追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道一人

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17.ザンギアック襲来

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ブレンドロットの町へ行った翌早朝、テオは激しく扉を打ち鳴らす音で目を覚ました。

「なんですか、一体」

扉を開けるとそこにいたのはキツネだった。
息を切らし、汗だくになっている。

「やべえぞ、あんた」

言うなり開いた扉から滑り込んでくる。

「もうすぐザンギアックが兵隊を連れてやってくる。さっさと逃げちまった方が良いぜ」

「はあ」

寝ぼけ眼で空返事をするテオ。

「はあ、じゃねえよ!ザンギアックの兵隊は五百人はいるんだぜ!かしらのザンギアックは巨人にタイマンで勝ったと言われるくらいの腕っぷしだ。それにあんたが魔道士だって事も知られちまってる。いくらあんたでも勝てっこねえよ!」


「おいこらぁ!そこの家にいる奴!さっさと出てこい!」

その時、屋敷の外から叫び声がした。

「やべえ!もう来やがった。俺はさっさとずらかるぜ!あんたも逃げな!」
キツネはそう言って屋敷の裏口に向かって走っていった。

「やれやれ」
ため息をつきつつテオは寝巻のまま外に出た。

屋敷の外にはオークの大群がひしめいていた。
赤黒い肌や青い肌、緑の肌など様々なオークがめいめい鎧兜を着込み、手には様々な武器を持っている。
魔法を使えるオークもいるのだろう、大気には既に魔素が充満している。

その中に一人、ひと際でかい影ががいた。
オークではない、オーガだ。

五メートはあろうかという巨体で、でっぷりと太っている。
まるで山が歩いているかのようだった。

鎧は来ておらず、牛のような黒光りする角が兜の両脇から飛び出ている。
白眼は黄色く濁って血走っており、真っ黒な瞳がテオを睨みつけている。
口からは黄ばんだ巨大な牙が下から飛び出し、両手に持っているのは巨大な戦斧だ。
腰鎧を巻いているが巨体過ぎてほとんど腰部を守る意味がない。

「てめえか、昨日俺の部下を可愛がってくれたのは」

「あなたがザンギアックですか」

「質問をしてるのは俺だ!」

ザンギアックは空気を震わすような怒号をあげた。

テオは全く動じずに肩をすくめた。

「昨日おたくの部下に眠っていただいたのは事実ですけどね、先に仕掛けてきたのはそちらですよ」

「御託は良い。落とし前はつけてもらうぜ」
そう言って戦斧を構える。

「話し合いは無理ですか」
テオはため息をついた。

「今更命乞いは聞けねえよ!」

ザンギアックが戦斧を振りかぶった時、上空に巨大な影が現れた。

「なんだぁっ?」

「な、なんだ、あれは?」

「飛竜だ!」

オーク兵の戸惑いの叫びが響く中、巨大な飛竜はテオとザンギアックの目の前にふわりと舞い降りた。
その背から降りてきたのは、ルーシーとメリサだ。

「よお、テオ。息災か」
ルーシーはそう言いながらにこやかにテオに飛びついた。
両手両足をテオの体に回して抱きつき、頬に頬をすり寄せてくる。

「どうしたんですか?」

「うむ、城の確認と修繕も飽きてきたのでな、ちょいとお主の様子を見に来たのよ。しかしずいぶんと立派になったものよの。メリサから聞いてはいたが、ここまでになるとはの」

「そうでしたか。これもドワーフの皆さんのおかげです。何のおもてなしもできませんがゆっくりしていってください」

「そうさせてもらうぞ」


「おいおいおいおい!」

テオとルーシーの会話にザンギアックが割って入った。

「俺様の存在を無視するとは良い度胸じゃねえか」

ザンギアックの額は血管が浮き上がってメロンのようになっている。
赤黒い肌なので判断は難しいがかなり怒っているらしい。

「なんじゃ、こいつは?」

「彼はザンギアックと言って、ブレンドロットを取り仕切っているらしいですよ」

「ザンギアックぅ?こんな奴に我が領土を任せた覚えはないんだがのう。つか、誰じゃこいつは?」

「なんだあ?てめえは?」
ザンギアックがルーシーの襟を掴んで摘まみ上げた。

「我の名はルーシー。このブレンドロット、ひいてはミッドランドの支配者よ」

「てめえがミッドランドの支配者だあ?笑わせるぜ。ミッドランドを統べていた魔王、ルシファルザスは人間に殺されたと聞くぜ。おかげで散々好き勝手やれるってもんだ。このブレンドロットは俺様のもんよ」

ザンギアックはルーシーの顔を舐めるように見回し、べろりと口の周りを舐めた。

「よく見りゃ可愛い顔してるじゃねえか。こんな小娘じゃ俺様のは合いそうにねえが高値で売れそうだな。どれ、体の方も見てみるか」
いやらしい笑みを浮かべながらザンギアックはルーシーに手を伸ばした。

「無礼者」

ルーシーは摘まみ上げられながらザンギアックの頬を片手で張った。


ザンギアックの頭が胴体から離れ、宙を舞った。


何が起きたかわからない、という表情を浮かべたままザンギアックの頭がくるくると回転し、地面に落ちる。

体はしばらくそのままだったがやがて力を失い、指から解放されたルーシーが地面に着地すると同時に首から噴水のように血しぶきをまき散らしながらどうと倒れた。

「やれやれ、汚れてしまったではないか」
全身に血を浴びながらまるで雨に降られただけかのような口調でルーシーが不平を漏らした。
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