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三吉の家で1番の早起きはお母だ。
いつも三吉が起きた時には、朝飯の支度が大方できている。
朝飯を作ると洗濯。
三吉はいつも感心している。
どうしたら毎朝そんなに早く起きることができるのか、三吉に気づかれることなく飯の準備ができるのか。
三吉が歩くとガタガタ音が鳴る床板もお母は鳴らさない。
大人になったら三吉もできるんだろうかと思う。
三吉が起き出したのに、お母は気がついてしっと口に手を当てた。
まだ、お父と一太が寝ていた。
一太は昨日三吉が寝た時は未だ帰っていなかった。
いつ帰ってきたのだろうか。
そっと布団を抜け出して、上り框まで這っていく。
うまく2人を起こさなかったようだ。
外が未だ薄暗いのと、お母の手に研いだばかりの米があるので三吉はいつもよりうんと早く目が覚めたようだった。
お母が竈門の準備を始めるのをぼんやりとみていた。
「もうすこし寝ていてもいいんだよ」
お母が小声でいうが、三吉はうーんと唸っているだけだった。
三吉は、起きてもしばらくはぼーっとするタイプである。
お母が米を炊く支度を終えた頃、やっと三吉の頭が動き出した。
手際良く汁と漬け物の準備を始めるお母の手は一時も止まらない。
物を作り出す職人としてのお父の手も好きだが、家事をするお母の手も好きだ。
そういえば、お父はなんで職人になったんだろう。
お母はなんで惣菜屋で働いてるんだろう。
一太は、おふねは。
知らないことがたくさんある。
「ねえ、お母はなんで惣菜屋で働いてるの」
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