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11.テオとヨハン
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「出てこぬなら……こっちから行くぞ!」
言うなりメリサが蝙蝠の羽を広げ飛んで行った。
そしてしばらく取っ組み合う音が聞こえた後、小さな子供の襟首を捕まえて戻ってきた。
「離せ、離せよ!こん畜生!」
「殺されなかっただけありがたく思え」
メリサはそう言ってその子供をテオの前に投げ出した。
一見してみると十三、四歳くらいの少年に見えるが両耳が長く横に伸びている。
明らかに人間ではない。
ハーフリングだ。
「ふん、おおかたこの屋敷に住み着いていた宿なしのハーフリングであろう。生憎だがこの屋敷は今日からこの者が住む事になっている。さっさと立ち去れ」
「ふざけんな!ここは半年前からおいらが住んでたんだ!いきなり来て出てけって言われたって納得できるもんか!そっちこそ後から来たくせに勝手なこと言うな!」
ハーフリングの少年がメリサに食ってかかる。
「小僧……死体にして放り出してもいいんだぞ?」
メリサがすらりと剣を抜いた。
威勢のいい少年もそれを見て流石に青ざめる。
「そ、そんなこと言ったって……おいら行くところがないんだよ。三年前にハーフリングの里が悪党どもに襲われて、それ以来ずっと放浪してたんだ。父様も母様もそいつらに殺されちまった。後生だよ、おいらをここに住まわせておくれよ!なんでもするからさ!」
「そう言われてもなあ……テオよ、どうする?」
泣きそうな顔になって必死に懇願する少年にメリサは困ったような顔でテオに助けを求めた。
「良いじゃありませんか。こんなに広い屋敷なんだから一人や二人住む人が増えたって変わりはないですよ。それにこれだけ広いと人手も入りようですからね。」
そう言ってテオは少年の前で跪き、右手を差し出した。
「僕の名前はテオだ。訳あって今日からここに住む事になったんだ。君をここに住まわせる代わりに僕の身の回りの世話を頼みたいんだが、良いかな?」
「ああ、もちろんだよ!おいらの名前はヨハン・トリテ、ヨハンって呼んでおくれよ!テオ様!」
「テオで良いよ。快く引き受けてくれて嬉しいよ、ヨハン」
「礼を言うのはこっちだよ、テオ!」
二人はがっしりと握手を交わした。
「じゃあ早速だけど、この屋敷を案内してもらおうかな。とりあえず今夜一晩でも眠れる場所があると良いんだけど」
「それならこっちに良い場所があるよ!」
ヨハンは二人を屋敷の左棟の二階の一番奥の部屋に案内した。
その部屋は奇跡的に屋根も窓も無事で部屋の隅には大きなベッドがある。
「これは、素晴らしいですね。これなら申し分なしです」
「おいらは隣で寝てるんだ。他の部屋から布団や枕をもっと持ってくるから待っててよ!」
そう言ってヨハンは部屋を飛び出していった。
「どうやら一安心なようだな」
メリサがテオの肩に手を置いた。
「ええ、何から何までありがとうございます」
「ところでだな……」
メリサが改まってテオに向き直り、両肩に手をまわした。
いつの間にか鎧は脱がれ、革のユニタード姿になっている。
「私はお前に礼を言わねばならん」
「何故ですか?」
「まず一つ、お前は主様を復活させてくれた。まあこれはお前が主様を殺したことがきっかけだから礼を言われる筋合いはないかもしれないがな。ともかくそれには感謝している。それから……」
メリサは肩にあてていた手をテオの首元に回した。
二人の距離が更に密着する。
「お前がが主様に与えたあの御姿、あれは感謝してもしきれん」
「輝く銀髪に雪花石膏のような肌、輝く菫色の瞳……魔界広しと言えどあれほどの美しさは他にない。あれこそ美の顕現、わが生涯においてあれほどの美しさは初めてだ。主様をあのような御姿にしてくれたお礼、是非ともしなくてはならん」
メリサは更にテオを抱きしめた。
メリサの豊かな双丘がテオの胸でなまめかしくつぶれる。
軽く唇を触れ合わせながらメリサが甘い吐息と共に言葉を続ける。
「お前の望むものを何でも叶えてやろう。私は吸魔族のメリサだ。どんな快楽でも与えてやれるぞ。お前が望むなら一月でも二月でも構わぬ、どんなことでもしてやろう」
「どんなことでも、ですか」
「ああ、およそ並の人間には想像もつかぬようなこともしてやれるぞ。私としても主様を破ったお前の体、味わってみたくある」
「では……この屋敷を直していただけますか?」
「は?」
「いや~流石に雨風をしのげるとはいえ、もう少し住みやすくなるとありがたいんですが、あいにくとそっち方面にはとんと疎くて。誰か技術者を用立ててくれると嬉しいんですが」
「いや、私は吸魔族……どんな快楽でも……」
「あ、そういうのよりもまずは住居です。できれば工房も作りたいし」
「……お前、不能なのか?もしくは本当に男色趣味なのか?……まあいい、それは手配してやろう」
釈然としないまま頷くメリサ。
「ありがとうございます。とりあえずお腹が空きましたね。ヨハンになにか食べられるものがないか聞いてみますか」
「まったく変わった奴だ。私は一旦主様へ報告するために戻るからな。当座の生活資金としてこれだけあれば足りるだろう」
メリサはそう言ってずしりと重い革袋を渡した。
中には銀貨や金貨が何枚も入っている。
当座の生活資金どころか人界だったら一~二年くらい楽に暮らしていける額だ。
「ありがとうございます」
テオはそれを受け取ると無造作にベッドに放り投げた。
「じゃあまた来るからな。気が変わって私が欲しくなったらいつでも言うのだぞ」
そう言ってメリサは飛竜に乗って去っていった。
テオは部屋の窓を開けた。
窓から日の光が差し込む。
窓の外からは森や湖が見え、湖の畔には小さな町も見える。
そんな風景は人界と全く変わりがない。
それでもここは魔界、人ならざる者が住む世界だ。
テオの魔界での生活がこれから始まるのだ。
言うなりメリサが蝙蝠の羽を広げ飛んで行った。
そしてしばらく取っ組み合う音が聞こえた後、小さな子供の襟首を捕まえて戻ってきた。
「離せ、離せよ!こん畜生!」
「殺されなかっただけありがたく思え」
メリサはそう言ってその子供をテオの前に投げ出した。
一見してみると十三、四歳くらいの少年に見えるが両耳が長く横に伸びている。
明らかに人間ではない。
ハーフリングだ。
「ふん、おおかたこの屋敷に住み着いていた宿なしのハーフリングであろう。生憎だがこの屋敷は今日からこの者が住む事になっている。さっさと立ち去れ」
「ふざけんな!ここは半年前からおいらが住んでたんだ!いきなり来て出てけって言われたって納得できるもんか!そっちこそ後から来たくせに勝手なこと言うな!」
ハーフリングの少年がメリサに食ってかかる。
「小僧……死体にして放り出してもいいんだぞ?」
メリサがすらりと剣を抜いた。
威勢のいい少年もそれを見て流石に青ざめる。
「そ、そんなこと言ったって……おいら行くところがないんだよ。三年前にハーフリングの里が悪党どもに襲われて、それ以来ずっと放浪してたんだ。父様も母様もそいつらに殺されちまった。後生だよ、おいらをここに住まわせておくれよ!なんでもするからさ!」
「そう言われてもなあ……テオよ、どうする?」
泣きそうな顔になって必死に懇願する少年にメリサは困ったような顔でテオに助けを求めた。
「良いじゃありませんか。こんなに広い屋敷なんだから一人や二人住む人が増えたって変わりはないですよ。それにこれだけ広いと人手も入りようですからね。」
そう言ってテオは少年の前で跪き、右手を差し出した。
「僕の名前はテオだ。訳あって今日からここに住む事になったんだ。君をここに住まわせる代わりに僕の身の回りの世話を頼みたいんだが、良いかな?」
「ああ、もちろんだよ!おいらの名前はヨハン・トリテ、ヨハンって呼んでおくれよ!テオ様!」
「テオで良いよ。快く引き受けてくれて嬉しいよ、ヨハン」
「礼を言うのはこっちだよ、テオ!」
二人はがっしりと握手を交わした。
「じゃあ早速だけど、この屋敷を案内してもらおうかな。とりあえず今夜一晩でも眠れる場所があると良いんだけど」
「それならこっちに良い場所があるよ!」
ヨハンは二人を屋敷の左棟の二階の一番奥の部屋に案内した。
その部屋は奇跡的に屋根も窓も無事で部屋の隅には大きなベッドがある。
「これは、素晴らしいですね。これなら申し分なしです」
「おいらは隣で寝てるんだ。他の部屋から布団や枕をもっと持ってくるから待っててよ!」
そう言ってヨハンは部屋を飛び出していった。
「どうやら一安心なようだな」
メリサがテオの肩に手を置いた。
「ええ、何から何までありがとうございます」
「ところでだな……」
メリサが改まってテオに向き直り、両肩に手をまわした。
いつの間にか鎧は脱がれ、革のユニタード姿になっている。
「私はお前に礼を言わねばならん」
「何故ですか?」
「まず一つ、お前は主様を復活させてくれた。まあこれはお前が主様を殺したことがきっかけだから礼を言われる筋合いはないかもしれないがな。ともかくそれには感謝している。それから……」
メリサは肩にあてていた手をテオの首元に回した。
二人の距離が更に密着する。
「お前がが主様に与えたあの御姿、あれは感謝してもしきれん」
「輝く銀髪に雪花石膏のような肌、輝く菫色の瞳……魔界広しと言えどあれほどの美しさは他にない。あれこそ美の顕現、わが生涯においてあれほどの美しさは初めてだ。主様をあのような御姿にしてくれたお礼、是非ともしなくてはならん」
メリサは更にテオを抱きしめた。
メリサの豊かな双丘がテオの胸でなまめかしくつぶれる。
軽く唇を触れ合わせながらメリサが甘い吐息と共に言葉を続ける。
「お前の望むものを何でも叶えてやろう。私は吸魔族のメリサだ。どんな快楽でも与えてやれるぞ。お前が望むなら一月でも二月でも構わぬ、どんなことでもしてやろう」
「どんなことでも、ですか」
「ああ、およそ並の人間には想像もつかぬようなこともしてやれるぞ。私としても主様を破ったお前の体、味わってみたくある」
「では……この屋敷を直していただけますか?」
「は?」
「いや~流石に雨風をしのげるとはいえ、もう少し住みやすくなるとありがたいんですが、あいにくとそっち方面にはとんと疎くて。誰か技術者を用立ててくれると嬉しいんですが」
「いや、私は吸魔族……どんな快楽でも……」
「あ、そういうのよりもまずは住居です。できれば工房も作りたいし」
「……お前、不能なのか?もしくは本当に男色趣味なのか?……まあいい、それは手配してやろう」
釈然としないまま頷くメリサ。
「ありがとうございます。とりあえずお腹が空きましたね。ヨハンになにか食べられるものがないか聞いてみますか」
「まったく変わった奴だ。私は一旦主様へ報告するために戻るからな。当座の生活資金としてこれだけあれば足りるだろう」
メリサはそう言ってずしりと重い革袋を渡した。
中には銀貨や金貨が何枚も入っている。
当座の生活資金どころか人界だったら一~二年くらい楽に暮らしていける額だ。
「ありがとうございます」
テオはそれを受け取ると無造作にベッドに放り投げた。
「じゃあまた来るからな。気が変わって私が欲しくなったらいつでも言うのだぞ」
そう言ってメリサは飛竜に乗って去っていった。
テオは部屋の窓を開けた。
窓から日の光が差し込む。
窓の外からは森や湖が見え、湖の畔には小さな町も見える。
そんな風景は人界と全く変わりがない。
それでもここは魔界、人ならざる者が住む世界だ。
テオの魔界での生活がこれから始まるのだ。
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