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魔法の天才
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新しい部屋と紅茶を用意し、その新しい部屋でアランとルカが話をして1時間。
シャオはその部屋の前の廊下で地団駄を踏んでいた。
――遅い! 話はまだ終わらないのか!?
紅茶がぶちまけられた部屋を素早く片付けたシャオはアランからなにか命令されてもすぐ対応できるよう、部屋の前で呼ばれるのをひたすら待っていた。
だが、アランとルカの話はいつまで経っても終わる気配がない。
盗聴の魔法はこの部屋にはかけてないので会話の内容は知ることが出来ない。
アランの服にかけている防御魔法に反応がないということからアランの身に危険がないことはわかるが――、いくらなんでも長い、長すぎる。
「……」
一向に開く気配のない扉を見続けるのに耐えきれず、シャオは窓の外に目を向けた。
窓の中、暗い漆黒の夜の中を吹雪が白い渦のように舞っている。
先程本格的に降り出したのだ。
この調子だと数日は外に出ることは叶わないだろう。
この吹雪にも身を凍てつく寒さにも慣れた。元は雪など年に数回しか降らない王宮にいたというのに、人間の慣れというのは恐ろしい。
――もう、一年か。
シャオの金の瞳が伏せられる。その瞳の中には幾ばくかの悲しさがあった。
これから長い冬が始まる。
1年前、アランは権力争いで負け、王の崩御後にアランは王宮から遠く離れたこの館に押しこまれたのだ。
ちょうどアランと引き離されてしまい知るのが遅れたシャオは限られた情報を元にアランの行方を探した。
ようやくこの館を見つけた時はどれほど嬉しかったか。
そこからアランとシャオの二人暮らしが始まった。
王族の地位を追放されたアランは平民の地位になってしまったが、シャオには変わらず尊い主であることには変わりない。
そういった気持ちでシャオはアランの従者をしていた。
ーーだが、主は……。
アランが時折、窓の外を見ながら難しい顔で物思いにふけっている所をシャオは何度も目にしたことある。
元は王族という神に近しい存在であったというのに、追放され平民となったた屈辱はどれほどのものだろう。
つい3年前はアランは王子として様々な場所に遠征に行き、素晴らしい戦果をあげていたし、その美しいカリスマ性から次の王はアランだと誰もが思っていた。
だが、その次の年、アランの父である先王が倒れた。
――先代王が、次の後継者を決めてくれれば……。
先代王は次の王を決めぬまま倒れた。そのせいで、次の王を誰にするのか、という問題はその時にいた要人たちに委ねられた。
選ぶ王子は2人。アランとアランの弟イースだ。
そのアランとイースのどちらか、その当時居た国の要人たちの支持を集めた者が次の王になる決まりだった。
だが、シャオはアランが王になることを疑わなかった。
弟のイースは戦場に出たことのない臆病だ。
その割には口がうまく、父親であるはずの先王や他の要人たち、ましてやシャオのような従者の者でも会話をしようとし、シャオはアランとは大違いなその軽薄さを軽蔑していた。
そんなイースに王が務まるはずがない、そう思っていた。
だが――、結果はイースの勝利だった。
そして、次の王がイースに決まった途端、アランの支持者はすべていなくなった。
『シャオ、君のような者はこの国のために力を割いてほしいんだ』
1年半前、イースに言われた言葉を思い出しシャオは唇を強く噛んだ。
「……何がッ!」
シャオはイースの言葉を思い出し、唇を噛んだ。
シャオはアランにしか忠誠を誓っていない。アランのためにしか、力を使う気はない。
それをこの国のため? アランのためならまだしも、イースのために使うなどまっぴらごめんだ。
それに、本来ならば次の王はアランのはずだ。それなのに、どんなことをしたのか知らないがイースはアランを陥れ、王になったのだ。
兄を、騙したのだ。
「……殺す」
殺す。すべて、殺してやるのだ。
どんなに自分が手を汚しても、主のためならばシャオは躊躇うつもりはない。主の命令であれば、シャオはなんでもする。
そして、アランを完璧な王にするのだ。
そうシャオが固く誓った時、鈴の音が鳴った。
鈴の音はアランがシャオを呼びつける音だ。屋敷の各部屋に仕込んである鈴には全てに魔法を仕込んでおり、その魔法のおかげで屋敷の外にいてもシャオは鈴の音に気づくことが出来る。
それが鳴らされ、シャオは昂った心を落ち着かせるために1呼吸置いてから目の前の扉を叩いた。アランから入室の許可を貰った後、扉を開けるシャオにアランとルカが神妙な面持ちで迎える。
「失礼します。何かお呼びですか?」
そう言いつつアランの紅茶に目を向けると、アランの紅茶は空になっていた。
紅茶の替えが必要なのだろうかと思い向かい側のルカの方を見るとそちらは注いだ時の状態のままだ。
せっかく主と同じ茶葉で紅茶をいれ直してやったというのに、なんと恩知らずなやつだと心の中で蔑みながらアランの言葉を待つ。
「……」
アランとルカは互いに目を合わせる。
2人の互いに視線だけで会話をしている様子を見てシャオのせっかく無理やり鎮めた心の平穏の波がまた荒波に変わってゆくのがわかった。
「……その、シャオ様」
アランよりも先に声をかけたのはルカだった。
主ではなくなぜこいつなのだとさらに苛立ちが募る。
「結界についてです。この屋敷に張られていた結界――、どうしましたか?」
結界。
結界というのはこの屋敷の周囲に張られていた魔法の事だ。
簡単に言えば魔素でできた檻のようなもので、イースがアランを屋敷に閉じ込めるべく作られたものだ。
魔素が膜のようにこの屋敷を包み込み、血の通う者が入ったり出たりしようとすれば弾かれる仕組みになっている。
本来なら、ここに訪れたルカですらも結界に弾かれ来ることは叶わないはず。
それが無くなっているとはどういうことなのか、とルカはシャオに聞きたいのだろう。
そうシャオは感じ、簡潔に答えた。
「壊しました」
シャオの簡潔な言葉にルカは驚く事なく、むしろ納得したかのように吐く。
「やっぱり……、ちなみに解析にはどれくらいの時間を?」
「5分ほど」
「ゴ、ゴ、ゴゴゴフン!?」
ルカの目が大きく見開いた。
目つきの悪い目が大きく見開かれ、なんともコミカルな顔になったのを見てアランはくすくすと笑いだす。
「おかしいのか?」
魔法士では無いアランはルカが驚く程の凄さが分からないらしい。
だが、ルカはそんなアランに対し無礼にも早口で捲り立てる。
「だってあの結界、アラン様を閉じ込めるために選りすぐりの魔法士を総動員して敷いたんですよ!? なのにものの5分で解析って、意味がわかりません!」
「選りすぐり、か……」
ルカの言葉を聞き、アランはシャオを見上げ、試すような視線を向ける。
それを受け、シャオは嬉しくなり得意げになりながら答えた。
「あんなの、子供が作った方がまだマシでした。少し触れただけで魔素がどんな構造になっているのかも分かりましたし、それが分かれば弱い部分に少し力を加えればいいだけ。それも直ぐに見つかりました!」
鼻高々に言い放つシャオを見てルカの目はさらに大きく開いた。口は無様にもあんぐりと開いている。
魔法士ではないアランはそのルカの反応でシャオがどれだけ異質か察したらしい。
「なるほど。やはりこいつの魔法の才は秀でいる、というわけか」
「主……!」
アランからの褒め言葉にシャオは昇天してしまいそうな気分だった。
ルカはシャオとアランの会話を聞き、伸びた髪をぐしゃぐしゃと手で混ぜ合わせた。
暫くうめいていたものの、考えるのをやめたのか大きく息を吐く。
シャオはその部屋の前の廊下で地団駄を踏んでいた。
――遅い! 話はまだ終わらないのか!?
紅茶がぶちまけられた部屋を素早く片付けたシャオはアランからなにか命令されてもすぐ対応できるよう、部屋の前で呼ばれるのをひたすら待っていた。
だが、アランとルカの話はいつまで経っても終わる気配がない。
盗聴の魔法はこの部屋にはかけてないので会話の内容は知ることが出来ない。
アランの服にかけている防御魔法に反応がないということからアランの身に危険がないことはわかるが――、いくらなんでも長い、長すぎる。
「……」
一向に開く気配のない扉を見続けるのに耐えきれず、シャオは窓の外に目を向けた。
窓の中、暗い漆黒の夜の中を吹雪が白い渦のように舞っている。
先程本格的に降り出したのだ。
この調子だと数日は外に出ることは叶わないだろう。
この吹雪にも身を凍てつく寒さにも慣れた。元は雪など年に数回しか降らない王宮にいたというのに、人間の慣れというのは恐ろしい。
――もう、一年か。
シャオの金の瞳が伏せられる。その瞳の中には幾ばくかの悲しさがあった。
これから長い冬が始まる。
1年前、アランは権力争いで負け、王の崩御後にアランは王宮から遠く離れたこの館に押しこまれたのだ。
ちょうどアランと引き離されてしまい知るのが遅れたシャオは限られた情報を元にアランの行方を探した。
ようやくこの館を見つけた時はどれほど嬉しかったか。
そこからアランとシャオの二人暮らしが始まった。
王族の地位を追放されたアランは平民の地位になってしまったが、シャオには変わらず尊い主であることには変わりない。
そういった気持ちでシャオはアランの従者をしていた。
ーーだが、主は……。
アランが時折、窓の外を見ながら難しい顔で物思いにふけっている所をシャオは何度も目にしたことある。
元は王族という神に近しい存在であったというのに、追放され平民となったた屈辱はどれほどのものだろう。
つい3年前はアランは王子として様々な場所に遠征に行き、素晴らしい戦果をあげていたし、その美しいカリスマ性から次の王はアランだと誰もが思っていた。
だが、その次の年、アランの父である先王が倒れた。
――先代王が、次の後継者を決めてくれれば……。
先代王は次の王を決めぬまま倒れた。そのせいで、次の王を誰にするのか、という問題はその時にいた要人たちに委ねられた。
選ぶ王子は2人。アランとアランの弟イースだ。
そのアランとイースのどちらか、その当時居た国の要人たちの支持を集めた者が次の王になる決まりだった。
だが、シャオはアランが王になることを疑わなかった。
弟のイースは戦場に出たことのない臆病だ。
その割には口がうまく、父親であるはずの先王や他の要人たち、ましてやシャオのような従者の者でも会話をしようとし、シャオはアランとは大違いなその軽薄さを軽蔑していた。
そんなイースに王が務まるはずがない、そう思っていた。
だが――、結果はイースの勝利だった。
そして、次の王がイースに決まった途端、アランの支持者はすべていなくなった。
『シャオ、君のような者はこの国のために力を割いてほしいんだ』
1年半前、イースに言われた言葉を思い出しシャオは唇を強く噛んだ。
「……何がッ!」
シャオはイースの言葉を思い出し、唇を噛んだ。
シャオはアランにしか忠誠を誓っていない。アランのためにしか、力を使う気はない。
それをこの国のため? アランのためならまだしも、イースのために使うなどまっぴらごめんだ。
それに、本来ならば次の王はアランのはずだ。それなのに、どんなことをしたのか知らないがイースはアランを陥れ、王になったのだ。
兄を、騙したのだ。
「……殺す」
殺す。すべて、殺してやるのだ。
どんなに自分が手を汚しても、主のためならばシャオは躊躇うつもりはない。主の命令であれば、シャオはなんでもする。
そして、アランを完璧な王にするのだ。
そうシャオが固く誓った時、鈴の音が鳴った。
鈴の音はアランがシャオを呼びつける音だ。屋敷の各部屋に仕込んである鈴には全てに魔法を仕込んでおり、その魔法のおかげで屋敷の外にいてもシャオは鈴の音に気づくことが出来る。
それが鳴らされ、シャオは昂った心を落ち着かせるために1呼吸置いてから目の前の扉を叩いた。アランから入室の許可を貰った後、扉を開けるシャオにアランとルカが神妙な面持ちで迎える。
「失礼します。何かお呼びですか?」
そう言いつつアランの紅茶に目を向けると、アランの紅茶は空になっていた。
紅茶の替えが必要なのだろうかと思い向かい側のルカの方を見るとそちらは注いだ時の状態のままだ。
せっかく主と同じ茶葉で紅茶をいれ直してやったというのに、なんと恩知らずなやつだと心の中で蔑みながらアランの言葉を待つ。
「……」
アランとルカは互いに目を合わせる。
2人の互いに視線だけで会話をしている様子を見てシャオのせっかく無理やり鎮めた心の平穏の波がまた荒波に変わってゆくのがわかった。
「……その、シャオ様」
アランよりも先に声をかけたのはルカだった。
主ではなくなぜこいつなのだとさらに苛立ちが募る。
「結界についてです。この屋敷に張られていた結界――、どうしましたか?」
結界。
結界というのはこの屋敷の周囲に張られていた魔法の事だ。
簡単に言えば魔素でできた檻のようなもので、イースがアランを屋敷に閉じ込めるべく作られたものだ。
魔素が膜のようにこの屋敷を包み込み、血の通う者が入ったり出たりしようとすれば弾かれる仕組みになっている。
本来なら、ここに訪れたルカですらも結界に弾かれ来ることは叶わないはず。
それが無くなっているとはどういうことなのか、とルカはシャオに聞きたいのだろう。
そうシャオは感じ、簡潔に答えた。
「壊しました」
シャオの簡潔な言葉にルカは驚く事なく、むしろ納得したかのように吐く。
「やっぱり……、ちなみに解析にはどれくらいの時間を?」
「5分ほど」
「ゴ、ゴ、ゴゴゴフン!?」
ルカの目が大きく見開いた。
目つきの悪い目が大きく見開かれ、なんともコミカルな顔になったのを見てアランはくすくすと笑いだす。
「おかしいのか?」
魔法士では無いアランはルカが驚く程の凄さが分からないらしい。
だが、ルカはそんなアランに対し無礼にも早口で捲り立てる。
「だってあの結界、アラン様を閉じ込めるために選りすぐりの魔法士を総動員して敷いたんですよ!? なのにものの5分で解析って、意味がわかりません!」
「選りすぐり、か……」
ルカの言葉を聞き、アランはシャオを見上げ、試すような視線を向ける。
それを受け、シャオは嬉しくなり得意げになりながら答えた。
「あんなの、子供が作った方がまだマシでした。少し触れただけで魔素がどんな構造になっているのかも分かりましたし、それが分かれば弱い部分に少し力を加えればいいだけ。それも直ぐに見つかりました!」
鼻高々に言い放つシャオを見てルカの目はさらに大きく開いた。口は無様にもあんぐりと開いている。
魔法士ではないアランはそのルカの反応でシャオがどれだけ異質か察したらしい。
「なるほど。やはりこいつの魔法の才は秀でいる、というわけか」
「主……!」
アランからの褒め言葉にシャオは昇天してしまいそうな気分だった。
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