上 下
23 / 41
第八話

8-1

しおりを挟む


 皆さまこんにちは、司会天使のパプリエルです。
 本日も張り切って失敗談をお送りしようと思います。

 ですが、その前に一つ謝罪を。

 前回、ワタクシの司会スタイルに乱れが生じておりました。
 お見苦しい所をお見せしてしまい、大変申し訳御座いません。
 突然の企画変更に戸惑いを隠せず、ついハメを外してしまった様です。

 これに対し上層部よりお叱りを受けまして。
 これを真摯に受け止め、強く反省する所存です。

 よって、本日より一層気を引き締めていきたいと思います。
 失敗談の恐ろしさ、その片鱗を余す事なく伝える為にも。
 この番組はあくまでもドキュメンタリー。
 決してコント番組ではないのですから。

 ※※※本番組タグには【トークバラエティ】が含まれています※※※
 
 ですが唐突な企画変更の件でもお叱りがあり、ディレクターも反省した様です。
 そのお陰で今回はしっかり必要な情報だけは手元に届く様になりました。
 とはいえゲストお名前と転行の種類くらいですが。
 前回は何も資料無かったですからね、まだマシでしょう。

 そんな訳で早速、本日のゲストを紹介したいと思います。
 異世界転移に巻き込まれました、網野あみの 良一りょういちさんです。

「網野です。今日はお呼び頂きありがとうございます」

 こちらこそ、誘いを受けて頂いて感謝致します。
 さて。網野さんは異世界転移という事ですが、どの様な世界に行かれたのでしょうか?

「簡単に言えばゲームの世界ですね。転移なのか転生なのかはわからないけど、魂だけが転移してそんな世界に行った、みたいな感じの」

 なるほど、ではつまり肉体は現実に残ったままと。

 これはいわゆるVRバーチャル異世界転移というジャンルですね。
 きっと皆様も一度は聞いた事があるのではないでしょうか。

 基本として有名なのはVRMMORPGでしょう。

 仮想世界で自由に遊ぶMMORPG多人数参加型体験ゲーム、そこに意識を移すフルダイブ式の高度VRシステムを加えたものです。
 ただ、そもそもは仮想上でのお話なので異世界転移とは言えません。
 これはあくまでも人間の生み出したゲーム内のお話ですから。

 それがたとえログアウト不可で一〇〇階層到達までデスゲームを強制させられようとも。
 結局は現実の領域に過ぎないのです。
 ここ、勘違いされている方が結構多いんですよね。

 ですが、神々はこのシステムの在り方に目を付けた様で。

 なんとそのVRシステムに仕掛けを組み込みまして。
 使用者の魂だけを本物の異世界に飛ばすという仰天ムーブを始めたのです。
 いやーとても面白い起点を考え付きましたよね。

 けれど転移者としては寝耳に水でしょう。
 何せ当人はゲームだと思い込んでいる訳ですから。

 けれどゲームしているつもりでも気付けばログアウトも出来なくなっていて。
 周りのモブがまるで本物の様に考えたり動いたりしている訳です。
 何度も話し掛けたらしつこいって煽られたり。
 なので不思議と思うに違いありません。

 きっと網野さんも同様だったのでしょう。

「え? あ、いえ。俺は特にそういうのは無かったかな」

 あれ?
 そうなのですか。適応力の高いお方なのですね。

 なおこのVR型異世界転行は一時期を機に物凄く出始めまして。
 【ハッヤーリ】が過ぎてもなお人気は色濃く、今でもなお多くの同型世界が生み出されています。
 今の異世界転行の基礎になる事も少なくはないそうですよ。

 「ステータスオープン!」はまさしくVR世界の系譜と言えるでしょう。
 レベルアップで全快はもはやお約束です。

「昔のゲームはレベル上がっても回復なんてしなかったんだけどなぁ。なんかそういう緊張感が無いのってさっぱりしてますよね」

 そうですね。どちらかと言えばギャグやご都合展開世界向きと言えます。
 シリアスな世界に導入するのは控えるべき要素でしょう。

 それに、傷口がぐにゃりと変質再生していく所は見るに堪えませんし。
 あれ生で見たら多分、普通の方は失神しますよ。謎の光に感謝ですね。

 にしても網野さん、ゲームお詳しいんですか?

「えぇ、昔からゲームはよくやってるクチでしてね。んでもって特に対戦ゲームには目が無くて。お陰様で転移前はeスポーツプロチームに勧誘されるくらいに一線級バリバリでしたわ」

 おぉ、相当にウデマエが良かったのですね。

「あんまり見栄張りたくないですけど、それなりには(笑)。トップランカーと同じクラスで張り合えるくらいかなぁ。ランク落ちとかも気にならないくらいに」

 なるほど。プロチームに勧誘される理由がわかった気がします。
 それと同時に、異世界転移に巻き込まれた理由も。

「うん、割と名前は目立ってましたから。だから目を付けられたんでしょうね。でも個人的にはよして欲しかったかなぁ。実は当時、引退を考えてたんで」

 おや、若そうに見えるのに何でまた。

「やっぱ歳取ると反応とか鈍ってくるんですよね。一応訓練とかはしてるんですけど、それだけじゃどうしても補えない壁があるっていうか。それで勝率も伸び悩んでたりしてたんで。もっとも、個人的にはエンジョイ勢の延長だったから、堅苦しそうってプロの誘いも断りましたし」

 つまり全盛期のまま終わらせたいと。

「そうですね。実績をこれ以上下げるより、維持したまま辞めようとかそんな気分でした。まぁ対戦ゲームが好きだけど、別に拘りは無かったんで。だったら久々にのんびりとRPGでもやろうかな~なんて思ってたりもして。これで動画編集能力とかあれば別方面で活躍できたかもなぁ」

 最近はゲームプレイ能力以外に動画映えも必要らしいですからね。
 なので目立ちたい方は動画作成にも積極的に取り組んでいるのだとか。

 人間の皆さん、とてもバイタリティに富んでいます。

「そこが俺と他との差かな。目立ちたいって訳じゃなかったから。楽しければそれでいいって、それで諦めようって思ってたんですよね」

 ですがそこで異世界転移に巻き込まれたと。

「えぇ、それはまさに寝耳に水でしたね。ある日唐突に、とある新作オンラインゲームのソフトが手元に届いたんですよ。『純粋にゲームを楽しみたい貴方へ』っていう言伝と先行接続アーリーアクセス権付きで。それが全ての始まりでした」

 そんな話を聞くといきなりキナ臭くなってきますねー。

 ですが網野さんはきっとその誘いに乗ってしまったのでしょう。
 そして異世界転移へ。ありがちですが当人が進んで行ってしまうパターンです。
 転行させる手段としてはとても理に適っていますね。

 ただ、これで失敗しなければなお良いのですが。

 さぁそれでは早速語って頂くとしましょう。
 そのゲーム異世界で待っていたのは果たして。

 網野さんの失敗談とは如何に。
しおりを挟む

処理中です...