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領主テツヤ
19:幕間
「それで、何も得ずにおめおめと戻ってきたわけか」
その言葉にカドモイン領外縁警護部隊西方部隊長コダノ・ハッセーの体が痙攣でも起こしたように震えた。
「も、申し訳ありません!ただトロブに新しくやってきた領主がただならぬ力を持っておりまして、あのままではただでは済まぬことになっていたかと思い……」
コダノが現在いるのはカドモイン領主の屋敷だ。
石造りのそれはもはや屋敷というよりは城だった。
しかもただ権力を誇示するための城ではなく戦略拠点としての機能を備えた城郭だ。
その中の謁見の間にコダノ含め外縁警護部隊西方部隊全員が集められている。
ゴルドの王城に匹敵するほどの大きさでありながらまるで人の気配がせず、沈黙が城全体を包んでいる。
コダノにはそれが尚のこと恐ろしかった。
碌なことにはならない、招集命令が下りた時から嫌な予感はしていたが今まさにそれが現実となってコダノの背中にのしかかっていた。
「新領主、確かテツヤとか言ったな。ランメルスの謀反を防いだという」
謁見の間の奥にある領主の座から深い声が響いてきた。
その声にコダノの顔から汗が吹き出して床に滴り落ちる。
カドモイン領主、リード・カドモイン辺境伯。
フィルド王国で国王の次に力を持っていて影では第二の王とすら呼ばれている。
しかしコダノが恐れているのはその地位と権力のせいではなかった。
コダノが恐れているのは最近特に顕著となってきているカドモインの変貌だ。
以前から厳しい領主ではあったけど常識や分別はわきまえている名領主と誉れ高い人物であり、コダノもカドモイン辺境伯の下で働いていることを誇りに思っていた。
しかしこの一年ほどでカドモイン辺境伯はすっかり変わってしまった。
カドモインは不可能とも思える税を課し、従わないものは容赦ない罰則を与えた。
領主の命によって処刑された領民の血で大地は赤く染まり、人々は葬儀をあげる事もできずに乱雑に谷に投げ込まれ、埋められていった。
民はすっかり縮こまり、今ではまるで肉食動物におびえるげっ歯類のように身を潜めて暮らしている。
抗議の声は力で握りつぶし、国王への嘆願も秘密裏に処理しているという噂が流れていた。
そして何より恐ろしいのはカドモイン辺境伯自身の変化だった。
偉丈夫だった体は幽鬼のようにやせ細り、それでも眼だけはまるで猛禽のような迫力を増している。
カドモイン辺境伯は変わられた、誰もがそう思っていたが、それを指摘することすらできなかった。
次は自分の番だ。屋敷に呼ばれた時にコダノは半ばそう覚悟していたが、いざその時が来ると体の震えが止まらなかった。
「所詮凡人にはあの程度の命令もこなせぬか」
ゆらりとカドモイン辺境伯が立ち上がった。
ゆっくりとコダノたちに近づいていく。
「お、お許しください、辺境伯様!次は、次こそは一命に変えましてもトロブを制圧いたしますので!」
コダノは涙を流しながら必死に懇願した。
「貴様らには何も期待しておらん」
カドモインの痩せた手がコダノに伸びた。
「ひいいぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」
城の中にコダノたちの絶叫が木霊した。
◆
謁見の間にはカドモインしかいない。
コダノたちは既に影も形もなかった。
「リュースからの連絡もない、やはり所詮はあの程度の奴だったか」
誰もいない広間の中でカドモインは独りごちた。
「まあいい、次の準備は整っている」
その言葉にカドモイン領外縁警護部隊西方部隊長コダノ・ハッセーの体が痙攣でも起こしたように震えた。
「も、申し訳ありません!ただトロブに新しくやってきた領主がただならぬ力を持っておりまして、あのままではただでは済まぬことになっていたかと思い……」
コダノが現在いるのはカドモイン領主の屋敷だ。
石造りのそれはもはや屋敷というよりは城だった。
しかもただ権力を誇示するための城ではなく戦略拠点としての機能を備えた城郭だ。
その中の謁見の間にコダノ含め外縁警護部隊西方部隊全員が集められている。
ゴルドの王城に匹敵するほどの大きさでありながらまるで人の気配がせず、沈黙が城全体を包んでいる。
コダノにはそれが尚のこと恐ろしかった。
碌なことにはならない、招集命令が下りた時から嫌な予感はしていたが今まさにそれが現実となってコダノの背中にのしかかっていた。
「新領主、確かテツヤとか言ったな。ランメルスの謀反を防いだという」
謁見の間の奥にある領主の座から深い声が響いてきた。
その声にコダノの顔から汗が吹き出して床に滴り落ちる。
カドモイン領主、リード・カドモイン辺境伯。
フィルド王国で国王の次に力を持っていて影では第二の王とすら呼ばれている。
しかしコダノが恐れているのはその地位と権力のせいではなかった。
コダノが恐れているのは最近特に顕著となってきているカドモインの変貌だ。
以前から厳しい領主ではあったけど常識や分別はわきまえている名領主と誉れ高い人物であり、コダノもカドモイン辺境伯の下で働いていることを誇りに思っていた。
しかしこの一年ほどでカドモイン辺境伯はすっかり変わってしまった。
カドモインは不可能とも思える税を課し、従わないものは容赦ない罰則を与えた。
領主の命によって処刑された領民の血で大地は赤く染まり、人々は葬儀をあげる事もできずに乱雑に谷に投げ込まれ、埋められていった。
民はすっかり縮こまり、今ではまるで肉食動物におびえるげっ歯類のように身を潜めて暮らしている。
抗議の声は力で握りつぶし、国王への嘆願も秘密裏に処理しているという噂が流れていた。
そして何より恐ろしいのはカドモイン辺境伯自身の変化だった。
偉丈夫だった体は幽鬼のようにやせ細り、それでも眼だけはまるで猛禽のような迫力を増している。
カドモイン辺境伯は変わられた、誰もがそう思っていたが、それを指摘することすらできなかった。
次は自分の番だ。屋敷に呼ばれた時にコダノは半ばそう覚悟していたが、いざその時が来ると体の震えが止まらなかった。
「所詮凡人にはあの程度の命令もこなせぬか」
ゆらりとカドモイン辺境伯が立ち上がった。
ゆっくりとコダノたちに近づいていく。
「お、お許しください、辺境伯様!次は、次こそは一命に変えましてもトロブを制圧いたしますので!」
コダノは涙を流しながら必死に懇願した。
「貴様らには何も期待しておらん」
カドモインの痩せた手がコダノに伸びた。
「ひいいぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」
城の中にコダノたちの絶叫が木霊した。
◆
謁見の間にはカドモインしかいない。
コダノたちは既に影も形もなかった。
「リュースからの連絡もない、やはり所詮はあの程度の奴だったか」
誰もいない広間の中でカドモインは独りごちた。
「まあいい、次の準備は整っている」
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