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第16話 なんだか報われた気がしたんだ

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 前世の俺とユートピー達が出会ったのはおおよそ三二年前。
 当時、俺は魔力を極限に高める手段を求めてペェルスタチアへ訪れた。

 当時のペェルスタチアは人に対して嫌悪的だったものだ。
 というより侵入者全てに、か。

 だがある時、魔物に襲われていた一人の妖精を助ける。
 それがきっかけとなり、俺は妖精族全員から認められる事となった。

 そして女王ユートピーとも出会ったのである。

 当時まで彼女達は人とほぼ繋がりが無かった。
 島そのものが結界により外界から断絶されていたからな。
 おかげで「今の外界がどうなっているか教えて欲しい」などと懇願されたものだ。

 そこで俺は彼女達の願いを聞き入れる事にした。
 知る限りの情報を伝え、教え、知らしめたのだ。
 人間の良い所も悪い所もまとめて。

 そのお礼にと『古代アルティシアン星霊特術式』の一端に触れさせてもらった。
 すなわち聖護防壁はこれをきっかけに産まれたのである。

 あの時はしばらくペェルスタチアに滞在し、力も貸した。
 魔物の大進撃もあったが、俺がすべて蹴散らして逆に滅ぼしてやったりな。
 その見返りで魔術の知識を教えてもらったのも今となっては懐かしい。

「貴方様が訪れて、ペェルスタチアはとても変わったわぁ。人に興味を持って、そして惹かれた。遥か古に受けた傷痕を忘れさせてくれるかのよぉに」
「あぁ、その話は遠くで噂に聞いていた」
「この村もねぇ、わたくしの娘の繋がりで深ぁくかかわるようになったのよぉ」
「なるほどな。まさか女王自らが外に出て来るとは思いもしなかったが」
「うふふ、貴方様のせいね、きっと」
「ま、結果的には相違ない」

 本当なら、昔の思い出にはあまり浸りたくなかった。
 過去をほじくり返し過ぎると、今を忘れてしまいそうで。

 それだけ思い出深い、とても良い日々だったからこそ。
 こうして自然とが出てきてしまうくらいに。

「にしても、貴方様はどぉしてそのお体に?」
「処刑方法が霊界道送りだったからな。そのまま肉体を霊子化して転生したらこの身体だった。でも決して奪ったりした訳では無いから安心して欲しい。今はパパ上ママ上の大事なミルカです」
「まぁまぁなんていう巡り合わせ。つまり貴方様は本当にわたくしのひ孫になられたのですねぇ~うっふふ」
「ハハッ、数奇な運命だよな」

 あの頃はまだ純粋だったものだ。
 世界をなんとか救おうとただ必死で。
 皆のためにと、力を高める手段をただひたすら望み続けた。

 それがどうして恨まれる事になったのやら。

 だから俺は魔戦王の痕跡を棄てる事を望んだのだ。
 もう誰彼からも恨まれて、憎まれて、殺意を向けられたくなかったから。

 いまさら戻れなんて言われても、絶対にごめんだね。
 困っている奴等はせいぜい後悔し続けるがいいさ。

「それを今は亡きエラチャが聞いたらなんと思うかしらぁ」
「エラチャ……もしかして今の俺の祖母か?」
「えぇえぇそうよぉ」

 まぁ人とはとりわけ、そういう嫌な記憶ばかりを覚えてしまうものだ。
 逆に印象の薄い出来事はさすがの俺でも覚えていない。

 エラチャ――その人物は記憶には残らないほどの者だったらしい。
 あまり面識が無かった人物なのだろうか。

「わからないのも無理ないわぁねぇ。あの子、ずぅ~っと引き籠って出てこなかったものぉ。貴方様を想い過ぎてぇ」
「どういう事だ?」
「貴方様が最初に助けた者、その子実はぁ私の娘だったのぉ」
「なんだと? それは初耳だぞ!?」
「えぇそうですともぉ。貴方様が国を去るまでわたくしも知らなかった事ですからぁ。エラチャはずぅっと隠していたの。だから人間にすごい興味を持って、恋をして、子まで授かったのねぇ」
「じゃあ俺があの娘を助けなければ、俺はここに産まれてなかったのか!?」
「えぇそうなりますねぇ~ふふふ、運命って面白いものよねぇ」
「まったく、なんて因果だよ……」

 だがまさかの事実に、さすがの俺も驚愕だ。
 あの時助けた妖精が今の俺の祖母だったなどとは。

 なら自分の行いに感謝しなければ。
 あの出来事がなければおそらく、こうも穏やかに暮らせはしなかっただろうから。

 そうも考えると、魔戦王として戦った事も無駄ではなかったのだと思う。

 そう、報われた気がしたんだ。
 今こうして自分自身に返ってきて、ようやく気付けた。

 俺が人を救ってきた事は決して一人よがりじゃなかったんだって。

「そんな貴方様を慕う者が多かったからぁ、魔戦王処刑決議にもぉもちろん大大だぁい反対したわぁ。断固受け入れられないってぇねぇ」
「そうか、良かった。ユートピー達にまで嫌われるのは辛いからな」
「嫌う理由なんてぇないものねぇ」
「ありがとう、ユートピー」

 更にはこういう救いもあるから、俺も彼女達を信じる事ができたのだろう。

 彼女達妖精族は人間と違い、変に疑ったりしない純真的な種族。
 だからこそ魔戦王処刑決議にもまっすぐ反対してくれたのだろう。
 俺に恩義があって、処刑したいなんて思う余地が一切無いからこそ。

 それがわかっただけでも充分にありがたい。
 前世には悔いが無いのだとわかったから。

 ならもう、今の人生に集中したっていいよな。

「……俺はさ、今まで魔戦王の力を取り戻そうとして生きてきたんだ」
「ほぉほぉ」
「でもそれはきっと、前世で嫌われてしまった事を後悔したからなのかもしれない。それで生まれ変わってから、そうでないと証明しようとしていたのだろう」

 そう切り替えられたから、今ならわかる。
 自分が魔戦王の力にこだわっていた理由が。

 ただ力を欲していたのではない。
 後悔を払拭するための力を欲していたのだと。

「けどはもう、になるべきなんだよな。いつまでも古い俺を引きずるよりも、新しい私になって生き続けたい……今、そう思ったんだ」

 でも、そんな事のための力はもう必要無い。
 ユートピー達がいて、俺を信じてくれた――そんな真実がある限り。

 魔戦王だったという事実は、今の私にはもう必要ないのだから。

「だから、その……ひいおばあちゃまと呼んでも、いいですか?」
「えぇえぇもちろんよぉ。だってその心はもうデュランドゥ自身ではないのですから。かの者の心を糧に創り上げられた、ミルカという新しい魂なのです。私が気付いたのはただ、前世の魂の色が濃かったからというだけに過ぎませんのよぉ」

 そう、この魂は最初からミルカの魂。
 デュランドゥだった魂を素にして、記憶と力を受け継いだだけの。
 今まではただ、昔の記憶が強過ぎて本人だと錯覚していただけに過ぎないんだ。

 でもひいおばあちゃまがこうして教えてくれたからやっと気付けたよ。
 この魂は徐々に私のモノになりつつあったんだって。

 妹みたいなマルルちゃんを慕ったり。
 友達のやっているおままごとに惹かれたり。
 可愛いものや色が好きになったり。
 きっと人形造りなんてパパ上の遺伝に違いない。

 それらは全部、魂がミルカらしさを取り戻そうとしていたからなんだってね。

「ありがとうね、ひいおばあちゃま!」
「うっふふ、やっと本当のミルカがわたくし達の下にやってきたわぁねぇ~」

 もちろんデュランドゥだった頃の気持ちも受け入れよう。
 人を責めたり、おとしめたりするのが大好きな事も含めて。
 あと強い人を屈服させたいという欲望も忘れずに。
 きっと私は欲深いからね。

 もしかしたらそんなキッツい性格もミルカ由縁なのかもしれないし。

「あ、パパ上がいた! おーいパパ上ー!」
「ありゃあ! ひいおばあちゃま来たんけぇ!?」
「ダグサさんやぁおひさしぶりやねぇ~」

 そんな本当の自分の事に気付いた所で、やっとパパ上と合流。
 私達はそろって家路に就く。

 その時の足取りは、ついスキップしてしまうくらいにとっても軽かったんだ。



 こうして私は自分の気持ちたましいにやっと気付くことができた。
 だからこれからは、真にミルカとして生きていこう。

 自分らしい未来を描くために、今からの世界を彩るために。
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