今日は。

桜海 ゆう

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今日は専業主婦

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  プツッと頭の中で何かが切れる音がした。脳梗塞ではない。カナの家系は血管で亡くなった親族は1人もいない。


  「だから、仕事で疲れてんだよお、夕飯くらい作っとけよ、外で食ってくるわ」
  会社から帰宅した夫が、またスーツを着直す。


   結婚して15年目、同じ38歳、娘のハナ12歳。専業主婦歴14年。ハナを妊娠、出産してから家事育児を一手に引き受けた。


   夫は、皿を洗えばシンクが水びたしだろうが、ゴミを出せば燃えるゴミの日に燃えないゴミをだそうが、娘の散歩に付きあっただけでイクメンで、家事だという。


   カナがキレる5秒前、娘のハナが「ヤバッ」と言って自分の部屋に入ったのは正確。


   「何が、夕飯よ!今日はハナの学校の集まりがあるから遅くなるってLINEしたじゃない!私は、あんたのお義母さんじゃないのよっ!」
   夜の9時。小さなアパートに響く声がカナの腹から唸り響いた。

  
    呆気にとられている夫を尻目に、カナは小さな旅行カバンを出して2、3日分の服とお金をカバンに突っ込む。


   「おい・・・」
  弱々しく話しかける夫を無視して、ハナの部屋の前に3万ほど入れた封筒をドアの隙間から入れる。

  「お母さん、少し出てくから!お金は置いてくから!ハナはちゃんとやりなさいよ!」
     部屋の中から、は~いと余裕のある返事。


   夫は明日から3連休だ。私だって休みのない家事育児を休みたい。カナは勢いよく家を出た。


   バタン!と言うドアの閉まる合図が夫の3連勤ともしらず。


   カナの行くあては、独身で働いている高校からの友人サナ。


   「珍しいね。遊びにくるの」
 サナの家に向かう途中でLINEをしたら、3日泊めてくれると返信がきた。

 
   「どうせだったら、ハナちゃんも連れてくれば良かったのに。でも、独りもいいか」
   そう言ってサナは、カナにビールをだした。

   「何であんなのと結婚したんだろう・・・」
      カナの瞳から涙がぽろぽろ流れてくる。


   3日間、娘のハナのLINEはやり取りしたが、夫のは全て未読スルーした。

   

   サナの家で、時間も気にせず、料理も作らず、家事もしないで、2人で映画を見たり、近所に出来たカフェに行ったり、久しぶりの休みを楽しんだ。


  夫は置いておくにしても、娘は反抗期でも可愛い。しぶしぶ家に帰る。


  帰宅するとカナは、呆然とした。


  シンクは皿の山、洗濯物は洗って干したまま山、あちらこちらのドアは明けっぱなし・・・。


    リビングの真ん中で、クマを作って正座している夫。


   「ハナは?」
 娘の部屋を見るといない。

    「2日目でお父さんとの生活は、耐えられないと言ってお友達のルナちゃんの家です・・・ごめん」
     ぷっとカナは思わず吹き出してしまった。娘にも見限られたのか。


   「しょうがないなあ・・・あなたはハナを迎えに行って、菓子折り忘れないでよ」 
    ヨタヨタと夫は立ち上がり、はいと小さく呟いた。

   「俺のシャツは・・・」
 タンスから2段目とカナが言うと半泣きになった。


   しばらくは、良いお灸になるだろうが、またもとに戻るだろう。


   繰り返していくしかない。カナは腕まくりをして、いつもの10倍は増えた家事にとりかかった。

  ハナからLINEがきた。

 【お母さんがいない間、お父さん退職した老人みたいに役にたたない(笑)】

   思わず微笑んだあと、カナは山となったお皿を洗い始めた。

    
    
    
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