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街中
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「人が多いわ!」
「レベッカ様、あまりよそ見はいけませんわ。狙われます」
「狙われるって、誰によ」
「もちろん、泥棒です。貴族の身につけているアクセサリーや持ち物を盗んで換金するんですよ。もっと治安が悪いところだと、命の危険すらあります」
「…………」
「レベッカ様、私がおりますから安心してください」
人通りの恐怖に黙り込んだレベッカにナッシュが気を使うように答えた。
モニカにちらりと言いたげな視線を投げたナッシュに対し、モニカは黙って通りをみた。
「モニカ様、何か気になるお店がありましたらぜひ入ってみてください」
「気になるお店…」
「ええ、この辺りは私もよく行きます。皆質のいいものばかり取り揃えておりますわ。ロナード様が経営している店もこの先に」
「ロ、ロナード様はいらっしゃるのかしら?」
「どうでしょう…、後で覗いてみるといいかもしれませんね」
「ええ!」
花が咲きほこるような笑みをみせたレベッカにモニカも思わず頬が緩む。
レベッカを見ると、ロナードの所には行きたいがどの店も気になる、と言ったようでしきりに辺りを見渡している。
全く、気をつけろと言ったのにこれでは意味が無い、とモニカはレベッカを見てクスリ、と笑った。
「迷うわね…」
「いいのですよ。焦らずに」
「あ、あのお店、行ってみていい?」
「ええ、どうぞ」
目の前にあったのは紅茶店だった。
あれはモニカもよく行く店だから信頼出来る。
レベッカはナッシュを引っ張るように店に入っていき、モニカも少し遅れて着いて行く。
すでに店員に様々な種類の紅茶の説明を受けているレベッカをモニカはにこやかに見る。
「これ、初めて飲むわ…」
店員に勧められ、紅茶を飲んだレベッカは感慨深そうに呟く。
初老の店主は満足気に頷いた。
「北のノース領の庶民の間で愛されていた品種になります」
「ノース地方の?」
「ええ。1等茶葉は何せお貴族様がのんじまいますから。ですが、二等以下でもこうして時間をかけて蒸せば1等とはまた違った味わいが楽しめるんです」
「ノース地方にも、こんなものがあるのね」
「お客さんはノース地方には行かれるんです?」
「お母様の生まれがそこなの」
「へえ、あそこはここから行きやすいですからね。羨ましいもんです」
レベッカの口ぶりは感慨深げだった。
そのままレベッカは茶葉を大量に買い、店主の上機嫌な礼が店に広がった。
「お客様はよろしいので?」
「私はいいわ。先週このお店で買ったばかりだもの」
「それはそれは…、失礼いたしました」
「いいのよ。私はそこまで大口の客じゃないもの」
「申し訳ありませんね」
不思議そうにモニカと店主のやり取りを見ていたレベッカは店に出た後、不思議そうに言った。
「店の者に名前を忘れても許せるなんて、モニカはお人よしなのね」
「貴族向けの店と違い、この市民階級向けのお店は日々いろんな方が来店されますわ。私は定期的、といっても頻繁には来ませんから」
「私だったら怒っちゃうかも」
「ふふっ」
自分のことのように言ったレベッカいモニカは頬を緩ませた。
嬉しそうなモニカにレベッカは訝しげな顔をする。
「なによ、ニヤニヤしちゃって」
「こうしてレベッカ様と一緒にいろいろ買い物に行くのが楽しみでしたので」
「叔母様のようなことを言うのね、あなた」
「…念のための確認ですが、レベッカ様の仰る叔母様という方はオグワルド伯爵夫人のことでしょうか」
「ええ、よくわかったわね」
「……」
レベッカの父親の姉であるオグワルド伯爵夫人は弟に負けず劣らずの活力の持ち主で、さらに5度の出産により体系は非常に女性らしく、いや、全身の肉がない場所はないほどに太っているのが『前』のモニカの記憶だ。
同じ女性とはいえ、さすがに似ていると言われると傷つくものがある。
本人は豪快ながら気の利く性格で慕われてはいるのだが…。
「どうしたのよ」
「なんでもありません…」
「? 変なの」
「レベッカ様、あまりよそ見はいけませんわ。狙われます」
「狙われるって、誰によ」
「もちろん、泥棒です。貴族の身につけているアクセサリーや持ち物を盗んで換金するんですよ。もっと治安が悪いところだと、命の危険すらあります」
「…………」
「レベッカ様、私がおりますから安心してください」
人通りの恐怖に黙り込んだレベッカにナッシュが気を使うように答えた。
モニカにちらりと言いたげな視線を投げたナッシュに対し、モニカは黙って通りをみた。
「モニカ様、何か気になるお店がありましたらぜひ入ってみてください」
「気になるお店…」
「ええ、この辺りは私もよく行きます。皆質のいいものばかり取り揃えておりますわ。ロナード様が経営している店もこの先に」
「ロ、ロナード様はいらっしゃるのかしら?」
「どうでしょう…、後で覗いてみるといいかもしれませんね」
「ええ!」
花が咲きほこるような笑みをみせたレベッカにモニカも思わず頬が緩む。
レベッカを見ると、ロナードの所には行きたいがどの店も気になる、と言ったようでしきりに辺りを見渡している。
全く、気をつけろと言ったのにこれでは意味が無い、とモニカはレベッカを見てクスリ、と笑った。
「迷うわね…」
「いいのですよ。焦らずに」
「あ、あのお店、行ってみていい?」
「ええ、どうぞ」
目の前にあったのは紅茶店だった。
あれはモニカもよく行く店だから信頼出来る。
レベッカはナッシュを引っ張るように店に入っていき、モニカも少し遅れて着いて行く。
すでに店員に様々な種類の紅茶の説明を受けているレベッカをモニカはにこやかに見る。
「これ、初めて飲むわ…」
店員に勧められ、紅茶を飲んだレベッカは感慨深そうに呟く。
初老の店主は満足気に頷いた。
「北のノース領の庶民の間で愛されていた品種になります」
「ノース地方の?」
「ええ。1等茶葉は何せお貴族様がのんじまいますから。ですが、二等以下でもこうして時間をかけて蒸せば1等とはまた違った味わいが楽しめるんです」
「ノース地方にも、こんなものがあるのね」
「お客さんはノース地方には行かれるんです?」
「お母様の生まれがそこなの」
「へえ、あそこはここから行きやすいですからね。羨ましいもんです」
レベッカの口ぶりは感慨深げだった。
そのままレベッカは茶葉を大量に買い、店主の上機嫌な礼が店に広がった。
「お客様はよろしいので?」
「私はいいわ。先週このお店で買ったばかりだもの」
「それはそれは…、失礼いたしました」
「いいのよ。私はそこまで大口の客じゃないもの」
「申し訳ありませんね」
不思議そうにモニカと店主のやり取りを見ていたレベッカは店に出た後、不思議そうに言った。
「店の者に名前を忘れても許せるなんて、モニカはお人よしなのね」
「貴族向けの店と違い、この市民階級向けのお店は日々いろんな方が来店されますわ。私は定期的、といっても頻繁には来ませんから」
「私だったら怒っちゃうかも」
「ふふっ」
自分のことのように言ったレベッカいモニカは頬を緩ませた。
嬉しそうなモニカにレベッカは訝しげな顔をする。
「なによ、ニヤニヤしちゃって」
「こうしてレベッカ様と一緒にいろいろ買い物に行くのが楽しみでしたので」
「叔母様のようなことを言うのね、あなた」
「…念のための確認ですが、レベッカ様の仰る叔母様という方はオグワルド伯爵夫人のことでしょうか」
「ええ、よくわかったわね」
「……」
レベッカの父親の姉であるオグワルド伯爵夫人は弟に負けず劣らずの活力の持ち主で、さらに5度の出産により体系は非常に女性らしく、いや、全身の肉がない場所はないほどに太っているのが『前』のモニカの記憶だ。
同じ女性とはいえ、さすがに似ていると言われると傷つくものがある。
本人は豪快ながら気の利く性格で慕われてはいるのだが…。
「どうしたのよ」
「なんでもありません…」
「? 変なの」
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