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21.祝宴
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「うめえっ!」
キツネが鳥の丸焼きの腿をがぶりと食いちぎって叫んだ。
口から肉汁とよだれが流れ落ちている。
「なんでお前までついてきてるんだよ」
そう言いながら魚の香草焼きを頬ばっているのはヨハンだ。
「まあまあ、固い事言いっこなしよ。今日はお祝いじゃないの」
意に介さずというようにキツネは肉にかぶりついている。
「テオよ、お主意外といける口なのだな」
そう言ってメリサはテオの肩にしなだれかかった。
テオは食事を摘まみつつ地場産だというワインをあけている。
「お酒は好きなんですよ」
「では私が酌をしてやろう。代わりに私にはお主の精を飲ませておくれ」
「たわけ」
同じくテオの隣に座っていたルーシーがテーブル越しにメリサを蹴飛ばす。
手には塩の瓶を持ち、中に手を突っ込んで塩を掴み取っては口に運んでいる。
「それ、大丈夫なんですか?」
「我の体は塩と水銀と硫黄で出来ているからの」
ルーシーはテオの問いに応えながらなおも塩を食べ続けている。
「別に普通の食べ物でもいいんだがの、これもまた我の食事よ。他に水銀と硫黄もあるとありがたいんだがの」
「うむ、美味美味。良い海水塩を使っているようだな。なかなかいい店だぞ」
確かに湖畔亭の料理は評判通りの味だった。
どの料理も火加減や味付けが申し分ない。
何より扱っている酒が良かった。
「これはボーダーズのワインに近いですねえ」
顔を赤らめ、上機嫌でテオがワインを褒める。
「この辺は人界に近いですからね。このワインも人間のワイン職人が作っているんですよ」
トンパラが料理を運びながら説明した。
「へえ~、魔界にも人間が住んでいるんですか」
「この町にも百人位住んでるんじゃないですかね。ブレンドロットは魔界にも人界にも住めない連中の吹き溜まりみたいな町ですからね」
「そうそう、この町の連中はみんな脛に傷持つ連中ばかりよ」
串焼肉を器用に口でこそぎながらキツネが続けた。
「魔界で虐げられてきた奴、人界では生きていけない奴、そういう奴らが集まってこの町はできてんのさ。それだけ色んな奴らがいて面白いですぜ」
「その代表があんただね。脛に傷はあるけどその厚顔じゃ顔に傷はつきそうにないか」
ミルクをあけながらヨハンが混ぜっかえす。
「ミルクを飲んでるような子供に言われても何も効きませーん」
「むかつく~!テオ、こいつどうにかしてよ!」
「吹き溜まりか……私がここへ来たのも運命かもしれませんね」
その言葉にテオがカップを手に持ち、独り言ちた。
「私はもはや人界には住めない。かと言って人間だから魔界に馴染めるかどうか……そういう私だからこそこの町へきたのかも……」
「辛気臭いぞ!テオ!」
そんなテオにメリサが抱きついてきた
胸に顔を押し当て、頭をかき抱く。
「悩みがあるなら私がいつだって発散させてやるというのに。なんなら今この場でもいいのだぞ?」
「のけ、この色情吸魔族め。この男は我のものだ」
そのメリサをルーシーが蹴飛ばし、テオの頭を胸に抱く。
「主様~、私にもお情けをくださいまし~。もう一年も他の種族の精を吸っていないのでございます~、同族同士で慰め合うのはもう嫌でございます~」
「よく言うわ、この一週間毎晩毎晩我の床に忍び込んでおいて。貴様には好きなだけ精をくれてやったではないか」
「男の精は別腹なのでございます!」
「よくもぬけぬけと、って、テオよどうした?」
テオはルーシーの胸の中で目を回していた。
「そりゃあ、あれだけ酒を飲んだうえで二人に振り回されてたらねえ。ま、羨ましいこって」
「ほんとそうだよ」
デザートのアイスクリームを舐めながらうなずき合うキツネとヨハンだった。
◆
「ここは……?」
「気が付いたか」
テオが目を覚ますとそこはルーシーの膝の上だった。
起き上がって見渡すとそこはテオのベッドだった。
いつの間にかテオの屋敷に戻っていた。
既に日はとっぷりと暮れている。
「うーん……いててて」
起き上がると頭痛がテオを襲った。
急いで回復呪文を唱える。
「こんなに飲んだのは久しぶりです」
「ようやくそれだけの余裕が出てきたという事だな」
「……そうかも知れませんね。思えばこの数週間は色んな事が起こり過ぎて、無我夢中だったような気がします」
「結構結構、人生は楽しむ余裕があるのが何よりよ」
「そう言えば、ルーシーがここに来た理由をまだ聞いてなかったですね」
その言葉にルーシーはテオの足の上に頭を投げ出し、テオを見上げた。
「お主に会いたいから来た、それだけでは不満か?」
「そういう訳ではありませんが、それだけではないのでしょう?」
「ふん、相変わらず面白みのない奴よ」
そう言ってはいるがルーシーの顔は嬉しそうだ。
「まあ確かにここに来たのはお主に手伝ってほしいことがあるからよ」
「手伝うとは?」
「うむ、我はミッドランドに戻ってから今まで魔王城の確認をしておった。どうやら我がお主に敗れていらい我が城は何度も賊共の襲撃を受けていたらしい」
「それは……」
「謝らんでいい。それ自体は自然の成り行きよ。当然ながら我の宝物庫も荒らされ、空になっておった」
「魔王の宝物庫……」
テオが呟く。
その話はインビクト王国、いや人界全土にも伝わっていた。
魔王ルシファルザスの王城には巨大な宝物庫があり、そこには魔界垂涎の魔具が何百と保管されている、そのどれもが超特級レベルの魔具であり、値段をつけるなら一国の国家予算にも匹敵する、いや、値段など付けられるような代物ではないと。
「まあ敗れた以上仕方のないことではあるが、かと言って復活した今、奪われたままでいるのも面白くない。それにもう一度我がここに在る事を魔界全土に知らしめる必要もある」
ルーシーは言葉を続けた。
「そこでだ。奪われた魔具を集めつつ今一度ミッドランドに我が復活したことを証明しようと思っておる。それを手伝ってほしいのだ」
「……つまり、あなたがいなくなった後で台頭してきた勢力を片っ端から倒しつつ、奪われた魔具を回収するという事ですか?」
「話が早くて助かるわ」
そう言ってルーシーはにこりと笑った。
話している内容が物騒だが、その笑顔は可憐な花が咲いたような美しさだ。
「それは構いませんが……何故私に?メリサを含めルーシーには魔王の頃からの部下もいるのでは?」
テオの問いにルーシーは笑いかけた。
「それは我がお主と一緒にいたいからよ」
キツネが鳥の丸焼きの腿をがぶりと食いちぎって叫んだ。
口から肉汁とよだれが流れ落ちている。
「なんでお前までついてきてるんだよ」
そう言いながら魚の香草焼きを頬ばっているのはヨハンだ。
「まあまあ、固い事言いっこなしよ。今日はお祝いじゃないの」
意に介さずというようにキツネは肉にかぶりついている。
「テオよ、お主意外といける口なのだな」
そう言ってメリサはテオの肩にしなだれかかった。
テオは食事を摘まみつつ地場産だというワインをあけている。
「お酒は好きなんですよ」
「では私が酌をしてやろう。代わりに私にはお主の精を飲ませておくれ」
「たわけ」
同じくテオの隣に座っていたルーシーがテーブル越しにメリサを蹴飛ばす。
手には塩の瓶を持ち、中に手を突っ込んで塩を掴み取っては口に運んでいる。
「それ、大丈夫なんですか?」
「我の体は塩と水銀と硫黄で出来ているからの」
ルーシーはテオの問いに応えながらなおも塩を食べ続けている。
「別に普通の食べ物でもいいんだがの、これもまた我の食事よ。他に水銀と硫黄もあるとありがたいんだがの」
「うむ、美味美味。良い海水塩を使っているようだな。なかなかいい店だぞ」
確かに湖畔亭の料理は評判通りの味だった。
どの料理も火加減や味付けが申し分ない。
何より扱っている酒が良かった。
「これはボーダーズのワインに近いですねえ」
顔を赤らめ、上機嫌でテオがワインを褒める。
「この辺は人界に近いですからね。このワインも人間のワイン職人が作っているんですよ」
トンパラが料理を運びながら説明した。
「へえ~、魔界にも人間が住んでいるんですか」
「この町にも百人位住んでるんじゃないですかね。ブレンドロットは魔界にも人界にも住めない連中の吹き溜まりみたいな町ですからね」
「そうそう、この町の連中はみんな脛に傷持つ連中ばかりよ」
串焼肉を器用に口でこそぎながらキツネが続けた。
「魔界で虐げられてきた奴、人界では生きていけない奴、そういう奴らが集まってこの町はできてんのさ。それだけ色んな奴らがいて面白いですぜ」
「その代表があんただね。脛に傷はあるけどその厚顔じゃ顔に傷はつきそうにないか」
ミルクをあけながらヨハンが混ぜっかえす。
「ミルクを飲んでるような子供に言われても何も効きませーん」
「むかつく~!テオ、こいつどうにかしてよ!」
「吹き溜まりか……私がここへ来たのも運命かもしれませんね」
その言葉にテオがカップを手に持ち、独り言ちた。
「私はもはや人界には住めない。かと言って人間だから魔界に馴染めるかどうか……そういう私だからこそこの町へきたのかも……」
「辛気臭いぞ!テオ!」
そんなテオにメリサが抱きついてきた
胸に顔を押し当て、頭をかき抱く。
「悩みがあるなら私がいつだって発散させてやるというのに。なんなら今この場でもいいのだぞ?」
「のけ、この色情吸魔族め。この男は我のものだ」
そのメリサをルーシーが蹴飛ばし、テオの頭を胸に抱く。
「主様~、私にもお情けをくださいまし~。もう一年も他の種族の精を吸っていないのでございます~、同族同士で慰め合うのはもう嫌でございます~」
「よく言うわ、この一週間毎晩毎晩我の床に忍び込んでおいて。貴様には好きなだけ精をくれてやったではないか」
「男の精は別腹なのでございます!」
「よくもぬけぬけと、って、テオよどうした?」
テオはルーシーの胸の中で目を回していた。
「そりゃあ、あれだけ酒を飲んだうえで二人に振り回されてたらねえ。ま、羨ましいこって」
「ほんとそうだよ」
デザートのアイスクリームを舐めながらうなずき合うキツネとヨハンだった。
◆
「ここは……?」
「気が付いたか」
テオが目を覚ますとそこはルーシーの膝の上だった。
起き上がって見渡すとそこはテオのベッドだった。
いつの間にかテオの屋敷に戻っていた。
既に日はとっぷりと暮れている。
「うーん……いててて」
起き上がると頭痛がテオを襲った。
急いで回復呪文を唱える。
「こんなに飲んだのは久しぶりです」
「ようやくそれだけの余裕が出てきたという事だな」
「……そうかも知れませんね。思えばこの数週間は色んな事が起こり過ぎて、無我夢中だったような気がします」
「結構結構、人生は楽しむ余裕があるのが何よりよ」
「そう言えば、ルーシーがここに来た理由をまだ聞いてなかったですね」
その言葉にルーシーはテオの足の上に頭を投げ出し、テオを見上げた。
「お主に会いたいから来た、それだけでは不満か?」
「そういう訳ではありませんが、それだけではないのでしょう?」
「ふん、相変わらず面白みのない奴よ」
そう言ってはいるがルーシーの顔は嬉しそうだ。
「まあ確かにここに来たのはお主に手伝ってほしいことがあるからよ」
「手伝うとは?」
「うむ、我はミッドランドに戻ってから今まで魔王城の確認をしておった。どうやら我がお主に敗れていらい我が城は何度も賊共の襲撃を受けていたらしい」
「それは……」
「謝らんでいい。それ自体は自然の成り行きよ。当然ながら我の宝物庫も荒らされ、空になっておった」
「魔王の宝物庫……」
テオが呟く。
その話はインビクト王国、いや人界全土にも伝わっていた。
魔王ルシファルザスの王城には巨大な宝物庫があり、そこには魔界垂涎の魔具が何百と保管されている、そのどれもが超特級レベルの魔具であり、値段をつけるなら一国の国家予算にも匹敵する、いや、値段など付けられるような代物ではないと。
「まあ敗れた以上仕方のないことではあるが、かと言って復活した今、奪われたままでいるのも面白くない。それにもう一度我がここに在る事を魔界全土に知らしめる必要もある」
ルーシーは言葉を続けた。
「そこでだ。奪われた魔具を集めつつ今一度ミッドランドに我が復活したことを証明しようと思っておる。それを手伝ってほしいのだ」
「……つまり、あなたがいなくなった後で台頭してきた勢力を片っ端から倒しつつ、奪われた魔具を回収するという事ですか?」
「話が早くて助かるわ」
そう言ってルーシーはにこりと笑った。
話している内容が物騒だが、その笑顔は可憐な花が咲いたような美しさだ。
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