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第四話
4-3
しおりを挟むリクトさん、お疲れ様です。
しっかり語れましたね。
「うん。語っていたら、だいぶ話し方を思い出してきた」
誰かが聴いてくれる、そんな環境こそが最もリハビリになったのかもしれませんね。
今の語りからは本当に辛さが滲み出て来るようでしたよ。
ちなみに今読まれた原稿はリクトさん自身の思考を文字に仕上げたものです。
何を語りたいのか、何を伝えたいのかを形にする事は我々でも出来ますので。
なので間違い無く本心と言い切れるでしょう。
それ故に震えずにはいられません。
本来ならとても素晴らしい主人公になるはずだったのに。
にも拘らずこんな目に遭ってしまうなんて。
さて、リクトさんを襲った現象ですが、何であるかはもうお気付きでしょう。
そう、あの【エターナル伝説化現象】です。
世界に突如として襲い掛かり、一切の進みを停めてしまう、恐るべき災厄。
ですが本来、この現象は世界の進行――いわゆるイベント等を停止させるもの。
なので世界自体は平凡に動き続けるはずなのです。
ですが、今回の事案はどうやらそれだけに済まされない様でして。
「パプリエルさん、そこは少し、僕からも語りたい」
わかりました。どうぞ。
「僕はあの世界で、三〇〇〇年を生き続けました。でもこの人生はどうやら、あと七〇〇〇年は続くらしいです。それは、創造神が世界を完全には捨てきっていないから」
えぇ。創世界調査班が調べた所、恐るべき事実が発覚したのです。
「何でも、僕はあの転生した日から一〇〇〇〇年後に再び現れ、また世界を救う事になるらしいです。創造神がそういう世界を次に考えたんだって。それも、今の世界を考えきらないままに。それでやっとわかりました。世界の人々がどうして動かないのかって」
何故世界が止まったのか、住人が肉の塊なのか。
不思議に思ったリスナー様が多いのではないでしょうか。
でもそれは決して偶然でも何でもありません。
全て、必然だったのです。
「創造神は人間の事を何も知らなかったそうです。ただの動く肉の塊くらいにしか思ってなかったんだって。それに、僕が活躍する事だけを考えて、人々がなんで動いているのかも考えていない。全部、興味が無いから。だから僕が進む所以外は何も出来ていなかった。場面場面の部分しか、創られていなかったんです。それが、直径三〇〇メートル世界の正体なんです」
創世界としても非常に心苦しい限りです。
ここまで世界を愛せない神がいるのかと。
世界は神々が活力を得る為に創造された箱庭と言えるでしょう。
なので世界を創る者は皆、意気揚々と創り上げてくれるもの。
たとえ足りない所があろうと、別の形で拘っていたり。
あるいは主人公と呼ばれる存在で大いに湧かしてくれたり。
しかし今回の世界はどれでも無かったのです。
まるで最初から世界を創る事に興味が無かったかの如く。
確かに、創造力は神々によって異なります。
これくらいの単純な世界は幾らでもあるでしょう。
ですが、そこから悩み、塗り替え、造り変えて。
更に付け加え、増やし、広げていく。
そうして成功した世界がたくさん生まれているのです。
その仕組みはリクトさんのいる世界でさえ例外では無かったはずなんです。
「けど、神が放り投げてしまった」
そう。たったそれだけなんです。
たったそれだけで世界は停止してしまった。
それどころかまた別の世界を考え始めています。
前の世界の事など考えていないのに、その続きを描こうとしているのです。
「それで僕が即座に呼ばれるならいいんだけどね。でもそうもいかない」
神は恐らく、「リクトなら一万年は生きられる」と勝手に思い込んでるのでしょう。
ですがその思い込みが今、リクトさんを地獄に括りつけてしまっている。
「本当に迷惑な話だよ。だって僕はそこまで強くなんて無いんだ。僕は、僕は普通でいたい……!! 可愛い恋人も、特別な力も要らない!! 主人公になんてなりたくないッ!! だからあッ!! もうッ! 許してくれよおッ!! 頼むよ、ほんと……もう僕を縛らないでくれえッ!! 新しい世界の主人公は、別の奴にやらせてくれよおおおッ!!」
……辛いですね。
あと七〇〇〇年も続けなければならないのですから。
創世界行政府も動いてはいますが、リクトさんを救出する事は出来ません。
前回も述べた通り、世界への干渉は固く禁じられていますから。
精々こうして少しだけお呼びして語ってもらうくらいしか出来ないのです。
後はあの世界の創造神に伝えるくらいでしょうか。
けれどこの言葉が届くかどうかはわかりません。
基本的にメッセージを受け取るかどうかは神のみぞ知る、ですから。
とても歯がゆいですね。
確かに【エターナル伝説化現象】は怖いです。
ですがある意味で言えば一つの完結の形でもあるのでしょう。
とてもありふれていますから。
ただその要因とも言える新世界創造は時に、こうして旧世界の住人にまで影響が及ぶ事もあり得ます。
しかもその度合いによっては、リクトさんの様な極限の不幸にまで発展してしまう。
そしてきっとこの様な不幸は他にもたくさんあるに違いありません。
我々の知らない所でも、今なお産まれ続けているのでしょう。
だからこそ、神々はそれを踏まえて世界を創って頂きたい所ですね。
もちろん全てを、とは言いませんが。
人々が生活を営んでいる、それだけを示せるくらいの創り込みはあっても良いのだと思います。
それだけで世界は一層彩りを濃く出来るのですから。
さて、そろそろお時間がやってきた様です。
リクトさん、ありがとうございました。そして救い出せず申し訳ございません。
「いえ、こうして吐き出せたから、もう少し頑張れそうです。でもまた逢いに来て欲しいな。たとえ七〇〇〇年後にその記憶を失うのだとしても」
えぇ。常にとは言えませんが、可能な限り早く訪れますね。
たとえ一万年の契機にその記憶がリセットされても、貴方の心を救う為に。
新しい世界に移った時、恐らく今の記憶は全て消えるでしょう。
新世界とはそういうものですから。
ですがそこにいたるまでのリクトさんを我々は救いたい。
だからこそ少しでも手を差し伸べたい、そう願わずにはいられません。
【エターナル伝説化現象】、それは創造の停滞。
でも貴方の世界は本当にそれだけで済んでいるのでしょうか……?
もし思い付いたら、手を差し伸べてあげてください。
半端でも良いので、そっと終わらせてあげてください。
それが、貴方の愛していた世界への最高なごほうびとなるでしょうから。
応援ありがとうございます!
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