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第四話

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 僕はリクト、転生前は中学三年生だった。
 でも皆が思う様な子供じゃない。
 成績は優秀、スポーツも完璧万能さ。
 飛び級進学も勧められたし、もう大リーグからオファーまで来てた。
 もう美少女ヒロインみたいな可愛い彼女だっていたしね。

 なんでこんな凄いのかって?
 さぁね、僕がそういう風に出来たってだけさ。

 そんな僕に突然、某国から暗殺者が送り込まれた。
 だから仕方なく戦ったんだ。
 もちろん戦いは僕の圧勝。
 一家に代々伝わる伝説の剣【エクスファリオン】の力でね。
 
 なんでこんな物があるのかって?
 さぁね、僕が気付いたら持っていただけさ。

 他にも色々な逸話があるよ。
 でもそれを語っていたら、多分枠が足りないから割愛するね。

 するとある時、僕の頭上が光ってね。
 そしてそのまま意識を失ってしまった。
 これが全ての始まりだったんだ。



 目を覚ました時、僕は白い雲の中みたいな空間にいた。
 それと煌びやかな服装をしたおじさんが目の前に立っていてさ。

「リクトよ、お前に頼みたい事があってここに呼んだ。しかしその結果、お前を死なさなければならなかった。許して欲しい」

 こんな事を言うもので、とても悩んだよ。
 でもすぐ冷静になって、ちゃんと応えたんだ。
 「わかった。何をすればいいのかな」って。

 なんでこんな切り替え早いのかって?
 さぁね、僕がなんとなく把握してしまうだけさ。

「これから送る異世界は今、魔王の手によって危機に瀕している。なので救って欲しい。これは特別なお前にしか出来ぬ事なのだ」

 おじさんは困っている様だった。
 だから僕は潔く了承したんだ。
 死んだのは残念だけど、悲しんでも仕方ないしね。

 それで僕は異世界に飛んだ。

 飛ばされたのはある王国の王宮だった。
 そこには王冠を被った王様と、優雅で美しいお姫様がいて。
 それで僕を涙目に歓迎してくれたんだ。

「おお、神の使いよ、よく来てくれた。どうか世界を救ってくれ……!!」

 だから僕は直ぐに了承したよ。
 何となく、この世界の人達が可哀想だなって思ったから。
 それに【エクスファリオン】はきっとこれの為に存在するんだって思ったから。

 なんで伝説の剣が一緒なんだって?
 さぁね、僕が少し力を入れただけで現れたからさ。

「おお!! ありがとう伝説の勇者よ!! 外は危険な魔物で一杯で、魔王の城までの道程は遠い。だから道中で修行しつつ、力強い仲間を得て充分に備えてから挑むのだぞ。武器や防具を装備する事を忘れるなよ」

「勇者様、もし無事に帰られましたら、是非ともわたくしめと……! なのでどうかご無事で……!」

 こんな事を言われて応援してくれた。
 少し古臭いなーなんて思ったけれど。
 これも彼等の習わしなんだろうって笑って返したよ。

 まぁ僕には幸い、もう最強武器がある。
 だからきっとこの旅も最初はきっと楽勝なんだってね。

 そう思っていたんだ。

「それでは勇者よ、世界を救う英雄への道へ旅立つのじゃあ!!」

 王様がそう声を上げた時だった。
 突然、違和感が襲い掛かったんだ。

 「なんだろう?」そう思った矢先、すぐその違和感の元に気が付いたよ。



 王様達がね、動かなくなっていたんだ。



 応援した姿のまま、ピタっとね。
 まるで石になったみたいだった。
 話し掛けても、指で突いても動かない。
 僕がずらした分だけは動くんだけどね。

 それで察したんだ。
 これはもしかして魔王の仕業なんじゃないかって。
 だから急いで魔王の所に向かう事にしたんだけど。

 でも僕が王国から足を踏み出したら、そこはもう魔王城の最奥だったんだ。

 何が起きたのか、これは僕にもさっぱりわからなかったよ。
 今草原に足を踏み出したのに、何故か今は建物の中で。
 それもおどろおどろしい雰囲気が、いつの間にか包んでいたんだから。

 それでもって目の前に魔王もいたよ。
 ただその魔王もピッタリと固まってたけどね。

 この現象はどうやら魔王の仕業じゃないらしい。
 だって剣で斬っても切れるだけで、何も変わらなかったから。

 じゃあ一体何なのか。
 さすがにこれは僕も何が何だか。
 でも仕方ないので、一旦国に帰る事にしたよ。
 まぁ一歩で帰れるんだけど。

 空を見たら、雲も動いていない。
 太陽もずっと真上から照らしたままさ。
 街の人々もずっと動かないし、噴水の水も宙に浮いたままだし。
 気付くと虫や埃が服に一杯引っ掛かっていたよ。
 全部道中で引っ掛けたんだろうね。 

 つまり、僕と僕が動かしたモノ以外はもう全部動かないんだ。
 風とか空気とかも何もかも。

 そんな世界で、僕は一人過ごす事にした。
 もうそれしか出来なかったから。

 ずっと明るいので、眠くなったら暗い城の地下で寝たよ。
 その後起きたら、何でかお腹が全く空かないんだ。
 だけど気分で、厨房のパンをちょっとだけもらった。

 相変わらず皆は動かない。
 国王様もお姫様も最初のままさ。
 魔王に挨拶しにいったけど、意味は無かったかな。
 首がもう体から離れてるし。浮いてるけど。

 だから空を眺めて、また寝た。

 それから一週間が経った。
 腕時計が教えてくれるから時間はわかったよ。
 身に付けてたものは動けるみたい。

 でも、これだけ経つと本当に退屈だ。
 暇潰しの道具は何も無いし。
 本らしい物は一杯あったけど、中身は全部まっしろなんだ。
 なので遊ぶ相手はと言えば、住民達しかいない。

 まず、住民達を動かす遊びを始めた。
 最初は中央広場に全員集めようって。
 何人いるかを数えたかったのもあったから。
 もちろん王様達も魔王も一緒さ。
 うっかり噴水池に兵士を落としてしまったけど、きっと大丈夫だろう。

 探して集めたら意外に人数は少なかった。
 大体三〇人くらいかな。

 それから一年くらい住人で遊んだよ。
 全員のポーズを変えたり、リアル人間おままごとみたいな事したり。
 でもそれくらいで虚しくなって、飽きたんだ。

 そこでふと気付いた。
 ここまでやっても住人は動かない。
 ならもう好き勝手にやってもいいんじゃないかなって。

 ここからはもう欲の赴くままに動いたんだ。
 お姫様の身体に悪戯したり、あるいは抱き枕にしたり。
 全員の服を脱がして、噴水に並べて飾ったり。
 更には全員を積み重ねてどこまで高くなるか、とか試したなぁ。

 でも虚しいままだった。
 何をしても満たされない。

 暇、だったんだ。



 それから更に一年が経った。
 水を空に浮かべる遊びをした。

 それから三年が経った。
 浮いた物を降ろす遊びをした。

 それから五年が経った。
 住人が内臓も無い只の肉塊だった事を知った。

 それから一〇年が経った。
 世界が直径三○○メートルしか無い事を知った。

 それから五〇年が経った。
 建物を全部崩し終えた。魔王城の先は進めない宇宙だった。

 それから一〇〇年が経った。
 自分だけの建物を建てた。住人も混ぜ込んで。

 それから五〇〇年が経った。
 全部土に埋めた。全てを細かく刻んで。



 でもここで転機が訪れたんだ。
 僕に訪れた現象が何であるか、それを教える出来事が起きたのさ。

『この世界は未完結のまま何ヶ月もの間、更新されていません。今後、続かない可能性が極めて高いです。予めご了承下さい』

 空にね、こんな文字がデカデカとか浮かんでいたんだ。
 何で浮かんでいたかはわからないけど、確かに見えた。

 けどこれで僕は理解したよ。
 この世界はもう二度と動かないんだってね。
 それでも何故僕だけが動けるのかはよくわからなかったけど。

 つまり、僕は永遠とこのままなのさ。
 この誰も動かない世界で、変わらない世界で生き続ける。

 嫌だ。
 そんなの絶対に嫌だ。

 だから僕は自殺しようとした。
 剣を胸に刺して死のうとしたんだ。

 けれど剣の方が折れた。
 どうやら剣も僕より弱かったらしい。
 「ふざけるな!」僕はこう怒鳴って剣柄を地面に叩きつけた。
 金属音が鳴ったのは一回だけだったけど。

 それに、僕自身で自殺する事は出来なかった。
 目をくり貫こうとした。
 舌を引き抜こうとした。
 心臓を抉り出そうとした。
 でも全部ダメだったんだ。
 そこから二〇〇年掛けても、毛一本抜く事が出来なかったのさ。



 それから二〇〇〇年と一三〇年が経った。



 もう身体を動かすのも、億劫になってた。
 声も出ない。思考も働かない。
 ずっと座ったまま、じっと彼方を見つめたまま。
 過去に起きた事を脳裏に過らせて、ただぼーっと。

 そんな過去の記憶も忘れそうになってた時に、彼女はやってきた。

「まさか、本当にこんな世界に一人動ける人間がいるなんて……!?」

 パプリエルさんだった。
 彼女が僕の所にやってきたんだ。

「大丈夫、慌てないでください。心で会話が出来ますから」

 救いの女神、そう思えた。
 この地獄からやっと解放されるんだって。

 それで僕は今、ここにいる。
 ほんの少しだけの事だけど、僕は間違い無く救われたんだ。

 それだけでもう大きな希望が生まれるくらいに。
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