追放された修道女の屋台革命~B級グルメで王都の胃袋を掴みます~

灰猫さんきち

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4章

90:【閑話】クラウスの事情

 食料ギルドとの一戦に勝利して以来、私たちのお店は順調に続いている。
 私は次なる商品の構想を練りつつ、日々の業務をこなしていた。

 ギルから五人ほどの人手を借りられたので、とにかく料理できる量がアップした。
 ギルが彼らを信用できると言う以上は、私も信じる。だからレシピの秘匿なんかはなしだ。

「はい、そうです。たこ焼きの生地の配合は、小麦がカップ一に対してデンプンは六分の一で」

「なるほど」

「ロックリザードの肉用のヨーグルトは、基本はこの配合。サンドに合わせる野菜を考えて、フルーツやニンニクを加えています」

「勉強になります」

 作れば作るほど売れる好調っぷりに加えて、うちの商品はどれも利益率が高い。材料がどれも安いものだからだ。
 五人の人を雇っても、お給料はちゃんと出せていた。
 料理以外にも店番を任せたり、大活躍である。これは、割れ鍋亭の食堂オープンも近いかもしれない。

「……」

「クラウスさん、何を覗いているんですか」

 活気のある厨房の向こう側、食堂の入口にクラウスが立っている。何だか柱の陰からこちらを覗いているようだ。私は柱の陰から覗く顔文字を思い出した。
 声を掛けると、彼は足音を立てずにこちらにやって来た。

「俺にも何か、手伝うことはないだろうか」

「え? いや、今は別にありませんね。ていうか、どうしたんですか。クラウスさんは最上位の冒険者でしょ。なんか最近、暇そう?」

 S級冒険者ともなれば、ドラゴン退治とか、国家の危機を救うような冒険をしまくっているものだとばかり思っていた。
 ところが最近の、いや、けっこう前からのクラウスはどうだ。割とうちの店を手伝ってくれて、湖の遠征まで付き合ってくれた。
 暇かよ?

「……」

 クラウスは微妙に傷ついたような顔をした。
 この人はいつも仏頂面のクソ真面目な表情なので、分かりにくい。

「俺はS級冒険者だが」

 彼はぼそりと言う。

「一人だけではできることは限られる。なまじ等級が高いだけに、ソロで攻略できる依頼は下位の者たちに譲らなければいけない。あまり、ちょうどいい仕事がないんだ」

 なんと。ニートかよ。

「なら、冒険者の仲間を探せばいいのでは? クラウスさんほどの実力があれば、組みたい人はいっぱいいるでしょう」

「それが、そうでもない……」

 彼はますます暗い顔になった。

「以前、気の合う奴らと組んでいたが、そいつらは結婚を機に引退してしまった。今はパン屋をしている」

 あ、そういや前にそんなこと言ってたね。

「それ以来、パーティで失敗してばかりだ」

「えぇ? なぜ?」

「実は、俺はあまり人付き合いが達者ではない」

「ああ、うん、まあそんな感じですね」

 いい人だと思うんだけど、かなりな天然だし。

「騒がしいのも苦手だ。だから、半分廃墟だったこの宿屋に居座っていた」

「そういやそうでしたねえ」

 で、廃墟なのをいいことに勝手に上がり込んで騒いでいたゴロツキを成敗しちゃったのよね。

「それで……」

 クラウスは何度かためらってから、言った。

「パーティを募集しても、目つきが怖いとか、静かにしていないと怒るとか言われて、上手くいかなかった」

「え~?」

 なんだろう。S級冒険者の肩書きに、相手が勝手に萎縮した感じだろうか。

「極めつけは……」

 クラウスは拳を握りしめた。どす黒いオーラが漂ってきて、なんか怖い。
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