追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道一人

文字の大きさ
9 / 37

9.ルーシーとルシファルザス

しおりを挟む
一方その頃の魔王城。

「ずいぶんと荒れ果てたものよのう」

三人は魔王城、かつてはそう呼ばれていた廃墟へと来ていた。
絢爛を誇っていた魔王城も今は崩れ落ち、見る影もない姿になっている。

三人がいるのはかつて魔王とテオが死闘を繰り広げた王の間だ。
ここは特に酷い有様となっていて、天井と壁は崩れ落ち、月明かりが差し込んでいる。

「すいません、私のせいで」
テオが謝った。

「なに、貴様が謝る事ではないわ。楽しい戦いであったしな」
ルーシーはそう言い、奥に残っていた玉座に腰かけた。

「うむ、この座り心地は一年前と同じじゃな。ちと背が小さくなった分座るのは苦労するがな」

「申し訳ありません!」
メリサが跪く。

「主様が倒されたあと、薄情にもみな散り散りになってしまったのです。残されたのは我々吸魔族のサキュバス数名のみ。主様のなきあと、ミッドネアは新たな勢力が多数台頭し、その連中がこの城内を好き勝手荒らしまわっていったのです。我々も何とか守ろうとしたのですが力及ばす……」
そう言って悔しそうに唇を噛む。

「よい」
ルーシーはそう言って玉座から降りてメリサの頭に手を置いた。

「魔界は力が全てよ。それにこの者に敗れた我は既に魔王ではない。しかしお主は我のためにここにいる。それで充分よ」

「今や我がミッドランドは潰えた。我が新たな国を築くにしてもこの程度が丁度良いというものよ」

「あるじさまぁ~」

「こら!どさくさに紛れてしがみつくな!離れろ!精を吸うな!」

「嫌です~離れませぬ~お情けを、お情けを~」

「……まったく、仕方のない奴め。さて、テオ、お主の話をする時が来たようだの?」

涙を流しながら抱きついてくるメリサを手で追いやりながら、ルーシーがテオに話しかけてきた。

テオは頷いた。

聞きたいことが山ほどあるのだ。


「まず、あなたは本当にあの魔王ルシファルザスなのですか?」

「半分当たりで半分外れ、と言ったところだな」
テオの問いにルーシーが答えた。

「我の魂は貴様の作ったこの体の中にあった貴様の作った魂と融合しておる」
ルーシーことルシファルザスは胸に手をあて、言った。

今のルーシーは処刑されるときに来ていた囚人服ではなく真っ白なドレスを着ている。

銀髪で雪花石膏アラバスターのような白肌、真っ白なドレスを着ているため、菫色の瞳と桜色の唇はまるで雪の上に落とした宝石のようだ。

「一年前、貴様らが魔界に来た時から我は貴様のことを観察しておったのよ。そしてわかった。我を倒しうるとしたらそれは貴様だとな」

「むろん我とて負けるつもりはなかったが、万が一に備えて我の魂と記憶を核晶に移しておいたのよ。我が負けた後で貴様に復活させるためにな」
ルーシー/ルシファルザスはにやりと笑った。

「貴様が独力で生命を誕生させることに成功すたのは予想外だったがの。流石は我の見込んだ通りの男よ。魔法による生命製造は代々の魔王すら達しえなかった偉業よ」

「私があなたの核晶を破壊するとは考えなかったのですか?魔王の核晶ならば王国に渡し、厳重に封印される危険だってあったはずなのに」

テオの質問にルーシー/ルシファルザスは鼻で笑った。
「確信しておったよ、貴様はそんなことをしないと。我と貴様はよく似ている。真理の探究のためなら善悪などという些末な倫理に囚われない者だとな」

テオは納得するしかなかった。
ルーシー/ルシファルザスの言う通り、テオは悩んだ末に核晶を隠すことに決めたのだから。

「では、次は私の胸のこれです」
テオはそう言ってシャツの襟を開いた。

そこには今なお汎魔録晶ライブラリが煌めいている。

歴代魔王の魔法の知識を全て蓄えた魔晶だ。

テオも今は囚人服から魔王城に残されていたシャツとズボンに着替え、革靴を履いている。

「これはあなたの魂の一部ではないのですか?復活した後に私から取り戻すつもりだったのでは?」

ルーシー/ルシファルザスはそんな事、という風に手を振った。

「いらん。確かに知識と記憶を分けた事により今の我に魔法の知識はないがの。元々それは魔王に勝利した者が代々受け継ぐようになっておるのだ。今の正統な後継者は貴様よ。それにそれは既に貴様の魂と融合しているから取り戻す事は出来ぬよ」

「なるほど、しかしそれでいいのですか?また私を倒してこの汎魔録晶ライブラリを取り戻すことも可能なのでは?」

「できるかもしれんができないかもしれん。それに今は……したくないのだ」

「それは何故です?」

「それはの……」

ルーシー/ルシファルザスは玉座から降りるとテオの下に近づいてきた。
そして座っていたテオの顎を指先で持ち上げる。

「先ほども言った通り、我の魂は貴様の作った魂と融合しておる。その魂が貴様を恋ているからよ」
そしてテオに口づけをした。

「なななななななな」
玉座の横にいたメリサが泡を噴いて倒れた。

「元々貴様に怒りや憎しみはない。貴様は我を倒した男だ。我は強いものが好きだしの。ま、憎からず思っておるよ」

「あなたは元々男なのでは?それでよいのですか?」

「ふん、我を誰と心得る。千年の間魔界最大の王国ミッドネアを束ねてきた魔王ぞ。この世の快楽けらくという快楽は全て味わい尽くしておる。今更男だ女だにこだわるものかよ。それに我々純粋魔族に性別などないし決まった形状もない。あの姿もなってせいぜい百年くらいよ。そちらこそ、やけに反応が淡白ではないか。もしや男の方が好みか?」

「いえ、そういうわけでは。ただどう反応して良いのか分かりかねていただけです」

「ふん、魔法にかまけて色恋に興味がないのか。まあよい。とにかく我は貴様をどうこうするつもりはないよ。むしろ側にいて欲しいと思っておるくらいだ。どうだ、前も言ったが我と組まぬか?我と貴様なら魔界を掌握する事も可能だぞ?」

「いえ、前も言ったようにそういう事に興味はないんです」
テオは即答した。

「それに今回のことで政治だのなんだのにはほとほと嫌気がさしました。できれば魔界で好きなだけ魔法の研究を続けたいと思っています」

そう言うと思ったよ、とルーシー/ルシファルザスは笑った。

「ならば我も復活させてもらった礼くらいせねばなるまいな。幾ら魔王の知識を得たとしても貴様の肉体はまだ人のもの。魔界の瘴気は少々堪えるだろうからの。人界との国境沿いにある屋敷を褒美としてくれてやる。好きに使うがよい」

「ありがとうございます、ルーシ……いやルシファルザスですか」

「ルーシーでよい。ルシファルザスはお主に殺されたのだ。それにこの体にはルーシーという名の方が座りが良いようだしな」

「それでは改めてルーシー、ありがとうございます」

「わ、私もルーシー様とお呼びしても?」

「お前は駄目だ。お前は永遠に我の下僕なのだから今まで通りに呼べ」

「あ、主様~」
何故か嬉しそうなメリサ。

「メリサ、テオをブレンドロットまで連れていってやれ。我は今しばらくこの城の中を見て回るでの」

そう言ってルーシーは城の中へと消えていった。

「ではテオ殿、こちらへどうぞ」
メリサが改まってテオを促す。

「テオで良いよ。そういう仰々しいのももううんざりなんだ。こっちもメリサと呼ばせてもらうよ」

「ふん、人間ごときに馴れ馴れしく呼ばれるのは好かんがお前は主様の命の恩人だ。好きに呼ぶがいい」

テオとメリサは再び飛竜に跨り、上空へと舞った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...