追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道一人

文字の大きさ
29 / 37

29.ロバリーの一夜

しおりを挟む
「美味い!」
ルーシーがグラスを空け、叫んだ。
叩き付けるようにテーブルに置いたグラスから銀色の液体が零れ落ちる。

「あんたのためにこの街中から水銀を集めてきたんだぜ!じゃんじゃん飲んでくれ!」

「うむ、この街はなかなか気が利くではないか!気に入ったぞ!」
先ほどまでの怒りはどこへやら、上機嫌でグラスを空けている。

「メリサさん、俺の秘蔵の酒です!この街で一番ですよ!」

「何言ってやがる!メリサさん、こいつは魔界一の酒どころユーザワの十年ものですよ。あなたのような美しい人にはこの魔界誉十年こそが相応しい!」

「こっちは人界から取り寄せたワインです!あなたの髪のような赤です!是非飲んでください!」

「ほほほ、良い子たちだこと。今夜はとことん可愛がってあげるから、しっかりご奉仕なさい」

街の若者たちに囲まれ、メリサも上機嫌になっている。

「お、キツネじゃねえか!おめえ生きてたのかよ」

「へ、俺っちが簡単にくたばるかよ」

「それよりも貸してた銀貨十枚耳を揃えて返しやがれ!」

「こっちは二十枚だぞ!こっちの方が先だ!」

「そんなことよりオーガのオニヘイがおめえを見つけたらぶっ殺すと息巻いてたぞ。逃げなくていいのか?」
キツネは知り合いと旧交を温めている。

「さあさあじゃんじゃん飲んでくれ!遠慮はいらねえぜ!なんせあんたは街を救った英雄だからな!」

「俺の酒も飲んでくれ!」
テオの目の前には酒のグラスがどんどん並んでいく。
テオはそのグラスに懐から出した試薬を一滴ずつ入れていった。

「ふむ、十杯中七杯の酒になんらかの薬品が混入されているようですね。流石はロバリー」
試薬に反応して緑に輝く酒を見て感心したように呟く。

「しかし、大したもんだよ、あんたたちは!」
それを全く意に介さないかのように住人たちはテオを囲んでいる。

「あのダークロードとかいう野郎、むかつく奴だったけど実力は本物だったから誰も逆らえなかったんだ」

「それをこの街にやってくるなりぶっ殺しちまうんだもんな。ほんとすげえよ」

「あいつには住民みんな稼ぎの大半を持ってかれてたんだ。おかげでこの街もまた活気を取り戻せそうだぜ!」

「さあさあ、飲んでくれ、食ってくれ!全部俺たちの奢りだ!」

祝宴は夜遅くまで続いていった。



  ◆


「今日は大丈夫なようだの」
夜もとっぷりと暮れた中、テオの下にルーシーがやってきた。

既に宴会は終わりに差し掛かり、数人の酔っぱらいが騒いでいる他はみんな家に帰るか酔いつぶれて地面に転がっている。

「流石にこの街で酔うのは危険ですからね」
テオは苦笑しつつ応える。

「そちらも大丈夫そうですね」

「ふん、何かが混ぜられてはいたようだがの。その位でどうこうなる我ではないわ」

「どうこうなってしまった人もいるようですけどね」
振り向いた先ではキツネとヨハンが前後不覚になり、身ぐるみはがされていた。

流石にアラムは涼しい顔で今もグラスを空けている。

メリサはというと酔っているのかいないのかはわからないが下着姿になって若者たちの間でポールダンスを踊って盛り上がっている。

「なかなか良い街であろう?」
ルーシーはテオの横に腰かけると頭をテオの膝の上に乗せた。

「ええ、活気があって良いところですね。これほど賑やかな街はインビクト王国にもありませんよ」

「この街は昔からこうでの。我の領地内ではあるが面白いから放っておいてるのだ」

「魔王も認める無法街ですか」
テオは苦笑した。

「しかし街を治める者がいなくなってしまって、この街はこれからどうなるのでしょう」

「どうもならんよ」
テーブルにあった陸イカの干物を噛みながらルーシーはこともなげに言った。

「昔からここは実力のあるものが街を牛耳っていたのだ。これからもそうなるであろうよ。それともお主がここに住むか?さすればこの街はお主のものになるぞ?」

「勘弁してください」
テオはそう言ってグラスを傾けた。

「良い街ではあるけど油断がなさ過ぎて魔法の研究を怠りそうです。私にはブレンドロット位の田舎が丁度いいですよ」

「そう言うと思っておったわ。ま、我はお主の隣だったらどこでも良いのだがの」
そう言ってルーシーは愉快そうに笑った。


宴会の喧騒をよそに、夜は静かに過ぎていった。



  ◆


「いい加減にしてください!」
モブランが叫んだ。

「いいですか!もう我々には金がないんです!それにここから先はろくに人家もない!食料を買うために節約しなくちゃいけないんです!」

「それをどうにかするのが君の役目だろう!何故こうなる前に一言言わなかったのだ!」
アポロニオが怒鳴り返す。

「言いました!何度も言いましたとも!聞く耳持たなかったのはそっちです!」

「もっと真剣に言わなかったほうが悪い!」

ここは魔界との国境沿いの小さな町、アウトランドだ。

宿はなく、飲食店と食料品店が一軒ずつあるだけだ。

ここに来るまでの間でアポロニオ一行の旅費は尽きかけていた。
ここから先は魔界の町、ブレンドロットまで町はなく、わずかに人家が数件あるだけだ。
それなのにアポロニオは料理が不味いだのこんな食料は持っていきたくないだの文句を言っている。
どんな時も贅沢を欠かそうとしないアポロニオにモブランは呆れかえり、アポロニオはというと手際が悪いとモブランを軽蔑しきっている。

貧乏貴族出のモブランのことは最初から鼻にもかけていなかったのだが、この旅の中でこの二人の仲は最悪なまでに険悪になっていた。

「やはり、この遠征は止めた方がいいのでは……」
サラが恐る恐る提案する。

「まだそんなことを!」
呆れたようにアポロニオが絶叫する。

「良いですか!まもなくインビクト軍五万の兵士が我々に追いつこうというのですよ!今更止めるなどと言えますか!?」

「……それは」
その言葉にサラも言いよどむ。
アポロニオの言い分ももっともで、後から追ってきたインビクト軍は歩みの遅いアポロニオ一行に追いつこうとしている。
今ここで止めると言い出したらサラたちはもとより王の責任追及も免れなくなる。
既に引き返せないところに来ているのだ。

「さあ、さっさと行きましょう!ブレンドロットまではたったの二日です!その位なら野宿も耐えられるでしょう。そこのそいつがしっかり準備をしてくれればの話だがね」
そう言ってモブランを冷たく睨む。

「だったら自分でやってみろよ。口だけで何もしねえくせに」
モブランが小声で悪態をつく。

サラはため息をついた。

この旅は間違いなく失敗だった。

ブレンドロットにつけたとしてもそこからどうなるのかサラにはさっぱりわからなかった。
そしてそれはアポロニオとモブランも同じだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...