呪われた人間

風季

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「おい! 事故だ! 誰か救急車を!」

(あぁ、また・・やってしまった……)

 最早これは呪いだ。どんなに気をつけていても、トラックを運転すれば人を轢き、料理をしようと包丁を握れば通り魔になる。稀にだが、誰かを過労死させるまで働かせたこともある。
 どんな経緯があって人の上に立ったのかは知らん。

 今度は飛び出した子供を庇った高校生を轢いた。そして、またこのことをみんな忘れるのだ。今までもそうだったのだから。

 警察と救急車が来て、高校生は救急車へと乗せられる。救急車は騒がしい音を立ててさっていった。

「トラックを運転していたのはあなたで間違いないですね」
「はい」

 この後は事情を聞かれる。またいつものように大したことも聞かれないのだろう。最後の方なんて「なんで聴取しているんだ?」と不思議そうな顔をするのだ。

 そしてまた明日からは、今日のことを忘れていつもの日々に戻る。

 なんだかこれが生まれてきた役割みたいだな。確か、神様とやらが生まれる前に与えるのだと聞いたことがある。

 よく「生まれてきた意味はなんだろう」という疑問を聞くことがあるが、きっと一度くらいは誰もが知りたいと思ったことがあるんじゃなかろうか。
 それなりに生きても思い続けてるのかは知らんが、自分は今でも思う。

 人の人生を終わらせるのが自分の役割なのかもな、なんて冗談で思ったが、あながち間違いではないかもしれない。
 ただ、そんな役割があるとするのならばクソだ。そしてそんな役割を与えた神様とやらもクソだ。

 適当に指示に従っていれば、やはりすぐに解放された。今回も初めて事故を起こしたことになっていた。

 あの高校生はどうなったんだ。死んでしまったのか、それとも助かったのか。

 確認したところでいつの間にか存在自体が無くなっているのだからもう探そうとも思わないが、こんな呪いが働いたばかりに可哀想だ。
 もし死んでしまったのなら来世は幸せになってくれよ。そして恨むなら神とやらを恨んでくれ。こんなちっぽけな人間に恨みを背負う気概はない。
 ああでも。もし異世界とやらにでも行っているならそれはそれで頑張れ。
 ……なんて。こんな非現実的なことを考えるようになってしまうとは。事件・事故を起こすのも辛いが、忘れられるのも結構クるものがあるのかもしれん。

 あぁ、そういえば周りの記憶がなくなる間隔が早くなっているような気がする。

 ……まぁ、どうせ無くなる記憶だ。遅かろうが早かろうが変わりはないか。


 そうして明日もまた今日のことなど忘れて日常を過ごすのだ。

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