断罪された悪役令嬢はそれでも自分勝手に生きていきたい

たかはし はしたか

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アリッサの場合

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両手を握りしめ、右手は高々と突き上げ、左手は耳の横。
静止すること30秒。
とても公爵夫人の仕草ではありませんね。
いえ、元公爵夫人ですね。
完全勝利。
頭の中にファンファーレが鳴り響く。
やり遂げました。
これで私は自由。

私は伯爵令嬢として生まれました。
学友同士だったという互いの父親の約束から、生まれた時から公爵子息のジョアン様と婚約していました。
そして可もなく不可もなくお付き合いをして結婚というごく普通の貴族の人生、のはずでした。
ところが、結婚してすぐに義父の公爵が亡くなったのです。
そこから全てがおかしくなりました。
夫のジョアン様は、学校を出たばかりの、やっと親から実務を教わり始めたばかりの若者は、変わっていったのです。
公爵様と社交の場で持ち上げられ、一方では若造の公爵として軽んじられ、それでも自分らしく公爵の役割を果たしていこうとしていた姿を見てきました。
父の死を充分に悲しむ時間すらジョアン様にはありませんでした。
お義母さまは元々別宅に愛人と暮らしておられたので、ジョアン様の支えにはなりませんでした。
私も一生懸命支えていきました。
でも、力不足でした。
ジョアン様はだんだん仕事よりも社交に忙しくなっていきました。
仕事が終わらないのに夜会に出かけていくようになりました。
残った仕事は続きをしなくてはならないので、私はだんだん夜会からも社交からも足が遠のきました。
ジョアン様は夜会からの帰がだんだん遅くなって。
少しずつ、ジョアン様の周りにいる友人達の顔ぶれが変わっていきました。
そしてお決まりの飲む、打つ、買う。
すこしずつ、私たちはズレていきました。
何もかもが。
義父が亡くなったとき、ジョアン様は19歳私は18でした。
正直未熟でした。
公爵家と夫の両方を支えることができませんでした。

あれから20年。
私は一生懸命に公爵家を支えました。
義父の時代からあった借金体質を改善しつつ、ジョアン様の尻拭い。
実務は全て私。
ジョアン様は遊び呆けているだけ。
最初の一年で愛想が尽きたので、もはやまともに会話もありません。
そんな結婚生活でももう20年という記念の年の結婚記念日に、ジョアン様は愛人と愛人に産ませた子を連れてきました
17歳の娘と12歳の息子。
私たち夫婦には子供はいません。
愛人に産ませた息子を後継にするのだそうです。
ろくな教育も受けていない子供を公爵家の後継に。
目眩がしました。
愛人は即別宅送りにしました。
ジョアン様が何か言っておられましたが、聞いてはいられません。
子供二人は公爵家に住まわせ、家庭教師をつけて一日中学ばせました。
ジョアン様との間にもはや愛はなくても、今まで支えてきた公爵家には愛着があります。
跡継ぎとなるならそれ相応の知識と教養をつけてもらわなくてはなりません。
ところが二人ともサボるわ抜け出すわで話になりません。
特に姉。
抜け出して男遊びとは到底見逃せません。
弟の方は姉につられているようですから、引き離した後しっかり教育たらなんとかなる可能性がありました。
そこで姉を修道院に入れることにしました。
ちゃんとジョアン様にも愛人にも説明いたしました。
公爵家に見合った格の高い修道院であること。
多額の寄付をつけるので生涯にわたって衣食住保証され、侍女がつくこと。
修道院内での奉仕に報酬が出ること。
ただし、修道院は王都から馬車で1日かかるということ、結婚はできないということも伝えた。
ところがそれが不満だったようです。
愛人と子供に言われて、私を修道院に追いやろうとジョアン様が考えているようなのです。
それを知った時には力が抜けてしまいました。
私のこの20年は何だったのでしょうか。
散財や浮気をされても、ずっとこの家を支えてきたのに。
そして私はこの家のお金をかき集めました。

「アリッサ、修道院に行くのはお前だ」
嫌な笑い方をして、ジョアン様がいいました。
その向こうでは愛人と子供達がにやにやしています。
ジョアン様はやれ思いやりがないだの、夫を敬わないだの、子供を産まなかっただのと私を責め、離縁状を突きつけてきました。
「しかも公爵家の正当な跡継ぎに不当な行為を強制しようとしたお前のことをとうてい許すことはできない」
そうですか、やはりそうくるのですね。
わかってはいましたが、少しだけ寂しい気がします。
ほんの、すこしですが。
修道院の迎えの馬車が来るまで玄関の外で待たされました。
離婚したのだから、もう公爵家の人間ではないから、だそうです。私について来てくれる侍女が、用意しておいたトランクを自分の荷物と共に持って来てくれました。

馬車に乗って、冒頭に戻る。

生涯の衣食住を確保したのです。
私は伯爵家の生まれですが、もう生家は弟の代になっていて私の帰る場所はありません。
これから行く修道院は、この国一古く格式があります。
昔は王族の隠居場所だった王宮の隣に作られた離宮が元になっていて、広く美しい場所です。
修道院ではありますが、王宮の隣であり王都の中心にあり、祭り等のイベントも多く、規律さえ守っていれば外出も可能。
侍女の部屋も庭もある個室が私の居室になります。
ジョアン様の考えを知ってから修道院を変え寄付の額を釣り上げました。
公爵家の娘の為の準備でしたから。
いつものことですが、ジョアン様は私の出した書類にろくに確認もせずにサインされました。
読んでいれば、公爵家の資産全てを抵当にお金を作ったことがわかったでしょうに。
一度教会に寄付したお金は決して返されることはないのです。
明後日の支払いをしないと、工場が、来週の支払いをしないと別邸が、来月の支払いをしないと領地の半分が無くなりますが、大丈夫でしょうか。
唯一抵当に入っていないジョアン様の個人資産である義母から引き継いだ山荘をうまく活用できたら何とかなるのですが、気がつくでしょうか。

侍女と私を乗せた馬車は、15分ほどで修道院につきました。
まあ今となっては、私の知るところではありません。
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