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引きこもりリス②
しおりを挟む「で、なんで20年も引きこもってたの~?」
ルリが、今日はお天気ですね♪のノリで話す。
「がふはっ、おい、ルリ」
50席以上はある社員食堂には、俺とルリとカシマたんの3人しかいない。思わず俺は、ノンカフェインのワインを吹き出した。
窓際のテーブルを挟んで、目の前ににはいまだにガタガタ震えてるカシマたんと、モグモグとワンプレートのフレンチのランチを食べだしたルリがニコニコしている。
「あの、友人が失礼で申し訳ありさません・・・」
社内見学の時は、一瞬しか目を合わせなかったカシマたんが、じっとこちらを見た。
「いいぇ・・・事実ですしぃ・・・改めまして、カシマと言いますぅ」
語尾が煙のように小さくなっては消えていく。ルリには人との壁がない、空気もなければ遠慮もない。
そのおかげで、俺は4年間キャンパスライフをぼっちで過ごさなくてすんだが。
「ルリさんは、マリネ社長の姪っ子さんなんですよねぇ?」
ビシソワーズを一口カシマたんが飲み、勢いをつけたのかルリにむかって話しだした。
「そう、そう♪私はパパの会社に入社するんだけど、ここ家みたいなもんだから♪」
モグモグ食べながらルリは器用に話す。
「20年前、私は高校生で、学校でイジメにあってぇ・・・」
話すのかと思いつつ、俺もルリも黙った。見た目よりずいぶん若い。30代後半というところか。
「学校にも行けず、進学校だったので勉強にもついていけず、イジメられてから、人も怖くなってぇ・・・退学して、引きこもりをしてぇ・・・20年」
カシマたんの震えがいつの間にか、止まっている。
「うん、うん。イジメてる奴らに精神疾患があるって叔母さんが、海外出張よく行くから言ってたよ♪カシマたんに問題があるんじゃなくて、イジメてる奴らが問題抱えて、ゆがんでんの♪」
さすが金持ちの娘、勉強は出来ないが世界は知っている。
「家族にも見放されそうになった時にぃ・・・引きこもって、パソコンでゲームアプリを作っていたら、ある日、家に社長が突然きて、内定、合格!と・・・」
フットワークの良さとパワフルさがマリネさんらしい。
「おかわりしてこっ♪」
ルリが話をふっておきながら、厨房に走り出したがカシマたんは、話を続けた。
「最初は、家で仕事を任されてぇ、毎日、社長が朝にくるものである日、社長の車に乗ったら、朝の世界が美しかったんです」
思わず、俺は息をのんだ。
マリネさんは、1人の暗闇の世界を美しさに変えたのだ。
「それから、車の免許をとって出社するようになったら、この会社、どのフロアを使っても良いと言われて、野田さんも見学した、私1人のフロアで、仕事をしてますぅ」
一気にカシマたんは、話すと下を向いて黙々とフレンチを食べだした。
「そっか、そっか~♪カシマたん、大変だったね!バイキングのケーキ持ってきた♪」
ろくに話しも聞いていないルリが、10個以上の小さなケーキを持ってきた。
その横で、ガタガタ震えていたリス、否、カシマたんは、小さく微笑んでいた。
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