追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道一人

文字の大きさ
13 / 37

13.ペッテンでの一夜

しおりを挟む
「クソ、どうなってるんだ!」
アポロニオが叫んだ。

あれからひたすら歩き続け、三人がペッテンという小さな町に着いたのは日が沈もうかという時だった。

モブランとサラは疲れ切って道端に座り込んでいる。
本来ならまだ店や食堂が開いている時間のはずだが全ての店が閉ざされている。
と言うか、三人が来た途端にみんな閉め始めたのだ。

「おい、店主!まだ日があるではないか、何故閉める?」
アポロニオは看板を片そうとしていた店の主に詰め寄った。

「へ、へえ、生憎と今日はもう売るものがなくなってしまいやして」

「ふざけるな!そこにあるではないか?」

「あいすいません、これはもう予約が入ってやして」

「ぬぬ、ならば売値の倍、いや三倍だそう。それを売ってくれ」

「……仕方ありませんね。お客様には負けましたよ」

ようやくパンと飲み物を手に入れた三人は路上でがつがつむさぼった。
結局朝からほとんど何も口にしていなかったのだ。

「よし、宿を探すぞ!」
パンを食べてようやく人心地つき、三人は町を回る事にした。
しかしどこにも宿が見つからない。
あっても満室だと断られてしまう。

「モブラン、一体どうなってるんだ!」
何軒も断られ、遂にアポロニオの癇癪が爆発した!

「……これは、我々の評判が広まってしまってるのかもしれませんね」

「?どういう事だ?説明しろ!」

「つまり、我々は昼頃に荷馬車から降ろされたじゃないですか?あの噂がこの近辺に既に広まってるんじゃないかって話ですよ」

「???何を言ってるんだ?」
アポロニオにはモブランの言っていることがさっぱりわからなかった。

「つまりですね、田舎ってのは噂が真っ先に広まるんですよ。我々を乗っけた荷馬車の主が我々の事をあれこれ吹きまわったせいでみんなが敬遠してるんじゃないかって事です」
「何を言ってる?我々は魔界へ裏切り者を討伐に行く勇者一行だぞ!歓迎されることはあっても避けられる謂れはないはずだ!」

それがあるんですよ、という言葉をモブランは飲み込んだ。
田舎領主お抱えの魔道士家族出身のモブランには田舎の習慣がよく分かっている。
人のうわさは燕よりも早く伝わり、半年たっても消えることはない。

「とりあえず、どこか休める場所を探さないと。このままでは野宿になってしまいます」
サラが提案してきた。
既に日は暮れかかり、あたりは暗くなり始めている。
日が落ちたら本格的に野宿確定だ。

クソ、とアポロニオは歯ぎしりをした。
以前の魔王討伐では宿関係の手配は全てテオが行っていた。

孤児院出身で街の裏事情に詳しいテオはどこからともなく安く居心地のいい宿を探しだしていて、アポロニオもそれが当然のことと思っていたのだ。

思い通りにいかない事に更に苛立ちが募る。

「あんたら、宿を探してるのかい?」
一人の少年が三人に声をかけてきたのはそんな時だった。
薄汚れた格好をし、手にはランタンを持っている。

「こっちに来なよ。宿ならあるぜ。飯だってある」
そう言ってさっさと歩きだした。

三人はしばし顔を見合わせ、結局少年の後についていく事にした。
うさん臭くはあったが他に頼るものもいないので仕方がなかった。

三人が案内されたのは森の向こうにある崩れ落ちそうなぼろ屋だった。
中に入るとテーブルについていた数人の客とカウンター越しの主がじろりと値踏みするように見回してきた。

「お客さん、まずは宿代を払ってくんな。一人銀貨十枚だ」
テーブルに着くなり主がつっけんどんに言ってきた。

「十枚?」
モブランが素っ頓狂な声を上げる。
一泊銀貨十枚など首都の高級宿でもそうそうない額だ。

「ふざけるな!そんな金額だせるか!」
アポロニオも怒声をあげる。

「嫌なら出てってくんな。うちは宿泊客にしか飯は出さねえんだ」
その言葉にアポロニオは言葉をのむ。
慌てて出立したから食料は既に底をついている。
寝るのは野宿で良いとしても腹を満たさなくては休むこともできない。

「……わかった。三人で銀貨三十枚だ。これでさっさと食べるものを用意してくれ」
しぶしぶと金を払う。

「飯代は別料金なんだ。一人銀貨三枚だ」
アポロニオはこの野郎、と突っかかりそうになるのを何とか堪えた。
額に青筋が立っている。

「これでいいだろ!さっさと用意しろ!」
叩きつけるようにカウンターに銀貨を置く。
テオフラスを討伐したら真っ先にこの宿を取り潰してやる、そう誓った。

「へへへ、そう怒りなさんなって、お三人方。ここの店主は態度はわりいけど味は確かだぜ」
テーブルについていた客がニヤニヤ笑いながら近寄ってきた。

「失せろ、酔っ払い。私は機嫌が悪いんだ」
アポロニオが低い声で脅す。

「まあまあ、腹が立つのは腹が減ってるからってね。これでも飲んで落ち着きなって」
懲りずに男は近寄ると持っていたワインボトルからワインを継ぎ、三人の前に置いた。

「俺からの奢りだよ。これでも飲んで一息つきなよ」
そう言って元のテーブルに去っていく。

アポロニオはむかむかしながらそのワインをあおった。
さっき飲んだ水程度では喉の渇きは収まらなかったのだ。

サラとモブランもそれに続いでワインを飲む。
酸っぱいワインだった。

「おい、店主!何をしている!食事はまだか!」
そう叫んだアポロニオの視界がぐにゃりと歪む。
なんだ?何が起きたんだ?
周りを見るとモブランとサラは既にテーブルに突っ伏している。

「お客さん、だいぶ疲れがたまってるんじゃないか?そろそろベッドに入った方が良くないか?」
さっきの男が心配そうに聞いてきた。

そうだ、俺は一日歩き詰めだったんだ、だいぶ疲れてるみたいだ。

これは早く寝た方が良さそうだ……

そこでアポロニオの意識は途切れた。


目を覚ました時、宿はもぬけの殻だった。
というかそこは元々廃墟だった。

今は客はおろか、主の姿すらない。

アポロニオが目を覚ましたのは昨晩眠り込んだテーブルだった。
ぼんやりとした頭で辺りを見回していたが、やがて一つの事に思い当たり青ざめつつ懐をまさぐった。

やられた。

財布が抜き取られ、肩身離さず持っていた聖剣アルゾルトまで消えている。

「サラ、起きるんだ。モブラン、君もさっさと起きろ!」
未だにテーブルに突っ伏している。

「あいつら、財布をすりやがった!」
どやしつけるようにモブランを叩き起こす。

寝ぼけ眼で懐を探っていたモブランとサラの顔から血の気が引いていく。
二人もやられたのだ。
サラの持っていた魔晶を埋め込んだ聖棍も消えている。

「クソ!あのクソ野郎!クソ!クソ!クソ!」

アポロニオは怒りに青ざめた顔でテーブルを蹴飛ばした。
重たい丸テーブルが天井まですっ飛び、穴を開ける。

「あいつら全員ぶっ殺してやる!」
血相を変えて廃墟を飛び出す。
サラとモブランも慌てて飛び出した。

町に着くなりアポロニオは近くにいた人間に食ってかかった!

「おい、森の向こうにある宿の主はどこだ!禿頭の大男だ!」

「や、宿?あんなところにそんなものはねえよ」
突然胸ぐらをつかまれた男は目を白黒させている。

「ふざけるな!お前らもグルなんだろ!さっさとあいつらを連れてこい!いいか、俺は勇者だぞ!こんなちんけな町いつだって……」

「それ以上は駄目ですって!」

慌ててアポロニオを制するモブラン。
アポロニオは目が血走り、正気を失いかけている。

「ここの連中がグルだという証拠はないんです。今の我々にはどうしようもないですよ」
殺気のこもった眼で睨みつけるアポロ二オを必死でなだめる。

「ほら、私がいざって時のために杖に隠してたへそくりは無事ですから。」
モブランはそう言ってアポロニオに銀貨を見せた。

全部で五枚、本当はもう五枚あるがそれは黙っていた。
アポロニオはしばらくそれを睨み、何も言わずひったっくた。

「ふん!いいか!今度この町に来た時は貴様ら全員尋問にかけてやる!しかるべき報いを絶対に受けさせてやるからな!」
そう怒鳴り、ずかずかと歩いていく。

「サラ、モブラン!こんな町さっさと出ていくぞ!」
サラとモブランも慌ててそれに続く。
モブランの頭の中にあるのはどうやってこの一行から抜けられるかという言い訳だけだった。


「連中、出ていったかい?」
禿頭の大男―名はダムシンという―が先ほどの男の元にやってきたのはアポロニオたちが立ち去って一時間ほどたってからだった。

「ああ、すげえ怒ってたぞ!目つきで殺しかねない勢いだったぜ」
その男、マチミンはそう言って爆笑した。

「たまにいるんだよな、この辺が盗人街道と呼ばれてる事を知らずに通る馬鹿が。まあ殺さなかっただけ俺たちも優しいよな」

「違えねえや」
そう言ってダムシンも笑った。
町のみんなが笑っている。

久々の大物だった。
これでしばらくは豪遊できそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

処理中です...