追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道一人

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7.脱走!インビクト王国

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「何をしている!さっさとあの二人を殺せ!矢だ!矢を射ろ!槍を投げろ!」

足下では衛兵たちが慌てふためいている。

「撃て!撃て!撃てぇ!」

二人に向かって何十という矢が、槍が降り注いでくる。

その時、二人の目の前に影が降ってきた。
瞬く間に矢が、槍がその影によって叩き落される。

それは、一人の魔族だった。

背中まで垂れた燃えるような赤い髪、菫色の肌、そして背中から蝙蝠の羽が生えている。
身につけているのは胸部と胴部を申し訳程度に覆う鎧と革で出来たぴったりしたレオタード、同じように革で出来たロンググローブとロングブーツのみだ。
両手に細身のロングソードを手にしている。

テオはその魔族に見覚えがあった。
魔王ルシファルザスの側近中の側近、吸魔族サキュバスのメリサだ。

「ま、魔族だ!魔族が襲ってきたぞ!」
「逃げろ!魔族だ!みんな殺されるぞお!」
「早く魔道士を呼んで来い!衛兵隊、何をしている!さっさと攻撃せんか!」
魔族のメリサを見て大衆は一気にパニックになった。
逃げ惑う人々に圧倒され、衛兵も身動きできないでいる。

その隙にメリサはテオに振り返り、テオの手足に付けられていた金属の枷を素手でむしり取った。
「貴様を助けに来た。我々と共に来てもらうぞ」

「ほう、メリサではないか。久しいな」

ルーシーが懐かしそうに呼び掛けた。
今はテオの十字架の頭上に腰かけている。

「なんだ、貴様は?お前のような者に見覚えはないぞ?」
メリサは訝し気にルーシーを睨みつける。

「ふん、我を忘れるか。ならば我の魂を見よ、さすればいかな貴様とて思い出すであろう」
そう言って紫の光彩を光らせてメリサをねめつけた。

メリサはしばしルーシーを見つめ、急に電撃に打たれたように驚愕の表情を浮かべた。
全身をわなわなと震わせる。
「……あ、あなたは、あなた様は……もしや……」
まるでこの世のものではないものを見るようにルーシーを見つめている。
その眼に涙が溢れてきた。

「ようやく気付いたか。だが感動の再開は後回しよ。さっさとこの場を何とかせよ」
「……は、ははっ!」

ルーシーの言葉にメリサは我に返り、衛兵の方に振り向いた。
そしてこちらに弓を向ける衛兵たちを睨みつける。
その途端、衛兵たちが不意に狼狽え始めた。

「うわあ、火が!火が俺の体に!」
「蛇だ!蛇が出たぞ!凄い数の蛇が!こっちに来るなあ!」
「助けてくれえ!」

吸魔族の得意技、幻惑視ファントムビジョンだ。
その隙にメリサが鋭く指笛を鳴らす。

その音を合図に巨大な影が頭上から降ってきた。

飛竜だ。

メリサがテオを抱えて飛竜に乗り込み、ルーシーがそれに続いた。

「さて、貴様はどうする?」
飛竜に乗り込んだところでルーシーがテオに聞いてきた。
「今の貴様ならここにいる人間共をまとめて葬り去る事もできるぞ?散々裏切られてきたのであろう?恨みを晴らすなら今だぞ?」


「……いや、いいです」
テオはかぶりを振った。
正直言うとそういう気持ちもないではなかったが、それ以上にこの国、この国の人間にうんざりしていた。
この国に対してはもう何もしたくない、そんな気分だった。

「さっさとこの国から出たい、今はそれだけです」

「……そうか」
ルーシーは頷くとメリサに目配せした。
それを受けてメリサが飛竜の手綱をとる。

飛竜は空高く飛び上がった。

同時に建物の陰から幾頭もの飛竜が現れた。
他の魔族も陰に潜んでいたのだ。

「みんな!撤退だ!」
メリサの号令と共に飛竜は一斉に西を目指して飛翔した。
行き先は……魔界、ミッドランド!

「グリフォン騎兵を出せ!魔族を逃がしたとなれば近衛隊の名折れだぞ!」
「魔道士部隊、出撃だ!」

遅れてやってきた近衛隊が次々とテオ一行の追撃に入る。
グリフォンを駆るグリフォン騎兵が十騎ほどテオたちを追いかけてきた。

「おい、追いつかれるぞ。もっと早く飛べんのか」
「無理言わないでください。ただでさえ飛竜の方が遅いのにこっちは三人も乗ってるんです!」

飛行速度で飛竜に勝るグリフォンはみるみるうちに追いついてくる。

「私に任せてください」
ようやく元気を取り戻したテオが後ろを振り向いた。
魔王の知識で新たに得た詠唱を紡ぐ。

疾風回廊エアロコリドール!」

瞬間、陣形を組んで飛行していた飛竜の周りを猛烈な突風が取り囲んだ。
グリフォンの飛行速度を凌駕する風速を持った空気の壁が瞬く間に飛竜を彼方に運んでいく。

グリフォン騎兵が唖然と見ている間にテオたちは米粒のように小さくなり、やがて地平線の彼方に消えていった。



「ここまで来ればもう大丈夫でしょう」
メリサがそう言ったのは魔界との国境近くに来た時だった。
飛竜を乗り継いでもも三日かかる距離を僅か一時間足らずの間に飛んできたのだ。

テオは魔法を解いた。
自分でも信じられないほどの力だった。

「主様~~~~っ」
安全を確認するや否や、メリサがルーシーに抱きついた。

「まさか、まさか生きておられるとは!このメリサ、感動に滂沱の涙が止まりません!しかもこんな……こんな愛くるしい姿になられて!私は!私はもうっ!」

そう叫びつつルーシーの体に顔を擦り付ける。

「こらっあまりしがみつくな!苦しい!離れんか!」

「離れませぬ!離れませぬ!メリサはもう!メリサはもうっ!」

「離れろと言っておろうがっ!あっ貴様まさか我の精を、……え~い、いい加減にしろ!」

頭をどつかれ、しぶしぶ離れるメリサ。

「まったく、主の精を勝手に吸おうとはふてぶてしい奴め」
「そんな~昔はあんなにお情けをいただけたのに~」

そんな二人のやり取りをよそにテオは一人これからのことを考えていた。
もはやインビクト王国に自分の居場所はないだろう。
火刑宣告を受けた上に処刑の場から逃げ出してしまったのだ。

「おい、魔道士」
そんなテオにメリサが声をかけてきた。

「我々は親切心で貴様を助けたわけではない。主様はこうなる事を予見しておられたのだ。そして万が一の時は主様の核晶と貴様を魔界に連れてくるように我々に指示していたのだ」
「……それはつまり……」
「そう、主様を復活させるために貴様を助け出したのだ。もっとも既に貴様はそれを行っていたようだがな」

納得がいった。
何故あの場にメリサたちがいたのか、全てはテオを魔界に拉致するためだったのだ。

「貴様があの屋敷にいる時は様々な結界に邪魔されていたが、火刑のために広間に連れ出されたのは好都合だった」
メリサが言葉を続ける。

「しかし、これで我々の最終的な目標は果たされた。貴様は我々にとって既に用済みというわけだ。主様を復活させた貴様を殺すような真似はせんが、貴様はどうしたい?何か望むことはあるか?」



「……一つ、行ってほしい場所があるのですが、いいですか?」
しばし逡巡した後にテオは口を開いた。





「おい、ここへ戻ってきても元の生活に戻る事はできんぞ?」
「わかっています」

テオたちがいるのはボーダーズにあるテオの屋敷の上空だった。
他の飛竜は既に魔界に戻り、今いるのはテオ、ルーシー、メリサが乗る飛竜だけだ。

「ここには僕の研究の全てが残っている。ルーシーは寝室にいたから連れ出せただろうけど、地下室の封印はまだ解けていないはず。だったら」
そう言ってテオは右手を屋敷に向けた。
生命探知で屋敷内に人がいないことは確認済みだ。

火球ファイアボール
テオがそう唱えると手のひらから握りこぶし大の火炎の球体が生じ、屋敷へ向かって飛んでいく。


そして屋敷は爆散した。

跡形もなく、木っ端みじんに。

「おー、盛大じゃのう」

「ふむ、思い残しがないように完全に消滅させたわけか。貴様の覚悟、しかと受け取ったぞ」

「は?あれ?」

巨大なクレーターを残して跡形もなくなった屋敷跡を見て感心している二人をよそにテオは自分のしたことに呆然としていた。

火球ファイアボールはもっとも基礎的な呪文でせいぜい大きめの焚火程度の火力しか出ないはず。
屋敷に火をつけ、そこから全焼させる程度の効果を予想していたのだが。

「何を呆けておる。貴様の得た魔王の知識は人族の非効率な魔法とは全く別物よ」
呆れたようにルーシーがたしなめてきた。
今まで使っていた魔法でも魔族の使い方になると威力が桁違いになるのだ。

「ともあれ、意思は既に決まっておるようだな」
そう言ってルーシーはにやりと笑う。

「ええ」
テオもそれに答えた。

「僕は、魔界に行きます」

「よし、ではまず我が城へ行くぞ。メリサ!」

「はっ!」
メリサが飛竜の手綱を取る。

テオたち三人は踵を返し、灰燼と化した屋敷を後に一路魔界へ向かった。
行き先はミッドランド、魔王城だ。
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