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第六話

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 皆さまこんにちは、司会天使のパプリエルです。

 ここまでに異世界転行の失敗談を種類別に一通りご紹介させて頂きました。
 まだほんの一例でしかありませんが、それでもきっと皆様には良い刺激となったのではないのでしょうか。

 そこで今回は、ほんの少しだけ趣向を変えまして。
 更に刺激を一つ加えた、異質な失敗談を紹介したいと思います。

 この創世界には本当に多くの世界が誕生してきました。
 それこそ、皆さんが知るよりもずっと沢山に。
 そして今なお練り上げ続けられ、常々世に送り出されている事でしょう。

 となればきっと、その中から大成功を収めてメジャーとなる世界が現れるに違いありません。

 そんな世界には恐らく多種多様な種族も存在していると思います。
 人間を始め、獣人やエルフ、ドワーフなどなど。
 他にもゴブリンやオーク、サハギンやハーピーと言った非人種も。
 動物を基にした魔物と呼ばれる生物もそれに当たるでしょうね。

 それらの種族が世界を織り成し、色鮮やかに賑わいを与えてくれます。
 そうする事で世界がより強く輝き、多くの神々が惹かれるくらいに楽しいイベントで溢れ返る事となるのです。
 たとえそれが喜劇だろうと悲劇だろうと関係無く。

 その多様な物語性こそがこの上ない活力エネルギーとなるのですから。

 だからこそ神々は世界で常々新しい種族を生み、育み、送り出してきました。
 そうして新鮮な活力と驚きを多くに与え、まるで輪廻転生の如くずっと培ってきたのでしょう。
 次なる生命を生み出す為の知恵を。

 ですが、知っていますか?
 今、それらの種族数が世界総数よりもずっと下回っているという事実を。

 実はこれ、かつてない異常事態なのだとか。
 何せ昔は世界創造する度に種族数が一〇、二〇と増えていたのですが。
 今では世界が一〇増えても種族が一つも増えない事がザラなのだそうです。

 そう、かつての世界はただ創られるだけで種族が沢山誕生しました。
 神々がそれだけ新しい物に飢えていたからでしょう。

 それも楽しみの為だけではありません。
 時には戒めの為に、時には厄払いの為に。
 多くの目的を経て多くの種族が生まれ、人間達を、文化を常日頃律していたものです。
 しかし次第に種族の誕生率は伸び悩んでいきました。何故でしょう?

 それは単に、既存の種族を扱う世界が増えて来たからです。

 先ほど挙げた種族はいずれも、つい最近生まれた者達ではありません。
 遥か昔に創られた世界より渡ってきた生物達です。
 そういった種族の引用が今では増え続け、新しい種族が生まれなくなってしまった。
 それが種族と世界の比率逆転へと繋がってしまったのです。

 すなわち、今の各世界にいる種族のほとんどは【流用生物】という訳ですね。
 悪い言い方をしてしまえば【パックーリ】という事になります。
 もちろんこの行為自体が悪い事という訳ではありませんが。

 確かに、世界によって形や性質、生態や性格は大きく違うかもしれません。
 それでオリジナルを主張する神もいらっしゃいました。
 「うちのエルフは肉も喰う」なんて。

 でも同じ名前を使っている以上、その本質は決して変わる事が無いのです。

 それというのも彼等、実は外面が異なるだけで中身は同一人物だったりします。
 そう、作品を経ているけれど、さりげなく中の人が同じなのです。
 中の人などいない、という理屈はこの際通用しません。

 彼等は言わば役者キャスト
 世界を盛り上げる為の登場人物です。

 役割を果たす為、設定を付け替えた存在になりきっているだけに過ぎません。
 〝流用〟とはすなわちそういう事なのですから。
 前回紹介したELFやOGAなんかも同様ですね。

 なので舞台裏バックヤードは実に平和なものですよ。
 表舞台では血みどろの殺し合いとかしてますけど。
 いわゆる【エヌジィスィーン】などはそんな舞台裏で撮られた訳なんですねー。

 という事で、今回はそんな世界の裏側に迫りたいと思います。

 なお、今回のゲストはなんと、それら種族の始祖世界から来られた方です!
 ただし当人の都合上、モザイク処理と副音声マシマシでお送りさせて頂きますね。

 それではご紹介致します。
 某神話世界から来てくれましたエルフのCさんです。

「ウィッスゥ。皆のアイドル、エルフ様ですよっとぉ。あ、俺自身そこまでメジャーな役割持って無いんでよろしくぅ」

 はい。本日はお越し頂き、誠にありがとうございます。
 それでもレジェンドですからね、さすがにこれはワタクシも少し緊張してしまいます。

「へへ、そんな浮足立ってると悪戯しちゃうぞぉ? ヒヒッ」

 今はどうかお許しを。(笑)

 さて、もう皆さんはお気付きでしょうか。
 本日お呼びした方がれっきとしたエルフであるという事に。

 でももしかしたら、ご覧の方の中には「エルフはこんな事言わない」とか思っている方もいるかもしれませんね。
 彼等は高潔で、聡明で、誇り高き者達なのだと。

 いいえ、それは違います。
 それは皆様が彼等エルフの魅了術チャームに掛かっているだけに過ぎません。

 今こうして私達の前で見せたものこそが正真正銘のエルフの姿なのですから。

 それというのも、本来エルフとはとても悪戯好きな生物でした。
 立ち位置としては森の妖精であり、人を惑わす存在であったと言います。
 なので、かつての人々はきっとエルフを畏れ、戒律としたのかもしれません。
 「夜の森に入ればエルフに悪戯されてしまうよ」などと。

 そんな言葉が別の世界へと紡がれ、広まったのでしょうね。
 だからか彼等が存在する神話は一つや二つでは無いのだとか。

「あん時ゃなかなか居心地良かったね。ほら、一つ足を掬えばどいつもこいつもビビりやがる。そんでもって勝手に怖がって勝手に広まってくれるんだからよ。楽しくて堪らなかったなぁ」

 ええ、そういう必要悪こそ当時には必須だったんです。

 人では無い者を悪人とし、自戒を促して文明を創る。
 これは世界の根幹を創る為にとても重要な手段なのですから。

 現代人も似た事をよく行っていますね。
 悪人として晒し、敵と思わせる事で怒りのやり場を集めるという手法を。
 【エンジョーショホー】なんていう名で呼ばれて。

 当時のエルフもそんな扱いだったのでしょう。
 媒体が紙か語り部の詩だったというだけで違いはありません。

 しかし今、その状況に大きな変化が訪れています。
 それも今の世界創世ラッシュが原因となって。

「いやねぇほら、ウチらもう完結した世界だからさ、皆穏やかに暮らしてた訳ヨ。でもね、なんか一昔前からやたらと仲間達がドンドコ消えていくじゃない。エルフだけじゃないよ、ドワーフとかオークとか見境なくね。一体何があったのかって最初はもう驚いたもんさ。ケドそこで神様に訊いてみたらどうだい。皆、別の世界に旅立ったって言うじゃない」

 そうなんです。
 彼等は嫌われるのではなく、受け入れられ始めたんです。

 確かにその役割こそ主人公の様に輝かしく無いかもしれません。
 あるいは敵役だったり、モブだったりと扱いはぞんざいでした。
 けれど、それでいて愛されてしまった。

 どこの世界でも「お前が好きだ、お前が欲しい!! エルーフッ!!」と言われる様になってしまったんですね。

「そういう事さね。昔はあんなに忌み嫌われてたってぇのに、今となっちゃ大人気もいいとこ。どいつもこいつも引っ張りダコで幾ら増やしても間に合いやしない。ただそこで俺達は考えたね。こりゃ俺達の時代が来たんだって。じゃあもうやるっきゃないだろう? だから始めたのさ、博打って奴をね」

 えぇ、それでエルフさん達は長い年月を経て再び活動を始めたんです。
 流用種族達による大規模ビジネスを。

 ……なのですが。

 どうやら世の中、早々上手く行く話は無い様で。
 いや、成功しているには成功しているのですが~……なんというかまぁ、変な方向に及んでしまった様なのです。

 それでは早速、Cさんにその事を語って頂きましょうか。

 さて、果たしてレジェンド達の目論見とは。
 そしてその結末とは如何に。
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