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第21話 国王様、私にお願いがあるんだって
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使者トゥルディーヨに連れられ、私は遂に王都グランマルスへとやってきた。
国王が待っているとの事だけど、王城へ近づくにつれて嫌気がつのる。
魔戦王処刑に賛同した相手なのだから当然か。
なので景色を眺めて気分をまぎらわす事にしたのだけど。
国の活気はと言えば最悪。
夕暮れとはいえ、市場でさえまともに人が歩いていない。
露店商品も腐りかけの野菜とかそんなのばかりで。
魔物が襲ってくるようになって供給が安定しないからかな。
前世でも訪れた事はあるけれど、こんなじゃなかったから。
この街の人達がちゃんと食べられているのかさえ疑わしい。
そんな荒れた一般民街を抜け、さらには上級民街をも抜けて城門の前に。
ここでラギュース達とは別れ、トゥルディーヨと王国兵達に付き添われて登城を果たす。
「国王陛下に決して無礼なきよう」
「心より存じ上げておりますわ」
そしてとうとう謁見の間の前へ。
トゥルディーヨの後ろに付き、国王の前へと姿を晒した。
「よく使命を果たしたなトゥルディーヨ。下がって良いぞ」
「はっ!」
でもそのトゥルディーヨも入ってすぐに追い返されてしまった。
まるで彼を謁見の間に入れたくないと言わんばかりの速さで。
「そなたがミルカ=アイヴィーであるな。さぁこちらへ来るがよい」
しかたなく私一人で謁見の間を進む。
純白の鎧を着こむ二〇人の近衛騎士達が囲んだ赤絨毯を。
全員、女だった。
それも相応に美しくも凛々しい者達ばかり。
たまたま優秀な女性が揃ったのか、あるいは国王の趣味なのか。
そんな騎士達を抜け、王の前でお辞儀をしてみせる。
スカートを指でつまんで持ち上げて可愛らしく。
「ごきげん麗しゅうございます。お会いになられて光栄ですわ、国王陛下」
「うむうむ。儂も貴殿に会えてうれしい限りだ。ほほ、噂通りとても美しい娘ではないか。気品も兼ね添えていて実に良い!」
私が可愛いのは当然だが、噂での品定めはやはり嬉しい事じゃない。
そこまで言うならお前から会いに来い、とでも言いたいくらいね。
そう思えるくらい、国王はとても美しい存在とはいえない。
お腹は出ているし、見る目も何だかいやらしいし。
醜いのが嫌いという訳では無いのだけれど、なんだか嫌悪感を感じる顔付きだ。
「そんな畏れ多い。この気品に溢れた近衛騎士団の方々に比べれば、わたくしなどたかが小汚い一農民の小娘にございます」
「いいのぅ、そう謙遜する所がまたそそるというものよ」
でもここは抑えて国王の意図を引き出さないと。
なのでそっと両膝でひざまずき、両手を合わせて懇願するように尋ねてみる。
少し目も潤わせておけば大抵の男はイチコロだ。
「……ところで陛下、わたくしのような下賤な者をどうしてお呼びになられたのでしょうか? とても気になって仕方がありませんでしたの」
「ぐっふふ……実はのぉ、そなたに折り入って相談があったのだ。魔導人形を造れてダンジョンも攻略できる、そんなそなたならきっと成し得ると思うてのぉ!」
やはり思った通り、軽いな。
こんな私の姿を見たらもう口をすぼめてチュッチュさせてその気満々だ。
まったく、貴族王族というものはこんな変な奴ばかりしかいないのか。
ちょっと叔母上の気持ちがわかってきた気がする。
「もぉし儂の願いを叶えてくれたら望み通りの報酬を与えちゃう!」
「まぁステキ! 王様カッコイイ!」
「なんだったらそのまま儂の側室にして豪勢に暮らしてもいいぞよぉ!」
「やだもー王様ったらぁ! もうその気なのすっごぉ~い!」
「ンホホ! ミルカたんかわええのぉ~~~!! もっとやって~!」
反吐が出る。
調子に合わせてノリノリだけど今すぐここで吐き散らかしたい。
こんな奴に私自慢のにゃんにゃんポーズを見せる事になるなんて、もはや人生の汚点である。
しかしここは堪えろ私。
ここで逆らうのはNGだ。
「という訳でだ、そんな儂の可愛い天使ミルカたんにお願いしたい事というのはだのぉ」
「はぁい?」
「今すぐにシルス村の聖護防壁をこの王都グランマルスへ移して欲しいのじゃよ」
「――ッ!?」
ただ、その願いとやらを聞いた私は唖然とする他なかった。
まるで耳を疑ってしまうような内容だったのだから。
「お、お待ちください陛下、あの聖護防壁はわたくしが張った物では――」
「わかっておるわかっておる。しかしミルカたんの力ならばきっと遷移も可能であろう? そこで力を見込んで頼んでおるのじゃよ」
「そ、それは……」
聖護防壁を移せ、ですって!?
そんな事をしたらシルス村はどうなる!?
あの村は広いし警護もほとんどいないから魔物に蹂躙されかねない!!
「か、仮にできるとしても、それは推奨しかねます。シルス村は作物を安定供給できるからこそ価値があるのです。それなのに聖護防壁を失ってしまったら――」
「必要は無ぁい」
「えっ?」
「食料は輸入でまかなえると試算した。それよりもまずはこの国の象徴である王都の安全を確保する事が最優先なのだよ。賢いミルカたんならわかるであろう?」
それを輸入でまかなう!?
できる訳が無い!
現に今の状態でさえ国民は限界に近いのよ!?
なのにいったい何を考えているの、この男は!?
「……承服しかねます。わたくしにとっては故郷シルス村を守る事が何より第一優先にございますので」
「あんなちっぽけな村一つに何をこだわっているのか理解できんのぉ。そんなくだらん所よりもミルカたん、儂に仕えよ。さすればどのような地位も名誉も――」
「不要にございます、クソ陛下」
「「「ッ!?」」」
ダメだ、もう我慢できない。
ここまで村の事をないがしろにされれば、誉れの言葉も煽りにしか聴こえないわ。
何が王だ。
民の事も考えず、自分本位で物事を決めるなどとは。
その上でいばり散らすだけなど、害悪以外の何者でもない!
そんなもの、もはや玉座に居すわるだけのクソ同様だ!!
「「「貴様ァ!! 陛下を侮辱したな」」」
「えぇ、望まれるのでしたら何度でも罵倒しましょう? あれぇ、わたくし今の話からはまるで罵倒される事を望んでいるように聴こえたのですが……空耳でしたかぁ?」
「ミルカ=アイヴィー……貴様どういうつもりだ?」
「何一つとして賛同しかねます、という事ですわクソ陛下。そもそもどうとっても良い事なんて一つもありませんので。そんな低能をさらされたら頭に馬のフンでも詰まっているのかと勘違いしてしまうでしょう?」
「貴様ァ……!」
そんな相手と話す暇など私には無い。
大人しく従う義理もなければ、提示された地位や名誉にも興味無い。
私はシルス村と、あそこに住む村人達を守れればそれで充分なのだから。
「では政治もわからないクソと話す意味もありませんので、これにて失礼」
「何をしたかわかっているのか、ミルカ=アイヴィー……!」
「えぇわかっていますとも。事を起こすならお好きになさいませ」
だから私はクルッとするどく踵を返した。
近衛騎士団がにらみつける中に堂々と、靴音をカツカツ鳴り響かせながら。
ついでにフフンと笑ってみせ、煽る事も忘れない。
もちろん扉の前で立ち止まり、こう返す事も。
「もし戦うというのなら受けて立ちましょう? 言っておきますがわたくし、とてもお強いですから」
あとは大扉を蹴破り、エントランスまで残骸を吹き飛ばす。
で、煽るように腰をフリフリ振りながらの退場よ。
テンションに任せて「フゥー! イェーイ!」と指を高々と掲げたりなんかして。
そんな私を止めようとする者は誰一人としていなかった。
当然ね。歩みに合わせて地面を振動させたから、みな心が委縮していたし。
ぶ厚い城門さえ一瞬で焼き切ってやったから、誰も彼も恐れて手なんて出せやしないわ。
ゆえに私は凱旋のごとく帰還する事ができた。
困惑するラギュース達に付き添われつつ。
さぁて、これからすっごく楽しくなりそうね。
この事実上の宣戦布告に、王国は一体どう対応してくるのやら。
国王が待っているとの事だけど、王城へ近づくにつれて嫌気がつのる。
魔戦王処刑に賛同した相手なのだから当然か。
なので景色を眺めて気分をまぎらわす事にしたのだけど。
国の活気はと言えば最悪。
夕暮れとはいえ、市場でさえまともに人が歩いていない。
露店商品も腐りかけの野菜とかそんなのばかりで。
魔物が襲ってくるようになって供給が安定しないからかな。
前世でも訪れた事はあるけれど、こんなじゃなかったから。
この街の人達がちゃんと食べられているのかさえ疑わしい。
そんな荒れた一般民街を抜け、さらには上級民街をも抜けて城門の前に。
ここでラギュース達とは別れ、トゥルディーヨと王国兵達に付き添われて登城を果たす。
「国王陛下に決して無礼なきよう」
「心より存じ上げておりますわ」
そしてとうとう謁見の間の前へ。
トゥルディーヨの後ろに付き、国王の前へと姿を晒した。
「よく使命を果たしたなトゥルディーヨ。下がって良いぞ」
「はっ!」
でもそのトゥルディーヨも入ってすぐに追い返されてしまった。
まるで彼を謁見の間に入れたくないと言わんばかりの速さで。
「そなたがミルカ=アイヴィーであるな。さぁこちらへ来るがよい」
しかたなく私一人で謁見の間を進む。
純白の鎧を着こむ二〇人の近衛騎士達が囲んだ赤絨毯を。
全員、女だった。
それも相応に美しくも凛々しい者達ばかり。
たまたま優秀な女性が揃ったのか、あるいは国王の趣味なのか。
そんな騎士達を抜け、王の前でお辞儀をしてみせる。
スカートを指でつまんで持ち上げて可愛らしく。
「ごきげん麗しゅうございます。お会いになられて光栄ですわ、国王陛下」
「うむうむ。儂も貴殿に会えてうれしい限りだ。ほほ、噂通りとても美しい娘ではないか。気品も兼ね添えていて実に良い!」
私が可愛いのは当然だが、噂での品定めはやはり嬉しい事じゃない。
そこまで言うならお前から会いに来い、とでも言いたいくらいね。
そう思えるくらい、国王はとても美しい存在とはいえない。
お腹は出ているし、見る目も何だかいやらしいし。
醜いのが嫌いという訳では無いのだけれど、なんだか嫌悪感を感じる顔付きだ。
「そんな畏れ多い。この気品に溢れた近衛騎士団の方々に比べれば、わたくしなどたかが小汚い一農民の小娘にございます」
「いいのぅ、そう謙遜する所がまたそそるというものよ」
でもここは抑えて国王の意図を引き出さないと。
なのでそっと両膝でひざまずき、両手を合わせて懇願するように尋ねてみる。
少し目も潤わせておけば大抵の男はイチコロだ。
「……ところで陛下、わたくしのような下賤な者をどうしてお呼びになられたのでしょうか? とても気になって仕方がありませんでしたの」
「ぐっふふ……実はのぉ、そなたに折り入って相談があったのだ。魔導人形を造れてダンジョンも攻略できる、そんなそなたならきっと成し得ると思うてのぉ!」
やはり思った通り、軽いな。
こんな私の姿を見たらもう口をすぼめてチュッチュさせてその気満々だ。
まったく、貴族王族というものはこんな変な奴ばかりしかいないのか。
ちょっと叔母上の気持ちがわかってきた気がする。
「もぉし儂の願いを叶えてくれたら望み通りの報酬を与えちゃう!」
「まぁステキ! 王様カッコイイ!」
「なんだったらそのまま儂の側室にして豪勢に暮らしてもいいぞよぉ!」
「やだもー王様ったらぁ! もうその気なのすっごぉ~い!」
「ンホホ! ミルカたんかわええのぉ~~~!! もっとやって~!」
反吐が出る。
調子に合わせてノリノリだけど今すぐここで吐き散らかしたい。
こんな奴に私自慢のにゃんにゃんポーズを見せる事になるなんて、もはや人生の汚点である。
しかしここは堪えろ私。
ここで逆らうのはNGだ。
「という訳でだ、そんな儂の可愛い天使ミルカたんにお願いしたい事というのはだのぉ」
「はぁい?」
「今すぐにシルス村の聖護防壁をこの王都グランマルスへ移して欲しいのじゃよ」
「――ッ!?」
ただ、その願いとやらを聞いた私は唖然とする他なかった。
まるで耳を疑ってしまうような内容だったのだから。
「お、お待ちください陛下、あの聖護防壁はわたくしが張った物では――」
「わかっておるわかっておる。しかしミルカたんの力ならばきっと遷移も可能であろう? そこで力を見込んで頼んでおるのじゃよ」
「そ、それは……」
聖護防壁を移せ、ですって!?
そんな事をしたらシルス村はどうなる!?
あの村は広いし警護もほとんどいないから魔物に蹂躙されかねない!!
「か、仮にできるとしても、それは推奨しかねます。シルス村は作物を安定供給できるからこそ価値があるのです。それなのに聖護防壁を失ってしまったら――」
「必要は無ぁい」
「えっ?」
「食料は輸入でまかなえると試算した。それよりもまずはこの国の象徴である王都の安全を確保する事が最優先なのだよ。賢いミルカたんならわかるであろう?」
それを輸入でまかなう!?
できる訳が無い!
現に今の状態でさえ国民は限界に近いのよ!?
なのにいったい何を考えているの、この男は!?
「……承服しかねます。わたくしにとっては故郷シルス村を守る事が何より第一優先にございますので」
「あんなちっぽけな村一つに何をこだわっているのか理解できんのぉ。そんなくだらん所よりもミルカたん、儂に仕えよ。さすればどのような地位も名誉も――」
「不要にございます、クソ陛下」
「「「ッ!?」」」
ダメだ、もう我慢できない。
ここまで村の事をないがしろにされれば、誉れの言葉も煽りにしか聴こえないわ。
何が王だ。
民の事も考えず、自分本位で物事を決めるなどとは。
その上でいばり散らすだけなど、害悪以外の何者でもない!
そんなもの、もはや玉座に居すわるだけのクソ同様だ!!
「「「貴様ァ!! 陛下を侮辱したな」」」
「えぇ、望まれるのでしたら何度でも罵倒しましょう? あれぇ、わたくし今の話からはまるで罵倒される事を望んでいるように聴こえたのですが……空耳でしたかぁ?」
「ミルカ=アイヴィー……貴様どういうつもりだ?」
「何一つとして賛同しかねます、という事ですわクソ陛下。そもそもどうとっても良い事なんて一つもありませんので。そんな低能をさらされたら頭に馬のフンでも詰まっているのかと勘違いしてしまうでしょう?」
「貴様ァ……!」
そんな相手と話す暇など私には無い。
大人しく従う義理もなければ、提示された地位や名誉にも興味無い。
私はシルス村と、あそこに住む村人達を守れればそれで充分なのだから。
「では政治もわからないクソと話す意味もありませんので、これにて失礼」
「何をしたかわかっているのか、ミルカ=アイヴィー……!」
「えぇわかっていますとも。事を起こすならお好きになさいませ」
だから私はクルッとするどく踵を返した。
近衛騎士団がにらみつける中に堂々と、靴音をカツカツ鳴り響かせながら。
ついでにフフンと笑ってみせ、煽る事も忘れない。
もちろん扉の前で立ち止まり、こう返す事も。
「もし戦うというのなら受けて立ちましょう? 言っておきますがわたくし、とてもお強いですから」
あとは大扉を蹴破り、エントランスまで残骸を吹き飛ばす。
で、煽るように腰をフリフリ振りながらの退場よ。
テンションに任せて「フゥー! イェーイ!」と指を高々と掲げたりなんかして。
そんな私を止めようとする者は誰一人としていなかった。
当然ね。歩みに合わせて地面を振動させたから、みな心が委縮していたし。
ぶ厚い城門さえ一瞬で焼き切ってやったから、誰も彼も恐れて手なんて出せやしないわ。
ゆえに私は凱旋のごとく帰還する事ができた。
困惑するラギュース達に付き添われつつ。
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