モニカのお悩み相談室、通称「悪役令嬢更生センター」

ブリリアント・ちむすぶ

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青い春

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ーーこの屋敷を見上げるのは『今』は3回目ね。

だが、前回の緊張感に溢れた時とは大違いに、晴れた気持ちなのを感じる。
計画は順調に進んでいる。
しかもレベッカが自分に会いたい、とも言ったのだ。
内心小躍りするのをこらえ、モニカは屋敷の呼び鈴を鳴らす。

「お待ちしておりました。モニカ様」

変わらぬ様子のナッシュが出迎え、モニカを部屋に案内する。
屋敷内の見定める視線は変わらないが、2度目というので慣れたものだった。
部屋に到着し、メイドが紅茶を用意する所でレベッカが現れた。
現れたレベッカは、以前と変わらない様子だが、心做しか顔色が明るく、浮かれているようなオーラを感じる。

ーーこれは、恋をしているわね。   

モニカはそう思うとそのままレベッカに頭を下げる。

「レベッカ様、本日はお招きありがとうございます」
「…いえ」

レベッカはメイドに自分の分の紅茶をいれさせると、メイドをナッシュを退室させる。
どうやら周りに聞かれたくない話をするためにモニカを呼んだのだろう。

「…それで、本日はどのようなご相談で?」
「…その、えっと…」

レベッカの口に何かをふくんだ様子にモニカは笑みを浮かべながら言う。

「言わないとわかりませんよ」
「…その、来週、お父様が久しぶりに戻ってくるの」

モニカの父親はアルバーテ家当主として、国の要職についている。
そのため、普段は王都におり多忙な毎日を過ごしている。
レベッカは話を続けた。

「お父様はこの街で力を持っている市民階級の方との食事があるから、と言ったわ…」
「ええ」
「その食事に、私も参加しろとおっしゃったの」
「まあ」
「貴女もわかるでしょう。年頃の貴族の娘が家族以外の男性と食事をすることはない。あるとしたら、それは娘とその男を結婚させたい時」
「ええ、わかっておりますわ、それで、その方の名前は知っておりますか?」
「え、ええ…」

震えた声で頷くレベッカにモニカは今すぐにでも踊り出したい気持ちを必死で堪えた。
レベッカは話を続ける。

「そのお相手は、なんとロナード様だと言うの、まだ彼は市民階級だから、貴族の位をもらうまで時間はあるけどーー、私、どうしたらいいのかしら!?」

最後は半ばやけくそのように言ったレベッカの顔は赤く、もうすっかり乙女の顔をしていた。
既にレベッカとロナードの手紙のやり取りは両手では数えることが出来ない枚数をこなしている。
レベッカからすれば秘するべき恋のはずが、まさかのここで会うことになるはずの相手がロナードという自体に、誰かに言わずには居られなかったのだろう。
その役目にモニカは適任と言う訳だ。
モニカは諭すように口を開いた。

「レベッカ様、レベッカ様はなにを望んでおられるのですか?」
「そ、それは…」
「まずはそこからです。ロナード様と夫婦になりたいのかどうなのか」
「ふ、夫婦だなんてそんな…!!!」

あわあわと慌てるレベッカの様子にモニカは頬を緩むのを一生懸命抑える。
レベッカの顔は赤い。

ーー春ね。青い春だわ。

モニカは微笑ましい気持ちでレベッカに言った。

「レベッカ様、私も同じ思いをした時がありました」
「貴女が?」
「ええ。遠い昔の話です」

それは『今』のモニカの話ではなく、『前』の話だ。
あの時の思い出は今でもモニカにとって大切な思い出である。
そのことを思い出し、モニカはレベッカに微笑む。

「その感情はいずれ、大きな愛に変わります、それが私たちに大きな翼を授けてくれる原動力になるのです」
「…貴女って、私と2歳しか違わないのに大人みたいなことをいうのね。まだ18というのに遠い昔なんて」
「私は色々ありましたから」
「まあ、貴女はね」

レベッカは納得したように言い、それ以上追求してくることは無かった。
モニカは紅茶を1口のみ、口を開いた。

「そういえばレベッカ様、市民階級についてはどこまで知っておりますか?」

モニカの唐突な質問に、レベッカは不思議そうに答える。

「どこまでって…」
「例えば教育、マナーなど、同じ人間であっても所属する場所が変われば様変わりしますわ」

モニカの言葉にレベッカは納得したように頷く。

「ええ、そうよね」
「例えば挨拶だって貴族の女性は裾を持ち上げ礼をするのに対し、市民階級は頭を下げるのみ。食事マナーもさまざまです」 
「…つまり、なんと言いたいの?」

話の要点が掴めず、クエスチョンマークを浮かべるレベッカにモニカはニコリと微笑んだ。

「なので、互いを知るには互いの背景を知るべき、ということです」

ようやく話の道筋が掴めたレベッカは大きく頷いた。

「そうね。モニカの言う通りだと思うわ」
「ありがとうございます。もちろん中には受け入れられないこともあるかもしれません。ですが、まずは実際に見たり感じたりしない事には始まりません」
「…つまり、貴女は私になにをさせたいの?」

レベッカの問いにモニカは今日1番の笑みで言った。

「今度、市民が集う場に行ってみましょう!」



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