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12.ドワーフの棟梁
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翌日、扉を叩く音でテオは目を覚ました。
入口まで行くとヨハンが既に起きて待っていた。
扉を開けるとそこにはドワーフの集団が立っていた。
人数は十人ほどだろうか。
全員濃い髭を蓄え、ずんぐりとした体格で手には工具箱を抱えている。
「メリサ様の言いつけでここを直しに来た」
むっつりとそう言ってずかずかと入ってくる。
「あ、ああ、よろしくお願いします」
戸惑いながらテオがそう挨拶すると棟梁らしきドワーフがじろりと睨みつけてきた。
「断っておくがの、人族の若いの。儂らはメリサ様の言いつけに従ってるだけだ。人族である貴様の、よりによって魔王様を倒した奴の手助けをするなんざ本来は願い下げよ。仕事だから手を抜く気はないがそれ以外の事については関わらないでもらおうか。おい、さっさとやってさっさと終わらせるぞ!」
そう言って部下に発破をかけると顔も見たくないというように立ち去っていった。
「なんだよ、あいつら。偉そうに」
ヨハンは不満そうに鼻を鳴らしている。
「まあまあ、実際彼らの言う事はもっともなのですから。それよりもヨハン、あなたはどうなんです?彼らと同じように魔王を倒した私に多少なりとも何か思うところがあるのでは?」
「うーん」
ヨハンは腕を組んで考え込んだ。
「おいら、そういうのはよくわかんないや。確かに魔王様が倒された後は前より治安が悪くなったみたいだけど、おいらはその前から根無し草暮らしだったからさ。上の誰がどうなったかとかあまり関係ないんだよね。それよりも今の暮らしの方が大事だよ」
「そうですね。確かにその通りかもしれません。国がどうこうよりも今が大事ですね」
ヨハンの言葉にテオは微笑んで頷いた。
流石は技術仕事が得意なドワーフだけに屋敷はみるみる修復されていく。
日没ころには屋根は塞がり、内装に手を入れようかという所まで進んでいた。
「た、大変だ!」
突如一人のドワーフが飛び込んできたのはその日の仕事が終わろうかという時だった。
「棟梁!あんたの娘のサリーナが!」
それを聞くなりドワーフ一行が血相を変えて走り去っていった。
テオとヨハンもタダならぬ気配を感じてついていく。
ドワーフたちが向かったのはブレンドロットの森の中にあるドワーフ族の集落だった。
棟梁の家の中に入るとそこにはドワーフの娘が横たわっていた。
右足が左足の倍以上に腫れ上がり、苦しそうに喘いでいる。
「森の中で木の実を採ってる時に三日ムカデに噛まれたんだよ」
ドワーフの女性が泣き腫らした顔で棟梁に説明している。
この娘の母親だろうか。
「三日ムカデに噛まれたら助からねえぞ」
「三日三晩苦しみぬいて、最後には気が触れて死んじまうんだ」
「可哀そうになあ……苦しむくらいならいっそのこと……」
周りに絶望のさざ波が広がっていく。
「ちょっとすいません」
テオはそんな輪の中に入っていった。
「あ、あんた!何勝手に入ってきてんだ!」
驚いたように抗議する棟梁に構わず、少女の横に座るとテオは腫れ上がった足に手をかざした。
三日ムカデ、魔界近くの人界で毎年何人もの被害が出る恐ろしい魔界の虫だ。
一旦噛まれたら通常の治癒魔法や外科的処置では助からず、特級僧侶にしか使えない完癒魔法でなければ治療は無理と言われている。
しかしテオは別だ。
三日ムカデの治癒は人界にいた時も何度か行っていたが、今はそれに加えて魔王の知識もある。
「小さな瓶はありませんか?」
テオがドワーフの集団に振り向いて尋ねた。
先ほどの母親がすぐに動いて小さな瓶を持ってきた。
すがるような眼でテオを見ている。
「大丈夫ですよ」
テオはにっこりと笑うと少女の足に手を置いた。
噛み跡に瓶の口を当てる。
治療自体は完癒魔法で可能だが、三日ムカデの毒は貴重な魔法薬の原料になると汎魔録晶が告げている。
ならば取っておくに越したことはない。
「血流操作」
テオの詠唱と共に少女の足が波打ち、やがて噛み口から透明な液体が瓶の中へと流れ出てきた。
気が付くと少女の足は元の姿に戻っていた。
呼吸も穏やかになり、今は静かな寝息を立てている。
「もう大丈夫です。毒は全てこの瓶の中に入りました。熱が下がるまで安静にして解熱アザミのお茶を飲ませてください」
歓声がドワーフの集落に響き渡った。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
サリーナの母親が涙を流しながらテオに縋り付いてくる。
「あんた大したもんだよ!」
「なんて凄い奴だ!とんだ魔道士様だ!」
「魔道士様!おらの爺様も見てくれねえか!三日前から臥せってるんだ!」
ドワーフたちが胴上げせんばかりの勢いでテオに群がる。
「ま、待ってください。わかりました、わかりましたから、どうか順番に!」
結局テオとヨハンが家路に着いたのはとっぷりと夜も更けた後だった。
あれからドワーフの集落の病人やけが人を治し、ついでに宴会に参加することになったのだ。
「なあ、あんた」
テオが帰ろうとした時、ドワーフの棟梁が呼び止めた。
頭を掻き、ばつが悪そうに体をよじっている。
「……その、さっきは娘が助かった。礼を言う」
そう言って棟梁は地面に両手をついた。
「それに……朝はあんな態度を取ってしまってすまなかった。儂はあんたのことを誤解しておった。魔王様を倒した上に魔界に居座る恥知らずで傲慢な男だとばかり思っておったんじゃ。この通り、許してくれ!」
額を地面にこすりつけて謝る。
「良いんですよ」
テオは棟梁の前にしゃがみ、その肩に手を置いた。
「私があなたたちの魔王を倒したのは事実です。あなたたちに恨まれるのは当然だ。ただ、私もよんどころない事情で魔界で暮らさざるを得なくなってしまったのです。できればここのみんなとは仲良くしたい。私がここに住むことを許してもらえますか?」
「も、もちろんだとも!あんたは娘の、いやこの集落の恩人だ!むしろこちらからお願いする!どうかここに住んでくれ!」
「では、よろしくお願いします。私はテオ、昔は別の名前もありましたが今はただのテオです」
「こちらこそ!儂はドワーフの棟梁、ゲンノウだ。あんたの屋敷は儂らに任せてくれ!ドワーフの誇りにかけて魔界で一番の屋敷に仕上げることを約束するとも!」
二人は固い握手を交わした。
そしてその約束通り、テオの屋敷は三日後にまるで新築同様の姿になった。
屋根から外装、内装に至るまで全て新品の素材て建て直され、見違えるようになった。
屋敷中くまなく水道管が引かれて各部屋にトイレと風呂があり、魔晶を使った給湯設備で自由にお湯を使う事もできる。
厳寒から入って真っ直ぐ行ったT字の下棒の部分はテオの望み通り工房に作り直された。
右棟の一階には食堂とテオの希望で大きな風呂がしつらえられ、上階は客間になっている
左棟は一階が応接間とテオの書斎、物置になっていて、二階はテオとヨハンの寝室、残りは客間だ。
ボーダーズでテオが住んでいた屋敷などこれと比べればあばら家も同然だ。
「なにか変更したいことがあればいつでも言ってくれ!」
そう言ってゲンノウ一行は去っていった。
「さて、屋敷も直ったことだし、町に行って買い出しでもしますか」
テオとヨハンはブレンドロットの町に出かける事にした。
入口まで行くとヨハンが既に起きて待っていた。
扉を開けるとそこにはドワーフの集団が立っていた。
人数は十人ほどだろうか。
全員濃い髭を蓄え、ずんぐりとした体格で手には工具箱を抱えている。
「メリサ様の言いつけでここを直しに来た」
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「あ、ああ、よろしくお願いします」
戸惑いながらテオがそう挨拶すると棟梁らしきドワーフがじろりと睨みつけてきた。
「断っておくがの、人族の若いの。儂らはメリサ様の言いつけに従ってるだけだ。人族である貴様の、よりによって魔王様を倒した奴の手助けをするなんざ本来は願い下げよ。仕事だから手を抜く気はないがそれ以外の事については関わらないでもらおうか。おい、さっさとやってさっさと終わらせるぞ!」
そう言って部下に発破をかけると顔も見たくないというように立ち去っていった。
「なんだよ、あいつら。偉そうに」
ヨハンは不満そうに鼻を鳴らしている。
「まあまあ、実際彼らの言う事はもっともなのですから。それよりもヨハン、あなたはどうなんです?彼らと同じように魔王を倒した私に多少なりとも何か思うところがあるのでは?」
「うーん」
ヨハンは腕を組んで考え込んだ。
「おいら、そういうのはよくわかんないや。確かに魔王様が倒された後は前より治安が悪くなったみたいだけど、おいらはその前から根無し草暮らしだったからさ。上の誰がどうなったかとかあまり関係ないんだよね。それよりも今の暮らしの方が大事だよ」
「そうですね。確かにその通りかもしれません。国がどうこうよりも今が大事ですね」
ヨハンの言葉にテオは微笑んで頷いた。
流石は技術仕事が得意なドワーフだけに屋敷はみるみる修復されていく。
日没ころには屋根は塞がり、内装に手を入れようかという所まで進んでいた。
「た、大変だ!」
突如一人のドワーフが飛び込んできたのはその日の仕事が終わろうかという時だった。
「棟梁!あんたの娘のサリーナが!」
それを聞くなりドワーフ一行が血相を変えて走り去っていった。
テオとヨハンもタダならぬ気配を感じてついていく。
ドワーフたちが向かったのはブレンドロットの森の中にあるドワーフ族の集落だった。
棟梁の家の中に入るとそこにはドワーフの娘が横たわっていた。
右足が左足の倍以上に腫れ上がり、苦しそうに喘いでいる。
「森の中で木の実を採ってる時に三日ムカデに噛まれたんだよ」
ドワーフの女性が泣き腫らした顔で棟梁に説明している。
この娘の母親だろうか。
「三日ムカデに噛まれたら助からねえぞ」
「三日三晩苦しみぬいて、最後には気が触れて死んじまうんだ」
「可哀そうになあ……苦しむくらいならいっそのこと……」
周りに絶望のさざ波が広がっていく。
「ちょっとすいません」
テオはそんな輪の中に入っていった。
「あ、あんた!何勝手に入ってきてんだ!」
驚いたように抗議する棟梁に構わず、少女の横に座るとテオは腫れ上がった足に手をかざした。
三日ムカデ、魔界近くの人界で毎年何人もの被害が出る恐ろしい魔界の虫だ。
一旦噛まれたら通常の治癒魔法や外科的処置では助からず、特級僧侶にしか使えない完癒魔法でなければ治療は無理と言われている。
しかしテオは別だ。
三日ムカデの治癒は人界にいた時も何度か行っていたが、今はそれに加えて魔王の知識もある。
「小さな瓶はありませんか?」
テオがドワーフの集団に振り向いて尋ねた。
先ほどの母親がすぐに動いて小さな瓶を持ってきた。
すがるような眼でテオを見ている。
「大丈夫ですよ」
テオはにっこりと笑うと少女の足に手を置いた。
噛み跡に瓶の口を当てる。
治療自体は完癒魔法で可能だが、三日ムカデの毒は貴重な魔法薬の原料になると汎魔録晶が告げている。
ならば取っておくに越したことはない。
「血流操作」
テオの詠唱と共に少女の足が波打ち、やがて噛み口から透明な液体が瓶の中へと流れ出てきた。
気が付くと少女の足は元の姿に戻っていた。
呼吸も穏やかになり、今は静かな寝息を立てている。
「もう大丈夫です。毒は全てこの瓶の中に入りました。熱が下がるまで安静にして解熱アザミのお茶を飲ませてください」
歓声がドワーフの集落に響き渡った。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
サリーナの母親が涙を流しながらテオに縋り付いてくる。
「あんた大したもんだよ!」
「なんて凄い奴だ!とんだ魔道士様だ!」
「魔道士様!おらの爺様も見てくれねえか!三日前から臥せってるんだ!」
ドワーフたちが胴上げせんばかりの勢いでテオに群がる。
「ま、待ってください。わかりました、わかりましたから、どうか順番に!」
結局テオとヨハンが家路に着いたのはとっぷりと夜も更けた後だった。
あれからドワーフの集落の病人やけが人を治し、ついでに宴会に参加することになったのだ。
「なあ、あんた」
テオが帰ろうとした時、ドワーフの棟梁が呼び止めた。
頭を掻き、ばつが悪そうに体をよじっている。
「……その、さっきは娘が助かった。礼を言う」
そう言って棟梁は地面に両手をついた。
「それに……朝はあんな態度を取ってしまってすまなかった。儂はあんたのことを誤解しておった。魔王様を倒した上に魔界に居座る恥知らずで傲慢な男だとばかり思っておったんじゃ。この通り、許してくれ!」
額を地面にこすりつけて謝る。
「良いんですよ」
テオは棟梁の前にしゃがみ、その肩に手を置いた。
「私があなたたちの魔王を倒したのは事実です。あなたたちに恨まれるのは当然だ。ただ、私もよんどころない事情で魔界で暮らさざるを得なくなってしまったのです。できればここのみんなとは仲良くしたい。私がここに住むことを許してもらえますか?」
「も、もちろんだとも!あんたは娘の、いやこの集落の恩人だ!むしろこちらからお願いする!どうかここに住んでくれ!」
「では、よろしくお願いします。私はテオ、昔は別の名前もありましたが今はただのテオです」
「こちらこそ!儂はドワーフの棟梁、ゲンノウだ。あんたの屋敷は儂らに任せてくれ!ドワーフの誇りにかけて魔界で一番の屋敷に仕上げることを約束するとも!」
二人は固い握手を交わした。
そしてその約束通り、テオの屋敷は三日後にまるで新築同様の姿になった。
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屋敷中くまなく水道管が引かれて各部屋にトイレと風呂があり、魔晶を使った給湯設備で自由にお湯を使う事もできる。
厳寒から入って真っ直ぐ行ったT字の下棒の部分はテオの望み通り工房に作り直された。
右棟の一階には食堂とテオの希望で大きな風呂がしつらえられ、上階は客間になっている
左棟は一階が応接間とテオの書斎、物置になっていて、二階はテオとヨハンの寝室、残りは客間だ。
ボーダーズでテオが住んでいた屋敷などこれと比べればあばら家も同然だ。
「なにか変更したいことがあればいつでも言ってくれ!」
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