輝操士は儚き虹色世界にX(ジクス)を刻む

日奈 うさぎ

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第二章

第52話 勇者現る

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 エルフとは元来、緑空界から出たがらない閉鎖的な種族だったという。
 更には赤空界のドワーフを毛嫌いし、互いにいがみ合っていたそうだ。

 しかしここ約三〇年も前に、その常識は覆される事となった。

 始まりはとあるドワーフ男性とエルフ女性の仲から。
 ドワーフの男は技工士ガウザ、エルフの女は魔導士メローナ。
 どう見ても出会うはずも無い二人だが、運命が引き寄せた様だ。

 二人はひょんな事から知り合い、紆余曲折を経て友となって。
 それから互いの理想を語り合う親友となり、気付けば恋仲へ。

 そして彼等は同胞達の反対を押し切り、結婚までをも果たしたのだ。

 確かに世界的には混血を嫌う風習があるだろう。
 だから二人の人生はきっと困難を極めたに違いない。
 だがそれでも彼等は交わる事を望んだのだ。
 血も技術も心行くままに交えたい、そんな想いを抱いて。

 そんな強い意志が同胞達の意識をも変えた。
 抱いていた蟠りが古の呪縛に過ぎないと気付かされた事によって。
 彼等は本心では決して嫌い合ってなどいなかったのだろう。
 
 そう気付いたお陰で、エルフもドワーフもたちまち解放的となった。

 今では他の種族と肩を組んで笑ったり、酒を酌み交わしたり。
 魔動機技術を学ぶエルフや魔法知識を培うドワーフも増えた。
 更にはその相互技術共有が多大なる発展を促すまでに至る。



 これは世界が始まってから今までに無い変化だった。
 つまり二人の愛が世界の理をも大きく変えたのである。



 それで今や機空船操縦士にもエルフがいる。
 種族に縛られない競技だからこそ、いない訳が無かったんだ。

 ただ、俺達の前に現れたエルフはこう言ったのさ。
〝操縦士になるのは止めておけ〟と。

 それもつい最近まで空を駆けていたハズの操縦士本人からな。

「気を悪くしたのならすまない。でも操縦士になるという声が聴こえたので、つい言いたくなってしまって」

「いや、それは始めから諦めていたから構わない。でも驚いたよ、まさかこんな所で〝勇者〟に出会えるとは思っても見なかった」

「え、勇者……?」

 けど今はそんな事なんてどうでもいい。
 元々気にもしていなかった事だしな。

 それよりも何よりも、俺はこの男に出会えた事を喜ばしく思う。
 競船場でその雄姿を見てから忘れられなかった存在だからこそ。

 それが彼、操縦士ココウ=ファジョッシ。
 先の【スカイレジェンド杯】で一八番として優勝争いを繰り広げた男だ。
 俺に勝利以上の感動を教えてくれた者でもある。

「先のレースでの飛行は凄かった。お陰で貴方のファンになったよ。機空船レースを見るなんて初めてだったが、それでもあの飛行には心に刺さるものがあった。だから俺は敬意を籠めて勇者って言わせてもらったんだ」

「僕の事を見てくれていたんだね、嬉しいよ。実は今までファンと言ってくれる方に会った事が無くて、ちょっと照れ臭いけれど」

 ――なにィ、ファンがいないだと!?
 おかしい、あの飛行模様に惚れないなど!
 観客の目は節穴なのか!?

 なにせ全てにおいて凄かったからな。
 あのキレッキレの動きでライバルを抜く所とか。
 一番二番のタックルをしょっぱなで躱した動きは特に神がかっていた。

 どうやらマオ達も同じ想いだったらしい。
 思わず皆揃って腕を打ち合ってしまったじゃないか。
 何でこんな時ばかり息が合うんだ俺達。

 と、そんな事をしている場合ではない。
 ずっと気になっている事があるからな。
 この人が俺達を止めようとした理由がどうにもわからなくて。

 たった一言だが、何か意味深な雰囲気を感じたからこそ。

「本当は先日のレースを熱く語りたい所だが、ここは少し止めておいて……少し訊きたい。なぜ操縦士が勧められないんだ? ココウ殿も操縦士ではないのか?」

「あぁ~……僕はもう操縦士を辞める事にしたんだ。あの業界ではもう戦っていけないと思って」

「「「ええーっ!?」」」

 なんてこった……!
 これもこれで割と衝撃だった。
 まさかファンになった選手がいきなり引退宣言などとは。

 ただ決して世迷い言でない事だけはわかる。
 ココウの顔は決して笑っていないんだ。
 むしろ闇を抱えたかの様な、とても辛そうな顔をしているから。

「深い事は言えない。けどどんなに優れた腕を持っていてもあのレースでは勝てない様になっているのさ。まだS3やS2なら自由に戦えるけど、S1となるともう実力だけじゃどうしようもないんだ」

「それってもしかして――」

「待ちたまえ。それ以上言ってはいけないよ。どこの誰が聞いているかもわからないからね」

 もしかしたら彼だけにしかわからない事実があるのかもしれない。
 S1という限られた者達にしか覗く事の出来ない世界には。
 しかも俺達が思いもしない様なドス黒い何かが。

 そう思えてならなかったんだ。
 直感ってヤツでな。

 しかしそれと同時に迷いも見える。
 恐らく未練があるんだろう。
 なにせS1まで登り詰めたんだ、相当努力したのだろうし。

「なるほど、わかった。ならもう一つ教えて欲しい。どうして俺達にそう伝えようと思ったんだ? 普通なら放って置けばいいだろうに」

「それは昔からこの国に〝誰かが困ってたら助けよう、助けられたら別の人を助けて恩返ししよう〟っていう暗黙のルールがあるからさ」

「おぉ、それはとても素晴らしい」

「うん。僕もここに来た時は色んな人に助けられた。だから君達にもこう言わなければと思ってね」

 おまけにここまで心が美しいと直視出来ないな。
 下心があるのかと疑ってしまったのが何だか心苦しいよ。

 でもお陰でさっきのおっさんドワーフが丁寧に教えてくれた理由もわかった。
 きっと暗黙のルールとやらが世間に広まっているからなのだろう。
 とても見習いたい風習だと思う。

 けどそれなら俺はこのココウにも恩返しがしたい。
 出来うる事なら未練を断ち切らず、想いを成就させてあげたいんだ。

「ではこちらからも礼をさせてもらうとしようか。一緒に食事でもどうだろうか? なんなら込み入った話が出来る様に、桟橋の先にある俺達の船の中でな」

「えっ……?」

 あのレースで教わったからな。
 何があろうと諦めない勇気を。
 例え最低評価を受けようとも挫けず立ち向かうあの姿勢から。

 そしてあのレースを、俺はまた見たい。
 気の抜けた様な奴等の飛行ではなく、このココウの飛行が。

 その為になら俺達は一肌でも二肌でも脱ごうじゃないか。



 こんな感じの強引な誘いだったけれど、ココウは快く応じてくれた。
 俺達の事を知らないのに付き合ってくれるなんて本当にいい人だよ。
 世の中には人さらいなんてものも横行してたっていうのにさ。

 それならこちらも快く聞こうじゃないか。
 伝統競技【スカイフライヤー】が孕む闇の正体を。

 その内容次第では、俺達の出番となるかもしれないからな。
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