公爵夫人は謎解きがお好き

灰猫さんきち

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第2章 公爵夫人の魔力相談室

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「それに、アリアーナ。君が彼の魂から感じ取ったのは、憎しみだけではなかったのだろう?」

「ええ……。それ以上に、強い『恐怖』と、師に認められたいという『依存』でした」

 全員に動機がある。だが全員に、犯行は不可能。
 私たちは迷宮に迷い込んだかのように、出口のない思考を繰り返していた。

「まるで、腕の良い手品師に、まんまと騙された観客の気分ですわね」

 私がそう言ってため息をついた、その時だった。

「……手品師?」

 セオドア様の青灰色の瞳が、きらりと光った。

「アリアーナ、君は今、重要なことを言った。手品師は観客の意識を偽りの場所に向けさせることで、トリックを成功させる。我々も何か、根本的なことを見誤っているのかもしれない……」

 彼の視線は机の上に広げられた、レオニダスの過去の予言記録へと注がれていた。

「我々は、レオニダスの最後の予言が『真実』であることを、無意識のうちに大前提としていた。だが、もしその前提そのものが、手品師の差し出した偽りのシルクハットだったとしたら?」







 セオドアはそれから一晩中、書斎に籠もりきりだった。そして翌朝、目の下にうっすらと隈を作って出てくると、私の前に一枚のグラフを差し出した。
 そこにはレオニダスの過去数年間の予言とその的中率が、冷徹なまでに客観的な数値で示されていた。

「見ろ、アリアーナ。彼の力は明らかに衰えていた。特に個人の未来に関する詳細な予言は、ここ一年ほぼ外れている。彼の権威は過去の栄光と、曖昧な表現でどうとでも取れる予言によって、かろうじて保たれていたに過ぎない」

 そのグラフが示す事実は、あまりに雄弁だった。
 稀代の大予言者の伝説は、すでに崩壊していたのだ。

「まさか……では、あの最後の予言も」

「ああ。あれは、未来を視た神託などではない。彼自身が書き上げた、最後の脚本だったのだ」

 私たちは再び、三人の弟子を占星術の塔に集めた。アレクシスも、固唾を飲んで私たちの隣に立っている。
 セオドアは静かに話し始めた。その場にいる全員の魂を貫くような声だった。

「この事件は殺人事件ではない。そして、予言の成就でもない。これは一人の老人が自らの権威の失墜を恐れて、伝説を守るために仕組んだもの。壮大な自作自演の末に起きた、あまりに悲しい事故だ」

 セオドアは的中率の記録という動かぬ証拠を突きつけながら、レオニダスが描いた狂気の脚本を暴いていく。
 権威の失墜を恐れた彼が、自らの死を「完璧な予言の成就」として演出し、永遠の伝説として歴史に名を刻もうとしたこと。
 そのための哀れな生贄として、最も精神的に脆く彼に心酔していた弟子、カシウスを選んだこと。

「先生は……僕に、『お前が私を殺すのだ』と、何度も、何度も……夢の中にまで現れて……」

 カシウスが泣きながら、精神的に弱っていた様を告白する。師として重圧を掛ける以外にも、魔術を使って精神に干渉していたのだろう。
 レオニダスは予言の夜、追い詰められたカシウスが、恐怖と混乱から自分に攻撃してくるように仕向けていたのだ。

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