追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道一人

文字の大きさ
6 / 37

6.火刑執行

しおりを挟む
城の前の広場に人が集まっている。
こんなに集まっているのは魔王討伐の時以来だろう。

あの日、大衆の注目を集めていたのは勇者アポロニオと僧侶にしてこの国の姫君サラだった。
しかし今は違う。
この日、注目を一身に集めていたのはテオだった。
そしてそのテオは木で作られた十字架にかけられ、火刑を待つ身だった。
十字架の下には柴と薪がうずたかく積まれ、火をかけられるのを待っている。
隣では未だ眠ったままのルーシーもテオと同じように十字架にかけられていた。

「まさか魔道士テオフラスが魔族に魅入られていたとはね」

「いや、俺はやっこさんはそうだと思ってたよ!見ろよ、あの目を!全然こりてねえって感じじゃねえか!」

「国王様もお辛いだろうねえ。勇者と一緒にこの国を救った魔道士がまさか魔族と通じていたなんて」

「おい、早く火を点けねえのか!こちとら仕事が待ってんだ!」

心無い大衆のヤジもテオの耳には響いていなかった。
まるで他人事のように自分の境遇を見ていた。
自分がこれから死ぬのが実感できなかった。

横にいるルーシーにちらりと目をやる。
せめて、せめてあの子だけでも逃がしてやりたい。

彼女はテオが作った最高傑作、いや、テオにとっては娘といってもよかった。

しかし首に千人の魔道士が千日かけて魔力を込めた絶対封魔具、千魔封力枷バイサウザントがかけられていては火球ファイアボール一つ撃つこともできない。

「これより、神意冒涜者サクリレッジテオフラス・ホーエンとその創造物ホムンクルスを火刑に処す!」
テオの願いもむなしく、衛兵が大声で宣言すると十字架の下の柴に火を放った。
油をまかれた柴はすぐに火が付き、真っ黒な煙と共に赤い舌のような炎を伸ばしていく。

「こんなこと、こんなことが許されていいものか!真理を探究して何が悪いんだ!真理の追究こそが人の本質だ!」
テオはあらん限りの力を込めて絶叫した。

全てが許せなかった。

火刑を言い渡した国王も、自分を見殺しにしたアポロニアもサラも、自分を陥れたモブランも、この国の全てが。

しかしそんなテオの怒りなど意に介さず炎は勢いを増していく。
息が苦しくなり、気が遠くなっていく。
ここで死ぬのか、こんなことで自分の命はついえてしまうのか……

「クク、クククク、クククククク、クハハハハハハハハハハハハ!!!!」
その時、テオの耳に笑い声が聞こえてきた。

ぼんやりした頭で声のした方を見ると、そこには口を開けて哄笑するルーシーの姿があった。

「ハハハ、ハハハハハハ、ハァーハッハッハッハッハッハ!!!!!!」
遂に目を覚ましたルーシーは気でも狂ったかのように笑っている。

「ハハッ!目を覚ましたと思ったら火刑の真っ最中とはな。全く愉快な事よ!」
言うなりルーシーは己の拘束を破壊した
手足にはめられていた金属の枷がまるで紙細工のように砕け飛ぶ。
そのままルーシーは十字架の上に駆け上った。

周囲で驚愕の表情を浮かべる衛兵と大衆を満足そうに見下ろす。

「なんじゃ、テオ。お主も火刑に処されておったのか」
横にいるテオに気付くとまるで昔の旧友にあったかのように笑いかけてきた。
そしてそのままひょいとテオの十字架に飛び乗った。
そして上から覗き込むようにテオの顔を見つめる。

「貴様、そんなところにいつまでもいると死ぬぞ?」

「……ル、ルーシー……なのか?」

「ルーシー?誰だそれは?ああ、貴様がこの者に付けた名前なのか。ふむ、それも悪くないな」

ルーシーはくるりと体を回転させるとテオに向き直り、足をテオの胴体に絡めた。

「それよりもほれ、さっさと逃げださんと人の身である貴様は死んでしまうぞ?」
そう言ってからルーシーはテオの首にはめられた千魔封力枷に気が付いた。

「なんじゃこんなもの、さっさと破らんのか?さては貴様、まだこれを使いこなせておらんのか?」
そう言ってテオの胸に埋め込まれた汎魔録晶ライブラリをつつく。

「仕方がないのう、少し我の力を分けてやる」
そういうなり、ルーシーはテオの唇の唇を重ねた。

「?」
唇が触れ合った瞬間、テオの体に膨大な魔力が流れ込んできた。
同時に胸の汎魔録晶ライブラリが弾けるような感覚がテオを襲う。

そして膨大な量の魔法知識が脳へ流れ込んできた。

それは幾千、幾万年もかけて魔王の間で研鑽されてきた知識だった。

人間が研究してきた魔法など比べようもない、この知識に比べたら大海と水滴を比較するようなものだ。

あまりの知識の量に脳が破裂するのではないかと思えるほどだった。
事実、テオの脳は処理が追い付かず、機能不全を起こす直前だった。


「うぐあああああああああああっっ!!!!」

テオが絶叫した。
汎魔録晶ライブラリから伸びる紋様が全身を包み込む。
体中を魔力が駆け巡り、テオの首にはめられていた千魔封力枷が砕け飛んだ。

テオの体から放たれた魔力の奔流で足元で燃え盛っていた炎が一瞬で鎮火する。

全身の力が抜けテオは頭をがくりと垂れた。
体中を覆っていた紋様が徐々に消えていく。

「馬鹿な!千魔封力枷バイサウザントが!?」

「一万度の炎にも耐えられる聖魔具だぞ!」

「しかも炎まで消えたぞ!」

「悪魔だ!あの二人は悪魔だ!」


騒然となる衛兵と大衆を意に介さず、ルーシーはテオの髪を掴んで持ち上げた。

「ふむ、耐えきったか。やはり貴様は我の見込んだ通りの男よ」

「き……君はまさか……」
息も絶え絶えにテオが呟く。
あの時、唇を重ねて流れ込んできた魔力にテオは覚えがあった。

その言葉にルーシーがにやりと笑う。

「おうよ。我こそ貴様と戦い、貴様に敗れ、そして貴様の手によって蘇った魔王ルシファルザスよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...