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第三章

第二十九話 僕は疫病神なのか

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『嘘、一番機がやられたッ!?』
『なんだっていうのよアールデュゥゥゥ!!』

 グノーンに助けられたおかげでレティネ一番機を倒す事ができた。
 彼もまたもう動けなくなってしまったけれど、でもここまでできれば充分だ。

 後はもう、僕だけで何とかしてみせるから。

『なら、これより二番機がメインで動く!』
『了解、三番は奴の背後を撃つ!』
「悪いけど、そう簡単にはやらせない!」
『『なにッ!? 私達の通信チャンネルに割り込んだッ!?』』

 ここまでやりきったからね、もうだいぶ心に余裕ができた。
 コンテナちゃんもしっかりとやる事をやってくれていたみたいだから。

 おかげで今は相手の位置もが手に取るようにわかる!

 どうやらコンテナちゃんはずっと相手の位置を特定しようとしていたらしい。
 おまけに敵の通信チャンネルも見つけたので、今はこうして割り込んでみた。
 少しでも動揺を引き出す為なら、何でもしてみせるさ。

『だが奴はもう近づく手段が無いわ!』
『そうね、それなら――』
『ッ!?』

 そうして時間さえ稼がせてもらえたなら、もう僕は彼女達を逃がさない。
 レティネ一番機から奪った重光波砲で、二番機を撃ち抜いてやったのさ。
 隠れていても関係無い。大地ごと貫いてやったから。

 居場所が特定できている以上、機械的に撃てば外さないからね。

『そんな、二番機まで――いや、それよりもなぜ私達のパーツが換装できるのッ!? 認証IDを切り替えているから無理なはずなのにいッ!?』
「悪いね、僕はその辺りもすべてパスできる手段があるッ!!」

 その大砲は一番機を破壊した直後、右腕と一緒に換装しておいた。
 コンテナちゃんが認証IDをあらかじめ調べておいてくれたおかげでね。
 で、そのまま充填後に撃って破壊したってワケ。

 ただ撃った直後なので、今度はこっちが無防備だ。
 だから先の一番機と同じ様に丘へと身を隠し、放たれた光線を躱す。

 にしても射線がブレブレだ。
 よほど動揺しているんだろうね。
 こうなればナイツオブライゼスの称号も形無しだ。

 そこで僕は投げ捨ててあった精霊機銃を回収。
 更には丘を滑り降りるようにしながら最後の敵へ接近し始める。
 相手も移動してるだろうし、逃げられると厄介だから。

 たくさんの花を舞い散らせてしまって心が痛いけど、今は目を瞑らせてもらう!
 
 相手を見つけたら、精霊機銃での追撃は欠かさない。
 逃げ先を先読みし、回り込む様にして撃つんだ。
 そうすれば丘に隠れる事も叶わないから、大砲が使えなくなる。

 だからか案の定、逃げるのをやめてこっちに向かってきた。
 どうやら白兵戦を挑むつもりらしい。

 相手が持つのは二本のショートナイフ。
 硬質ブレードより短いが、切れ味は変わらない携行武器だ。

 だけどね、近接戦闘なら僕の方がずっと有利なんだよ!

 そこで僕も精霊機銃をまた棄て、硬質ブレードを右手に持ち直す。
 そして先制の切り上げで相手の突撃を止めてやった。

「アァールゥゥゥ!!!」
「僕がアールデューなら、近接が得意だって事くらいわかるでしょッ!」
「けど負けない! 私はあッ!!」

 それでもめげず、二刀による連続突きが僕の胸元へ。
 しかしそれを一歩引く事で躱し、薙ぎ払いで追い返す。

「私はッ! 貴方に愛されたくてえッ!」
「ならどうしてあの人を助けてあげないんですかッ!! 言ってる事が無茶苦茶なんですよ貴女はッ!!」

 すると彼女が僕の剣を避けて回り込み、右手の短剣で斬撃を見舞う。
 けどそれを空かさず左拳で叩き落とし、更には掌を掴んで無理に引き上げた。

 僕の左腕関節が壊れる事さえ厭わず、強引に捻りながら。

「うああッ!?」
「あの人だってェ! 本当は信じてくれる人を待ってくれているはずなのにッ!!」

 その最中、彼女の左短剣が僕の頭部を狙う。
 それを右手のブレードの刃腹で防ぎ、そのまま外側へ滑らせていなす。
 更には斬り降ろし、彼女の左腕を根元から断ち切った。

「なのにそうして歪んで! 裏切ったら逆切れなんて人の考える事ですかッ!」

 そのまた更には彼女の腹部を踏み蹴り、右腕をも強引に引き千切る。
 転がった体が草花をグシャグシャと潰していく中で。

「ううあッ!? そ、そレでも私ハ……」
「でも貴女みたいなヴァルフェルに言ったってやっぱりダメなんですよ。記憶も感情も書き換えられるなら、貴女は貴女そのものじゃないんだから……ッ!」

 そして僕は彼女の胸へ躊躇なく、ブレードを深々と突き刺した。
 もうこれ以上苦しませたくないから。

 それに幾ら話したって何の意味も無い、そう思えてならなかったから。

「貴女達の歪みはいったいどこから来たんですか……僕にはもう、まったく見当もつきませんよ……」

 こんな虚無感しか産まれない戦いなんてしたくはなかった。
 いったいなんでこんな無意味な争いをしなきゃいけないのか。

 僕は――僕達はただ平和に生きたいだけなのに。

 こうして戦いを終えた僕は丘に立ち、壊れた輸送機を眺め見る。
 もうこの世にはいないダンゼルさんを想うばかりに。

 本当に、どうしてこんな事になってしまったんだ……!

 するとそんな時、景色の彼方が何やら動いていて。
 それに気付いた僕は戸惑わずにはいられなかった。

「あれは……メルーシャルワの防衛隊か!?」

 そう、この国が有する治安維持部隊である。
 戦いを嫌う国でも、これくらいの部隊はちゃんと持ち合わせているんだ。

 けど、そんな人達と戦っている余裕はもう無い。
 それに戦いたくも無いし、捕まったらそれもそれで面倒だし。

 だから僕はそっと踵を返す。
 ただし、まずは功労者であるグノーンに向けて。
 それで歩み寄ってみたのだけど。

「ぐ、ぐのー……ん」
「ごめんなグノーン。だけど、おかげでダンゼルさんの仇はとれたよ。頑張ってくれてありがとう……!」

 もうグノーンは動けそうにない。
 それにきっとこのまま生きていても苦しいだけだろう。
 直してくれる人ももういないし。

 なので頭を三回トントントンと叩き、機能停止プロセスを実行する。
 願わくば別の主人の下で再生されますように、と心に祈って。

「さよなら、グノーン。……さて、僕達も逃げるとしようか」

 それで僕は、近くに見える山林へと向けて歩み出した。
 少しでも逃げ切りやすそうな場所だと思ったから。



 あぁ、なんて虚しいのだろうか。
 僕達が平和を求めるだけで、他の誰かが犠牲になってしまうなんてさ。

 これならいっそ、僕達はこのまま消えてしまった方がいいのだろうか。

 今はただ、そう思い悩む事しかできなかったんだ。
 僕達が持つ罪とやらを免れる手段なんてわかりはしないのだから。

 その罪の正体が何なのかさえわからない以上は。
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