異世界転移転生ドキュメンタリィ ～今明かされる転移転生被害者の証言。成功物語によって隠された失敗世界の真実とは!?～

第四話

４－１

　皆さまこんにちは、司会天使のパプリエルです。

　連日の異世界転行失敗談に、きっと皆さまは戦々恐々としていらっしゃるのではないでしょうか。
　いつか自分の世界でも同様の事が起きるのではないか。
　あるいは眺める世界で悲劇が繰り返されるかもしれないか、と。

　いや、もしかしたらそんな世界をもう既に見た、創った方がいるかもしれませんね。

　そう、今回取り上げるのはもう皆様にとってはお馴染みとも言えるあの事案。
　転行モノどころか、独立世界や現代風世界ですらあり得る、恐るべき現象のお話です。

　その発生率は著しく高く、そして見境ありません。
　たとえ成功談を飾った世界でも関係無く。
　その後に見舞われる事がよくあるとも言われているのです。

　恐ろしい話ですね。

　ただその現象に見舞われても、当世界の住人が気付く事は滅多に無いそうです。
　世界に対してはあまり影響が無い、むしろその方が良い事もあるからだそうな。

　しかし、時にはその現象に気付いてしまう方がいるのです。
　というより、気付かされざるを得ない状況に陥った、でしょうか。

　本日は、そんな現象に巻き込まれ、かつ気付いてしまった方をお呼びしています。
　生まれは現代、今は異世界で生活中の剣之塚けんのづか 理駆桐りくとさんです。

「どうも、りくと、です。よろしく、おねがい、します」

　リクトさんは異世界転移という形で今の世界に訪れたそうです。
　やはり転移者となるとお名前が複雑な方は多いですね。
　ですので今回もカタカナで語らせて頂きます。

　なおリクトさんは自身の都合上、片言気味となっています。
　どうにも創世界でのリハビリも間に合わなくて。
　それでもカンペありでなら平気そうなので、本日語って頂く事になりました。

　ただ、話し方は若干独特かもしれません。
　リスナー様にはご不便をおかけいたします。

　ですが、それでもワタクシはリクトさんに来て頂きたかった。
　この方が今の所、最もこの現象の悲劇を色濃く伝えられると思ったからこそ。

「今日は、しゃべるの、楽しみ、だった。凄く。ぱぷりえるさん、来てくれて、ぼく、うれし」

　私もリクトさんにお逢い出来て良かったと思っています。
　いやホント、逢うだけで救える事もあるんだって実感出来ましたから。
　冗談抜きに悲劇過ぎて。

　それというのもリクトさん、人と会話するのが実に三〇〇〇年ぶりなのだとか。
　トリプルミレニアムですね。でも全くおめでたくありません。
　むしろ不幸はなおも継続中なのですから。

　でも「人間が三〇〇〇年も生きられるの？」なんて思う方もいるかもしれませんね。

　えぇ、普通は無理なんです。
　リクトさんも転移者とはいえ普通の人間なので。
　もちろん不老不死のスキルを持っているとかそんなのではありません。

　その原因は――なんと、リクトさんが世界の理のバグに巻き込まれたから。
　そしてその結果、不運にも不老不死になってしまったのです。

　バグ、つまりは不具合ですね。

　転移先の世界設定に少し辻褄の穴があって。
　不可抗力でその穴に見事ハマってしまった。
　その所為で今も、そしてこれからもただ生き続けなければならない。

　しかも不具合を起こしたままの世界で。

「普通の、世界で、ただ長生き、するだけ、なら、良かった。けど、 あの世界は、生きるの、つらすぎ、しょぼん」

　頑張って！　頑張ってもっと会話力とボキャブラリティを取り戻してください!!

「ぼく、がんばる。でも、語るの、これたぶん、平気」

　はい、とても期待しております。

　にしても、最初は私も耳を疑ったものです。
　始めは諜報部からそれとなく情報が流れて来て。
　次に、調査へ赴いて欲しいと総理大神様から依頼が。

　それでいざ現地へ向かった所、見つけたのです。
　一人その世界で延々と生き続けているリクトさんを。

　最初は喋る事さえ出来なかったんですよ。
　「あーうー」くらいしか言えなくて。

　でも私達との会話は言葉無しでも可能です。
　なので当番組の出演依頼をした時はすぐに了承頂けました。

　きっとそれだけ退屈だったのでしょう。
　何せ三〇〇〇年ほどもたった一人で生き続けて来たのですから。

　さて、ではそろそろ語って頂きたいと思います。

　その三〇〇〇年が如何にして始まったのか。
　どの様な生活を送らねばならなかったのか。
　そしてその状況を生み出した現象の正体とは。
　バグとは一体何なのか。

　異世界とはこうして簡単に歪んでしまうのかと、きっと理解出来ると思います。

　それではリクトさん、よろしくお願い致します。