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第二章

第十五話 歓迎の銃弾

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「あれは……! やった、とうとう皇都が見えたぞ!」

 不時着機で色々と準備を整えた僕達は、再び皇都を目指していた。
 そして今、ようやくその姿をこのカメラに捉える事が出来たんだ。

 まだ遥か先の薄っすらとした建造物が見えるだけだけどね。

 さっきの投棄機体の部品を流用して脚も交換済み。
 ついでにバッテリーも補給したから電池切れはもう無い。
 おまけに即席で作った台車にお土産の投棄機体などを積んで運んでいる。

 そしてここに来るまでに得た情報も合わせれば、もはや大金星間違いなしさ!

 これはもう一瞬で一等騎兵になる未来しか見えない。
 もしかしたら隊長達ともっと深く関われるかもしれないなぁ、にゅふふ!

 そんな妄想を膨らませながら台車を引いて進む。
 そろそろ周辺警護の兵士と鉢合わせしてもおかしくないと思いつつ。

 すると思った通り、さっそく景色の向こうから誰かがやってきた。
 三人と二機のヴァルフェル……あの姿は間違いない、皇国軍兵だ。

「止まれ、そこのヴァルフェルゥ!」
「貴様何者だ! 国民IDを言えッ!」

 ただ、いきなり銃口を向けて来て物騒極まりない。
 フェクターさんでさえいきなり向けるなんてなかったっていうのに。

 やっぱり末端兵には教育が行き届いていないのだろうか。
 あるいは僕をテロリストと間違えたかな?

 もしかして祝賀会に参加できなくてイライラが隠せないとか。
 ま、それなら仕方ないよね、周辺警備は抜けないし。

 なんにせよ僕に疚しい事なんて無い。
 なのでさっくりと身分を明かす事にする。

「自分は国民識別No.0029843915、皇国軍所属、星衛騎士団団員レコ=ミルーイ二等騎兵です。最終作戦後、自壊プログラムのエラーで自己停止不能となり、自力による帰還を決めました。それと要救助者を一名保護、また道中で最重要情報を得たので、今すぐ上官との面談を希望いたします」

 それも、ここに来るまでにまとめておいた報告文でね。

 時間があったおかげでスマートな一文に出来上がった。
 簡素な説明と重要な要件を噛ませたから緊急性も伝わるはずさ。
 僕としても、とても出来栄えのいい文章だと思っている。

 さぁそれでは兵士の諸君、道を開けてもらおうか!

「レコ……ミルーイ、だとッ!?」
「貴様、まさかあのッ!」
「――え?」

 でもなぜか道を開ける所か、銃で狙いを付け始めていて。
 ヴァルフェル二機も僕をロックオンしたようで、システム内に警告が走りまくる。

 なんで? どういう事?
 もしかして今の文章がわかりにくかった!?
 おかしいな、誰でもわかるように作り上げたのに!

「ま、待ってください。なんで武器を向けるんですか!? 自壊しなかったのは問題だと思いますけど、その代わり――」
「黙れこの祖国の裏切り者めが!」
「――ッ!?」

 けどどうやら文章が問題じゃなかったようだ。
 それどころか、よくわからない事になっている。

 裏切り者? いったい何の話なんだ?

「皇帝陛下暗殺の罪は重い! 貴様の罪状はもはや死罪すら生ぬるいわッ!」
「え……」

 しかも兵の一人が意味のわからない事を口走っていた。

 皇帝陛下……暗殺?
 なぜ? どうして?
 親愛なる陛下を、僕が……殺した?

 あ、ありえない。
 な、何かの間違いだ。

 だって、皇帝陛下はもう一人の僕の目標なんだ。
 あの方がいたから世界はまとまり、獣魔の脅威を払いのけられたんだぞ!?

 以前の皇帝は各国に領土争いを持ち込んだりとやりたい放題だった。
 そのせいで各国との睨み合いが続き、戦争さえ起きていたんだって。

 けれど五年前に現皇帝陛下が即位し、世界に旋風を巻き起こした。
 今までの罪の精算にと、ヴァルフェル開発と無償技術供与を決めたんだ。
 そのおかげで今があり、誰もが憧れる優帝となったのさ!

 そんな方を、祖国を愛する僕が殺す訳なんかないじゃないか!

「そんなのでっちあげだ! アールデュー隊長なら――」
「貴様の仲間のアールデュー=ヴェリオは現在、皇帝陛下暗殺の共謀者として投獄中だ! 策を弄しても無駄だぞ!」
「なんだって!?」

 それにアールデュー隊長まで共犯だって!?
 それこそ絶対にありえないだろおッ!

 だって隊長と皇帝陛下は親友同士なんだぞ!!!

 いったい何が起きているんだ。
 なんでこんな事になっているんだ。
 もう意味がわからないよ……!

「逃げようとしても無駄だ。貴様に生きる資格も理由も無い。既にお前の親族も国家反逆罪の連帯責任で処刑済みだからな」
「え……じゃあ、僕本体のお嫁さんは……」
「今頃、中央広場で家族と共に首上だけが晒されている。当然の末路だな!」
「嘘だ、そんなの嘘だ……」

 もう理解が及ばなくて、脱力するしかなかった。
 台車の取っ手をも落として、項垂れそうになって。

 けどそれでも諦めきれなかったんだ。
 これは絶対に間違いなんだと。
 ありえない事ばかりで、何かがおかしいのだと訴えたくて。

 それで気付けば、懇願する様に両掌を晒しつつ一歩を踏み出していて。

 そんな無防備な僕を前に、兵士達は更に強硬な姿勢を見せつける。
 「動くな! 止まれ!」なんて叫びながら。

「じゃあ僕は、僕自身はどうなったんですかッ!?」

 無抵抗を決めた相手に銃を突きつけるのは違法だ。
 けど彼等は僕を犯罪者と見て敵意を止めるつもりは無い。

 そして、僕に最後通告を与える事さえも辞さなかったんだ。



「貴様本体は陛下暗殺後に自決した! この痴れ者め、恥を知れえッ!!」



 その叫びと共に、銃弾が放たれる。
 何発も、何発も、僕の身体を削り取りながら。

 ヴァルフェルからも火砲が放たれていたよ。
 直後には防ごうと構えた腕を焼き、装甲を融解させていた。

 当然、その一発二発じゃ済みはしない。
 彼等は殺意をもって何度も撃っていたんだ。
 抵抗も叶わない僕を容赦無く、話を聞くまでもなく。

「待って! まっテ! 話ヲ! 聞イて!」
「うるさい、黙れェ!!」
「背中にハ! 子ドもが! いるんデす! 獣魔モ! クる! ハな、しを、聞いて! オ願い、シマスッ!」
「戯言だ、構うな! 撃ち続けろォ!」

 遂には片腕が吹き飛び、膝が折れて体が倒れてしまって。
 それでもなお銃撃は止む事無く。

 コンテナちゃんを理由に止めようとしても無駄だった。
 獣魔の事を伝えたかったのにダメだった。

「ア、ア――アァッ!?」

 そんな無念を抱きながら、とうとう頭部までもが壊されて。
 なお響く銃声の中、僕はまともに動く事さえ叶わなくなった。

 更にその直後、火砲の一発が僕の胸へと突き刺さる。
 装甲の耐火能力が限界を迎えた事によって防ぎきれなかったんだ。

 その拍子に身体が赤熱化し、溶けていく。
 僕の心が身体と共に溶けていく。

「ざまぁみろ! この皇国の敵めが!」
「いい気味だ、反逆者の末路などこんなものさ」
 
 こんな皇国兵の罵倒の中で、無念の中で。
 何一つさえ納得出来ない中で。



 何する事も 叶わず 僕は 壊れて しまった
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