追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道一人

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「な、なんなんだ、なんなんだっ!」

「ザンギアック様が……死んだ……?」

「なんだあいつは、なんなんだ、あいつはっ!」

「おい、テオ。お前の作ったこの体、なかなかに良いぞ」
騒然とするオーク兵をよそにルーシーは嬉しそうにテオに話しかけた。

「魔法の知識はなくなってしまったが、存外使える体ではないか。軽いしよく動くわ。魔力も相当持っているようだし、いずれこの体で魔法の知識を得れば元の体と遜色ない、あるいはそれ以上の性能になりそうだの」

「て、てめえっ!何者だ!」
オーク兵の一人、――昨日のザコーガだ―― が剣を抜いて叫んだ。
顔中に冷や汗をかき、全身が震えている。

「そ、そこの魔道士といい、おめえら一体なんなんだよ!」
恐怖に震えながら精一杯虚勢を張っている。

「言ったであろう、我はこの国の支配者であると」

「ふ、ふざけんじゃねぇ!ミッドランドの魔王、ルシファルザス様は人間に殺されたんだ!第一てめえとは似ても似つかねえ御姿だったぞ!」
ザコーガの指摘にルーシーはやれやれとため息をついた。

「所詮は目に映ったものしか信じられぬ小者か」
ルーシーは軽くため息をついた。

「ならば、これならわかるであろう」

言うなりルーシーの菫色の瞳から光が発し、全身から魔力が噴き出した。
魔王にしか発しえない濃密で凶悪な魔力が屋敷の敷地一体を包み込む。

敷地の半径数百メートルに渡って全ての小動物がのきなみ気絶し、小鳥は木から落ちた。
大型の獣は狂乱して逃げまどい、森中に獣の叫び声が木霊し、やがて消えていった。
テオの横ではヨハンが白目をむいて泡を吹いている。

「ひ……」
言葉を発する余裕もなくザコーガはへたり込んだ。
格が違うどころではない、目の前にいる小さな少女と比べたら己など足元を這う蟻と同様、いやそれ以下の存在だと魂が理解した。

他のオーク兵たちも同様だ。
中には失禁、気絶した者すらいる。

「理解したようだの」

「す、すいませんでしたぁ!」
意識のあるオーク兵はみな武器を捨てルーシーに平身低頭した。

既にルーシーが魔王であることに何の疑いもなかった。
いや、魔王であるかどうかは問題ではなかった。
自分たちの命が今やこの年端も行かぬ少女の手に握られていると心の底で理解していた。

「い、命ばかりは……」

「すいません!調子に乗っていました!」

「忠誠を誓います!ですから、どうか、どうか命だけはお助けください!」

全身全霊で命乞いをしている。


「どうしたものかの。田舎町とはいえ我を差し置いて我が物顔で振舞っていたのだ、死罪にするには十分な理由があるがの」

「ひぃぃぃっ!それだけは!」

「お願いします!お願いします!お願いします!お願いします!」
無慈悲なルーシーの言葉に全員身を震わし、更に哀願の声が響き渡る。

「待ってください」
テオがルーシーをたしなめた。

「なんじゃ貴様、こやつらを庇うのか」

「いえ、ですが彼らはブレンドロットの警備兵をしていたそうですので。今ここで殺してしまうとブレンドロットを警備するものがいなくなるのではと」

「それもそうだの、しかしなあ……」

「これからは心を入れ替えます!町民から金品を奪ったりしません!真面目に警備します!」

「これからもブレンドロットの警備をします、いやさせてください!」
悩むルーシーにオーク兵たちは必死に嘆願した。

「うーん、仕方がないのう。今回は見逃してやるか」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

ルーシーの許しを得てオーク兵たちは涙を流して礼を言った。
心の底から、魂の芯から喜んでいた。

それからオーク兵たちは礼をしつつザンギアックの死体を持って町へと帰っていった。

「凄えお方だな。テオ兄さん、あんたの知り合いなのかい?」
オーク兵たちが去った後でキツネがテオの下にやってきた。
何故か全身をロープで縛られている。

「なんで縛られてんだよ」
意識を取り戻したヨハンが不思議そうに尋ねる。

「いやあ、てっきりテオ兄さんが負けると思ってたからさ、今のうちに遺品の整理でもしておこうと思ってたらなんか箱の中からロープが飛び出して縛られちゃって。これ、ほどいてくんねえかな?」

「呆れた。お前火事場泥棒するつもりだったのかよ!ほんとどうしようもない奴だな!」
「まあまあ、無事に解決したんだし良いじゃないの。それよりテオ兄さん、このお方は?」

「我はルーシー。テオの所有物であるが、同時にこの国を支配する魔王でもあるからテオの主でもあるな」

「そういうものなのでしょうか?」

「うむ、そういうものだ」
テオの問いに平然と答えるルーシー。

「で、では私はルーシー様の下僕であり、テオの下僕でもありつつ、テオの先輩という事になるのですか?」

「で、お主は何者だ?」
メリサの言葉を無視してルーシーはキツネに尋ねた。

「俺っちはキッツ・ネイサン。どうかキツネと呼んでください。魔王様、ブレンドロットについて知りたいのでしたらこのキツネめにお任せを。ネズミの通り道まで熟知していやすぜ」
ロープに縛られたままキツネが器用に礼をする。

「ふむ、確かにまずは我が留守にしていた一年の間に領土がどうなったのか確認せねばなるまいな。よし、キツネとやら案内せい」

「喜んで!」

やれやれとため息をつき、テオは苦笑した。
こうしてテオとその一行は再びブレンドロットに向かう事になったのだった。
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