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老人の知る真実2
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「……まさか」
「そのまさかだ。お前は彼と王から生まれた子だ」
老人の答えは簡潔だった。
老人は言葉を続ける。
「お前の見た目の年齢が変わらないのも、王の血だろう。出征に行っている王子も、今のお前くらいの見た目だ」
「なら、ファル、いえ、彼はー-」
「王の血を飲んだ、とグズからは聞いている」
「……」
ファルとマラジュがコルドの本当の親。
それを言われてもコルドはそうとは思えなかった。
確かにおかしいことは起きていた。だが、コルドの心が拒絶する。
「……嘘だ」
「そうだろうな。だが、事実だ。少なくとも俺や、彼、王は事実を知っていた。それ以外にもー-、城内の者の視線がおかしいとは思わなかったか?」
「……」
普段は城外の者を見下す城内の者がコルドを見ると途端に固まり、恐れるような視線を投げつけることは一度や二度ではなかった。
顔をじろじろと見られ、ずいぶん居心地の悪く感じた。
「同じ親からだろうな。お前は王子と似ているよ」
「……私は、なぜ父と旅をしていたのですか?」
「俺とグズのせいだ」
「あなたと、父が?」
老人は深く頷いた。
テーブルの上に置かれた自分の拳を老人は握りしめる。
「……俺たちは、あの人をこの城から逃がそうとした」
「……」
「男が、子を産む事を昔のあの人は受け入れられなかった。お前を産んだあの人は、このままだと心を壊れてしまいそうだった。だから俺とグズはあの人と産まれたばかりのお前と4人で逃げようとし、失敗した」
「……」
「結果はあの通りだ。あの人は声と足を奪われ、お前とグズはそのまま逃げた。俺は腹に穴が空いたあと、変わらずあの人の世話係になった。もう、45年も経つ」
老人は服をめくり、腹を見せた。
腹は痛々しい傷跡が残っている。
コルドはその傷を見ながら呟いた。
「……私のことを分かっていたなら、なんでそれを言ってくれなかったのですか?」
「俺にはお前に真実を告げる資格などない。結果はどうあれ、俺はお前よりあの人をとった。そんな人間に、真実を告げる資格などない」
「……」
「それに、心のどこかで私は期待していたのだ。母と子の愛のある再会を。お前が、あの人の喉を治した時まではそう思っていた」
「…………壊したのは、彼です」
「俺には何も言う資格はない。間違えていたのは、俺だったんだ。だから、お前は間違っていない」
「…………」
自分は何者か。
ずっと知りたかった話のはずなのに、コルドにとってはどこか遠い世界の話のように感じた。
受け入れられない事実に衝撃をうけるコルドの前に、老人はいくつかの袋を差し出した。
「朝になったら、この城からでろ。金はここに用意してある。故郷に帰るでも、違う土地に行くのでもよい。王、いや、上はお前を王族にするつもりだ。そうすれば帰ってきた王子との権力争いがいずれおこる。だから、今のうちにこの城から出るんだ」
袋とコルドの物ではない首飾りの両方をコルドの前に出される。
コルドは首飾りの方を見た後、老人に静かに問う。
「……首飾りは」
「あれは……お前が大切にするようなものではない」
「あの首飾りは、なんなのですか?」
老人は深く息を吐いた。
首飾りの青い宝石がコルドと老人を映した。
「この首飾りは、俺の母の物だ。母は、父に先立たれた未亡人でありながらも城内の人間に見初められ、城内に入った。この首飾りはその城内の男が俺と母にくれた物だ」
「……」
老人は首飾りをにらむように見る。
その目は複雑な感情が込められているのだろう。
「物は良いから、逃げた後の生活資金用に俺が持ってきたんだ。そのうちの母のものを、赤子だったお前はつかんで離さなかった」
「……父は、あの首飾りを肌身離さずつけていました」
「馬鹿なやつだ。肌身、話さずかー--」
老人は皆を言わず、首飾りをつかみながら肩を震わせた。
老人の方のテーブルに小さな涙の泉ができたのをコルドはまるで違う世界の出来事のように感じていた。
「そのまさかだ。お前は彼と王から生まれた子だ」
老人の答えは簡潔だった。
老人は言葉を続ける。
「お前の見た目の年齢が変わらないのも、王の血だろう。出征に行っている王子も、今のお前くらいの見た目だ」
「なら、ファル、いえ、彼はー-」
「王の血を飲んだ、とグズからは聞いている」
「……」
ファルとマラジュがコルドの本当の親。
それを言われてもコルドはそうとは思えなかった。
確かにおかしいことは起きていた。だが、コルドの心が拒絶する。
「……嘘だ」
「そうだろうな。だが、事実だ。少なくとも俺や、彼、王は事実を知っていた。それ以外にもー-、城内の者の視線がおかしいとは思わなかったか?」
「……」
普段は城外の者を見下す城内の者がコルドを見ると途端に固まり、恐れるような視線を投げつけることは一度や二度ではなかった。
顔をじろじろと見られ、ずいぶん居心地の悪く感じた。
「同じ親からだろうな。お前は王子と似ているよ」
「……私は、なぜ父と旅をしていたのですか?」
「俺とグズのせいだ」
「あなたと、父が?」
老人は深く頷いた。
テーブルの上に置かれた自分の拳を老人は握りしめる。
「……俺たちは、あの人をこの城から逃がそうとした」
「……」
「男が、子を産む事を昔のあの人は受け入れられなかった。お前を産んだあの人は、このままだと心を壊れてしまいそうだった。だから俺とグズはあの人と産まれたばかりのお前と4人で逃げようとし、失敗した」
「……」
「結果はあの通りだ。あの人は声と足を奪われ、お前とグズはそのまま逃げた。俺は腹に穴が空いたあと、変わらずあの人の世話係になった。もう、45年も経つ」
老人は服をめくり、腹を見せた。
腹は痛々しい傷跡が残っている。
コルドはその傷を見ながら呟いた。
「……私のことを分かっていたなら、なんでそれを言ってくれなかったのですか?」
「俺にはお前に真実を告げる資格などない。結果はどうあれ、俺はお前よりあの人をとった。そんな人間に、真実を告げる資格などない」
「……」
「それに、心のどこかで私は期待していたのだ。母と子の愛のある再会を。お前が、あの人の喉を治した時まではそう思っていた」
「…………壊したのは、彼です」
「俺には何も言う資格はない。間違えていたのは、俺だったんだ。だから、お前は間違っていない」
「…………」
自分は何者か。
ずっと知りたかった話のはずなのに、コルドにとってはどこか遠い世界の話のように感じた。
受け入れられない事実に衝撃をうけるコルドの前に、老人はいくつかの袋を差し出した。
「朝になったら、この城からでろ。金はここに用意してある。故郷に帰るでも、違う土地に行くのでもよい。王、いや、上はお前を王族にするつもりだ。そうすれば帰ってきた王子との権力争いがいずれおこる。だから、今のうちにこの城から出るんだ」
袋とコルドの物ではない首飾りの両方をコルドの前に出される。
コルドは首飾りの方を見た後、老人に静かに問う。
「……首飾りは」
「あれは……お前が大切にするようなものではない」
「あの首飾りは、なんなのですか?」
老人は深く息を吐いた。
首飾りの青い宝石がコルドと老人を映した。
「この首飾りは、俺の母の物だ。母は、父に先立たれた未亡人でありながらも城内の人間に見初められ、城内に入った。この首飾りはその城内の男が俺と母にくれた物だ」
「……」
老人は首飾りをにらむように見る。
その目は複雑な感情が込められているのだろう。
「物は良いから、逃げた後の生活資金用に俺が持ってきたんだ。そのうちの母のものを、赤子だったお前はつかんで離さなかった」
「……父は、あの首飾りを肌身離さずつけていました」
「馬鹿なやつだ。肌身、話さずかー--」
老人は皆を言わず、首飾りをつかみながら肩を震わせた。
老人の方のテーブルに小さな涙の泉ができたのをコルドはまるで違う世界の出来事のように感じていた。
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