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25.アラムの過去
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アラムが目を覚ますと目の前にはテオの顔があった。
「意識が戻ったようですね」
とっさに跳ね起き、距離をとろうとするが全身に力が入らず突っ伏してしまう。
「まだ動かない方がいいですよ。怪我を治したとはいえ、完全に治しきったわけではないですから」
涼しげな顔でテオが注意する。
その顔を忌々し気に睨みつけながらアラムは上体を起こした。
壁まで這いより、背中を預ける。
「俺をどうするつもりだ」
「何のために我々を襲ってきたのか話してください。魂縛頸輪がない今、あなたが主に従う理由はないはずです」
アラムは首に手をやり、そこに首輪がないことを知るとふっと息をついた。
「本来なら話す義理などないが、あの忌々しい首輪を外してくれた借りは返す必要があるな」
そう言ってアラムは話し始めた。
「俺はダークロードの命でお前たちを捉えに来た。抵抗するようなら生死は問わないともな」
「どうやって我々がこの街に来たことを知ったのですか?」
「それは俺の知るところではない。おそらくお前らの近くに間者がいたのだろう」
「ふむ、どうやらそのダークロードというのはかなり用心深い人物のようですね。では何故あなたは彼に魂縛頸輪を付けられていたのですか?」
「俺にとって奴は敵だからだ。あの首輪がなかったらとっくに奴の首を掻っ切っている」
「それはあなたのその耳と肌の色に関係しているのですか?」
その言葉にアラムはテオを睨みつけた。
「あ、言いたくないのならいいです。単に好奇心から聞いてみただけですので」
テオが慌てて訂正する。
それを見てアラムはふっと笑った。
「まあいいさ。確かにその通りだ。俺はハーフエルフ、ただでさえエルフ族から忌み嫌われる存在だが、その中でも俺は格別だ。なんせエルフとゴブリンの間にできた子供なんだからな」
「父親が誰なのかは知らない。母親は俺を生んだことでエルフ族の集落から追い出され、俺が五十歳の時に病で死んだ。それから俺は魔界の暗殺集団に拾われてそこで育ったんだ」
テオは話を続けた。
「そこでの暮らしは厳しかったが悪くなかった。何より行く当てのない俺を養ってくれたしな。半年前、俺はとある任務に就いていた。とあるエルフの頭領を殺すという任務だ。」
「エルフを殺すこと自体は問題じゃなかった。あいつらは俺と母親を捨てた連中だ。奴らを殺すことに動機こそあれ躊躇う理由なんてない。だが、俺はそこで捉えられあの忌々しい首輪を付けられ、そいつに従わざるを得なかったというわけだ」
「そのエルフの頭領がダークロードという訳ですか」
テオの言葉にアラムは首肯した。
「それ以来散々汚れ仕事をやらされてきたって訳さ。もともと暗殺集団に拾われた身だからそれを嘆くつもりはないがな」
「これからどうするつもりですか?」
「決まってる。俺を道具扱いした報いを奴に思い知らせてやる」
テオの問いにアラムは殺気を迸らせた。
「ならば私たちと目的は同じですね」
そう言ってテオはヨハンの頭に手を置いた。
「この子もそのダークロードを仇討ちしにいくところなんです。良ければ手を組みませんか?」
「断る、と言ったら?」
アラムの言葉にテオは微笑んだ。
「別にどうするつもりもありませんよ。ここであなたの怪我を治してお別れです。でもその前にダークロードの屋敷の事を教えてもらえませんか?抜け道なんかを教えてもらえるとありがたいんですが」
「あんた、変わった奴だな。それだけの魔力を持ってるなら俺を従えるなんて簡単だろ」
「確かにできなくはないですけどね。人を従わせるのって性に合わないんですよ」
そう言ってテオは苦笑した。
その言葉にアラムの顔が緩んだ。
「説明するくらいなら一緒に行った方が簡単だ。目的は同じだし、あんたの魔力があった方が有利そうだからな」
そう言って手を差し出した。
「俺はアラム。言っておくが足手まといになったり裏切った場合は容赦なく切り捨てる」
「私はテオ。知っての通り魔道士です。それではよろしくお願いします」
そう言ってアラムの手を握る。
「我はルーシー。テオの創造物にして主だ」
「おいらはヨハン。ダークロードはおいらの仇でもあるんだ。一緒にあんにゃろうを倒そうよ!」
ルーシーとヨハンも口々に自己紹介をした。
◆
「あんた、本当に大した魔道士だな」
アラムが腕を軽く動かしながら感心したように言った。
テオの回復魔法でアラムの怪我は完全に治癒していた。
「これしきのこと、大したことではありませんよ」
「で、これからどうする?すぐにダークロードの所へ向かうのか?」
「いえ、ひとまず腹ごしらえしつつ今後の対策を練りましょう」
「ならこっちに来な。いい場所がある」
「ああっ!」
その時、突然ヨハンが叫んだ!
「キツネが逃げた!」
確かにいつの間にかキツネの姿が消えていた。
「あ、い、つ~!」
「まあまあ、消えてしまったものはしょうがない。そのうち戻ってくるでしょう」
「テオは甘すぎるよ!あいつこの街出身だと言ってたし、もう絶対に戻ってこないって!くそう、今度見つけたら絶対にギタギタにしてやる!」
ぶうぶう文句を言うヨハンをなだめつつ四人は狭い路地の片隅で煙をあげている半屋台形式の店に腰を下ろした。
「この街はそこら中にダークロードの目が光ってる。うかつに奴の名を出すだけですぐに奴の兵隊が飛んでくるんだが、この店なら大丈夫だ」
「問題は、どうやってダークロードの屋敷に入り込むかですね。ここから上に行くに従って警戒もどんどん厳しくなるだろうし」
やたらと固いが香辛料が効いていて味は絶品な謎の肉の串焼きを頬張りながらテオが言った。
「おお、この店は硫黄を使っているのか!良い店だな!」
「あんがとよ!うちは硫黄の炎で焼く硫黄焼きが名物なんだ!この街で一番だぜ!」
「うむ、良い硫黄を使っておるな!これであとは水銀があれば最高なんだがの!」
テオとアラムの会話をよそにルーシーは串焼きに硫黄をたっぷり振りかけてご満悦でかぶりついている。
「俺があんたらを捕まえたという事にして連行していけばいいだろう。奴はどうやらあんたらに用があるらしいから上手くいけばそのまま奴の前まで連れていかれるはずだ。そのためには俺の首輪を偽装する必要があるが、まあそれはなんとかなるだろう」
「確かにそれが一番早そうですね。幸い私たちが組んでいることはまだ伝わってはいないようですし」
その店、店名もズバリ硫黄屋はこの辺りではかなりの人気店らしく様々な魔族がひっきりなしに立ち寄っている。
「おばちゃん!ギガントカミキリの幼虫の塩焼き一つね!あとは黒エール一杯!」
「あいよ!ちょうどいい幼虫が入ったんだよ!」
「良いねえ~久しぶりにこの街に来たからここに来るのが楽しみでさ~」
「ああっ!」
隣のテーブルに着いた人物を見てヨハンが叫んだ。
「キツネ!」
「やべえっ」
テオたちに気付いたキツネは即座に立ち上がろうとしたが、その動きが不意に止まる。
足下にアラムの投げた短剣が刺さっていた。
「こいつ、さっきまであんたたちと一緒にいた奴だな」
「ええ、キツネと言います。ああ見えて結構良い人なんですよ」
「よくも逃げたな!」
「い、嫌だなあ。逃げただなんて。久しぶりに来たからちょっと懐かしくなって街の様子を見てただけですって」
食ってかかるヨハンにキツネは冷や汗をかきながら言い訳している。
「でもまあちょうど良かったですよ」
そう言ってテオはキツネの肩に手を置いた。
「先ほどスリにあって持ち合わせが全くなかったですからね。アラムにお願いしようと思っていましたがその様子だといくらか持ってるみたいなので立て替えておいてもらえますか?」
「は、はは……喜んで」
ひきつった顔でキツネは快諾した。
◆
「そういや街で大変な噂を聞いたぜ」
やけくそなようにギガントカミキリの幼虫の塩焼きを頬張りながらキツネが言った。
「なんでもさ、メリサの姐さんがダークロードの配下に捕まって連行されちまったらしいんだ」
「意識が戻ったようですね」
とっさに跳ね起き、距離をとろうとするが全身に力が入らず突っ伏してしまう。
「まだ動かない方がいいですよ。怪我を治したとはいえ、完全に治しきったわけではないですから」
涼しげな顔でテオが注意する。
その顔を忌々し気に睨みつけながらアラムは上体を起こした。
壁まで這いより、背中を預ける。
「俺をどうするつもりだ」
「何のために我々を襲ってきたのか話してください。魂縛頸輪がない今、あなたが主に従う理由はないはずです」
アラムは首に手をやり、そこに首輪がないことを知るとふっと息をついた。
「本来なら話す義理などないが、あの忌々しい首輪を外してくれた借りは返す必要があるな」
そう言ってアラムは話し始めた。
「俺はダークロードの命でお前たちを捉えに来た。抵抗するようなら生死は問わないともな」
「どうやって我々がこの街に来たことを知ったのですか?」
「それは俺の知るところではない。おそらくお前らの近くに間者がいたのだろう」
「ふむ、どうやらそのダークロードというのはかなり用心深い人物のようですね。では何故あなたは彼に魂縛頸輪を付けられていたのですか?」
「俺にとって奴は敵だからだ。あの首輪がなかったらとっくに奴の首を掻っ切っている」
「それはあなたのその耳と肌の色に関係しているのですか?」
その言葉にアラムはテオを睨みつけた。
「あ、言いたくないのならいいです。単に好奇心から聞いてみただけですので」
テオが慌てて訂正する。
それを見てアラムはふっと笑った。
「まあいいさ。確かにその通りだ。俺はハーフエルフ、ただでさえエルフ族から忌み嫌われる存在だが、その中でも俺は格別だ。なんせエルフとゴブリンの間にできた子供なんだからな」
「父親が誰なのかは知らない。母親は俺を生んだことでエルフ族の集落から追い出され、俺が五十歳の時に病で死んだ。それから俺は魔界の暗殺集団に拾われてそこで育ったんだ」
テオは話を続けた。
「そこでの暮らしは厳しかったが悪くなかった。何より行く当てのない俺を養ってくれたしな。半年前、俺はとある任務に就いていた。とあるエルフの頭領を殺すという任務だ。」
「エルフを殺すこと自体は問題じゃなかった。あいつらは俺と母親を捨てた連中だ。奴らを殺すことに動機こそあれ躊躇う理由なんてない。だが、俺はそこで捉えられあの忌々しい首輪を付けられ、そいつに従わざるを得なかったというわけだ」
「そのエルフの頭領がダークロードという訳ですか」
テオの言葉にアラムは首肯した。
「それ以来散々汚れ仕事をやらされてきたって訳さ。もともと暗殺集団に拾われた身だからそれを嘆くつもりはないがな」
「これからどうするつもりですか?」
「決まってる。俺を道具扱いした報いを奴に思い知らせてやる」
テオの問いにアラムは殺気を迸らせた。
「ならば私たちと目的は同じですね」
そう言ってテオはヨハンの頭に手を置いた。
「この子もそのダークロードを仇討ちしにいくところなんです。良ければ手を組みませんか?」
「断る、と言ったら?」
アラムの言葉にテオは微笑んだ。
「別にどうするつもりもありませんよ。ここであなたの怪我を治してお別れです。でもその前にダークロードの屋敷の事を教えてもらえませんか?抜け道なんかを教えてもらえるとありがたいんですが」
「あんた、変わった奴だな。それだけの魔力を持ってるなら俺を従えるなんて簡単だろ」
「確かにできなくはないですけどね。人を従わせるのって性に合わないんですよ」
そう言ってテオは苦笑した。
その言葉にアラムの顔が緩んだ。
「説明するくらいなら一緒に行った方が簡単だ。目的は同じだし、あんたの魔力があった方が有利そうだからな」
そう言って手を差し出した。
「俺はアラム。言っておくが足手まといになったり裏切った場合は容赦なく切り捨てる」
「私はテオ。知っての通り魔道士です。それではよろしくお願いします」
そう言ってアラムの手を握る。
「我はルーシー。テオの創造物にして主だ」
「おいらはヨハン。ダークロードはおいらの仇でもあるんだ。一緒にあんにゃろうを倒そうよ!」
ルーシーとヨハンも口々に自己紹介をした。
◆
「あんた、本当に大した魔道士だな」
アラムが腕を軽く動かしながら感心したように言った。
テオの回復魔法でアラムの怪我は完全に治癒していた。
「これしきのこと、大したことではありませんよ」
「で、これからどうする?すぐにダークロードの所へ向かうのか?」
「いえ、ひとまず腹ごしらえしつつ今後の対策を練りましょう」
「ならこっちに来な。いい場所がある」
「ああっ!」
その時、突然ヨハンが叫んだ!
「キツネが逃げた!」
確かにいつの間にかキツネの姿が消えていた。
「あ、い、つ~!」
「まあまあ、消えてしまったものはしょうがない。そのうち戻ってくるでしょう」
「テオは甘すぎるよ!あいつこの街出身だと言ってたし、もう絶対に戻ってこないって!くそう、今度見つけたら絶対にギタギタにしてやる!」
ぶうぶう文句を言うヨハンをなだめつつ四人は狭い路地の片隅で煙をあげている半屋台形式の店に腰を下ろした。
「この街はそこら中にダークロードの目が光ってる。うかつに奴の名を出すだけですぐに奴の兵隊が飛んでくるんだが、この店なら大丈夫だ」
「問題は、どうやってダークロードの屋敷に入り込むかですね。ここから上に行くに従って警戒もどんどん厳しくなるだろうし」
やたらと固いが香辛料が効いていて味は絶品な謎の肉の串焼きを頬張りながらテオが言った。
「おお、この店は硫黄を使っているのか!良い店だな!」
「あんがとよ!うちは硫黄の炎で焼く硫黄焼きが名物なんだ!この街で一番だぜ!」
「うむ、良い硫黄を使っておるな!これであとは水銀があれば最高なんだがの!」
テオとアラムの会話をよそにルーシーは串焼きに硫黄をたっぷり振りかけてご満悦でかぶりついている。
「俺があんたらを捕まえたという事にして連行していけばいいだろう。奴はどうやらあんたらに用があるらしいから上手くいけばそのまま奴の前まで連れていかれるはずだ。そのためには俺の首輪を偽装する必要があるが、まあそれはなんとかなるだろう」
「確かにそれが一番早そうですね。幸い私たちが組んでいることはまだ伝わってはいないようですし」
その店、店名もズバリ硫黄屋はこの辺りではかなりの人気店らしく様々な魔族がひっきりなしに立ち寄っている。
「おばちゃん!ギガントカミキリの幼虫の塩焼き一つね!あとは黒エール一杯!」
「あいよ!ちょうどいい幼虫が入ったんだよ!」
「良いねえ~久しぶりにこの街に来たからここに来るのが楽しみでさ~」
「ああっ!」
隣のテーブルに着いた人物を見てヨハンが叫んだ。
「キツネ!」
「やべえっ」
テオたちに気付いたキツネは即座に立ち上がろうとしたが、その動きが不意に止まる。
足下にアラムの投げた短剣が刺さっていた。
「こいつ、さっきまであんたたちと一緒にいた奴だな」
「ええ、キツネと言います。ああ見えて結構良い人なんですよ」
「よくも逃げたな!」
「い、嫌だなあ。逃げただなんて。久しぶりに来たからちょっと懐かしくなって街の様子を見てただけですって」
食ってかかるヨハンにキツネは冷や汗をかきながら言い訳している。
「でもまあちょうど良かったですよ」
そう言ってテオはキツネの肩に手を置いた。
「先ほどスリにあって持ち合わせが全くなかったですからね。アラムにお願いしようと思っていましたがその様子だといくらか持ってるみたいなので立て替えておいてもらえますか?」
「は、はは……喜んで」
ひきつった顔でキツネは快諾した。
◆
「そういや街で大変な噂を聞いたぜ」
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