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22.奪われた魔具の行方
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「盗まれた魔具ねえ……」
丸いライ麦パンをスライスし、七面鳥のハムとチーズ、レタスとトマトをたっぷり挟んだサンドイッチにかぶりつきながらキツネが言った。
テオたちが祝宴をあげてから一日経ち、場所は再び湖畔亭だ。
魔具の行方を探るためにひとまず町の人に噂を聞こうとブレンドロットにやってきたのだ。
今回も店の奢りにすると頑張る店主だったが、それはテオが頑として譲らなかった。
「なんでまたこいつが来てるんだよ」
ヨハンはぶつぶつ言いながらサンドイッチからトマトを抜いている。
「トマトが嫌いなお子様の言う事なんか聞こえませーん」
「こいつむかつく!」
「まあ冗談は置いておいて、心当たりがない事もないぜ」
口の周りについたマスタードをぬぐいながらキツネが言った。
「本当ですか?」
「魔王様が倒されたという噂が流れ始めたのが一年前なんだけどさ、それからしばらくしてロバリーに新たな頭目が現れたって話があったんだ」
「ロバリー?」
テオが尋ねた。
「こっから馬竜で一週間くらいの所にある街さ。街全体が盗賊たちのアジトみたいになってる所でね。周りからは盗賊都市なんて呼ばれてんのさ。あ、チーズケーキを一つ、キイチゴソースたっぷりね」
ちゃっかり店主にデザートを頼みつつキツネが話を続けた。
「ロバリーはこの世のあらゆる盗品が集まる街なんて呼ばれてんだけど、元々はサイクロプスのイチガンって奴が仕切ってたんだ。でも十月くらい前かな、突然頭目が変わったって話が流れてきたのよ。イチガンって奴は荒くれものだったけど実力もあったんだ。新しい頭目はそれを見た事もないような魔法でぶち殺しちまったって話しなのさ」
「なるほど」
テオは皿の上の海老の素揚げをつつきながら話を聞いた。
「俺っちもその頃ロバリーにいたんだけどさ、新しい頭目になったくらいから街がギスギスし始めちゃって、なんか面白くなくなったからこっちに流れてきたってわけなのよ」
チーズケーキを頬張りながらキツネが続けた。
「それで、その新しい頭目について何か知っているんですか?」
「それがさ、そいつはふだん砦の奥に引っ込んでいて滅多な事じゃ姿を見せないのさ。でも驚きなことにその正体はダークエルフだって噂が流れてる。直接見たわけじゃないんだけど、とびきりのイケメンらしいと街の女どもがきゃーきゃー言ってたよ。で、自分のことをダークロードとか名乗ってるらしいんだ」
「ふん、ダークロードだと。しかも自分で名乗るとかセンスがないにも程があるわ」
特大のクリームパルフェに塩をたっぷりふりかけたものをスプーンで口に運びながらルーシーが鼻で笑った。
イケメンという言葉にメリサの耳がピクリと反応する。
「そういえば、王城を襲った者の中にダークエルフの一団がいたと部下が報告してきたことがあります」
パスタのトマトソース煮込みを食べながら報告する。
「ふむ、少なくともそのダークロードと名乗るものが何かしらの事を知っている可能性はありますね」
「どうやら最初の行き先は決まったようだの」
「そいつ、元は山賊だよ」
ヨハンが口を開いた。
「ダークロード……そいつがおいらの父様と母様を殺したんだ!」
そう叫んで机に拳を振り下ろす。
「テオ、おいらも連れていっておくれよ!父様と母様の仇を討ってやるんだ!反対したって……」
「いいですよ」
テオはあっさりと肯定した。
「……いいの?」
ヨハンはすんなり事が進んで逆にきょとんとした。
「もちろん、仇を討つのは大事ですからね。ただし危険なことに変わりはないので私から離れないようにしていてください」
「……わ、わかったよ。でも、こういう時は危険だから駄目だとか、復讐なんてとか言われるんだとばかり」
「なんじゃ小僧、今更怖気づいたのか?」
戸惑うヨハンをルーシーがからかう。
「べ、別に怖がってなんかないし!」
「カカカ、こやつを並の生き物の尺度で計るなぞ無駄なことよ。なにせたった四人で我が城に乗り込んできた奴じゃからの」
「とりあえず、今からそのロバリーへ行ってみますか」
ナプキンで口を拭きながらテオが立ち上がった。
「あなたにもついてきてもらいますよ」
そう言ってこっそり出ていこうとするキツネの肩をがっしりと掴む。
「い、いやだなあ、テオ兄さん。何も逃げようとしてたわけじゃないぜ?ただほら、ロバリーは馬竜でも一週間の距離だろ?ちょっと旅の荷造りをしようかなって」
「それなら大丈夫」
そう言ってテオはヨハンに銀貨を一枚投げた。
「それで近くにあった家具屋で中サイズの絨毯を一枚買ってきてくれないか?」
ヨハンが絨毯を買ってくるとテオはそれを湖畔亭の前に敷き、みんなにその上に乗るように促した。
「おい……これってまさか……」
「そのまさかですよ」
戸惑うキツネに笑いかけ、テオは詠唱を唱えた。
「汎遊泳術!」
その言葉と共に五人を乗せた絨毯がふわりと浮き上がる。
「おいおいおいおい、本当かよ!」
キツネが口をあんぐりとあけて驚く中、絨毯はみるみる高度を増していく。
「ロバリーというのはどっちですか?」
「こ、こっからだと北の方になるけど……本当にこれで行っちまうのか?」
「しっかり捕まっていてくださいよ!」
「いやちょっと待ったああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ドップラー効果を起こしたキツネの叫び声を残しつつ、絨毯は北へと猛スピードで飛んでいった。
丸いライ麦パンをスライスし、七面鳥のハムとチーズ、レタスとトマトをたっぷり挟んだサンドイッチにかぶりつきながらキツネが言った。
テオたちが祝宴をあげてから一日経ち、場所は再び湖畔亭だ。
魔具の行方を探るためにひとまず町の人に噂を聞こうとブレンドロットにやってきたのだ。
今回も店の奢りにすると頑張る店主だったが、それはテオが頑として譲らなかった。
「なんでまたこいつが来てるんだよ」
ヨハンはぶつぶつ言いながらサンドイッチからトマトを抜いている。
「トマトが嫌いなお子様の言う事なんか聞こえませーん」
「こいつむかつく!」
「まあ冗談は置いておいて、心当たりがない事もないぜ」
口の周りについたマスタードをぬぐいながらキツネが言った。
「本当ですか?」
「魔王様が倒されたという噂が流れ始めたのが一年前なんだけどさ、それからしばらくしてロバリーに新たな頭目が現れたって話があったんだ」
「ロバリー?」
テオが尋ねた。
「こっから馬竜で一週間くらいの所にある街さ。街全体が盗賊たちのアジトみたいになってる所でね。周りからは盗賊都市なんて呼ばれてんのさ。あ、チーズケーキを一つ、キイチゴソースたっぷりね」
ちゃっかり店主にデザートを頼みつつキツネが話を続けた。
「ロバリーはこの世のあらゆる盗品が集まる街なんて呼ばれてんだけど、元々はサイクロプスのイチガンって奴が仕切ってたんだ。でも十月くらい前かな、突然頭目が変わったって話が流れてきたのよ。イチガンって奴は荒くれものだったけど実力もあったんだ。新しい頭目はそれを見た事もないような魔法でぶち殺しちまったって話しなのさ」
「なるほど」
テオは皿の上の海老の素揚げをつつきながら話を聞いた。
「俺っちもその頃ロバリーにいたんだけどさ、新しい頭目になったくらいから街がギスギスし始めちゃって、なんか面白くなくなったからこっちに流れてきたってわけなのよ」
チーズケーキを頬張りながらキツネが続けた。
「それで、その新しい頭目について何か知っているんですか?」
「それがさ、そいつはふだん砦の奥に引っ込んでいて滅多な事じゃ姿を見せないのさ。でも驚きなことにその正体はダークエルフだって噂が流れてる。直接見たわけじゃないんだけど、とびきりのイケメンらしいと街の女どもがきゃーきゃー言ってたよ。で、自分のことをダークロードとか名乗ってるらしいんだ」
「ふん、ダークロードだと。しかも自分で名乗るとかセンスがないにも程があるわ」
特大のクリームパルフェに塩をたっぷりふりかけたものをスプーンで口に運びながらルーシーが鼻で笑った。
イケメンという言葉にメリサの耳がピクリと反応する。
「そういえば、王城を襲った者の中にダークエルフの一団がいたと部下が報告してきたことがあります」
パスタのトマトソース煮込みを食べながら報告する。
「ふむ、少なくともそのダークロードと名乗るものが何かしらの事を知っている可能性はありますね」
「どうやら最初の行き先は決まったようだの」
「そいつ、元は山賊だよ」
ヨハンが口を開いた。
「ダークロード……そいつがおいらの父様と母様を殺したんだ!」
そう叫んで机に拳を振り下ろす。
「テオ、おいらも連れていっておくれよ!父様と母様の仇を討ってやるんだ!反対したって……」
「いいですよ」
テオはあっさりと肯定した。
「……いいの?」
ヨハンはすんなり事が進んで逆にきょとんとした。
「もちろん、仇を討つのは大事ですからね。ただし危険なことに変わりはないので私から離れないようにしていてください」
「……わ、わかったよ。でも、こういう時は危険だから駄目だとか、復讐なんてとか言われるんだとばかり」
「なんじゃ小僧、今更怖気づいたのか?」
戸惑うヨハンをルーシーがからかう。
「べ、別に怖がってなんかないし!」
「カカカ、こやつを並の生き物の尺度で計るなぞ無駄なことよ。なにせたった四人で我が城に乗り込んできた奴じゃからの」
「とりあえず、今からそのロバリーへ行ってみますか」
ナプキンで口を拭きながらテオが立ち上がった。
「あなたにもついてきてもらいますよ」
そう言ってこっそり出ていこうとするキツネの肩をがっしりと掴む。
「い、いやだなあ、テオ兄さん。何も逃げようとしてたわけじゃないぜ?ただほら、ロバリーは馬竜でも一週間の距離だろ?ちょっと旅の荷造りをしようかなって」
「それなら大丈夫」
そう言ってテオはヨハンに銀貨を一枚投げた。
「それで近くにあった家具屋で中サイズの絨毯を一枚買ってきてくれないか?」
ヨハンが絨毯を買ってくるとテオはそれを湖畔亭の前に敷き、みんなにその上に乗るように促した。
「おい……これってまさか……」
「そのまさかですよ」
戸惑うキツネに笑いかけ、テオは詠唱を唱えた。
「汎遊泳術!」
その言葉と共に五人を乗せた絨毯がふわりと浮き上がる。
「おいおいおいおい、本当かよ!」
キツネが口をあんぐりとあけて驚く中、絨毯はみるみる高度を増していく。
「ロバリーというのはどっちですか?」
「こ、こっからだと北の方になるけど……本当にこれで行っちまうのか?」
「しっかり捕まっていてくださいよ!」
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