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一芝居
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レベッカの乗る馬車が盗賊に襲われたのはそれから数日後のことだった。
偶然通りがかった市民階級の青年が攫われようとするレベッカを助け出し、偶然、近くに住んでいるモニカの家で怪我の治療をすることになったのだったーー。
ーーーーーーーーーーーー
「レベッカ様、お怪我はありませんか?」
心配げに話しかけるモニカにレベッカは未だ緊張が解けない顔で頷いた。
「私は大丈夫よ、けどーー」
レベッカが見た先はベッドの上にいる市民階級の青年だった。
レベッカを助け出す時に抵抗した盗賊に刺された傷が痛々しく青年の白いシャツを赤く汚している。
出血は多く、顔も青白いが、幸い意識がはっきりとしている青年はレベッカの強ばった顔を気遣うように微笑んだ。
「大丈夫です。これでも鍛えておりますから。こんな傷、へっちゃらですよ」
青年の言葉に傷を見ている医者がその通り、と頷いた。
「ええ、幸いに血の量の割に怪我も浅い。まさに幸運というものでしょう! これぞ神の力! 神の意思というものなのです!」
「お医者様、あまり叫ばれては彼の傷に響きますわ」
やや劇口調に大声で叫ぶ医者にモニカは窘めるように言う。
医者はまたもや大袈裟に手を叩くと、わざとらしい身振りと劇口調の大声で叫ぶように言った。
「あぁ! これは申し訳ない! 確かに、傷を見なくてはいけませんね! これから傷をもっと深く見ます! 若い令嬢方が見るものではありませんよ!」
「ええ、任せましたわ」
「かしこましたとも!!」
「本当に、本当に大丈夫なのよね? 傷は、ちゃんと治るんですよね?」
心配そうに見るレベッカに青年はレベッカの手を握った。
突然手を握られ、驚いたように小さく悲鳴をあげるレベッカに青年はできる限りの力強さで答えた。
「大丈夫です。それよりも貴女が心配だ。この経験が貴女の心を傷つけていないか、私にはそれがこの傷よりもなにより心配なのです」
「だ、大丈夫、私は 大丈夫!」
慌てるレベッカに青年は安心したように微笑んだ。
市民階級と言いながらとても丁寧で、勇敢な青年だ。
顔もとても端正だ。貴族でも類を見ない美しさである。
レベッカは自分のピンチに助けてくれた青年の手を握り返した。
「…ありがとう。また、お礼をさせてください。お名前は?」
「ロナード、ロナードと申します。レベッカ様」
「ロナード様…」
ロナードとレベッカは手を握り合う。
その様子を見て、医者が大きい声で「すばらしい!」と叫んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
レベッカに迎えの馬車がきたのはそれからすぐの事だった。
馬車に乗り込もうとする中、後ろ髪引かれるようにロナードのことを気にするレベッカにモニカは「必ず大丈夫」と言い、モニカを送り出したのだった。
「………ふう」
レベッカを乗せた馬車が見えなくなるのを確認したモニカは大きく息を吐いた。
レベッカの馬車が姿が見えなくなるのを確認した後、自分の屋敷に戻ったモニカの目の前に居たのは先程ロナードを治療していた医者だった。
医者は先程着ていた白衣ではなく、カラフルなマントを羽織っており、興奮したようにモニカに詰め寄った。
「モニカ様! どうでしたか 私の演技!? 脚本家として30年やってきましたが、役者も悪くはないでしょう!! どうか我が劇団を支援するヒグロ様に私を主役とするように助言をーー」
「ありがとうございます。ガナル様。とても素晴らしい脚本でしたわ」
「演技はーー」
「演技も、こちらがドキドキするような演技でした」
ーー悪い意味でね。
モニカは本音を心の中で呟いた。
あんなわざとらしい演技、いつレベッカにバレるかヒヤヒヤしながら見ていたものだ。
このレベッカの乗る馬車が盗賊に襲われる、というシナリオを書いたのは目の前のガナルだが、脚本を作る才能はあってもそれが演技力に直結しないということをモニカは深く学んだ。
「とても素晴らしかったですわ…、ロナード様は?」
「あちらで休んでおります! ロナード様も演技が初めてということですが、私の次に素晴らしい役者でした!」
「そうね、その通りだわ」
ーー順序が逆よ。いえむしろーー
皆まで言うのはガナルの沽券に関わるため慎んだ。
部屋で休んでいるロナードの所へ向かっていく。
偶然通りがかった市民階級の青年が攫われようとするレベッカを助け出し、偶然、近くに住んでいるモニカの家で怪我の治療をすることになったのだったーー。
ーーーーーーーーーーーー
「レベッカ様、お怪我はありませんか?」
心配げに話しかけるモニカにレベッカは未だ緊張が解けない顔で頷いた。
「私は大丈夫よ、けどーー」
レベッカが見た先はベッドの上にいる市民階級の青年だった。
レベッカを助け出す時に抵抗した盗賊に刺された傷が痛々しく青年の白いシャツを赤く汚している。
出血は多く、顔も青白いが、幸い意識がはっきりとしている青年はレベッカの強ばった顔を気遣うように微笑んだ。
「大丈夫です。これでも鍛えておりますから。こんな傷、へっちゃらですよ」
青年の言葉に傷を見ている医者がその通り、と頷いた。
「ええ、幸いに血の量の割に怪我も浅い。まさに幸運というものでしょう! これぞ神の力! 神の意思というものなのです!」
「お医者様、あまり叫ばれては彼の傷に響きますわ」
やや劇口調に大声で叫ぶ医者にモニカは窘めるように言う。
医者はまたもや大袈裟に手を叩くと、わざとらしい身振りと劇口調の大声で叫ぶように言った。
「あぁ! これは申し訳ない! 確かに、傷を見なくてはいけませんね! これから傷をもっと深く見ます! 若い令嬢方が見るものではありませんよ!」
「ええ、任せましたわ」
「かしこましたとも!!」
「本当に、本当に大丈夫なのよね? 傷は、ちゃんと治るんですよね?」
心配そうに見るレベッカに青年はレベッカの手を握った。
突然手を握られ、驚いたように小さく悲鳴をあげるレベッカに青年はできる限りの力強さで答えた。
「大丈夫です。それよりも貴女が心配だ。この経験が貴女の心を傷つけていないか、私にはそれがこの傷よりもなにより心配なのです」
「だ、大丈夫、私は 大丈夫!」
慌てるレベッカに青年は安心したように微笑んだ。
市民階級と言いながらとても丁寧で、勇敢な青年だ。
顔もとても端正だ。貴族でも類を見ない美しさである。
レベッカは自分のピンチに助けてくれた青年の手を握り返した。
「…ありがとう。また、お礼をさせてください。お名前は?」
「ロナード、ロナードと申します。レベッカ様」
「ロナード様…」
ロナードとレベッカは手を握り合う。
その様子を見て、医者が大きい声で「すばらしい!」と叫んだ。
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レベッカに迎えの馬車がきたのはそれからすぐの事だった。
馬車に乗り込もうとする中、後ろ髪引かれるようにロナードのことを気にするレベッカにモニカは「必ず大丈夫」と言い、モニカを送り出したのだった。
「………ふう」
レベッカを乗せた馬車が見えなくなるのを確認したモニカは大きく息を吐いた。
レベッカの馬車が姿が見えなくなるのを確認した後、自分の屋敷に戻ったモニカの目の前に居たのは先程ロナードを治療していた医者だった。
医者は先程着ていた白衣ではなく、カラフルなマントを羽織っており、興奮したようにモニカに詰め寄った。
「モニカ様! どうでしたか 私の演技!? 脚本家として30年やってきましたが、役者も悪くはないでしょう!! どうか我が劇団を支援するヒグロ様に私を主役とするように助言をーー」
「ありがとうございます。ガナル様。とても素晴らしい脚本でしたわ」
「演技はーー」
「演技も、こちらがドキドキするような演技でした」
ーー悪い意味でね。
モニカは本音を心の中で呟いた。
あんなわざとらしい演技、いつレベッカにバレるかヒヤヒヤしながら見ていたものだ。
このレベッカの乗る馬車が盗賊に襲われる、というシナリオを書いたのは目の前のガナルだが、脚本を作る才能はあってもそれが演技力に直結しないということをモニカは深く学んだ。
「とても素晴らしかったですわ…、ロナード様は?」
「あちらで休んでおります! ロナード様も演技が初めてということですが、私の次に素晴らしい役者でした!」
「そうね、その通りだわ」
ーー順序が逆よ。いえむしろーー
皆まで言うのはガナルの沽券に関わるため慎んだ。
部屋で休んでいるロナードの所へ向かっていく。
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