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第二章

第十四話 君は一体何者?

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「もう左脚が限界か。この調子だと歩けなくなるのも時間の問題だな」

 僕はフェクターさん達の村跡地を去った後、夜通し歩き続けた。
 そしてとうとう日は登り、野鳥のさえずりが聴こえる穏やかな朝が訪れていて。

 けれど僕自身はと言えば、とうとう機体の一部に異常が。

 決戦で動き過ぎたのもあるし、その後無理に歩き続けたのも祟ったみたい。
 おかげで遂に左膝のアクチュエーターが煙を吐いて停止してしまったんだ。

 なので仕方なく膝を溶接で固定して歩く事に。
 歩けない事はないけど、コンテナは結構揺れそう。
 そのせいか、しばらく歩いたら背中から「ドンドン!」と音が響いて来た。

 さしずめ「揺れてるぞ、どうにかしろ!」って事なんだろうね。
 何この子、引き籠りエリートなんでしょうか?

 でもどうしようもないのでこのままで行くしかない。
 寝心地は悪いだろうけど許して欲しいと心に思う。

 で、そのまま歩いていたら今度はコンテナの扉が勝手に開いて。
 コンテナちゃんがスッと立ち上がり、こっちを向きながら自部屋の端をてしてしと叩く。

 なのでちょっと足を止めてみたのだけど。

「今度はなんだい?」

 もちろん返事は返ってこない。
 けれど代わりに間も無く「パタタタ……」って小さな音が聴こえて来た。 

 何をしているのかわからないけど、ちょっと待ってあげるとしよう。
 獣魔の気配は無いし、一応はもうすぐ首都防衛圏だから安全だろうし。
 少しは彼女の事もいたわってあげないとね。



 こんな感じで休憩を挟みつつ、更に進み続けて二時間後。
 僕達の進む先に何やら大きな物体が見え始めた。
 地面に転がったまま動かない箱状の物が。

「あれって、もしかして……!?」

 そこで半ば急いで歩み寄ってみる。
 するとやはり思った通り、それはよく見た事がある物で。

 ヴァルフェル用輸送機である。
 それも先の決戦で使っていたものと同じ、皇国仕様の。

「なんでこんな物が停まっているんだ……?」

 そんな物が今、なぜか郊外である平原に不時着している。
 飛行中に落とされたのか、大地を大きく抉った状態で。
 状況は明らかに異常だ。

 なのでまずは機体の状態を調べる事に。

「あれ、これって……」

 それで周囲を探ってみたのだけど。
 そうしたらすぐに異常の原因が見つかった。

 操縦席が貫かれていたんだ。
 それも超高熱の何かで。
 例えばファイアバレットの様な一撃とか。

 その証拠に、操縦席が融解したまま固まっている。
 それも真横から大穴を開けて。

「これだとパイロットは無事どころじゃないな……酷いや」

 獣魔に襲われたのだろうか?
 でも作戦地よりずっと離れているし。
 それに熱榴弾砲を撃つ獣魔なんて聞いた事がない。
 先日の謎の巨大獣魔の件もあるから、一概に有り得ないとは言えないけど。

 あるいはテロリストの可能性もあるな。
 昔から皇都周りで奴等の攻撃が頻発しているんだ。
 噂だと今ではヴァルフェルまで手に入れて暴れているって聞くし。

 ただ、機体を探った様子もない。
 仮にテロリストの仕業だとしても、積み荷が狙いじゃなかったのかな。

 それに皇都が近いから回収班が来そうなものなんだけど。
 皇国も戦勝祝賀会とかで回収どころじゃないのかもしれない。

 ……とはいえこう考えても仕方がないけれど。

 なのでふと思い立ち、今度はカーゴの中を覗いてみる。
 すると――

「……やった! これはやっぱり僕達が使っていた輸送機か!」

 中にはなんと、最新鋭のヴァルフェルが幾つも並んでいた。
 しかもよく見れば、知っているエンブレムがどの機体にも付いているという。

 そう、この輸送機は先の最終決戦からの帰還船だったんだ。

 それで覗き込んでみれば、なんとアールデュー隊長の機体までもが。
 その番号はスリー、という事は三番機小隊の一部が積まれているのだろう。

 それだけじゃない。
 よく見ればツィグ隊やレティネ隊の機体まで積まれている。
 それもすべて五体満足な物ばかり。
 恐らくは無事だった機体を回収して首都に輸送していたんだろうね。
 帰りだから部隊とか関係無く積んでいったんだ。

 ただ、もちろんの事だけど全部魂が抜けている。
 輸送機に積んだ後、自滅プログラムを発動させたようだ。

 けど、僕にとってはむしろ好都合。

 動かないなら、そのパーツを拝借すればいいんだから。
 隊長達が戦闘中にやっていた事と同じ様に。

 なにせ右脚ももう限界に近かったからね。
 まさしく渡りに船だった。

 だからと早速、物色しようと身を乗り出す。
 せっかくだから使えそうな物を選びたいしね。

 どうせなら隊長のパーツを使ってみたいよなぁ!
 ナイツオブライゼス専用エンブレムがすっごくカッコイイし!
 三本の剣を三角錐に見立てたデザインはとても秀逸だって評判なんだから!

 ――なーんてカメラアイを輝かせていたその時だった。

 不意に背中の箱が開き、コンテナちゃんが軽快に飛び出した。
 それでいきなり僕の身体を伝って、シュババピョーンと跳ね飛び降りたんだ。
 まるで体操選手の如く、捻りまで加えた跳躍を見せて。

 しかもそのまま僕よりも先に輸送機内に飛び込んでしまって。

 すごい、ちっちゃいのになんて自由な身のこなしなんだ!
 ……あ、いや、そうじゃなくてぇ!

「こら、君! その中に入ったらダメだよ! 危ないじゃないか!」

 まるで猫みたいな子だ。
 これじゃ捕まえるのも一苦労そうだよ。

 そんな愚痴を脳裏に浮かべつつ、彼女を追って頭部を機内へ突っ込む。
 入り口前の機体へ頭をガツンとぶつけながら。

 痛みは無いけど視界にノイズが走って辛いです。

 それで首のアクチュエーターを気にしつつ内部を覗き込む。
 そうしたら僕の視界に驚くべき様子が飛び込んで来た。

「え、どうして……!?」

 なんとコンテナちゃんが転魂装置を弄っていたんだ。
 それも技術班顔負けのスムーズな操作を行っているという。
 踏み台の上で不安定な姿勢にも拘らず。

 転魂装置は普通、輸送機にも積まれているものだ。
 だから機内にあるのは決して不思議じゃない。
 けど装置自体は少し古く、基地にあるものより少し扱いにくいはず。

 なのに、そんな転魂装置をこうも簡単に操れるだなんて。
 この子はいったい何者なんだ!?

 で、そんな謎の少女が今度は僕に向けて装置のモニターを寄せる。
 画面に描かれた文字の羅列を見せる為にと。

「えっ……これは!? 君はいったい、何をするつもりなんだ……!?」

 その目的はまだわからない。
 具体的な理由などは一切書かれていなかったから。

 けれどこの時、僕は敢えて彼女の示した通りにしてみようと思ったんだ。

 それはきっと僕がフェクターさんに出会えたから。
 そしてコンテナちゃんは、そんな僕の意志を汲んでくれたとハッキリ理解出来たのだから。
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