モニカのお悩み相談室、通称「悪役令嬢更生センター」

ブリリアント・ちむすぶ

文字の大きさ
16 / 28

街中

しおりを挟む
「人が多いわ!」
「レベッカ様、あまりよそ見はいけませんわ。狙われます」
「狙われるって、誰によ」
「もちろん、泥棒です。貴族の身につけているアクセサリーや持ち物を盗んで換金するんですよ。もっと治安が悪いところだと、命の危険すらあります」
「…………」
「レベッカ様、私がおりますから安心してください」

人通りの恐怖に黙り込んだレベッカにナッシュが気を使うように答えた。
モニカにちらりと言いたげな視線を投げたナッシュに対し、モニカは黙って通りをみた。

「モニカ様、何か気になるお店がありましたらぜひ入ってみてください」
「気になるお店…」
「ええ、この辺りは私もよく行きます。皆質のいいものばかり取り揃えておりますわ。ロナード様が経営している店もこの先に」
「ロ、ロナード様はいらっしゃるのかしら?」
「どうでしょう…、後で覗いてみるといいかもしれませんね」
「ええ!」 

花が咲きほこるような笑みをみせたレベッカにモニカも思わず頬が緩む。
レベッカを見ると、ロナードの所には行きたいがどの店も気になる、と言ったようでしきりに辺りを見渡している。
全く、気をつけろと言ったのにこれでは意味が無い、とモニカはレベッカを見てクスリ、と笑った。

「迷うわね…」
「いいのですよ。焦らずに」
「あ、あのお店、行ってみていい?」
「ええ、どうぞ」

目の前にあったのは紅茶店だった。
あれはモニカもよく行く店だから信頼出来る。 
レベッカはナッシュを引っ張るように店に入っていき、モニカも少し遅れて着いて行く。
すでに店員に様々な種類の紅茶の説明を受けているレベッカをモニカはにこやかに見る。

「これ、初めて飲むわ…」

店員に勧められ、紅茶を飲んだレベッカは感慨深そうに呟く。
初老の店主は満足気に頷いた。

「北のノース領の庶民の間で愛されていた品種になります」
「ノース地方の?」
「ええ。1等茶葉は何せお貴族様がのんじまいますから。ですが、二等以下でもこうして時間をかけて蒸せば1等とはまた違った味わいが楽しめるんです」
「ノース地方にも、こんなものがあるのね」
「お客さんはノース地方には行かれるんです?」
「お母様の生まれがそこなの」
「へえ、あそこはここから行きやすいですからね。羨ましいもんです」

レベッカの口ぶりは感慨深げだった。
そのままレベッカは茶葉を大量に買い、店主の上機嫌な礼が店に広がった。

「お客様はよろしいので?」
「私はいいわ。先週このお店で買ったばかりだもの」
「それはそれは…、失礼いたしました」
「いいのよ。私はそこまで大口の客じゃないもの」
「申し訳ありませんね」

 不思議そうにモニカと店主のやり取りを見ていたレベッカは店に出た後、不思議そうに言った。

「店の者に名前を忘れても許せるなんて、モニカはお人よしなのね」
「貴族向けの店と違い、この市民階級向けのお店は日々いろんな方が来店されますわ。私は定期的、といっても頻繁には来ませんから」
「私だったら怒っちゃうかも」
「ふふっ」

 自分のことのように言ったレベッカいモニカは頬を緩ませた。
 嬉しそうなモニカにレベッカは訝しげな顔をする。

「なによ、ニヤニヤしちゃって」
「こうしてレベッカ様と一緒にいろいろ買い物に行くのが楽しみでしたので」
「叔母様のようなことを言うのね、あなた」
「…念のための確認ですが、レベッカ様の仰る叔母様という方はオグワルド伯爵夫人のことでしょうか」
「ええ、よくわかったわね」
「……」

 レベッカの父親の姉であるオグワルド伯爵夫人は弟に負けず劣らずの活力の持ち主で、さらに5度の出産により体系は非常に女性らしく、いや、全身の肉がない場所はないほどに太っているのが『前』のモニカの記憶だ。
 同じ女性とはいえ、さすがに似ていると言われると傷つくものがある。
 本人は豪快ながら気の利く性格で慕われてはいるのだが…。

「どうしたのよ」
「なんでもありません…」
「? 変なの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

妹が「この世界って乙女ゲーじゃん!」とかわけのわからないことを言い出した

無色
恋愛
「この世界って乙女ゲーじゃん!」と言い出した、転生者を名乗る妹フェノンは、ゲーム知識を駆使してハーレムを作ろうとするが……彼女が狙った王子アクシオは、姉メイティアの婚約者だった。  静かな姉の中に眠る“狂気”に気付いたとき、フェノンは……

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...