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第三話

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 一斗さん最低ですね、ちょっとドン引きしました。

「パプリエルさんにまでそう言われたら俺もうどうしたらいいかわからなくなる(笑)」

 とはいえ自身でも反省している様なので、これ以上責める事はいたしません。
 現在はしっかりエリーちゃんに従順らしいので。
 二人とも半ば現人神あらひとがみ的な存在でしょうし無茶はしません、よね?

 住人に手を出すとか。

「もちろん。さすがにそういう欲望はもう捨てました。国民みんなチンパンジーですし」

 主神に似るよう原生生物が進化したのですね。
 でも何も無かった世界からそこに至るまで、相応に時間が掛かったのでは?

「あ、うん。俺達にとっての最初の数年は食べて寝て植物や新生生物の成長を見届けるくらいだったかな。だからといって生物をどうこう弄った訳でも無く、自然とチンパンジー風の生物が進化してて。気付けばエリーちゃんがそれらを統率して集落を造り、知恵を与えて発展させて王国までになった。今では人口も相応に増えてるって感じです」 

 ふむ。つまりその間の一斗さんはと言えば何もしてなかった訳ですね。

「その通りです!(笑) ホントただ見守るだけ。猛獣とかに襲われても自分達で普通になんとかしちゃうんで、最強装備はずっと埃被ってたね。兜なんて腐った水受けになってたし。スマホは無限充電とか無いから只のゴミだし。俺も力以外何の能力も無いんで、住人にも結構言われます。『あの人はダメな神だから真似しちゃだめよ』って」

 反面教師になっているだけまだマシですね。

 むしろある意味で言えば役立っているのかもしれません。
 その適応能力も「一斗さんみたいにならない様に」という戒めがあるからこそでしょうし。
 宗教に近い役割を担っているのかもしれませんね。

「だといいけどなぁ。エリーちゃんの存在感が大き過ぎて貢献してるとはもう思えないかな」

 そんなに凄いんですね、エリーちゃん。

 資料によりますと、どうやら彼女は普通のチンパンジーではないそうな。
 人間に近い、あるいはそれより高度な知能を有している様ですね。
 天才として人間に飼われていた実績があるみたいです。
 だから服を着ていたのでしょう。

 となると、転生前の世界ではきっと大騒ぎしていたかもしれませんね。
 「天才猿、突如この世を去る」みたいな。

「その原因が俺にあると思うと凄く居た堪れない……お陰で助かってる訳だけど」

 きっと彼女も賢いので運命だと思って受け入れているでしょう。
 貴方を責め続けないのも、きっとそれなりに想ってくれてるからだと思いますよ。
 他者を思いやる心があるからこそ国が造れた、良い伴侶だと私は感じます。

 異種間でそうお呼びするのは少し憚れますが。

「今はもう馴れたから伴侶と言われても違和感は無いかな。まぁ欲を言えば人間にしてあげたいくらいなんだけどね。願いが叶うならそれに尽きるかなぁ、彼女が望めばだけど」

 それも良いかもしれませんが、今のままでも良いと私は思います。
 意思疎通がしにくいからこそ保てる関係性というのもありますから。

「確かに。エリーちゃんも別段そういうの望んでる節は無いしね。住人にはちゃんと言葉通じてるし。俺もそろそろエリー語憶えないとなぁ」

 新しい言語まで造ってるんですか。
 凄まじいですね。さすが神と言わざるをえません。

 それを考えると、世界を創った神は一体何をしているのやら。

 えっと、資料によると……どうやら一切触れてないらしいですね。
 この世界の神は現在、別の世界を創造している様です。
 もしかしたら飽きっぽいのかもしれません。
 なので転行者の対応も担当天使辺りに任せて適当にいなしているのでしょう。

 だからと言ってスーパーフラットな世界に送るのはあんまりな話ですが。

 ちなみに、スーパーフラットとはまさしく何も無い世界の事です。
 クリエイティブな世界とは違って、ただ土をフラットたいらに引いただけの。

 しかも余程の事が無い限り自然発展不能という、超高難易度世界なのです。

 なので初めての方ではほぼ一〇〇%死亡するという。
 まさしく転行に慣れた個体専用の世界と言えるでしょう。

 そんな世界に不幸塗れの人を送るとは。
 その神はもはや鬼畜の如しとしか言いようがありません。
 たとえチートが複数あっても、世界特性を知らなければ対処出来ませんからね。
 一斗さんもエリーちゃんがいたからこそ何とかなった訳で。

 え?あ、はい。
 どうやら今確定情報が入ったようです。

 やはり一斗さんの前世の不幸の原因は今の世界の神でした。
 運命力を操作し、不幸になるよう仕向けていた様ですね。
 つまりその神が目を付けなければきっと今頃は幸せに生きてたかもしれません。

 これは少し可哀想に思えてきました。

「いやぁ、そうなのかもしれないけど、前世で生きてても結局ニートなんだろうなぁって。そう思うと別にいいかなぁなんて思うかな。今は不遇だけど生きているって実感はあるからさ。まぁ両親には謝ってほしいなぁとも思うけど」

 そうですね。結果はもう変えられませんし。
 そう言って頂けると我々も助かります。

 ただこの後、創世界行政府が指導に動くと思います。
 別世界への干渉は禁じ手とされておりますので。
 そんな【ドゥジンサクヒン】ルール違反を見逃すつもりは御座いません。

 なのでその点はご心配なさらぬようお願い申し上げます。

「よろしくお願いします」

 にしても最初はだいぶはっちゃけてましたけど、今はだいぶ落ち着きましたね。

「話せる事話せたんでスッキリしたみたいっすわ。ほんとありがとうございまっす」

 それでは今後もエリーちゃんと世界の発展を頑張ってくださいね。
 影ながら応援しております。



 異世界転生。その仕組みは時に人の欲望をも刈り取ります。
 今回の様に浅はかと事を進めてしまえば、その後に多大な影響を及ぼす事さえありうるのです。

 だからこそ転行者に直接向き合う場合は必ず意図を理解してあげてください。
 さもなければまたしても勝手に動かれる事になりますから。
 今回は転行者もなかなかな仰天ムーブでしたけども。

 それと、他世界への干渉も出来る事なら避けましょう。転生はあくまで受動的に。
 もしその世界の主要人物を奪われてしまえば大問題にも発展しかねませんからね。
 著世権問題とか。

 もしも引用するなら固有名詞の直接呼称は避けると良いでしょう。
 それとなくわかる情報を出すだけで閲覧者はきっとわかってくれますから。

 それでは良い創世を。

 以上、司会天使のパプリエルからお送り致しました。

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