるくらいにッ!!

「むしろ知りさえしなければこんな苦しい思いなどせずに済んだのにいッ!!!!」
「ぐあうッ!?」

 そうか、これが今の兄様の強さなんだね。
 この苦しみは、兄様も受けているんだ。
 そんなもろ刃の剣を奮っているから、ボクも痛くて辛いんだな。

 ダメだこのままじゃ。
 ボクはこの人に勝てないと思い始めている!

 これじゃあボクは――アークィンの覚悟に応えられないよ……!



「だからこそおッ!! この想いを力にして打つッ!! 俺はその為にここに居るのだノオォォォーーーン!!!!!」



 そんな弱気となった心が剣をも弱らせる。
 騎士にとっての剣とは己が心の象徴だからこそ。

 故にこの時、聖剣【ガンドルク】はその半刀身を空へと投げさせていた。

 ボクの至らない心が神鉄の剣をも折ってしまったんだ。
 すまないアークィン、ボクはもしかしたら――ここまでかもしれない。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...