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第20話 面倒なやつらがやってきちゃった!

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 ダンジョンを攻略してから二ヶ月が過ぎた。

 気付けば季節はもう冬。
 シルス村にも雪が降り始めたりで、農民の仕事も落ち着きを見せている。
 なのでパパ上も人形開発に一役買ってくれたりと、家族との時間が増えた。

 一方で魔導人形生産はすでに順調。
 先週も領主へと最新モデル一〇〇〇体の納入を済ませた所だ。
 もちろんダンジョン攻略を意識した長期稼働型も含めて。

 あのダンジョン攻略で魔導人形にもまだ改良の余地があるとわかった。
 だからその改善点も含め、性能を一段階上げてみたのである。

 おかげで成果は上々。
 つい昨日使者が来て、ダンジョン攻略の吉報を届けてくれた。
 平和な未来への輝かしい一歩が確実に進んだという訳ね。

 なお先日のダンジョン攻略時に同伴した冒険者達は以降、音沙汰がない。
 相当怯えさせたからかな。
 まぁ変な噂も立っていないし今は放っておこうと思う。

 あとはこのまま静かに春を迎えられれば最高ね。

「あっちょッ!? それ私が食べようとしてたやつー!」
「食べないと思ったから。もう僕がかじったやつだけど、いる?」
「いるかァ!!!」
「ミルカちゃんミルカちゃん、マルルのこれ、あーんして?」
「――うんっ! あーん!」

 魔導人形事業自体も今はそこまでかかわっていない。
 だから今は一農民として村を守りながら暮らしていきたいんだ。
 この平穏を守れるだけの事はしてきたつもりだから。

「エルエイスさん、もう随分と馴染んだわねぇうふふ」
「いや、コイツは最初からこの調子だけど?」
「屋根の修理の手伝いもしてくれたけんのぉ、感謝だっぺよ」
「僕は役に立つ。一家に一人、傍にいてもいい」
「調子のんなし!」
「のんなしー!」

 まぁ一人よけいなのがいるけど、最近は慣れたからこの際よしとする。
 なんだかんだで当人に悪気がある訳では無いしね。

 できればこの日常だけは失いたくない。
 そのためになら私はなんでもしよう。

 例えこの村以外がすべて滅びようとも、絶対に守り続けてみせる。

「早朝すまない、ミルカ殿はいらっしゃるか!?」
「ッ!?」

 しかし急用というものは突如としてやってくるもの。
 こちらの都合なんておかまいなしに。

 だから突然やってきた来客に溜息を吐きつつ自ら迎える。

「どうしたのです? 我がプレザンモーニンを邪魔して滅殺されに来たのです?」
「い、いえそうではなく……まもなくラギュース閣下がいらっしゃいます。それも王国の使者を連れて」
「王国の使者? つまりその者を滅殺しろと」
「どどどうか怒りをお沈めくだされ……どうやら国王が貴女様の噂をお聞きになられたらしく。そこで先手を打つために私を遣いに出させたのです」

 しかもやってきたのは王国からのたより。
 アウスティア国王直々の使者が私に会いに来るという。

 まったく、面倒な奴らがきた……!

 正直会いたくはないけれど、断れば妙なしがらみが生まれかねない。
 ひとまずは流れに身を任せるしか無いかな。

「国王はとても気難しいお方。できれば事はおんびんに済ませてください。しかしご機嫌をとれば見返りも大きいですから、貴女様の話術ならあるいは――」
「そうね、連絡ありがとう。でももう行った方がいいかも」
「ッ!? では御武運を!」
「もう、まるで口論でもしてこいって言い草ねぇ。こっちから行きなさい」

 で、こうしている間にももう彼方から大きな旗が見え始めた。
 仰々しいまでに煌びやかな紋章入りの赤旗がパタパタと。

 なので遣いをすかさず家へ呼び込み、裏口から帰させる。
 先方は抜き打ちで会いたい訳でもあるのだろう、と察して。
 そうされると色々面倒だったし、領主の心遣いに感謝ね。

「ミルカちゃん、あいかわらず大人気ねぇ~」
「うん、引く手数多すぎて泣きそう。ま、今回も私だけで対処するから安心してね」

 できればマルルちゃんを怯えさせたくはない。
 だからこうしてあらかじめ落ち着かせておきたくて。

 まぁマルルちゃん意外と度胸あるのか、むしろ大抵は喜んでる訳だけど。

 それはともかくとして、一人家を出て軒先で使者を迎える。
 なるほど、またがった鱗馬も上位貴族らしく仰々しいくらいに派手だ。
 なら相手の顔を立てて、今はみすぼらしい姿のままでいいだろう。

「ごきげん麗しゅうございます領主様」
「おおミルカ殿、ちょうどよい所に。今少しよろしいか」
「貴殿があの魔導人形を開発したというミルカ=アイヴィーか。なるほど、噂にたがわぬ美しさよ。農民にしておくのはもったいないくらいだ」

 すると使者がラギュースとの間へ割って入る。
 しかも細くて角張った顔をニタァリとさせながら。
 この感じ、品定めされているようでとても気色が悪い。

「わたくしは開発に口出ししましたが、それほどかかわっては――」
「ミルカ殿、申し訳ないがその言い訳は効きませぬ。すでにダンジョン攻略の成果も冒険者ギルドを通して伝わっているゆえ」
「あら、そうなのですね」
「その通りだミルカ=アイヴィー。貴殿の貢献はもはや叔母であるイーリス殿のそれを越える。今さら隠した所で隠しきれる事ではない」

 しかも私の活躍を知ったですって!?
 あの冒険者達め、放っておけば余計な事を……。
 これは後でしっかりお灸をすえなければいけないわね。

 すると使者が馬を降り、礼儀正しく胸に拳を当てて敬礼する。
 身にまとった綺麗な軍服にふさわしい、堂々とした姿だ。
 この態度だけはとても誇り高く感じて悪くは無いのだけど。

「我が名はトゥルディーヨ=デル=ウランジャル。国王陛下の命により参上した」
「改めまして、ミルカ=アイヴィーと申します。それでトゥルディーヨ様、陛下はなんと?」
「貴殿を賓客として王宮へ招待せよと。貴殿の貢献に対し国王陛下はいたく感心を寄せておられる。特に魔導人形の開発は世界史を塗り替えるほどの偉業といっても過言ではないと」
「わたくしはただこの村を守りたい一心でしたので」
「その成果が祖国をも救う手段となるならばなお喜ばしい事であろう」

 ただその物言いはやはり鼻に付く。
 まるで「自国を救うのは当然」とでも言いたげな所がもう。
 貴族というのは、上から目線で語らないと死ぬ病気にでも罹っているの?

「そういう訳で、貴殿には今より王都グランマルスまで同行願おう」
「今から、ですか。しかしこの身なりで踏み入れては、まるで奴隷を連れているかのようでトゥルディーヨ様の品位が下がると思われますが」
「……着替える時間くらいは与えよう」
「ありがたく」

 なので適当にあしらって時間だけはもらうとしよう。
 何があるかわからないし、装備も一応仕込んでおこうかな。

 そこで私は足早に家へ戻り、軽く身なりを整える。
 あとはこの日の為にと造っておいた自作ドレスも身にまとう。
 うん、ピンクの生地とシルク風のフリフリフリルがとても可愛らしい。

 しかし見惚れている時間も無いので、そのまま外へ。
 トゥルディーヨのまたがる馬へ乗せられ、颯爽と王都へと向かうのだった。



 さて、国王様は一体何をお考えのやら。
 また面倒な事にならなければいいのだけど。
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