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紅茶が美味しい。
さすが紅茶の名産をうたう伯爵家からいただいたお茶。
すんだ茜色の紅茶なのにこの季節の花の香りがします。
不思議。
さて、現実逃避はここまで。
そろそろ現実に向き合いましょう。
テーブルの向こうにはお義父さま。
マウリーのお父様。
きちんと先ぶれを出されて訪問されました。
私より5つほど年上の義父。
マウリーの顔立ちは亡き母親によく似ていますが、綺麗な金髪と青い瞳は父子はよく似ています。
会うのはこれで4回目でしょうか。
私の婚約者だったマウリーの亡き母親の葬儀、私とマウリーの結婚式、マウリーの学園の入学式。
理由なく会ったことのない方です。
なぜならマウリーの母親が亡くなった喪が明けるとすぐに再婚されたのです。
私の婚約者の懸念はあたりだったのだと思います。
お相手は伯爵令嬢。
令嬢と言っても当時ちょっとお年を召しておられました。
お二人にお子様はおられないようです。
知性があり外見がよく愛想もそつなく、とても貴族らしい『ないのは地位とお金だけ』と実家の兄がいう男性。
義理とはいえ、仮とはいえ社交辞令だけで10年以上過ごしてきた相手です。
それが相手から訪ねて来られるという、あまりいい予感はしません。
あの、なんというか紅茶をお出ししただけなんですが。
歯の浮くようなお世辞をいただきました。
にっこり微笑み付きで。
なんというか親しみを込めた、誤解を招きかねない『義理の娘』へのぎりぎりのボディタッチ。
社交の場ならピシャリとすることもあり得ますが、家庭内では難しい。
ああ、やはりこのかたは少し苦手です。
所謂陽キャというものなのでしょう。
ただ、いきなり表情を変えて切り込んでいらっしゃいました。
来年のこと、ですか。
そうですね。
そろそろ動かないといけない時期です。
来年はマウリーが学園を卒業して成人を迎えます。
ああ、マウリーが学園に入学した日が昨日のことのよう。
子供が大きくなるのはあっという間ですね。
驚きました。
婚約者出会ったマウリーの母親と私の約束、ご存知だったんですね。
金庫にしまわれてその時を待っている書類。
屋敷の端と端に分けられた私達の部屋。
身内にはやはりわかるものでしょうか。二人いるマウリーの異性の婚約者。
同性も二人。
四人は同年代で、学園でも良い関係を築いているらしい。
おそらくマウリーは婚約者のうちリビーを選ぶのではないだろいうか。
身分的にも条件的にも申し分ない。
寂しいけれど妬いたりはしない。
その日に向けて準備も進めている。
いいえ、それはけっこうです。
この結婚は私と婚約者の間で決めたこと。
もしかするとマウリーには迷惑だったかもしれません。
それでも、私は婚約者との契約をやり遂げたという実感があります。
いえ、本当に大丈夫です。
はい、実家も支援してくれていますし。
いえ、マウリーが卒業してこの屋敷に帰ってくるその日はよろしくお願いします。
はい、その前日にこちらをおいとまします。
マウリーですか。
話してあります。
ですから
はい
いいえ
ですが
それでも
そうですね
はい
はい
はい
いえ、それは
力になるよと私の手を握る最後までにこやかなお義父さまを送り出すと、なんだかすごく疲れてしまいました。
たくさん喋る男の方、私はあまり得意ではない気がします。
もう日暮れですが、喉が渇きました。
美味しいお茶が飲みたいです。
ジュリア様と作ったりんごのお茶、あれをいただきましょう。
さすが紅茶の名産をうたう伯爵家からいただいたお茶。
すんだ茜色の紅茶なのにこの季節の花の香りがします。
不思議。
さて、現実逃避はここまで。
そろそろ現実に向き合いましょう。
テーブルの向こうにはお義父さま。
マウリーのお父様。
きちんと先ぶれを出されて訪問されました。
私より5つほど年上の義父。
マウリーの顔立ちは亡き母親によく似ていますが、綺麗な金髪と青い瞳は父子はよく似ています。
会うのはこれで4回目でしょうか。
私の婚約者だったマウリーの亡き母親の葬儀、私とマウリーの結婚式、マウリーの学園の入学式。
理由なく会ったことのない方です。
なぜならマウリーの母親が亡くなった喪が明けるとすぐに再婚されたのです。
私の婚約者の懸念はあたりだったのだと思います。
お相手は伯爵令嬢。
令嬢と言っても当時ちょっとお年を召しておられました。
お二人にお子様はおられないようです。
知性があり外見がよく愛想もそつなく、とても貴族らしい『ないのは地位とお金だけ』と実家の兄がいう男性。
義理とはいえ、仮とはいえ社交辞令だけで10年以上過ごしてきた相手です。
それが相手から訪ねて来られるという、あまりいい予感はしません。
あの、なんというか紅茶をお出ししただけなんですが。
歯の浮くようなお世辞をいただきました。
にっこり微笑み付きで。
なんというか親しみを込めた、誤解を招きかねない『義理の娘』へのぎりぎりのボディタッチ。
社交の場ならピシャリとすることもあり得ますが、家庭内では難しい。
ああ、やはりこのかたは少し苦手です。
所謂陽キャというものなのでしょう。
ただ、いきなり表情を変えて切り込んでいらっしゃいました。
来年のこと、ですか。
そうですね。
そろそろ動かないといけない時期です。
来年はマウリーが学園を卒業して成人を迎えます。
ああ、マウリーが学園に入学した日が昨日のことのよう。
子供が大きくなるのはあっという間ですね。
驚きました。
婚約者出会ったマウリーの母親と私の約束、ご存知だったんですね。
金庫にしまわれてその時を待っている書類。
屋敷の端と端に分けられた私達の部屋。
身内にはやはりわかるものでしょうか。二人いるマウリーの異性の婚約者。
同性も二人。
四人は同年代で、学園でも良い関係を築いているらしい。
おそらくマウリーは婚約者のうちリビーを選ぶのではないだろいうか。
身分的にも条件的にも申し分ない。
寂しいけれど妬いたりはしない。
その日に向けて準備も進めている。
いいえ、それはけっこうです。
この結婚は私と婚約者の間で決めたこと。
もしかするとマウリーには迷惑だったかもしれません。
それでも、私は婚約者との契約をやり遂げたという実感があります。
いえ、本当に大丈夫です。
はい、実家も支援してくれていますし。
いえ、マウリーが卒業してこの屋敷に帰ってくるその日はよろしくお願いします。
はい、その前日にこちらをおいとまします。
マウリーですか。
話してあります。
ですから
はい
いいえ
ですが
それでも
そうですね
はい
はい
はい
いえ、それは
力になるよと私の手を握る最後までにこやかなお義父さまを送り出すと、なんだかすごく疲れてしまいました。
たくさん喋る男の方、私はあまり得意ではない気がします。
もう日暮れですが、喉が渇きました。
美味しいお茶が飲みたいです。
ジュリア様と作ったりんごのお茶、あれをいただきましょう。
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