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父のように
しおりを挟む「お願いだ、コルド。お前にしたことを許せとは言わない。だが、せめてこのお前の子だけは自由に生きてほしいんだ」
涙交じりに訴えるファルの顔をコルドは見ることが出来なかった。
それでも、服に隠れているファルの腹がコルドが行ったことを責めたてている。
「他の城の者はこの子が王族にふさわしいと考えているだろうが、この子は違う。お前の子だ。それに、新たに王族が出ることは混乱を呼び内戦になる。それは前だって嫌ではないのか?」
悩むコルドに後押しするようにファルは語勢を強めた。
自分に提示された選択はコルドにとって重いものだった。
コルドはどうにか言葉を絞り出す。
「……王が、何を言うか」
「……私にも、彼がどう思い、どう考えているかわからない。一つ言えるのは、彼はただの王という役割を演じているにすぎない人形だ。その人形であるはずの彼が、お前の事になるとおかしくなる」
「おかしい?」
コルドの問いにファルは頷く。
「急に世話係を変えたり、お前にかかわりを持とうとしたり……、あんなの、初めてだ。正直、王がどうしたいのか、したいのか俺にはわからない。だからこそ、お前の言葉でこの腹の子の運命が大きく変わる。そう私は思っているのだ」
「そんなこと、俺にはできません」
ファルのあまりにも過大評価したコルドの評価にコルドは反射的に首を横に振った。
無理だ、どういえばファルはわかってくれるのかと思っていた時、コルドの冷たい手にファルの手が触れる。
あまりにも温かい手にコルドはたじろぐ。
俯くコルドの顔にファルの夜空のような群青の瞳が映す。
「できる。お前はグズの子だ」
「ですが、父は私のー-」
「お前は、育てより血をとるのか? 王の子だから、お前自身は王族にふさわしいと思うのか?」
「……それは」
コルドに王族など、できるはずがない。
だが、このままコルドが待っている先はコルドにとって良くないものだというのはわかった。
「お前は、グズによく似ている。例え、血がつながっていなくてもお前はグズの子だ」
「父に?」
ファルは頷き、握っていたコルドの手を自らの腹にあてた。
平らだと思っていたファルの腹がわずかに膨らんでいるのが服越しからも伝わり、本当にファルに命が宿ったのだと実感する。
そして、その手から伝わる小さな命に触れ、コルドの中になにかが沸き上がる。
その感情はー-。
「愛情、ですか? 愛を感じているのですか? 腹の子に」
「……無理やり孕まされたのに、愛情を感じるなどおかしいと思うか? もう、俺は自分の腹を痛めて産んだ子が互いに争うのを見たくないのだよ。それは、お前の子でも同じだ」
「……」
自嘲気味に笑ったファルを見ながら、コルドは空いた手で自分の胸をつかんだ。
そこにあったはずの首飾りはもうない。
コルドは父を思い出す。
「……父は、幼い私がつかんで離さなかった首飾りを死ぬまで話しませんでした。きっと、それは貴方たちとの思い出を忘れないように、でしょう」
「グズは、優しい子だ。小さい頃から」
「だから、きっと父は貴方の言う通りにしたでしょう」
ファルはコルドの手をさらに強く握った。
言葉で約束をしたはずなのに、コルドの胸中はまだ悩んでいた。
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