追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道一人

文字の大きさ
20 / 37

20.交易都市シャンドラにて

しおりを挟む
「この店はどうなってるんだ!」
インビクト王国西部最大の交易都市シャンドラの大通りにある地元民に人気のレストラン、旅人の憩い亭にモブランの怒号が響いた。

「長い旅路の果てにようやくやってきた人間に出すものがないだと!」

「ですから、申し上げた通り今日は祝日ですのでお客様が予想以上にいらっしゃったおかげでもう食材がなくなってしまったのです。申し訳ありませんがどうかご了承ください」

「ふざけるな!客が来たら料理を出すのはこの店の責任だろう!なんとしても食材を用意するのだ!金なら払うといっているだろう!」

「お金の問題ではないのです。市場はもう閉まっているし、買える場所がもうないのです」
店主が汗を拭きながら平謝りに謝っている。

「もうよい、モブラン」
テーブルについていたアポロニオが立ち上がった。

「評判の店だというから来てみたのだが、とんだ期待外れだったようだな。行くぞ」
そう言って店の外に出ていく。

誰のせいだよ、モブランは聞こえないようにつぶやいた。
クブカ領を出て以来、いやそれ以前からだったが三人の力関係ははっきりと決まっていた。

アポロニオがトップでその下にいるのがサラ、そして一番下がモブランだ。
何かにつけて雑用を押し付けられるモブランのストレスは既に限界に達していた。

アポロニオはとにかく何もしようとせず、飛竜の一件からキャンプも嫌がって町に泊まりたがった。
そして旅館や料理屋は常に高い所に泊まろうとしていた。
その宿や料理の注文は全てモブランの仕事だ。

何よりむかつくのは事あるごとにテオフラスと比較される事だった。

テオフラスならこの位造作もなかった、テオフラスなら言われる前にやっていた、テオフラスなら、テオフラスなら……

その怒りが店員など更に立場の下の者に向けられるのだった。
こんな旅、抜けられるものならさっさと抜けてしまいたいが、よほどの事情がない限りその後の自分の立場が危うくなることは必至だ。

残念なことにモブランの体は健康そのもので病気になる様子もない。
なったところで自分の魔法でさっさと治せと言われるだけなのだが。

そんな事をぶつぶつと呟きつつ二人の後をついていると突然アポロニオが立ち止まり、モブランはその背中にまともにぶつかった。

鎧に鼻っ柱をぶつけ涙目になりながら抗議しようとしたが、アポロニオは驚愕の眼差しで一点を見つめている。
そこは武器屋の前だった。
そのショーウィンドウに飾られていたのは……盗まれたアポロニオの聖剣アルゾルトだった。

「おい、店主!」
ドアを打ち破らんばかりの勢いで店の中に入っていくアポロニオ。

「あの剣はどうやって手に入れた!あれは私のだ!」

「おいおい、あんちゃん。いきなり何の用だ?」
カウンターの奥にいたいかつい禿面の店主がアポロニオの気迫に気圧されながら尋ねた。

「あそこにある剣は我が聖剣アルゾルトだ!あれの正当所有権は私にある!今すぐ返してもらうぞ!」

「ふざけたこと言うんじゃねえよ。あれは俺が大枚はたいて仕入れたんだ。いちゃもんつけるんだけだったらさっさとえんな」

「ふざけてるのはどっちだ!」

「アポロニオ様、不味いですよ!」
血相を変えるアポロニオをモブランが必死でなだめる。
既に何の騒ぎだと通りの人々が集まってきている。

交易都市シャンドラで悪評が広まったらあっという間に王国中に伝わってしまう。
そんな事になったら名折れどころではない。

「……わかった。そちらの仕入れ額で買い取らせてくれ」

「何とぼけたこと言ってるんだ?お前さんがこの剣の正当な持ち主だっていう証拠がどこにあるんだよ?俺ぁ売値以外では売るつもりはねえからな」

「ぐっ…、な、ならば幾らだ。言い値で買ってやる」
アポロニオは額に血管を浮き上がらせながら必死に堪え、カウンターに財布を投げ出した。
金貨銀貨がカウンターに流れ出る。
それを見て店主の目がギラリと光った。
モブランは頭を抱えた。
この男に金を持たせたら駄目だ。

「そうさなあ……金貨七枚ってところだな」

「なっ……」
陸に上がった金魚のように口をパクパクさせるアポロニオ。

「ふざけるな!金貨七枚だと!暴利にもほどがあるぞ!」

「おいおい、値段を決めるのはこっちだぜ。こいつにゃあ結構な金を使ってるんだ。嫌ならえんな」
既にアポロニオ一行が幾ら持っていてその剣を喉から手が出るくらい欲しがっていることを知っている店主は取り付く島もない。

金貨七枚と言えば慎ましく暮らせば数年は暮らしていける額だ。
普通だったらあり得ない額なのだが、頭に血が上ったアポロニオにはそこに思い至る事ができなかった。

「まあ特別にあんたの顔を立てて金貨五枚で良いぜ」
店主はにやにやと笑いながら挑発してくる。

「クソッ、払えばいいんだろ!払えば!」
金貨をカウンターに叩き付け、アポロニオは聖剣アルゾルトをひったくるように持っていった。
モブランは目眩がした。
おそらく真っ当な交渉をしていれば銀貨五十枚も出せば買えただろう(それでも相当な値段なのだ)。

盛大なため息をつく。

せっかくクブカに貰った路銀があっという間になくなろうとしていた。

雑用を頼まれるたびにちまちま貯めていた自分のへそくりだけは絶対に奪われないようにしよう。
そう誓い、アポロニオの後をついていくモブランだった。


   ◆


「お代なんか結構ですからなんでも頼んでください!
ブレンドロットでも評判の料理屋、湖畔亭の店主オークのトンパラは満面の笑みをテオに向けた。

「ザンギアックを倒したあなたたちはこの町の英雄だ!英雄から金をとる事なんてできませんよ!今回は私の奢りだと思ってください!」

「うむ、良い心掛けである」
椅子に座ったルーシーが満足そうにうなずく。

テーブルには香草と一緒にオーブンで焼いた魚、鳥の丸焼き、香辛料でマリネした猪肉のステーキ、サラダ、パン、その他さまざまな料理が所狭しと並んでいる。

あれからまずは腹ごしらえだと領主の屋敷を出て湖畔亭にやってきたのだ。

「ではまず再会を祝って乾杯じゃ!」

ルーシーの声が湖畔亭に響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...