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世界を喰らうモノ
31.ローカスの惨状
翌日、俺はヘルマとアディルを含めた調査隊を連れて空を飛んでいた。
向かう先はローカスだ。
「これは便利なものじゃな」
空を飛ぶ荷台に乗ってアディルは無邪気にはしゃいでいる。
結局なし崩し的に協力することになってしまった。
「仕方があるまい。現状最も早くローカスに到達できるのは貴様しかいないのだ」
俺の横でヘルマが真面目な顔で話しかけてきた。
「陛下は貴様の力を大層買っている。その期待に応えるのだ」
「好き勝手言ってくれちゃって。俺を参加させたのだってただの好意からじゃないくせに」
ゼファーのことだ、俺をベルトラン帝国の政治に関わらせることでこの国により深く入り込ませる狙いがあるに違いない。
それでも今回はその機会を利用させてもらうしかなかった。
それくらい嫌な予感がする。
「なんだあれは?」
ヘルマが遥か先を見て訝しげな声をあげた。
「何って、何も見えな…」
俺の声はそこで止まった。
遥か彼方、地平線がかすみそうな先に何か黒い雲のようなものが見える。
「まさか…」
氷でできた虫が這うような感覚が背筋を登ってくる。
「嘘だろ…」
近づくにつれそれは更にはっきりとした形を作っていった。
黒い雲のように見えたもの、それは想像を絶する数の蝗の群れだった。
文字通り地平線を覆いつくすほどの数だ。
空を覆う群れの高さは数百メートルを超えている。
「…馬鹿な…ローカスはまだ遥か先だぞ」
ヘルマも言葉を失っている。
不意に周囲が暗くなった。
蝗の群れの中に突入したのだ。
群れがベルトランの強い日光をも遮っている。
蝗はありとあらゆるものに取り付き、その大きな顎で貪れるものは全て貪っていた。
草木はおろか倒木すらも食い尽くす勢いだ。
「あれをみるのじゃ!」
アディルが指差した先には一軒のあばら家が建っていた。
いや、蝗に食い尽くされてあばら家同然となっているのだ。
俺たちが見ている中でその家は支えを失って崩れ落ちた。
「クソッ!」
俺は地面から土砂の塊を浮かび上がらせて蝗の群れに叩き込んだ。
散弾の如き土砂が群れの中にぽっかりと穴を開ける。
しかしそれも束の間ですぐに他の蝗がその穴を埋めていった。
「畜生!」
何度も何度も土砂を打ち出すがまさに焼け石に水、蝗の群れは全く減る様子がない。
「止めておけ」
ヘルマが俺の肩を掴んだ。
「今は調査をする時だ。貴様の魔力を無駄なことで浪費させてはいかぬ」
「…クソ」
無力感が両肩にのしかかる。
空を埋め尽くす蝗の群れが響かせる不気味な羽音が辺りを包んでいた。
◆
「報告します。ローカスは既に蝗によって壊滅状態であり、その群れは風に乗ってこちらへと向かってきています。その数は……およそ五千億匹と予想されます」
静まりかえった円卓にヘルマの声が淡々と響き渡る。
「その範囲はおよそ二百キロ四方、おそらく一月も経たずにここガルバジアへ到達すると思われます」
誰も言葉を発しない。
ヘルマの報告があまりに非現実すぎて把握できないのだろう。
しかしそれはまぎれもない事実だ。
俺たちははっきりとその光景を見てきたのだから。
「終わりだ」
誰かがポツリと呟いた。
無言の同意が辺りを包んでいた。
正直俺にもどうしていいのか分からなかった。
あれだけの規模では俺の力をもってしてもどうにもならないだろう。
まさしく天変地異の力が必要になる。
「あの~」
そこに手を上げる者がいた。
内務次官のヒラロスだ。
「火も効かないというのなら局地滅術式を使っては?」
「馬鹿な!」
「ヒラロス、それは暴言どころの話ではないぞ!」
「禁術を、しかも国内で使うなど!」
ヒラロスの言葉に円卓が色めき立った。
「なあ、局地壊滅術式ってなんだ?」
俺は隣にいたヘルマに聞いてみた。
珍しくヘルマが忌まわしいものでも見るようにヒラロスを睨んでいる。
「局地壊滅術式というのは魔導士による集団術式の秘奧だ。その名の通り一定領域を灰燼に帰す威力を持っている。その威力は魔導士の数によって変わるのだが今回の蝗害の範囲となるとおそらく数千から一万名の魔導士が必要になるだろう」
ヘルマが言葉を続けた。
「問題は範囲内の生物は全て犠牲になるということ。術式に参加した魔導士の損耗率が五割を超えるということだ」
「五…!」
俺は言葉を失った。
住人は避難できるとしても魔導士の方はほぼ決死隊じゃないか。
「故に我が国でも禁術とされている。歴史上でも使われたのはミネラシア大戦時だけだと言われている」
「そんなものを使ったらベルトランは…」
ヘルマが頷いた。
「我が国の国力は著しく落ちるだろう。周辺の敵対する国がその機を逃すとは思えない」
冗談じゃない、それじゃあ蝗に食い尽くされるのと大して違いがないじゃないか。
あのヒラロスとかいう男、涼しい顔をしてとんでもない事を言いやがる。
「しかし他に手はありますか?被害は確かに小さくはない、私とて内務次官として我が国土と国民に自ら手をかけるのは断腸の思いです。しかし他に手はない、違いますか?」
ヒラロスは飄々と話を続けている。
「…まだ結論を出すのは早い」
しばらくの沈黙ののちにゼファーが口を開いた。
「しかし最悪のケースだけは避けねばなるまい。魔導執政官よ、魔導士の選別をしておくのだ」
「仰せのままに」
白髭の魔導執政官が首を垂れる。
重い空気が円卓を包んでいた。
向かう先はローカスだ。
「これは便利なものじゃな」
空を飛ぶ荷台に乗ってアディルは無邪気にはしゃいでいる。
結局なし崩し的に協力することになってしまった。
「仕方があるまい。現状最も早くローカスに到達できるのは貴様しかいないのだ」
俺の横でヘルマが真面目な顔で話しかけてきた。
「陛下は貴様の力を大層買っている。その期待に応えるのだ」
「好き勝手言ってくれちゃって。俺を参加させたのだってただの好意からじゃないくせに」
ゼファーのことだ、俺をベルトラン帝国の政治に関わらせることでこの国により深く入り込ませる狙いがあるに違いない。
それでも今回はその機会を利用させてもらうしかなかった。
それくらい嫌な予感がする。
「なんだあれは?」
ヘルマが遥か先を見て訝しげな声をあげた。
「何って、何も見えな…」
俺の声はそこで止まった。
遥か彼方、地平線がかすみそうな先に何か黒い雲のようなものが見える。
「まさか…」
氷でできた虫が這うような感覚が背筋を登ってくる。
「嘘だろ…」
近づくにつれそれは更にはっきりとした形を作っていった。
黒い雲のように見えたもの、それは想像を絶する数の蝗の群れだった。
文字通り地平線を覆いつくすほどの数だ。
空を覆う群れの高さは数百メートルを超えている。
「…馬鹿な…ローカスはまだ遥か先だぞ」
ヘルマも言葉を失っている。
不意に周囲が暗くなった。
蝗の群れの中に突入したのだ。
群れがベルトランの強い日光をも遮っている。
蝗はありとあらゆるものに取り付き、その大きな顎で貪れるものは全て貪っていた。
草木はおろか倒木すらも食い尽くす勢いだ。
「あれをみるのじゃ!」
アディルが指差した先には一軒のあばら家が建っていた。
いや、蝗に食い尽くされてあばら家同然となっているのだ。
俺たちが見ている中でその家は支えを失って崩れ落ちた。
「クソッ!」
俺は地面から土砂の塊を浮かび上がらせて蝗の群れに叩き込んだ。
散弾の如き土砂が群れの中にぽっかりと穴を開ける。
しかしそれも束の間ですぐに他の蝗がその穴を埋めていった。
「畜生!」
何度も何度も土砂を打ち出すがまさに焼け石に水、蝗の群れは全く減る様子がない。
「止めておけ」
ヘルマが俺の肩を掴んだ。
「今は調査をする時だ。貴様の魔力を無駄なことで浪費させてはいかぬ」
「…クソ」
無力感が両肩にのしかかる。
空を埋め尽くす蝗の群れが響かせる不気味な羽音が辺りを包んでいた。
◆
「報告します。ローカスは既に蝗によって壊滅状態であり、その群れは風に乗ってこちらへと向かってきています。その数は……およそ五千億匹と予想されます」
静まりかえった円卓にヘルマの声が淡々と響き渡る。
「その範囲はおよそ二百キロ四方、おそらく一月も経たずにここガルバジアへ到達すると思われます」
誰も言葉を発しない。
ヘルマの報告があまりに非現実すぎて把握できないのだろう。
しかしそれはまぎれもない事実だ。
俺たちははっきりとその光景を見てきたのだから。
「終わりだ」
誰かがポツリと呟いた。
無言の同意が辺りを包んでいた。
正直俺にもどうしていいのか分からなかった。
あれだけの規模では俺の力をもってしてもどうにもならないだろう。
まさしく天変地異の力が必要になる。
「あの~」
そこに手を上げる者がいた。
内務次官のヒラロスだ。
「火も効かないというのなら局地滅術式を使っては?」
「馬鹿な!」
「ヒラロス、それは暴言どころの話ではないぞ!」
「禁術を、しかも国内で使うなど!」
ヒラロスの言葉に円卓が色めき立った。
「なあ、局地壊滅術式ってなんだ?」
俺は隣にいたヘルマに聞いてみた。
珍しくヘルマが忌まわしいものでも見るようにヒラロスを睨んでいる。
「局地壊滅術式というのは魔導士による集団術式の秘奧だ。その名の通り一定領域を灰燼に帰す威力を持っている。その威力は魔導士の数によって変わるのだが今回の蝗害の範囲となるとおそらく数千から一万名の魔導士が必要になるだろう」
ヘルマが言葉を続けた。
「問題は範囲内の生物は全て犠牲になるということ。術式に参加した魔導士の損耗率が五割を超えるということだ」
「五…!」
俺は言葉を失った。
住人は避難できるとしても魔導士の方はほぼ決死隊じゃないか。
「故に我が国でも禁術とされている。歴史上でも使われたのはミネラシア大戦時だけだと言われている」
「そんなものを使ったらベルトランは…」
ヘルマが頷いた。
「我が国の国力は著しく落ちるだろう。周辺の敵対する国がその機を逃すとは思えない」
冗談じゃない、それじゃあ蝗に食い尽くされるのと大して違いがないじゃないか。
あのヒラロスとかいう男、涼しい顔をしてとんでもない事を言いやがる。
「しかし他に手はありますか?被害は確かに小さくはない、私とて内務次官として我が国土と国民に自ら手をかけるのは断腸の思いです。しかし他に手はない、違いますか?」
ヒラロスは飄々と話を続けている。
「…まだ結論を出すのは早い」
しばらくの沈黙ののちにゼファーが口を開いた。
「しかし最悪のケースだけは避けねばなるまい。魔導執政官よ、魔導士の選別をしておくのだ」
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重い空気が円卓を包んでいた。
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※2017/8/29 連載再開しました!