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第六話

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 おう、んじゃざっくり語ってくぜ。

 俺達が始めた博打――そりゃいわゆる種族産業ってやつだ。
 仲間を増やして他の世界に送って活躍させる。
 そんで拡大するネームバリューから活力を得る。
 末には俺達の世界をもう一度復権するっていう一大プロジェクトよ。

 ただ何たって数が足りねぇ。
 一つお天道さんを拝めば一〇、二〇って世界が増えてるもんでな。
 しかも漏れなくどの世界も俺達を必要としてやがる。キリがねぇくらいによ。
 気付いたらそうするしかねぇくらいに需要が増えやがった。

 だから増やすしかねぇってなったのよ。

 幸い俺達ゃ幾らでも数が増やせる。
 もう役割を終えて好き放題に動けるからな。
 もうヤりたい放題だったぜ。ポポポポーンってな。

 お陰で順調だったね。
 生まれた仲間はどんどんと新しい世界に旅立っていった。
 そこで更に需要が拡大して、増産に次ぐ増産に苛まれたもんよ。
 もちろん嬉しい悲鳴でな。

 このままなら、いずれ天下を取る日が来るだろうって夢見れるくらいに。

 実際、俺の同族の人気は凄まじかったぜ。
 異世界と言やぁエルフだってな。

 そんな噂を聞いた時はもう大喜びしたね。
 毎日毎日、仕事終わりにゃ高級酒浸りで笑いまくったもんよぉ。
 一日百人送り出せばそれだけ世界が潤うからな。
 それくらい好景気だったんだ。



 だが、俺達の天下ピークはここまでだった。



 ある時気付いた。売れ行きが格段と減ってた事に。
 しかも決まってエルフやオークなどが。

 もちろん売れ続けている奴もいたさ。
 ドワーフなんかはもう有頂天で常々煽ってきたもんでな。
 その度に衝突したっけかなぁ。

 だから負けてらんねぇってPR活動にも本腰をいれたもんよ。

 けど、それでも変わらなかった。
 いや、むしろ更に減衰してやがったんだ。

 だから、売れると見込んで生産してた同族が余り過ぎてな。
 仕方ねぇから他種族生産拠点の手伝いに回したりとかで何とかやりくりして凌いだよ。
 んなもんで現場じゃ「またエルフか。お前等いい加減ごく潰しだって気付けよ」なんて罵倒される事もよくあったもんだ。

 お陰でエルフはとうとう売り上げが最底辺。
 オークなんかも次いで酷いありさまで。
 トップクラスのドワーフに足蹴にされたりでやられたい放題だったわな。

 ま、こん時はドワーフもなんか伸び悩んでた訳だけども。

 そこで俺達はビジネスを間違えたんじゃねぇかって勘繰ってね。
 いっちょビシッとスーツを着込んで、一旦他の世界に出張に行ったんだわ。
 ビジネスリサーチの為にな。

 それというのも、こんな噂があったんだ。
 「エルフやオークの人気は未だ衰え知れず、破竹の勢いで現在も記録更新中」なんて話がさ。
 だから何かがおかしいって思って。

 それでもって、その出張先で俺達はやっと気付く事になったんだ。

 ビジネスを間違えたんじゃない。
 既に時代が切り換わっていたんだってね。

 俺達が出張先で見たエルフは全くの別人だった。
 背が高く、金髪で面長で色白の、凛々しく麗しい美形なヤツだったんだ。
 しかも綺麗な青い軽鎧まで着込み、弓まで扱い、あろう事か主人公の男とベタベタ寄り添いやがって!!

 なんでエルフの癖にヒロインなってんだお前は!!

 対する俺達はと言えばちまっこくて薄汚くて、厭らしそうなナリだ。
 とてもじゃないが中身が同じとはどうにも思えねぇ。

 だから尋ねたんだ。
 「お前等は本当にエルフなのか?」ってな。

「えぇ、我々はエルフですよ。ただ少しイメチェンしましたけど。あ、もちろん整形世界は指○○ピ―――語です。オススメですよ、貴方も如何?」

 そしてその答えに、俺達はただただ唖然とするしかなかった。

 そう、神々が求めていたのは神話のエルフじゃなかったんだ。
 新しい世界で改造され尽くした全く別のエルフだったんだよ。

 だから売れない。
 どの世界ももう悪戯好きのエルフを欲していないから。

 美形で人間に姿が似ていて、長寿だったりと神秘性が高くて。
 それでいて賢い、魔法とかも使えちゃう、時に妖しいけどやっぱり凄い。
 そんなエルフが人気だったんだってな。

 しかも今話したエルフが神々の中で超絶大人気となって。
 今はその世界から大量に美形エルフを輸出しているっていうじゃねぇか!!

 チキショウメェ!!
 エルフというネームバリューだけじゃなく、俺達の産業までパクりやがった!!
 こいつぁ許せねぇーーー!!

 ――って咆えてたんだけどよ、この時の俺達にはもうどうしようもなかったんだ。

 美形エルフ、もう扱い易いのなんの。
 俺もその活躍場面を見たよ。完敗だよ。
 何回もムスコのお世話になっちゃったし。
 これは俺にも真似出来ねぇわって。

 汎用性高過ぎだろ。
 何なんだよ、学生になったり宇宙人になったりヤりたい放題じゃねぇか。
 今では純粋な性的対象としても量産されてるみたいだしな。
 何なの? 俺達よりもずっと自由度高過ぎだろ??? って。

 仕方なく、俺達は帰って事実を語ったよ。
 そこでようやく辻褄が合った。

 オークの奴等もどうやら同じだったらしい。

 オークっていやぁ海の魔物じゃねぇか。
 けど今は豚がベースの魔物になってるそうだぜ。
 確かに海豚オルカ繋がりだけどよ、この変化おかしくね?

 ドワーフが減り始めたのもエルフと同じ理由だ。
 似た容姿だがちょっと変わり始めた。

 女が可愛くなりやがったんだ。んで男は変わらねぇ。
 だから男だけが売れてたって訳さ。
 女は別の世界から輸出されてるらしいぜ。
 お陰で今ではドワーフ工場が厳つい女で溢れてる。
 他の種族も大概似たような感じさ。

 やはり時代はエロなのか?

 いや、これはきっと俺達のビジネススタイルの敗北なんだろう。
 もう少しニーズにコミットした成果をピックアップして次にフィーチャーしとけばよかったってな。
 産業は同じ事を続けりゃ衰退するしかねぇ。
 だからバブルに浮かれてパッションを忘れた俺達にお似合いの末路だったのだろうよ。
 
 だけどよ、俺達はまだ諦めちゃいねぇ。
 プライドがあるからな。レジェンドとしての矜持って奴がよ。

 これから這い上がって見せるぜ。
 だから見ていて欲しい。そして知って欲しい。
 神話の俺達が如何な者達だったのかって事を。

 そして是非ともオファーしてくれ。
 そうすれば、俺達は全力でアンタ達を支えてみせるからよ。

 それこそ脇役だって、敵役だって。
 ――なんならヒロイン役だってやってみせるってな。



 俺達は、本気だぜ。
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